異世界に飛ばされた少女が織りなす聖女ファンタジー!と思いきやリアル乙女ゲーでした!?

mai

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ひんやりとした何かが、額に当てられたのに気付いた。

 何だか、懐かしくて優しい感触。不意にそれが遠のくのを感じて、私は咄嗟に掴み引き寄せた。気持ちいいのに、取り上げないで・・・。

「お、かあ・・・さん?」

 子供の頃に熱を出した時、こんな風に手を当ててもらったのを思い出した。



 ゆっくりと目を開けると、明るい日差しが視界に広がる。

 すぐ目の前には、フードを外したヴィオラがいた。

「御遣い様?」

 心配そうに、眉根を寄せている。掴んでいたのは、彼の手だった。綺麗な形の長い指だけど、女性みたいな柔らかさはなくて、少し筋張った大きな掌。

「あ、ごめんっ」

 慌てて手を離すと、私はゆっくり上半身を起こして辺りを見回した。

 近くには、何処か不安げで、緊張感をはらんだ表情の白夜とアーランジュ。

 すんなりと三人の名前が出て来た事に、ホッとした。

 そういえば、昨日のナニカは《一時的な記憶の混乱》と言っていた。

 パニックを起こした事は覚えているが、心は不思議と落ち着いている。自分の置かれた状況を、少し思い出したからかもしれない。

 はっきりしているのは、目の前の三人は虚構の存在ではないし、ゲームキャラでもない。この世界で、確実に存在している人間だ。



 今、私がどうして此処にいるのかは、何となく思い出していた。でも、記憶が正しいか摺り合わせがしたい。

「此処は何処?」

 見当はついていたが、念の為に訊いてみた。

 その問いに、三人は一斉に答えようとして、顔を見合わせた。一歩、踏み出したのは白夜だった。

「此処は、碧みどりの大陸と呼ばれる、七大陸の内の一つです。この国に巣くう魔物の親玉を討伐しに行くのに、山越えをしている道中でした」

 うん、記憶通りだ。その山中で、私が転んで頭を打って、近くにあった洞穴で休息を取っているのだろう。

 この世界には、大きく分けて七つの大陸がある。その一つ一つに魔物のボスがいるから、私達が渡り歩いて倒していくのだ。

 最初に呼び出された神殿で、そう説明された。神殿にいた神官達は、いろんな国から来ていたようで、格好はバラバラだった。ただ、建物の造りや、一番多かった神官の衣装から考えて、この中で一番近い服装は―――ヴィオラ。

「この前までいた国は、水の国・・・だったかな?」

「うん。水源が豊かで、青の大陸って呼ばれてる。・・・御遣い様が、大きな魔物を浄化してくれた」

「ヴィオラの国?」

 ヴィオラが、コクンと頷いた。私より年上のはずなのに、幼女か!?と突っ込みたくなるくらい、仕草が純粋で可愛らしい。 

 いや、そんな事よりもなんと、私は第一の大陸をクリアしているのだ! まるで、別人が倒した映像を見ているような感覚だが、浄化した記憶もある。 

「プリンセス、俺達の事は分かってるの?」

 不安からか、どこか苛立たしげにアーランジュが訊いてきた。

「うん、分かるよ。昨日はごめんね。頭を打って、少し混乱してたみたい」

 私は、改めて目の前の三人を見た。

 青の大陸出身のヴィオラ、碧の大陸出身の白夜、アーランジュは・・・覚えてないけど、これから行く国の人なんだろう。



 思い出した記憶を整理すると、私は青の大陸にある神殿で呼び出され、神の【御遣い】として魔物を浄化する使命を受けた。

 それを手助けしてくれるのが、七人の【護り人もりびと】。神殿で、最初に紹介されたのがヴィオラ。旅立つ前に、白夜が加わった。碧の大陸に入ってすぐ、アーランジュにも出逢った。

 まるでゲームか、壮大なドッキリに放り込まれた気分だ。

 実際に、これはあの神ナニカが仕組んだ世界なのだと思う。何故なら、昨夜の未曾有のエネルギーと同じ質の気が、自分の身体からも、魔物からも、この世界からも感じられたから。

 ただ、神が何故こんな世界を創り、私に御遣いなんて役割を与えたのかまでは、まだ思い出せない。



《哀れな娘よ、機会を与えてやろう。ーーーーーーーーければ、我と契約を結べ》



 でも、この世界に飛ばされる前に、確かに私はあの声を聞いて契約したのだ。身体の内側のもっと奥深い、魂ともいえる部分に刻まれているような確信があった。

 神の目的は何なんだろう? 何一つ分からない。もしかしたら、コンコンを呼び出せばヒントをくれるかもしれないけれど、あの恐ろしい神と再び会うと考えるだけでゾッとした。

 それならば、今の私に出来るのは、与えられた役割をこなす事だけだ。この世界から脱出する術が分からないなら、言われるままに御遣いとなって魔物を浄化していくしかない。きっと、その先に何かがあるんだから。

 ・・・そう結論づけながらも、手が震えているのに気付いた。出来るだけ冷静に考えようとしているのに、身体は正直だ。これからどうなるのか、私は今どこにいるのか恐くて堪らない。昨日までは平気で御遣い役をしていたのに、記憶が戻ってしまえば、見知らぬ世界で異形のモノと戦うなんて恐怖しか感じなかった。

「・・・御遣い様」

「御遣い様、身体がお辛いなら、どうか無理はなさらないでください」

「プリンセス、大丈夫。オレが護ってやるから」

 気遣わしげな三人の声に、ハッとした。

 この三人が、真に何者なのかは分からない。でも、常に自分を心配して、恐ろしい魔物達から護ってくれていたのは覚えている。

 一人じゃない、そう思える事に心からホッとした。





 すぅーー、はぁーーーーっ、ゆっくりと大きく息を吸い、心配事と一緒に肺から息を吐き出した。

 今は進もう。御遣い役を神が与えたというなら、きっと目的があるはずだし、何かメリットがあったから私は契約したんだろうから。

「ヴィオラ、白夜、アル」

 心配そうに視線を注いでくる三人の目を、一人一人見つめ返した。

「心配掛けてごめんね。私、頑張るから。だから、どうかこれからも力を貸してください」

 改めて、私は三人の護り人に頭を下げた。
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