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三柱の世界
戻った記憶と内緒の買い物
しおりを挟む記憶が戻った途端、頭バーンてなってパパーンて開いた感じ。うん、わからん。
いきなり大容量の記憶を詰め込まれたから私の脳内メモリーが悲鳴あげたんだなってのはわかる。
おかげで頭が痛い。割れるように痛い。ズキズキ痛い。ドゴンドゴン痛い。
「のごおおおおお…!!!」
のたうち回りたいとこだけどここは神殿内。
そんなはしたない真似はできなくてよ。
頭抱えて雄々しい雄叫びを上げつつ耐えるのみである。なんだってこんな黒き稲妻が脳天直撃したような壮絶な痛みを覚えねばならんのか…!げせぬ。
「大丈夫かハツネ殿?!」
雄々しさ満点の私に戸惑う気配がめらめらわかるよ。
ルークスさん、すまん。今は反応返してる余裕がない。
なんかこ~~断続的に頭痛が襲ってきて、その度に電磁波が乱れたようなジジッて音が脳内に響くし、思い出っぽいものがあっちこっち行ったり来たりと脳内を駆け巡ってるし…あ、これ、走馬燈みたいだね。
走馬燈をみたことがあるような口ぶりだけど、多分見たことあるわ。どうやら私、前に一回死んでるね。じゃあ今の私は何?とも思う。
「神子殿、これ、ハツネ殿は大丈夫なのか?!」
「記憶を司る連合野が巧いこと処理できてないだけでしょう。その内、海馬に記憶がきちんと収まると思いますよ」
『なーに言ってるかわっかんないけど、放っておいてもいいのだけはわかったわ』
「すっごく痛そうですハツネさん…」
ご心配お掛けしてすみません。私がこんな状態になること晃さんは予想できてたような口ぶりですね。最初に言っておいて下さいそういう大事なことは。
「うがががが陣痛のように脳天が痛い…!」
「初音ちゃん、出産経験はないはずでしょ」
「どういう意味だハツネ殿?!」
「どういう意味なんですかハツネさん?!」
『このカオス状態、前にもあったわ。お酒飲んだ時以来ね』
アザレアさん大正解。はっきり言って自分でも何言ってるか判断つかないわけだ。だから本気で捉えないで私の戯言。
特にそこのエロ殿下とプリ姫よ。君たちホント真面目くんだなあ。
「うあーん。ルークス様あぁぁ」
「どうしたハツネ?!」
「婿に来い。どんとこい。私が欲しいのはルークス様だけですよ」
「───っ?!」
「大好きルークス様キスしてマジしてハグしてもっと抱き締めて…!」
しばらくアホなこと言ってたら、だんだんと痛みが治まってきた。
ふう。実際、記憶の走馬燈なんてシャレにならんよ。脳内シェイクされた感じ。
リセットというより乱された気分で酩酊感みたいなものもある。
ううう…もう二度と大好きな人を残して死にたくないです。
そんな後悔ばかりが胸中を締め付ける。
「治ったっぽい…ルークスさん…」
「ああ…よかった。このまま突拍子もないことを聞き続けなければいけないのかと思ってた」
「…私、おかしなこと言ってました?」
「ん、あー…」
目を逸らされた上でルークスさんの耳が赤くなっている。これはなんだ。
どういうこった。私は何か彼を照れさせることを言ったというのか。
発言内容は不明だが照れたルークスさんが可愛いので抱きつく。キスもして、キャッキャウフフとラブッてしまう。
『あんたら、その辺にして今日は帰るわよ。アリステラ、あれを参考にしちゃ駄目よ』
「ふえ?で、でも、わたくしも…!」
『お嫁入りするまで駄ぁ目』
アザレアママは厳しいな。でもまあ本当に私たちは参考にしない方がいい。
エロ殿下ったら調子に乗って胸もみもみまでしてきてるからね。
「すいません晃さん、ご迷惑をお掛けしました」
「いいえ。お気になさらず。…初音ちゃん、今度こそ幸せになってね」
そう言って微笑んでくれる晃さんは実に儚げだ。男の人相手にこんなこと思うのもなんだけど、その手の人に襲われそうな微笑みである。
気を付けてよ晃さん。ただでさえ晃さんて美味しそう…じゃなくて、男の人にモテそうなんだからさ。
「晃さんも…。カテルさんとは、あの後、仲直り出来たんですか?」
「な、なんでカテルくん?」
あれま。晃さんが動揺したよ。
さっきまでの冷静な対応が嘘のように表情が変わった。
「義理の親子関係なんですよね。カテルさんから聞いてます」
「あ、ああ、そゆこと…うん、そう…カテルくんは私の大事な義理の息子です」
ただの義息子じゃあないっぽいけどね。カテルさんもだったけど、二人してお互いの気持ちを確かめ合ってないのかなあ。
ここで晃さんに二人の関係を追及してもはぐらかされるだけだろうし、今は何も突っ込むまい。
「おお、そうだ。神子殿、来月に騎士たちの御前試合があるから都合つくなら観覧席を取るぞ」
「え…もしかしてカテルくんも参加しますか」
「勿論だ。帝国一の聖騎士が帰還してるからこその試合でもある。参加しないわけがない。だがその様子だと本人からは何も聞いてないようだな」
「聞いてないですね…」
なーにやってんだいカテル氏は。義理のお父ちゃんに晴れ舞台見せないで何が義息子か。それからルークスさん、私も聞いてませーん。
「ねえねえ、それってルークスさんも参加なさるのかしら?私も聞いてませんけど?寝耳に水ですけど?」
「う。無論、私も参加するが…そんなに面白いものでもないぞ」
「あら?ヒースさんは多彩な技が見れて面白いっておっしゃってましたわよ。わたくしとても楽しみにしてますの」
多彩な技…大道芸か何かですか。てかヒースラウドさんはちゃっかりアリステラ姫を誘ってるんですね。そこに驚いた。
私が誘われてないのはどういうことかねえ益々に不可解。
「あ~いや、ほら、きっと姉の方から誘いがあるんじゃないかと…」
「カサブランカ様から?でもその前にルークスさんから教えてくれてもいいと思いますけど」
「言うつもりはあったんだ。タイミングがズレただけで」
「本当ですかー?」
嘘くさいんだよね。私に言えない秘密でもあるんかなこの人。
真面目で正直者なルークスさんだけど、一度決めると曲げない頑固なとこもあるし、この焦りようを見ると、御前試合のこと私に内緒にしようとしてたことは明白である。
『ハツネちゃん、男にはやんなきゃいけない試練ってのがあるのよ』
「突然なんすかアザレアさん」
『こういう時、女は黙って待ってればいいのよ』
「はあ?」
アザレアさんに諭されるように言われてしまえば私も黙るしかない。
ちょっとだけ唇を尖らせてから「わかりました」と頷いた。
いいもん。私だって内緒なことはある。
神殿を出て、帰りに買い物をしたかった私はここで皆と別行動することを提案した。
『あらん。一人で行くのん?』
「ハツネさん、わたくしも行きますよ」
「平気平気。ちょっと買い物するだけだから。アザレアさんはアリスちゃんをお願いね」
そう言って、そそくさと一行から離れた。こういう時、必ず「護衛する」と言ってきかない束縛系彼氏は、他にも神殿で用事があるとかで、晃さんとの話の後で別れた。だからこれはチャンスである。内緒であれこれ買い物するチャンスなのだ。
明後日、女帝一家も我が家へいらっしゃるので、エリオンくん(動き回る一歳児)の為にキッズルームみたいなところを設えようと思っている。
構想は出来てるんだ。あとは物である。私は木工職人さんの工房を訪ねた。
「こんにちはー。こちらにマダシオさんって方、いらっしゃいますか」
事前リサーチで、皇居宮殿にて働く女官さんや書記官さん秘書官さんまで巻き込んでアンケートとった結果である。
この工房のマダシオさんの作る木製玩具が今、密かに人気らしいとのこと。
私は思い切って変装姿のまま工房を訪ねた。
変装してこの国の人に溶け込んではいるが、服装がちょっと珍しいかもなので、ちょっとドキドキしながら玄関の戸を開ける。
「あいあい。父ちゃんは工場に詰めてるよ。なんか入り用かい?」
応対してくれたのはここの女将さんである。
シャカリキしてて恰幅の良いおば様だ。
「はい。幼児用プレイルームを作りたいので玩具や遊具を作って欲しいのですが」
「へえ。そりゃあ豪気な話だねえ。自分の家にかい」
私の話を聞きながら、女将さんはテキパキとお茶まで出してくれた。
あれも欲しいこれも欲しいと、私が玩具の構想を述べる度に茶菓子の干し果物やナッツ類が増えていくから面白い。
「すごいねアンタ。それ全部自分で考えたんかい」
「いや、まあ、どこかで見たことあるものや聞きかじりとかですけども」
見たのは現代日本で大型施設なんかにある遊び場で、聞いたことによれば遊び場というのは保護者も一緒についていないといけないので、大人が安心して見守れる場にしないといけないということだ。
「いいよ。私が父ちゃんを説得したげる。こんな面白いもの作れるんだから、うちの職人総出でかからせてもらうよ」
おお、頼もしいお言葉。おば様はドンと胸を叩いて、それから親方を呼びに行ってくれた。私は一人休憩しながら伸びをして待ってた。
「姉ちゃんが…そうなのかい」
奥からいらしたのは無精ひげにねじり鉢巻きな如何にもな親方さん。
そして口下手っぽい。ペラペラしゃべる奥さんがいるから別に喋らなくてもいいんだろうね。
「父ちゃんたら愛想無いけど腕は確かなんだよ。アンタの言ってた遊具だっけ、出来合いのものから少し工夫しても作れそうだし、ま、腰かけて待ってなよ」
「あ、いえ。良かったら作るところを見学させてもらっていいですか?」
「あらあら。工場に入りたいなんて変わった子ねえ」
そう言いながらも工房の作業場を見学させてくれた女将さんはいい人である。
職人さんは、ざっと見で三人くらい。こんな少人数では大規模な注文は受けれないだろう。
私は大型の遊具や結構な数の玩具を注文してしまったけど、明後日までに間に合うだろうか…。
「納品は自宅じゃないくていいの?」
「ええ大丈夫です。取りに来ます。明日の夕方頃でいいんですよね」
「ああ…全力でやってやんよ」
親方が燃えている。
どうやら大型遊具というものに魂がバーニングしちゃったらしいのだ。
私はただ、かくれんぼができるジャングルジムと座って漕ぐブランコと滑り台が一体になったものを頼んだだけなんだが、途中で話が盛り上がり、回すと絵になるものとか回転木馬にシーソーとか、思いつく限りの遊具をつらつら述べたら親方が設計図まで描き出してびっくりした。
「こりゃ面白そうだ。腕が鳴るねえ」
「今夜は徹夜でもいいですぜ親方」
「これとか持っていきなよ姉ちゃん」
他の職人さん方も張り切っていて、一番奥で作業してた人が、今仕上がったばかりだと言って作ってた玩具をくれた。
押して動かすとヒヨコがピコピコ動くやつだ。立っちしたばかりのエリオンくんに丁度よさそう。
ありがとうございますと言って代金を渡した。前金で赤銭を五枚ほど渡そうとしたら多いと言われたけれど。
「こんなに貰えないよ。ぼったくりになっちまう」
「すいません。相場が分からなくて…」
市場とかでの物の値段は大分わかるようになったのだけど、こういう職人さんが絡む物の相場はいまいちである。
手間賃やら色々といるだろうと多く見積もりすぎてしまうようだ。基本、こちらの物価は日本よりも安いから、おそらく材料の値段もお手頃価格ではあると思う。
「普通はこれの半分くらいだね。でも、うちならもっと下げれるよ」
そう言って赤銭一枚しか受け取らない女将さんに、また同じ値段を後払いしますと言って工房を出たのだった。
ここの人たち良い人すぎないか?でも、多めの額を出したお客さんの足下見ないで、きちんと適正価格を受け取った女将さんは大変格好良い。
意地の悪い人だったら、多めの金額を受け取って差額をポケットナイナイしちゃうものね。幼児以下の所業をする人は本当にいるから。
どこぞの政治家とか、どこぞの神に仕える宗教関係者とかね。
それを思えばこの帝国は政治と宗教が癒着してないし、とてもクリアである。
もしかしたら私が知らないだけでそういうこともあるかもだけど…。
市場を見て回る。食べ物以外にも雑貨や小物も売ってて、歩いて見て回るだけでも面白い。途中で竹細工のお店を見つけたのでそこに入り浸る。これとか一輪挿しによさそう。そういえば香炉が欲しかったんだっけ。陶磁器売ってる店にないかなと探してみる。
あちこちのお店に寄っては買ってとやってると当然荷物は増える。だが焦ることなかれ。私には素敵無敵な聖霊回廊と繋がったこの腕輪がある。
…そう、今更だがこのブレスレット、ただ家を収納したりアザレアさんを収納するモ〇スターボールなだけじゃなかったのだ。
これまでの会話から何故気づかなかったのか自分で自分に疑問を抱くぐらいおかしなことなんだけど、なんとこのシャムロック型チャームのとこ、これ、ここね、ここが私の聖霊ボックスなんだよ。
え?知ってた?それくらい読めてた?実は晃さんに異世界トリップ特典のこと聞いてからやっと気づいたんだ。遅いよね。
でもさ、まさか、お父さんから貰ったシャムロック型チャームが四次元ポケットばりの便利アイテムとは思わないじゃん。
ありがとうお父さん。月一で会えるか会えないかの父親だけど、成人祝いだけはピンポイントで高得点だよ。
そんな訳で、シャムロックの形したシルバーチャームに触れて声喩魔法を発動。
荷物を全部チャームへと仕舞ってしまう。
ちなみに触れなくても声出せば仕舞えるが、気分である。
記憶を取り戻したせいか魔法の発動もなんだかスムーズな気がする。
あの記憶の中では毎日のように魔王軍とやらとドンパチしちゃってたもんなあ…。
今なら攻撃魔法百連発とかできそうだ。ああでも、私の杖がないと無理か。
杖は私の有り余る魔力をコントロールしてくれる素敵な相棒なのである。
そういやあの杖、どこいったんだろう。魔王の攻撃で壊れちゃったのかな。
時間が経つにつれ、記憶の整頓ができてきた。
魔王との対決の記憶──。勇者と神子だけの話ではなかったのだ。私は魔法使いとして、あの時代に召喚されてた。
そして光の騎士と恋仲になって一緒に魔王城に乗り込んだ。結果、私は死亡。
全員が呪われたはずだけど…今は月神しか呪われてないという。
この辺がよく分からないな。また晃さんに聞くしかないかな…。
チャームへ仕舞うとこを見られないよう人気のない裏路地でこっそりやってたんだが、そこから表通りへと向かいながら私は考え事をしていた。
だからだろう。前から歩いてくる人物に気づかず「わぷっ」と正面衝突してしまう。
「ご、ごめんなさいっ」
当然、謝るわけだ。そして相手を見た瞬間、固まった。
『久しぶりだねえ。健気に生きてたかい卑小な人間よ』
居丈高に言い放つお前はフルオラ・ナビルミもとい月神ではないですか。
相変わらずの灰色髪はボサボサのまま片目を覆ってるし、旅装姿もなんだかボロっちくてヤバげなオーラも全開なんだけど…私、ピンチ?
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