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これが日常3
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あっという間に閉店時間になり、広げていたノートとテキストを片付けていると、奥から思い出したように敦が駆け寄ってきた。
「ねぇ、まっさん」
「その呼び方やめてくれない?」
「今日、姉ちゃんがうちに寄ってほしいって言ってたの忘れてたわ」
「あ、そうなの?それって今から行っていいやつ?」
「いいんじゃね?余裕で起きてるだろうし、何ならこれからがあの人の活動時間だわ。一応メッセージ入れておくけど……。って、もう返信きた。大歓迎だってさ」
「じゃあ行くわ」
「ついでにうちで勉強していけば?」
トントン拍子に話が進む中での突然の提案に、千夏はいぶかしむように敦を見る。
「なに企んでるの」
「やっぱばれるかー。俺が休んだところのノート見せてほしいんだよね」
全く悪びれずに言う敦に、千夏はため息を一つつく。
「……貸し1ね」
「勉強のお供にポテトLサイズでどうっすか」
「よし、それで手を打とう」
「じゃあ、先に俺んち行ってて」
「オッケー」
敦は少し広めのアパートに、同じ大学に通う姉と一緒に住んでいた。何度か敦との漫画の貸し借りでアパートを訪ねるうちに、いつの間にか姉の方とも仲良くなっていたのだ。
チャイムを鳴らすと、もこもこの部屋着を身にまとった敦の姉、京華(けいか)が出迎えてくれた。
「ちーちゃん、いらっしゃい!わざわざごめんねー」
「いえ、ついでにここでテスト勉強の続きをさせてもらうことになったんですけど大丈夫でした?」
「そうなの!?じゃあ、私もちーちゃんと一緒に勉強しよーっと。奥のリビングで始めてていいよー」
「ありがとうございます。お邪魔します」
敦に対する遠慮などとうの昔に無くなっているため、彼のものが散らばるテーブルを勝手にまとめて自分のものを広げる。
自室からテキスト等を持ってきた京華も、千夏の正面に座って準備をする。
「ねぇ、テスト勉強の前に言うことじゃないのは分かってるんだけどさ……。今度のガチャ、ちーちゃんの推しカッコよすぎじゃない?」
「っ……頑張って思い出さないようにしてたのに……。ほんと……一目見て鼻血出るかと思いましたよ」
「そうだよね!あの美しさには、私もつい課金ボタンに指が伸びそうになったよ!ねぇねぇ、もしちーちゃんがガチャを引くなら、その時は私のチャンネルで配信しない?」
京華は一部の界隈で有名な実況者だった。主にFPSをプレイしているが、たまに自分の趣味全開のアプリでガチャ動画も出している。視聴者に媚びず、京華がやりたいことを全力で楽しんでいる姿が刺さり、徐々に登録者数が増えてきている。
「えっ!?私、京華さんみたいに上手く話せないですよ」
「だいじょーぶ。私が友達のガチャを応援するっていう内容にするから、ちーちゃんはガチャを引くだけでいいよ!」
それを聞いて、千夏はうーんと腕組をしながら考える。
「それなら……10連ガチャを10回は引けるくらいチケットを用意しておかないとですね!京華さん、今日の夜まで待ってくれますか?」
「えぇっ!」
想像の斜め上をいく返答に、かえって京華の方が驚かされる。
「いやいや、そんなにたくさん引くの!?しかも今夜!?そんなに無理しなくてもいいのよ?プレッシャーをかけたかったわけじゃないの!」
さっきとは逆に千夏にブレーキをかけさせようとする京華だったが、千夏はゆっくり首を横に振った。
「私がこんなにやる気になる機会なんてほとんどないんです。いつもやろうと思っても三日坊主ばっかり。推しのイベントですら途中でめんどくさくなってしまうくらいには気持ちが続かないしマメじゃないんです。でも、自分以外の誰かが関わっているってなるとやるしかないって思えるから、今ならこのとんでもない目標も達成できるような気がしてるんです」
千夏は、瞳に強い力を宿しながらそう言った。
「ちーちゃん……」
「あのー、なんかいい感じの雰囲気醸し出してますけど、我々テスト前ですからね?」
いつの間にか帰宅していた敦はあきれた顔で言った。
「ねぇ、まっさん」
「その呼び方やめてくれない?」
「今日、姉ちゃんがうちに寄ってほしいって言ってたの忘れてたわ」
「あ、そうなの?それって今から行っていいやつ?」
「いいんじゃね?余裕で起きてるだろうし、何ならこれからがあの人の活動時間だわ。一応メッセージ入れておくけど……。って、もう返信きた。大歓迎だってさ」
「じゃあ行くわ」
「ついでにうちで勉強していけば?」
トントン拍子に話が進む中での突然の提案に、千夏はいぶかしむように敦を見る。
「なに企んでるの」
「やっぱばれるかー。俺が休んだところのノート見せてほしいんだよね」
全く悪びれずに言う敦に、千夏はため息を一つつく。
「……貸し1ね」
「勉強のお供にポテトLサイズでどうっすか」
「よし、それで手を打とう」
「じゃあ、先に俺んち行ってて」
「オッケー」
敦は少し広めのアパートに、同じ大学に通う姉と一緒に住んでいた。何度か敦との漫画の貸し借りでアパートを訪ねるうちに、いつの間にか姉の方とも仲良くなっていたのだ。
チャイムを鳴らすと、もこもこの部屋着を身にまとった敦の姉、京華(けいか)が出迎えてくれた。
「ちーちゃん、いらっしゃい!わざわざごめんねー」
「いえ、ついでにここでテスト勉強の続きをさせてもらうことになったんですけど大丈夫でした?」
「そうなの!?じゃあ、私もちーちゃんと一緒に勉強しよーっと。奥のリビングで始めてていいよー」
「ありがとうございます。お邪魔します」
敦に対する遠慮などとうの昔に無くなっているため、彼のものが散らばるテーブルを勝手にまとめて自分のものを広げる。
自室からテキスト等を持ってきた京華も、千夏の正面に座って準備をする。
「ねぇ、テスト勉強の前に言うことじゃないのは分かってるんだけどさ……。今度のガチャ、ちーちゃんの推しカッコよすぎじゃない?」
「っ……頑張って思い出さないようにしてたのに……。ほんと……一目見て鼻血出るかと思いましたよ」
「そうだよね!あの美しさには、私もつい課金ボタンに指が伸びそうになったよ!ねぇねぇ、もしちーちゃんがガチャを引くなら、その時は私のチャンネルで配信しない?」
京華は一部の界隈で有名な実況者だった。主にFPSをプレイしているが、たまに自分の趣味全開のアプリでガチャ動画も出している。視聴者に媚びず、京華がやりたいことを全力で楽しんでいる姿が刺さり、徐々に登録者数が増えてきている。
「えっ!?私、京華さんみたいに上手く話せないですよ」
「だいじょーぶ。私が友達のガチャを応援するっていう内容にするから、ちーちゃんはガチャを引くだけでいいよ!」
それを聞いて、千夏はうーんと腕組をしながら考える。
「それなら……10連ガチャを10回は引けるくらいチケットを用意しておかないとですね!京華さん、今日の夜まで待ってくれますか?」
「えぇっ!」
想像の斜め上をいく返答に、かえって京華の方が驚かされる。
「いやいや、そんなにたくさん引くの!?しかも今夜!?そんなに無理しなくてもいいのよ?プレッシャーをかけたかったわけじゃないの!」
さっきとは逆に千夏にブレーキをかけさせようとする京華だったが、千夏はゆっくり首を横に振った。
「私がこんなにやる気になる機会なんてほとんどないんです。いつもやろうと思っても三日坊主ばっかり。推しのイベントですら途中でめんどくさくなってしまうくらいには気持ちが続かないしマメじゃないんです。でも、自分以外の誰かが関わっているってなるとやるしかないって思えるから、今ならこのとんでもない目標も達成できるような気がしてるんです」
千夏は、瞳に強い力を宿しながらそう言った。
「ちーちゃん……」
「あのー、なんかいい感じの雰囲気醸し出してますけど、我々テスト前ですからね?」
いつの間にか帰宅していた敦はあきれた顔で言った。
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