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呪われた領主
⑥
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執務室の整理を終えたロナンは、収まりきらなくなった過去の書類をまとめて別室の書庫へ運んでいた。
その時、バルコニーの入口で身を屈めている人影に気が付いた。そっと近付いたはずなのだが、その人物はロナンの気配を察してパッとこちらへ顔を向ける。
「アリスさん……?」
客人の侍女が一人でこんなことをするのはまず考えられないことだ。不審に思いながら歩みを進めると、こちらに手のひらを向けて動きを制した。
「静かに。今、すごくいい所なんです」
全く状況が読めないロナンは、とりあえずアリスのそばへよる。
「一体何が……」
そう呟きながら彼女の視線の先を一緒に目で追った。
そこには、クロイドとクリスティアの姿があった。こちらからはクリスティアの表情しか見えなかったが、彼女の瞳が悲しみに揺れているのが気になった。
すると、突然驚いたように顔を上げたクリスティアがふらりと後ろに体勢を崩しそうになる。咄嗟にクロイドの腕が彼女の腰に回り、倒れないように引き寄せる。
その瞬間、ロナンは心の中で拍手喝采していた。
すると、クリスティアの表情が穏やかになり、時折嬉しそうな笑みも見られる。
(どうやら、悲しい感じは無くなったようだ。それにしても、クロイド様はいつまで抱き寄せたまま話すのだろうか?)
そう思っている所に、ふとアリスと目が合う。
なんとなくだが、彼女も同じことを思っていそうな気がした。
すると、アリスに手招きされて二人はその場を離れた。
「あれはきっと、お互いに無自覚だからなせる技なのでしょうね」
ため息とともに出たアリスの言葉に、ロナンは心から同意した。
「アリスさんの目からもそのように映ったのですね」
「自分達の状況に気づいて慌てふためく様子も見てみたかったのですが、それはすぐすぐは無理でしょうね」
「私もそう思います。クロイド様は呪い以前に、自ら心を殺して生活していましたし…………。あのお二方、とてもお似合いだと思っているのですが」
「傍目でこんなに分かりやすいのも珍しいですね。領主様はもっと分かりにくいお方かと思っていました」
「そのように思われるのも無理はありませんが…………。心優しいお方なのは間違いありませんよ」
ロナンの言葉に、アリスも穏やかな笑みを浮かべる。だが、彼女の表情はすぐに普段のキリッとしたものに戻る。
「しっ、お二人の足音が聞こえます。ロナン様、さっきのは見ていないふりですよ」
「えっ、は、はい分かりました。それにしてもアリスさんはとても耳がよろしいのですね」
ロナンが思ったことを言うと、アリスは目を伏せて答える。
「…………しがない特技でございます。それより、私は一介の使用人です。敬称は必要ありませんよ」
「それならば、私もクロイド様付きのただの使用人です。ロナンとお呼びください」
「文官をかねた使用人など、普通はいないのですが……」
「まだなんの実績も挙げていない身です。使用人としての方がまだクロイド様のお役に立てているでしょう」
「主人のいないところでも仕事のサポートをするというのは、なかなかできることではありませんよ」
そう言いながら、アリスはロナンがずっと抱えている書類の束に目をやる。
「あぁ、書庫に運ぼうと思ってつい忘れていました。思い出させてくださりありがとうございます。それでは、私はこれで」
アリスに背を向けると、ロナンの目つきが自然と鋭くなった。
(あの使用人、ただものじゃないな……。悪意は感じないが、警戒しておいて損は無いだろう。久しぶりに楽しめそうだな)
ロナンは、堪えきれなくなった笑いをクスリとこぼしながら書庫へ向かうのだった。
その時、バルコニーの入口で身を屈めている人影に気が付いた。そっと近付いたはずなのだが、その人物はロナンの気配を察してパッとこちらへ顔を向ける。
「アリスさん……?」
客人の侍女が一人でこんなことをするのはまず考えられないことだ。不審に思いながら歩みを進めると、こちらに手のひらを向けて動きを制した。
「静かに。今、すごくいい所なんです」
全く状況が読めないロナンは、とりあえずアリスのそばへよる。
「一体何が……」
そう呟きながら彼女の視線の先を一緒に目で追った。
そこには、クロイドとクリスティアの姿があった。こちらからはクリスティアの表情しか見えなかったが、彼女の瞳が悲しみに揺れているのが気になった。
すると、突然驚いたように顔を上げたクリスティアがふらりと後ろに体勢を崩しそうになる。咄嗟にクロイドの腕が彼女の腰に回り、倒れないように引き寄せる。
その瞬間、ロナンは心の中で拍手喝采していた。
すると、クリスティアの表情が穏やかになり、時折嬉しそうな笑みも見られる。
(どうやら、悲しい感じは無くなったようだ。それにしても、クロイド様はいつまで抱き寄せたまま話すのだろうか?)
そう思っている所に、ふとアリスと目が合う。
なんとなくだが、彼女も同じことを思っていそうな気がした。
すると、アリスに手招きされて二人はその場を離れた。
「あれはきっと、お互いに無自覚だからなせる技なのでしょうね」
ため息とともに出たアリスの言葉に、ロナンは心から同意した。
「アリスさんの目からもそのように映ったのですね」
「自分達の状況に気づいて慌てふためく様子も見てみたかったのですが、それはすぐすぐは無理でしょうね」
「私もそう思います。クロイド様は呪い以前に、自ら心を殺して生活していましたし…………。あのお二方、とてもお似合いだと思っているのですが」
「傍目でこんなに分かりやすいのも珍しいですね。領主様はもっと分かりにくいお方かと思っていました」
「そのように思われるのも無理はありませんが…………。心優しいお方なのは間違いありませんよ」
ロナンの言葉に、アリスも穏やかな笑みを浮かべる。だが、彼女の表情はすぐに普段のキリッとしたものに戻る。
「しっ、お二人の足音が聞こえます。ロナン様、さっきのは見ていないふりですよ」
「えっ、は、はい分かりました。それにしてもアリスさんはとても耳がよろしいのですね」
ロナンが思ったことを言うと、アリスは目を伏せて答える。
「…………しがない特技でございます。それより、私は一介の使用人です。敬称は必要ありませんよ」
「それならば、私もクロイド様付きのただの使用人です。ロナンとお呼びください」
「文官をかねた使用人など、普通はいないのですが……」
「まだなんの実績も挙げていない身です。使用人としての方がまだクロイド様のお役に立てているでしょう」
「主人のいないところでも仕事のサポートをするというのは、なかなかできることではありませんよ」
そう言いながら、アリスはロナンがずっと抱えている書類の束に目をやる。
「あぁ、書庫に運ぼうと思ってつい忘れていました。思い出させてくださりありがとうございます。それでは、私はこれで」
アリスに背を向けると、ロナンの目つきが自然と鋭くなった。
(あの使用人、ただものじゃないな……。悪意は感じないが、警戒しておいて損は無いだろう。久しぶりに楽しめそうだな)
ロナンは、堪えきれなくなった笑いをクスリとこぼしながら書庫へ向かうのだった。
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