魔族界の婚活パーティー

風巻ユウ

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婚活5

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 太鼓の音が鳴り響いております。

 舞台には大小八つの和太鼓が並び、さっきまで股間を抱えていらした狼男さんたちが時折に「おっぱい!」と掛け声かけたりして太鼓ドンドンしています。

 どんだけ牛の乳がいいのでしょう。見下げますわ。殆どの女子は白い目で観覧しております。

 リンさんだけが「モナミちゃんのおっぷぁいすごい!」とはしゃいだ感想を漏らしております。

 リンさんの場合、純粋な好奇心なのでしょうね。でも狼男さんたちは違いますね。不純すぎます。

 太鼓の演武自体はとても力強く壮観であったものの、彼らの評価はだだ下がりです。

 今回の婚活、失敗ですわねお兄様。太鼓ドンドンしていらっしゃる内の、どれがお兄様か知りませんけど。

 狼男さんたちの後は魔妖狐種のアサトさんです。

 そういえばこの人、搾乳ショーの時は席を離れずに、ここでずっとお茶してましたわね。しかも私と同じ銘柄の紅茶飲んでおりましたわ。

 今回のパーティー、嗜好品に力を入れているのか、紅茶とハーブティーとコーヒーの銘柄が多く揃えてありまして、其の中から好きなものを選べるセレクトな趣向なのです。私の愛用茶葉はあまり出回っていないものなので、このパーティーでお目にかかれて大変嬉しかったのです。

 豊富な種類の中からこれを選ぶなんてお目が高いですわ。もしかしたらアサトさんも紅茶好きなのかしら。同士なのかしら。

 魔妖狐種のアサトさんは普通にみたら優良物件です。見た目イケメンですし家柄も悪くない。むしろ伝統ある旧家で、その嫡男です。玉の輿を狙う女性にしてみたら最優良優秀お婿さん候補でしょう。

 それを示すかのように、アサトさんが舞台に向かう間、色目を使おうとしている女性がチラホラ。

 あ、あの角生えてる給仕係の女性なんか乳の谷間寄せて上げてますわよ。はしたない。それ以前に給仕係はパーティー参加者じゃないのだから色目つかってどうするんですかという話。

 でもまあ、おそらくアサトさんは乳には靡《なび》かない。モナミさんに群がった男共と同じにしてはいけませんわよ。まだ少ししかお喋りしておりませんが、彼は誠実な男性だと思うのです。

 さてさて、そんなアサトさんはどんな余興を披露して下さるのかしら。楽しみですわ。

 ……と、余裕でいられたのもこの時まででございました。ええ、あんな奇抜な仕掛けを事前に準備していたなんて……反則ですわよアサトさん。

 突如、辺り一面が濃い白霧に包まれました。本当に、突然に、身構える暇もなく、ですわ。

 この時点で私はアサトさんの術中に嵌められたのだと分かりました。

 周囲は白い霧だらけ。隣に座っているはずのリンさんの顔すら拝めません。

「キラキラだらけ! ポピィィーーッ!」

 顔は見えませんがリンさんの声は聞こえます。というか甲高い啼き声というか歓喜の音が聞こえますね。

 キラキラというのは宝石のことでしょうね。魔鳥種は宝石を集める趣味をもっておりますから。

「んむぅ~眠いんですけどぉ……この枕ふかふかすぎぃ……」

 この声はモナミさん。お眠りあそばしてしまったようです。安眠枕でも目の前に現れたのでしょう。

 これで分かりましたわ。この白霧は*欲*を映し出すのですね。

「ふむ。吾輩の美しい姿を霧で隠すとは不届き千万。アサトめ!」

 このアホ発言はハワードさんですわね。ハワードさんには何も影響が無いようです。

 私もそうですが、ある程度の回避や無効の能力があれば、この白霧の影響は受けないようなのです。

 ただしハワードさんの場合、白霧そのものが憎いみたいですけど…。

 他にも会場中の声を私の耳は拾います。私、生まれつき耳は良い方なのですよ。

「キャーおばけーー!」

「おいしいのいっぱーい」

「ああん、素敵な王子様あん」

「ムッ、何奴?! 成敗!」

「うにゃ~ん、ふわふわだよぉ」

「ぶほーう! かわいこちゅわあ~ん」

「わーん! ごめんなさいお母様ああ」

「そこだーいけーー!!」

 カオスですわ。

 色んながあるものなのですねえ。

 欲を出しすぎてしっぺ返しされたり、欲望に忠実な人もいます。欲深すぎて叱られたり、他人の欲を煽る人もいるようです。

 まさに<>という名の集団幻覚を見せつけているのですね。

 えげつない妖術ですこと。

『おっぱいがひとつ、おっぱいがふたつ、おっぱいがみっつ、よっつ、いつつ……わあ、六つ子だあ。妻よ、ありがと~う』

 司会者さんが一番カオスでした。魔狸種は多産なのですね。六つ子誕生おめでとうございます。

 悲喜交々で現場は阿鼻叫喚の様相ですが、これ、いつ終わるのでしょう。

 アサトさんが解けば良いのですけれど、このまま放置されても困りますわねえ。と、ちょっと魔力を垂れ流してみようかと思考を巡らせておりましたら、霧が晴れてきましたよ。

 サアァ……と溶けるようにして霧が無くなり、その後に雪が降って参りました。白い、とても白く、眞白な雪です。空はいつの間にか灰色で、曇っております。

 雪が、ちらり、ちらりと舞い降りてくる狭間から、俄かに笛の音が聴こえてきました。

 笛の音は遠くで一音だけ。耳を凝らしていたらその内徐々に近づいて来る気がいたします。だんだんと二音のしょう、三音の楽箏がくそう、四つ音は鉦鼓しょうこ、そしてすずと増えて合奏になりました。

 とても雅な音ですね。

 会場の皆様も声を潜めて、その音に聴き入っております。

 不思議なのは、どこでこの旋律が奏でられているのかということです。

 確かに音は耳に入ってくるのに、どこで奏でられているのか、さっぱり察知できません。奏者の姿が見えないのです。

 おそらく奏者は透明な上に雲に紛れているのでしょう。もしかしたら雲の上からかもしれません。

 天上から雪と共に降り注ぐ旋律が、とても神秘的なのにどこかもの侘しさを残していきます。

 始まりとは逆に、音は一音一音減っていき、最後にまた笛の音だけが残り、細く消え入りました。

 音が途切れ、終わったはずなのにどこかに残っているような……そんな余韻が心を震わせます。素晴らしい演出でした。

 集団幻覚だけでも沢山の魔力と高度な妖魔術を要するのに、合奏の演出までするとは……アサトさんめ、やりおりますわね。

 雪も幻覚だったようで、降り積もることなく冷気さえ残さずに消え去っています。

 完璧です。
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