自作したシュミレーションゲームに転生してしまった！

1ヶ月目

ここは俺が作った町だった

　傾きかけた町のゲート。
　砂埃が舞うほどに寂れた町並み。
　初めて来る場所だが、明らかに見覚えがあった。
　ここは、俺、大橋蓮が自作したシュミレーションゲームの世界と瓜二つだった。

　シュミレーションゲーム好きは自覚していたが、まさか夢に見るほどとは思ってもみなかった。

　そう言えば、ここ数日は仕事から帰って早々にゲームの制作に打ち込んでいたから、頭の中がゲームのことで一杯になっていてもおかしくない。

　……いや、待てよ。これって最近よくある転生ってやつでは？大抵、過労死や事故死が多いが、もし本当に転生しているのだとすれば完全に自業自得。

　あぁ、どうか俺の死体が見つかったとしても会社を責めないで！！何も悪くないので！！

　急に申し訳ない気持ちに苛まれて来たが、いつまでも町の入り口に突っ立っていてもしょうがない。とりあえず俺は、目の前の町に足を踏み入れることにした。

　ゲートをくぐったその矢先、どこからともなく現れた老人が俺の肩をガシッと掴んできた。

「えっ！？な、なんですか……？」

「あんたがこの町の新しい町長じゃな！」

「へ？町長ってなんのこと――」

　いや待て、これ、もしかしてゲームが始まった最初のイベントストーリーじゃなかったか？初期のストーリーはかなり前に入力したからうろ覚えだが、こんな会話があったような気がする。

「前の町長が、次にこのゲートをくぐったやつが新しい町長だって言っておったんじゃ」

　よくよく考えるとひどすぎる話だ。無責任にも程がある。だがこれではっきりした。ここは俺が作っていたゲームの中の世界だ。

「他に頼れるやつもおらん。どうかわしらに力を貸してくれ！！」

　元々丸くなっている背中をさらに丸くしながら言う老人を見捨てるようなことなど言えなかった。そもそも俺が作った世界だ。一番の責任者は間違いなく俺だろう。

「分かりました。できる限りのことはやってみましょう」

「おぉ！そうか！じゃあさっそく仕事内容の話じゃ。何をするにもまずは金が必要だ。一週間に一回来る買取業者に町で作ったものを売るんだ。今、ちょうど小麦が収穫時だから、あれを刈り取って業者に渡してみてくれ」

　急に話し方が事務的になったな。承諾した途端働かされるとか、ゲームの主人公ってみんなこんな理不尽に耐えてるんだな……。
　そんなことを考えながら老人に手渡された鎌を見て、ふと疑問が浮かぶ。
　ゲーム内での収穫と言えば、作物の上を手でなぞるだけで簡単に出来る。だが、実際にはそんな魔法みたいなことが出来るはずもない。

「ほれ、急がんと、あと三時間で業者が帰る時間になるぞ」

「嘘だろ！？それを先に言ってくれよ！！」

　いろいろ言いたいことはあったが、それよりもまず、今日を逃すと一週間金を得る方法がなくなってしまうことの方が問題だった。

　無心で小麦を刈り続けている間、俺は妙な胸騒ぎを覚えていた。何かもっと重要なことを忘れている気がするが、なんだったっけ……？

　どうにか時間ギリギリで小麦を収穫し追えると、業者に買ってもらうことが出来た。

「小麦の束50本ですね。1束10コインで買い取らせてもらうので500コインになります」

　安くね！？え、俺、これで一週間生活出来んのか！？

「ほう、初めてにしては上出来だな」

　本当にそう思ってんのか！？
　横からなぜか口を挟んできた老人に思わず突っ込みを入れたくなるが、スムーズな進行のために今は黙っておく。

「これでまずは金を手に入れることができた訳だが、生きるためには、次に食べ物が必要じゃ。今のところこの町で作れる作物は小麦だけじゃから、パンを作るのが一番手っ取り早いじゃろう」

「確認なんだが、今この町にいる住人は何人だ？」

「わしを含めて三人だ。わしの息子夫婦が住んでおるぞ」

……このじいさんのせいで仕方なく残ってるんじゃないのか？でも、下手したら一人で残るとか言ってそうだもんな。

　少し息子夫婦に同情しながらも、彼らのためにも良い生活が出来るようにしたいと思う気持ちが出てきた。

「分かった。明日から総動員で仕事をする。あんたの息子夫婦も一緒に朝ここへ来てくれ」

「おぉ！年寄りの朝は早いからな。わしより遅く来たら承知せんぞ」

「いや、そこは常識の範囲内で頼む……」

　老人は嬉しそうな足取りで帰っていった。
　俺は町長が住んでいたという家に向かう。
　本当は早めに休みたいところだが、とりあえずこの一週間を乗り切るための計画を練らなくてはと思い机に向かった。
　そうして、俺の町長としての一日目はあっという間にすぎていった。