奇跡もしくはエゴ

ノリテツ

文字の大きさ
3 / 3

奇跡の前兆

しおりを挟む
ーー失礼します

今日も彼の返事はない。
当然と言えば…当然なんだろう

日課のように学生鞄を置いて、彼の横に座って、今日の出来事を話す
もちろん彼も相槌を打ってくれる

「今日、コンビニのプリンの新作が置いてあってさ、つい衝動で買っちゃったんだ~!」
『へぇ~…プリン好きだもんね』
「なんと上の方にクリームがね~…
『美味しそうじゃん!』
「三時間目の体育の授業ねー…
『相変わらずドジだな』

彼の隣で、ひたすら彼と会話する妄想をする

あぁ…幸せだなぁ
彼の甘い声が心に響く

動かなくなった彼との会話を妄想することが、今の私が幸せを感じ取れる唯一の方法だった

「やっぱりこうやって話している時が一番楽しいね」

・・・

「もぉっ!本当だってのに…」

・・・

「やめてよ…照れるじゃんか」

・・・

「そう言ってくれて、私も嬉しい」

私だけが聴こえる甘い声とのお話が
今日も始まった

………
……

ひとしきり話した後、
私が帰りの準備をしていた時、
彼の声が響いた

『そうそう、今日ね、弟が初めて1人で見舞いをしてくれたんだ』

『いつもと違って母さんの声がなくてさ、1人できたんだろうなーってのは雰囲気でわかった
死ぬほど嬉しかったんだ…
弟がまだ半年も経って、自分から僕に会いにきてくれるなんてさ…最後にした会話は喧嘩だったのにさ…』


「いい弟じゃん!ガラにも合わずに涙ぐんじゃったりしたの~?なんてね!」

『ふふふっ、実はそうだったりね
それじゃ、また明日会いにきてね』
「また来るよ、いつまでも」
『嬉しい事言ってくれるね』


病室のドアを開け、帰りに着く
ルンルンと鼻歌を歌いながら

一連の会話が、エゴだと気付かぬように
ゆっくり、慎重に帰路につく

そして、今日も布団で考える
明日彼と何を話そう?


その日の夜、彼との会話の内容を考える前に、私は今日の彼との会話を何度も、何度も噛みしめるように反芻していた

『プリン、僕も食べてみたいなぁ…

『球技は嫌いだっただろう?

『今日、僕の弟がね…

『死ぬ程嬉しかったんだ…

…………
………
……


あれ…

何か、引っかかる

私は布団の中で、
明日彼に話す内容を考えながら、
その魚の小骨の様な違和感に取り憑かれていた

今日の会話は何か、いつもと圧倒的に違った…そう感じた。
小骨の様な違和感は、次第に大きくなり、私の思考は、完全にその違和感の謎を調査するモードへとシフトしていった

うーん…なんだろう
何か、何かがおかしい

いつもと違う事なんて…特に無かったハズなのに…

新作のプリンの話…
バレーボールが顔に突っ込んだ話…
新しいヘッドホンを買った話…

今日、彼に伝えた話を、さらに詳しくまとめてみる

…そういえば、今日、彼が最後に言っていた…弟…アレかなぁ、
正直、付き合っていた時、彼の家庭事情とか知らなかったし…

嬉しかったんだろうなぁ…
あれ以来、私は彼の家族に顔を合わせづらく、彼の弟の顔を思い出すのに少し時間がかかったが、
彼の家に遊びに行った時、
彼そっくりの顔に、眼鏡をかけていたまだ小学生かそこらの歳の、小さい子の事を思い出した
あの子が今日、1人で来たのか…
この病院はかなり偏屈なところに立っており、私も、高校から家までの最寄駅の間にその病院が無ければ、毎日通えるような距離では無い

あの小さな子が1人で来るのには、ちょっと頑張らなくてはならない

そっか…だから彼はちょっとうるっときた~なんて言ったのか…

…うん?



なんで彼は自分の感想を私に伝えれたの?

なんで彼しか知らない情報を喋れたの?

だって

だって

だって

彼は私の妄想なんだよ?

私が知らない事を話せるわけがないじゃない?

長い間自分につき続けた嘘をあっさり認めた後、

私はとんでもないことに気づいてしまった
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。 カレンと晴人はその後、どうなる?

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...