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後編
しおりを挟むジョージアは基本的に自宅で仕事をしているが、最近は夜出かけている時もあるようだということは、メイド達の情報網からマリーが仕入れてきていた。
「早速今夜尾行出来るようにしておきますね。」
躊躇なく計画を口にしたマリーは2人分のローブを準備し、クララは困惑しながらもやるしかないと決意し、夜を待った。
部屋のベッドにはタオルを詰めて膨らませての偽装工作をし、早速出かけていくジョージアを2人で追いかけた。
そしてその夜2人が見たことは、もう夫婦を続けることなど出来ないと思えるものだった。
ジョージアは平民の住むエリアへ向かい、とある一軒家を訪ねる。出てきたのは若い女と幼い女の子。
女の子は照れたように真っ赤な笑顔でジョージアに抱きつき、若い女は困った様な嬉しそうな複雑な顔で見守る。
それを見たクララは真っ青な顔になり、それ以上はその光景を見ていることが出来ずにマリーを連れて屋敷に帰ってきた。
愛されていると思っていた、突然の降って湧いたような結婚だったが、溺愛といって過言でないほど大切にしてもらい、すっかり信じきっていたのだ。
まさか彼が別の家に平民の愛人を囲っていたなんて。
貴族として平民を家に迎えることが出来ず、行き遅れのクララならこの突然の縁談にでも飛びつくと思われたのだろうか。
実際すっかり騙されたクララは半年で嫁いできている。
自分が隠れ蓑にされただけだったこと、愛されている訳ではなかったことにに大きなショックを受けたが、初めはただの突然の結婚だったにも関わらず、こんなにダメージを受ける程ジョージアを愛してしまっていたことにも驚いた。
このまま過ごすことは出来ない、愛されないまま愛する人のそばにいることは出来ない。
クララは意を決して実家に帰ることにした。
マリーと2人でこっそり出ていくことも考えた。
しかし自分の様な同じ不幸な存在をまた作られるのも、夢見の悪いことである。
何せ彼は偽りの愛を囁くことが上手すぎた、同じくカモフラージュとして貴族を娶っても犠牲者は増えるだろう。
「きちんと伝えて出て行こう」
「可愛いわたしの奥さん、最近時間が取れずごめんね。
話がしたいと聞いたよ、今日はやっとゆっくり出来るめどがたったし、わたしからも伝えたい事があるんだ。」
相変わらず素敵な顔面でクララをまっすぐ見つめながら話すジョージアを、もうクララはまっすぐ見れなかった。
失礼かもしれないとは思いながらも、目を合わせず言った、
「離縁していただきたいのです。」
ジョージアは鈍器でおもいっきり頭を殴られた様な衝撃を受けた。
やっと手に入れた、大切な大切な愛する人から別れたいと言われたことを、聞こえてはいる、ただ理解できないししたくなかった。
「わたしの様な思いはもう誰にもさせたくないのです、どうか本当に愛する人と幸せになってください」
本当に愛する人は目の前の君だというのに一体何がどうなっているのか、分からないなりにこのままでは最悪な事態になることが予見された。
「どういうことだい?わたしが愛しているのはクララあなただけだよ?」
「嘘などもうつかなくてよいの、子どもだって良い環境でそだてなきゃ。」
「え」
全く理解できなくなったジョージアは助けを求める様にそばにたつマリーを見る。
マリーはゴミを見る目で
「昨晩、お嬢様と一緒に街に出て、
ジョージア様がお楽しみのところをしっかり拝見させていただきました。」
と言った。
そこでジョージアはやっと点がつながり理解する、そして観念する様に話し始めた。
「この話はするつもりがなかったんだ。
わたしは君の前ではいつも素敵な人間でいたかったから。
でも君を悲しませることは本意でない。
聞いてくれるかい、
実はわたしが君に初めて会ったのはあの夜会の日ではなかったんだ。」
幼い頃ジョージアは体の弱かった母親の入院する病院によくお見舞いに行っていた。
病院でしか会えない母への思いは日々の寂しさから募り、いつも帰りは泣きながら馬車に乗っていた。
その日も泣きながら馬車止めに向かって歩いていると、少し歳下の女の子にハンカチを渡されたのだ。
「どうちたの??」
女の子はなぜか1人でいて明らかな迷子なのに泣いてるわたしを心配して声をかけてくれたのだ。
「お見舞いに来たの?」
ジョージアは恥ずかしくなってハンカチを受け取って顔を拭いながら質問を質問で返す。
「クララはお兄ちゃんがここにいてるのよ。」
少し舌足らずな話し方がとても可愛くて自然と笑顔になれた。
「そうなんだ、よく来るのかな?初めてあったね。」
「クララは遠くにいるからたまにしかこれないの。」
女の子は悲しそうに目を逸らしている。
「たまにしか会えないのは寂しくならない?」
ジョージアは共感して欲しかった、母に会えず泣く自分を肯定して慰めて欲しかった。
しかし女の子は今度はまっすぐジョージアを見つめながら応える。
「うーん、毎日会えないのはしゃみしいけど、
それはお兄ちゃんも一緒でしょ、みんな頑張るのよ、それぞれの頑張りがたいしぇつなのよ。」
そう言って道に生えている草をむしってジョージアに渡す。
「はい、今クララは泣いてる子を元気にしゅるのを頑張るのよ。」
「そのクララの笑顔にわたしはすっかり惚れてしまって。
あんなに幼い君だって周りの人を元気づける為にがんばっているのに、わたしは寂しがるばかりで何もしていなかったと気付かされたんだ。」
彼はそれから一念発起し、母親の病の薬の研究を初めて、なんと開発に至ったそうだ。
そしてクララに結婚を申し込もうとした時に、彼女の兄の病と、男爵家の後継者問題を知った。
今こそ自分を変えてくれたクララの、大切な兄を救う為、そして伯爵家を継ぐ自分との結婚を可能にする為に新薬を開発したのだ。
「実は君のお兄さんとは新薬開発の際に協力してもらっていて、その時に薬の問題点も話しあっていたんだ。
やっと昨日、女の子達への処方薬も後遺症がでないものが開発されたよ。
お金持ちの人だけでなく、病気の人みんなに渡せる様に、夜の時間帯も使って配っているんだ。
貴族が優先しろと言って混乱が起きると大変だからね。
最近ずっと夜遅くなっていたのは研究したり薬の治験の協力をしてもらっていたからなんだ。
君の不安を感じ取れず、辛い思いをさせてごめん。」
ジョージアはまっすぐクララを見つめた。
クララは自分がしていた大きな勘違いと、彼が思っていたより昔からずっと愛してくれていたということに驚きと喜びを感じる。
「もう不安にさせたりしない、愛してるよクララ。
わたしの研究の原動力はずっと君なんだ。」
「正直に言うわ、はじめはあなたの顔に惹かれたの。
でもそれははじめだけ、あなたと過ごしていくうちに、ずっと誠実に接してくれたあなたが大好きになったの。
わたしをいつも喜ばせてくれて、楽しませてくれて、愛してくれてありがとう。
わたしもあなたを愛してる。」
クララの言葉をきいて感極まったジョージアは、初めて会って時以上の笑顔でクララを見つめた。
見つめられたクララは思った、
どうしてこの顔と離れて暮らしていけると思ったのかしら、と。
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