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前編
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「どうかわたしと結婚していただけないだろうか?」
ある夜会で、始めて出会った青年から突然プロポーズをされたクララは混乱の中にいた。
クララはごく普通の男爵令嬢、普通の容姿で成長し、普通の成績で学園を卒業し、普通に一般的な交流を持ち、目立った所もなければ特に悪い所もない、
多くの令嬢と同じ様にごくごく普通に婚活に勤しむ為に夜会に参加していた。
だだクララはちょっとだけ、他の令嬢より歳上だった。
なぜなら、クララには兄が1人いるのだが、幼い頃から病弱だったのでいつまで生きられるかわからないと言われてしまい、自分がお婿さんをとって男爵家を継いでゆくと思っており、後継者足り得る人材を探していた為に卒業してから婚約者を探すつもりだったからだ。
しかし学園を卒業する半年ほど前に新薬が開発され、なんと兄の病は完治した。
長年思いあっていた幼馴染と先日早速結婚式を挙げた兄達のおかげで我が家は今、孫歓迎ムード一色である。
学生時代は、あわよくば男爵家を継げると思っていた貴族の次男三男からそれなりにアプローチの様なものを受けたこともあった。
しかし継ぐ家が無くなったことでその人達との交流は綺麗に途絶えた。
婚約者探しは慎重にせねばと思っていたが、そんな人達と結婚せずに済んだのは兄が健康になったことの次にいいことだっただろう。
多くの令嬢は学生時代に嫁入り先を探し、婿を取る場合は卒業してからの実績を加味して選ぶのがこの国の主流だった。
だから婿を取る予定のなくなったクララは他の令嬢よりもスタートダッシュに遅れてしまうことに。
そんな本人曰く、旨みがなくなってしまったクララが突然のプロポーズに驚いたのは、全く見かけた事がない方からだったという理由もあったが、プロポーズをしてきた相手の顔が、とんでもなく素敵だということもあった。
ルビーの様に輝く瞳、すらっと通った鼻筋、厚すぎず薄すぎすな唇からは白い整った歯が見え、プラチナブロンドの髪は癖ひとつなく、しなやかに肩にかかっている。
クララは困惑しながらも脳内でひとり会議を始める。
かなり驚きはしたが、これは渡りに船というやつでは?
学園を終え、こんな時期まで独り身の自分によい結婚相手が残っているかは疑問であるし、
昔からの顔馴染みとはいえ、小姑が家にいたのでは義理の姉も暮らしづらいかもしれない、なにより未来の甥っ子姪っ子からの、クララちゃんはいつ結婚するの~?なんてニコニコ聞かれる毎日なんて目も当てられない。
それに、この顔を見て過ごせるだけで幸せな結婚生活は確定だ。
どんな人とでも多少の齟齬はあるはず、ならば見た目だけでも抜群にクリアしているこの人でも問題はないのでは???
考えをめぐらすクララの目の前のイケメンは、宝石の様に輝いた瞳を潤ませながら
「突然のことで困惑させてしまいましたね、あなたを誰かに取られる前にどうしても自分を候補に入れて頂きたかったのです。
わたしはコーネリアス伯爵家嫡男ジョージアと申します。
明日きちんとしたお申し込みをご自宅へお持ちします、どうかあなたの伴侶という幸運をわたしに授けてください。」
まるで太陽、いやそれよりも眩い笑顔でそう言った。
そこからの夜会で、2人で何を話したかはもう覚えていなかった、
ただ帰り道の馬車の中で、侍女のマリーに
「クララ様って面食いだったんですね」
と言われて自分がおそらく惚けてまともに対応できていなかったということは理解できた。
翌日青年は父親へ結婚の申し込みに本当に来て、あれよあれよと婚約は決まり、
手紙や花束、贈り物の数々は半年でクララの部屋を溢れ返させた。
デートの誘いもつつがなく、観劇や花園、時には街へ庶民のフリをして出かけることあった。
そのかいあってなのか、すっかり絆されたクララは半年で伯爵家へ嫁いで来たのである。
嫁いでからもジョージアはとにかく優しく、屋敷の使用人達も親切で、実家から一緒にきたマリーにもよくしてくれていた。
クララに生活の上での不満は全くなかった、ただ一つの問題点を除けば。
ふたりには夜の結婚生活が全くなかったのだ。
実はクララにはできれば2人以上子供が欲しい理由があった。
家を出る際に兄から相談されたのは、兄の病気のこと。
しっかりと完治はしているが、あの病気には遺伝の可能性があり、治療に使われた薬は女児に使うと不妊の後遺症が出るかもしれないものだということだった。
もちろんどんな子供が産まれたとしても愛するし、命に変えれるものなどない、ただ貴族というものは家を継ぐことも大切な責務のひとつである。
万が一後継者が不妊になってしまった場合、愛する妻の代わりに妾を囲うなど、兄には到底できると思えなかった。
そして白羽の矢はクララに立った、もし兄の後継者が不妊となってしまい、クララが嫁いでから2人以上の子供を授かった場合はどちらかの子に将来的に男爵家を継いで欲しいと頼んでこられたのだ。
元々継ぐ可能性もあった実家のことはもちろん大切だった、初夜の夜にこの話はジョージアにする予定でいたのだが、その日ついぞ彼は部屋を訪れず、朝方枕元に花束と手紙が置いてあった。
【大切なあなたが心から落ち着くまで】
正直、初日は緊張していたこともあり安心してしまった気持ちもあった、しかしそれが3日、1週、1ヶ月と続くと不安はつのりどんどんクララの精神は追い込まれていった。
実家の件も気になっていたが、理由はそれだけではなく、あの甘い半年のアプローチでクララはすっかりジョージアを愛してしまった。
愛する人の子供が欲しいと思うのは当然のことだった。
部屋には実家から共に来たマリーと2人。
意を決してクララは相談することにした。
「マリー、実はね、、、」
「夜伽がない件ですか?」
間髪入れず突っ込んで来たマリーにクララは驚いた。
「どうしてわかるの?」
「分からないはずありませんよ、わたしはずっとクララ様付きのメイドです。顔見てれば分かりますよ。
まだ他の使用人の方はお気付きでなさそうですが、お世継ぎの前兆がいつまでもないとクララ様が侮られるかもしれませんので早急になんとかせねばと思っておりました。」
出来るメイドを連れてきて良かったと心から思う。
「で、どうするべきかしら?何か案はある?」
「夜、何してるか調べましょう。」
明日投稿の後編で完結です!
ある夜会で、始めて出会った青年から突然プロポーズをされたクララは混乱の中にいた。
クララはごく普通の男爵令嬢、普通の容姿で成長し、普通の成績で学園を卒業し、普通に一般的な交流を持ち、目立った所もなければ特に悪い所もない、
多くの令嬢と同じ様にごくごく普通に婚活に勤しむ為に夜会に参加していた。
だだクララはちょっとだけ、他の令嬢より歳上だった。
なぜなら、クララには兄が1人いるのだが、幼い頃から病弱だったのでいつまで生きられるかわからないと言われてしまい、自分がお婿さんをとって男爵家を継いでゆくと思っており、後継者足り得る人材を探していた為に卒業してから婚約者を探すつもりだったからだ。
しかし学園を卒業する半年ほど前に新薬が開発され、なんと兄の病は完治した。
長年思いあっていた幼馴染と先日早速結婚式を挙げた兄達のおかげで我が家は今、孫歓迎ムード一色である。
学生時代は、あわよくば男爵家を継げると思っていた貴族の次男三男からそれなりにアプローチの様なものを受けたこともあった。
しかし継ぐ家が無くなったことでその人達との交流は綺麗に途絶えた。
婚約者探しは慎重にせねばと思っていたが、そんな人達と結婚せずに済んだのは兄が健康になったことの次にいいことだっただろう。
多くの令嬢は学生時代に嫁入り先を探し、婿を取る場合は卒業してからの実績を加味して選ぶのがこの国の主流だった。
だから婿を取る予定のなくなったクララは他の令嬢よりもスタートダッシュに遅れてしまうことに。
そんな本人曰く、旨みがなくなってしまったクララが突然のプロポーズに驚いたのは、全く見かけた事がない方からだったという理由もあったが、プロポーズをしてきた相手の顔が、とんでもなく素敵だということもあった。
ルビーの様に輝く瞳、すらっと通った鼻筋、厚すぎず薄すぎすな唇からは白い整った歯が見え、プラチナブロンドの髪は癖ひとつなく、しなやかに肩にかかっている。
クララは困惑しながらも脳内でひとり会議を始める。
かなり驚きはしたが、これは渡りに船というやつでは?
学園を終え、こんな時期まで独り身の自分によい結婚相手が残っているかは疑問であるし、
昔からの顔馴染みとはいえ、小姑が家にいたのでは義理の姉も暮らしづらいかもしれない、なにより未来の甥っ子姪っ子からの、クララちゃんはいつ結婚するの~?なんてニコニコ聞かれる毎日なんて目も当てられない。
それに、この顔を見て過ごせるだけで幸せな結婚生活は確定だ。
どんな人とでも多少の齟齬はあるはず、ならば見た目だけでも抜群にクリアしているこの人でも問題はないのでは???
考えをめぐらすクララの目の前のイケメンは、宝石の様に輝いた瞳を潤ませながら
「突然のことで困惑させてしまいましたね、あなたを誰かに取られる前にどうしても自分を候補に入れて頂きたかったのです。
わたしはコーネリアス伯爵家嫡男ジョージアと申します。
明日きちんとしたお申し込みをご自宅へお持ちします、どうかあなたの伴侶という幸運をわたしに授けてください。」
まるで太陽、いやそれよりも眩い笑顔でそう言った。
そこからの夜会で、2人で何を話したかはもう覚えていなかった、
ただ帰り道の馬車の中で、侍女のマリーに
「クララ様って面食いだったんですね」
と言われて自分がおそらく惚けてまともに対応できていなかったということは理解できた。
翌日青年は父親へ結婚の申し込みに本当に来て、あれよあれよと婚約は決まり、
手紙や花束、贈り物の数々は半年でクララの部屋を溢れ返させた。
デートの誘いもつつがなく、観劇や花園、時には街へ庶民のフリをして出かけることあった。
そのかいあってなのか、すっかり絆されたクララは半年で伯爵家へ嫁いで来たのである。
嫁いでからもジョージアはとにかく優しく、屋敷の使用人達も親切で、実家から一緒にきたマリーにもよくしてくれていた。
クララに生活の上での不満は全くなかった、ただ一つの問題点を除けば。
ふたりには夜の結婚生活が全くなかったのだ。
実はクララにはできれば2人以上子供が欲しい理由があった。
家を出る際に兄から相談されたのは、兄の病気のこと。
しっかりと完治はしているが、あの病気には遺伝の可能性があり、治療に使われた薬は女児に使うと不妊の後遺症が出るかもしれないものだということだった。
もちろんどんな子供が産まれたとしても愛するし、命に変えれるものなどない、ただ貴族というものは家を継ぐことも大切な責務のひとつである。
万が一後継者が不妊になってしまった場合、愛する妻の代わりに妾を囲うなど、兄には到底できると思えなかった。
そして白羽の矢はクララに立った、もし兄の後継者が不妊となってしまい、クララが嫁いでから2人以上の子供を授かった場合はどちらかの子に将来的に男爵家を継いで欲しいと頼んでこられたのだ。
元々継ぐ可能性もあった実家のことはもちろん大切だった、初夜の夜にこの話はジョージアにする予定でいたのだが、その日ついぞ彼は部屋を訪れず、朝方枕元に花束と手紙が置いてあった。
【大切なあなたが心から落ち着くまで】
正直、初日は緊張していたこともあり安心してしまった気持ちもあった、しかしそれが3日、1週、1ヶ月と続くと不安はつのりどんどんクララの精神は追い込まれていった。
実家の件も気になっていたが、理由はそれだけではなく、あの甘い半年のアプローチでクララはすっかりジョージアを愛してしまった。
愛する人の子供が欲しいと思うのは当然のことだった。
部屋には実家から共に来たマリーと2人。
意を決してクララは相談することにした。
「マリー、実はね、、、」
「夜伽がない件ですか?」
間髪入れず突っ込んで来たマリーにクララは驚いた。
「どうしてわかるの?」
「分からないはずありませんよ、わたしはずっとクララ様付きのメイドです。顔見てれば分かりますよ。
まだ他の使用人の方はお気付きでなさそうですが、お世継ぎの前兆がいつまでもないとクララ様が侮られるかもしれませんので早急になんとかせねばと思っておりました。」
出来るメイドを連れてきて良かったと心から思う。
「で、どうするべきかしら?何か案はある?」
「夜、何してるか調べましょう。」
明日投稿の後編で完結です!
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