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婚活2
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会場内────。
各テーブル、五人か六人ごとに集まって小さな歓談をしております。大体が自己紹介から始まり、余興のこと、種族自慢、あとは趣味や好きなこと嫌いなことなど、テンプレな会話を楽しんおります。
そうこうしている内に、案内の声が聞こえて参りました。
『皆様、本日は魔族界初の大規模婚活パーティーに、ようこそおいでくださりました。只今、ウエルカムドリンクをお配りしておりますので、今しばらくご歓談など楽しみつつ、お待ち下さいませ~』
舞台袖で拡声魔音器に向かって喋っているのは、芸達者そうな魔狸種のおじさんです。
なんせ衣装が蝶ネクタイに燕尾服に山高帽、そして鼻は大きな赤鼻をつけています。どっちかというとコメディアン寄りなのかもしれません。でも多分、無難に言って司会者さんなんだと思います。
しばらくしてドリンクが全員に行き渡り、各自選んだ飲み物を掲げて乾杯をしました。
私はロゼのシャンパンにいたしました。とても美味しゅうございます。
乾杯の後は主催者様の祝辞。主催者様はエルフ族の御方です。この世界では<島エルフ>と呼ばれております。エルフだけにとても容貌の優れた美人さんです。
牡丹色の美しい髪にキラキラパールが光り、淡いピンク色を基調としたワンピースや帽子がとてもお洒落なデザインで目を引きます。まるで女優の様な出で立ちです。
その神々しいお姿は、私ならずも周囲の乙女達をも引き付けるようで、「ほお~」とか「すてき」などといった感嘆や賛辞があちこちで洩れておりました。
私、主催者様とは多少面識がございます。会う度にあの御方は気さくに接して下さって、私の味方でございますわ。
主催者様の祝辞が終わると、今度は貴賓席の紹介です。
司会者さんの言葉に促されて、ふと貴賓席の方を見やると、見知っている御方達が並んでおりました。
一番最初に紹介されたのが先代の魔王様、並びに奥方様。後は元宰相、元大臣など先代閣僚のお歴々。その誰もが私、知り合いでございます。
というのも、私の産まれは魔王城なのです。
先代の魔王様の治世下、恐れ多くも魔王城で産声を上げました。というか、上げてしまいました。お城に勤めておりました私の母が、急に産気づいてしまったのです。妊婦で臨月なのに働いていた母にもびっくりですが、周りの同僚及び魔王様も、さぞびっくりしたことでしょう。
以来、国の中枢で働く魔人族や魔獣族の方々と親しくお付き合いさせていただいておりますわ。
だから紹介は恥ずかしいのです。
ひとりひとり紹介されては、なぜか私の方へと目配せをして下さいます。その度に会場がザワつき、周りからの好奇の目に晒され、恐縮してしまう小心者の私です。
んもう、おじ様たちったら。今度会ったら文句を言いましょ。
せめてもの抵抗に、扇子を広げて顔を隠し、私は知らぬ存ぜぬを貫きました。
そんな私へ魔鳥種のリンさんが声を掛けてきます。
「ねえねえ、アイリスちゃんはあのおじさんたちと友達なの?」
単語チョイスは幼稚ですが、なかなか的確に確信をついた質問です。さすがアホの子、鳥頭。そんな貴女が可愛いです。お気に入り追加。
「え、ええ……」
「すごーい! あそこのおじさんたちってえらい人たちなんでしょ? アイリスちゃんすごーい!」
曖昧な返事しかできない私の言葉を肯定と捉えたのか、リンさんは頭の天辺についた冠羽をバタつかせて喜んでおります。
やだこの子まぢアホかわ。お持ち帰りしていいですか? テイクアウト希望。
「へえ。やっぱり君、魔王城の秘蔵っ子ってやつなのか」
おっと。狐さんが何かのたまってますわね。
ジロリと睨んでみたけど、当の狐さんは爽やかな笑みを返してきました。
なんだコイツ完璧か。
おっといけない。言葉が乱れてしまいました。
私情は挟まず丁寧にゆっくりと上品に。お母様からの教えを守ることこそが私の矜持です。
狐さんには化かされませんわよ!
「そんなんじゃないですわ。アサトさんこそ、クロガネ家のエリートですわよね」
魔妖狐種の中でも白銀色の毛並みを持つクロガネ家は、エリート官僚を多く輩出している名家です。
名家こそ親の決めた見合い結婚して血統を維持しなくていけないのではないか? こんな雑種だけらけの婚活パーティーなんかに参加していいのか?
など、ツッコミはいっぱいありますけれども、ここで口に出すのは野暮ってものですわね。
内緒にしといてあげますから、私のことも内緒にして下さいませねと、これ以上は口を噤ませていただきます。
アサトさんも「そうだね」と平静に返しながらも、目が笑ってません。お互い痛いことは言いっこなしですのことよ~。
『それでは皆様お楽しみ。自己紹介、アピールタイムの始まりです!』
司会者さんのアナウンスにテーブルの面々も注目です。
ナイスタイミングですわ魔狸種の司会者さん。
魔牛種のモナミさんも淫魔種のハワードさんも、私たちの会話、気にしてましたからね。気を逸らしてくれた余興の催しに感謝ですわ。
『栄えあるトップバッターは~~』
期待を執拗に長引かせるドラムロールが続きます。あれ、生演奏でしょうか? 音は聞こえど姿は見えず、録音を疑いますわ。
……しかし、なんだか喉が渇きましたわねえ。
私は手元にあった赤オランジュを一気飲みしてしまいました。酸っぱくて冷やっこいですわー。氷をカラカラさせてドラムロールの終焉を待ちます。ほんと長いですわねえ。
『はい! 魔獣族魔鳥種のリンランさん、お願いします!』
ドラムロールが終わった途端、高らかに司会者さんに呼ばれてしまうリンさん。彼女が栄えあるトップバッターです。
「ひえええ私から?!」
素直な反応ありがとうございます。リンさんたら大変可愛いですね。ぜひ嫁に来て下さい。
あらやだ。婿決める前に嫁が決まりましたわ。
おほほ。ごめんあそばせ。
各テーブル、五人か六人ごとに集まって小さな歓談をしております。大体が自己紹介から始まり、余興のこと、種族自慢、あとは趣味や好きなこと嫌いなことなど、テンプレな会話を楽しんおります。
そうこうしている内に、案内の声が聞こえて参りました。
『皆様、本日は魔族界初の大規模婚活パーティーに、ようこそおいでくださりました。只今、ウエルカムドリンクをお配りしておりますので、今しばらくご歓談など楽しみつつ、お待ち下さいませ~』
舞台袖で拡声魔音器に向かって喋っているのは、芸達者そうな魔狸種のおじさんです。
なんせ衣装が蝶ネクタイに燕尾服に山高帽、そして鼻は大きな赤鼻をつけています。どっちかというとコメディアン寄りなのかもしれません。でも多分、無難に言って司会者さんなんだと思います。
しばらくしてドリンクが全員に行き渡り、各自選んだ飲み物を掲げて乾杯をしました。
私はロゼのシャンパンにいたしました。とても美味しゅうございます。
乾杯の後は主催者様の祝辞。主催者様はエルフ族の御方です。この世界では<島エルフ>と呼ばれております。エルフだけにとても容貌の優れた美人さんです。
牡丹色の美しい髪にキラキラパールが光り、淡いピンク色を基調としたワンピースや帽子がとてもお洒落なデザインで目を引きます。まるで女優の様な出で立ちです。
その神々しいお姿は、私ならずも周囲の乙女達をも引き付けるようで、「ほお~」とか「すてき」などといった感嘆や賛辞があちこちで洩れておりました。
私、主催者様とは多少面識がございます。会う度にあの御方は気さくに接して下さって、私の味方でございますわ。
主催者様の祝辞が終わると、今度は貴賓席の紹介です。
司会者さんの言葉に促されて、ふと貴賓席の方を見やると、見知っている御方達が並んでおりました。
一番最初に紹介されたのが先代の魔王様、並びに奥方様。後は元宰相、元大臣など先代閣僚のお歴々。その誰もが私、知り合いでございます。
というのも、私の産まれは魔王城なのです。
先代の魔王様の治世下、恐れ多くも魔王城で産声を上げました。というか、上げてしまいました。お城に勤めておりました私の母が、急に産気づいてしまったのです。妊婦で臨月なのに働いていた母にもびっくりですが、周りの同僚及び魔王様も、さぞびっくりしたことでしょう。
以来、国の中枢で働く魔人族や魔獣族の方々と親しくお付き合いさせていただいておりますわ。
だから紹介は恥ずかしいのです。
ひとりひとり紹介されては、なぜか私の方へと目配せをして下さいます。その度に会場がザワつき、周りからの好奇の目に晒され、恐縮してしまう小心者の私です。
んもう、おじ様たちったら。今度会ったら文句を言いましょ。
せめてもの抵抗に、扇子を広げて顔を隠し、私は知らぬ存ぜぬを貫きました。
そんな私へ魔鳥種のリンさんが声を掛けてきます。
「ねえねえ、アイリスちゃんはあのおじさんたちと友達なの?」
単語チョイスは幼稚ですが、なかなか的確に確信をついた質問です。さすがアホの子、鳥頭。そんな貴女が可愛いです。お気に入り追加。
「え、ええ……」
「すごーい! あそこのおじさんたちってえらい人たちなんでしょ? アイリスちゃんすごーい!」
曖昧な返事しかできない私の言葉を肯定と捉えたのか、リンさんは頭の天辺についた冠羽をバタつかせて喜んでおります。
やだこの子まぢアホかわ。お持ち帰りしていいですか? テイクアウト希望。
「へえ。やっぱり君、魔王城の秘蔵っ子ってやつなのか」
おっと。狐さんが何かのたまってますわね。
ジロリと睨んでみたけど、当の狐さんは爽やかな笑みを返してきました。
なんだコイツ完璧か。
おっといけない。言葉が乱れてしまいました。
私情は挟まず丁寧にゆっくりと上品に。お母様からの教えを守ることこそが私の矜持です。
狐さんには化かされませんわよ!
「そんなんじゃないですわ。アサトさんこそ、クロガネ家のエリートですわよね」
魔妖狐種の中でも白銀色の毛並みを持つクロガネ家は、エリート官僚を多く輩出している名家です。
名家こそ親の決めた見合い結婚して血統を維持しなくていけないのではないか? こんな雑種だけらけの婚活パーティーなんかに参加していいのか?
など、ツッコミはいっぱいありますけれども、ここで口に出すのは野暮ってものですわね。
内緒にしといてあげますから、私のことも内緒にして下さいませねと、これ以上は口を噤ませていただきます。
アサトさんも「そうだね」と平静に返しながらも、目が笑ってません。お互い痛いことは言いっこなしですのことよ~。
『それでは皆様お楽しみ。自己紹介、アピールタイムの始まりです!』
司会者さんのアナウンスにテーブルの面々も注目です。
ナイスタイミングですわ魔狸種の司会者さん。
魔牛種のモナミさんも淫魔種のハワードさんも、私たちの会話、気にしてましたからね。気を逸らしてくれた余興の催しに感謝ですわ。
『栄えあるトップバッターは~~』
期待を執拗に長引かせるドラムロールが続きます。あれ、生演奏でしょうか? 音は聞こえど姿は見えず、録音を疑いますわ。
……しかし、なんだか喉が渇きましたわねえ。
私は手元にあった赤オランジュを一気飲みしてしまいました。酸っぱくて冷やっこいですわー。氷をカラカラさせてドラムロールの終焉を待ちます。ほんと長いですわねえ。
『はい! 魔獣族魔鳥種のリンランさん、お願いします!』
ドラムロールが終わった途端、高らかに司会者さんに呼ばれてしまうリンさん。彼女が栄えあるトップバッターです。
「ひえええ私から?!」
素直な反応ありがとうございます。リンさんたら大変可愛いですね。ぜひ嫁に来て下さい。
あらやだ。婿決める前に嫁が決まりましたわ。
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