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腹が減ってはなんとやら

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 翌朝小麦畑の前へ行くと、すでに三人の人影があった。

「早くに集まって頂いてありがとうございます」

「こちらこそ、父のわがままを聞いて頂いて……」

 そう言ってきた男性は、初対面で好感がもてた。

「しばらくは不便をかけると思いますが、てをかしてくれますか?」

「もちろんです。それに、今以上に悪くなることなんてありませんしね、ははは」

 彼の乾いた笑いから、これまでの苦労がなんとなく見て取れた。俺はできる限り愛想良く見えるように精一杯の笑顔をふりまく。

「共に助け合って行きましょう。では早速なんですが、まずは何をするにも食料が無いとどうにもなりません。今ここにある畑で小麦が50束分収穫出来ます」

 俺の説明の最中に、ふと目の前に半透明のパネルのようなものが現れた。一番上に目立つフォントで農作物の仕組みと書かれている。

「えぇっと……、どうやら作物ごとに収穫までの時間が異なるみたいで――」

 俺はパネルに書かれた情報をかいつまんで、できる限り自然に説明に混ぜながら話していく。

「小麦は1時間で育つらしい。保存が効くものだから、この1週間で可能な限り作りたい。食料を安定して確保するために、小麦からパンにする工房が必要です。見た感じ建物は残っていましたが、差し押さえられているので買い戻さないといけません。当面の目標はそれで行きましょう」

 俺がそう言って口を閉じると、急にシンと静けさが漂う。もしかして、めちゃくちゃなことを言ってしまっただろうか……。
 一気に不安が押し寄せてきて、フォローの言葉を付け足そうとしたその時

「素晴らしいです!そこまで順序立てて考えてくださっているなんて……。私、あなたのことを見誤っていました。今後全ての協力を惜しみません!!」

 そう言って目を輝かせているのは、さっきの男性の奥さんだ。
 こいつ、俺のこと信用してなかったのか。いや、それは別に当たり前か。なんなら、今が初対面だからな。だとしたら、この変わり身の早さは逆に心配になるぞ?いい言葉にホイホイついて行ってしまいそうだ。……あぁ、もしかして、それでこの町に残ることにでもなったのか?いいように丸め込まれてそうだな。
 俺の政策に反対されるよりははるかにマシだが、違う方面の心配が新たに出そうだった。

 そんなことはともかくとして、俺たちは早速小麦を植え、成長を待ち、刈り取りまた植えるという流れを繰り返した。一つ一つの作業にキツさは感じない。成長を待つ時間に休憩を取れることも大きかった。
 俺はその待ち時間の間に、さっきでてきた半透明のパネルをよく調べてみた。
 まず俺が頭で思い浮かべるだけで目の前に出てくれる。これなら住人の目を気にせずに開けそうだ。そして、お約束だろうがこれは俺にしか見えていないようだ。
 気付いたこととしては、農業、牧畜、製造などの項目で別れており、一定の生産を行うと経験値がもらえるようだ。
 初期項目の小麦は収穫までが早い分、経験値も少ない。ま、ゲームでは大抵そうだよな。
 農業の経験値が貯まることで畑が一面増えるようだ。自分で開墾しないといけないのではと思っていたが、この点は安心だった。あともう一度収穫してしまえばレベルが上がりそうだから、今日の所はここまでがキリが良さそうだ。初日だからといって体力の限界まで仕事をする必要も無いだろう。
 どうやらちょうど育ったようだ。

「おーい、今日はこれを刈り取ったら終わりにするぞー!」

「えっ!?もう終わっていいんですか?」

「私たちまだまだ働けますよ?」

 こいつら社畜だったんか?

「頑張りすぎて明日に響いてしまうのが一番いけない。早めに終われる日は、一日の疲れをリセットするまでが仕事だ」

 俺の言葉にうっとりと聞き惚れる奥さんは、もう見て見ぬふりをするに限る。下手すれば限界まで働きそうだから恐ろしい。
 こうして、今日だけで200束の小麦が収穫でき、新しい畑が一面増えた。この一面には、昨日の商人がおまけでくれたトウモロコシを植えることにした。小麦と成長速度が違うため、お金のない今はとにかく質より量を優先させた方がいい。

 
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