王道異世界ファンタジー【ドラゴンライダー】〜Dragon Knights 世界の空を制する者〜

語 群青

文字の大きさ
2 / 23

第一話: 異世界への扉

しおりを挟む
颯太そうた、いつまで寝てるの! もう朝だよ!」

 結城 柚希ゆうき ゆずきの透き通るような声が、天城 颯太あまぎ そうたの部屋に響いた。窓の外から差し込む朝の光が、カーテン越しに部屋を柔らかく照らしている。しかし、布団にくるまった颯太は動かない。

「あと五分…いや、十…」
「はいはい、またそれ。十回目の“あと五分”で、結局遅刻するのがお決まりなんだから。ほら!」

 カーテンを勢いよく引き開けた柚希。茶色の髪が朝の光で輝き、外ハネのワンカールがぴょんと跳ねた。颯太は目を閉じたまま顔をしかめる。

「眩しいってば…!」
「眩しいのは当たり前でしょ。朝なんだから! ほら、制服ちゃんと着て。今日は体育がある日なんでしょ? 体操服忘れないようにね!」

 柚希は勝手知ったる様子で颯太の部屋を片付け始めた。テーブルの上に散らばる漫画やゲーム機を手際よくまとめる姿は、まるで姉のようだ。

 颯太は渋々布団から抜け出し、制服を身に付け始める。彼は逆立った黒髪を手で直しながら、ぶつぶつと文句を漏らしていた。

「毎朝毎朝、なんで柚希が俺の家まで迎えに来るんだよ。俺だって一人で起きられるってのに…」
「嘘つけぇい! 起きられた試しがないくせに。それに私が来なかったら、おばさんに怒られるのは私なんだからね!」

 柚希は笑顔で言い返すが、どこか楽しそうだ。颯太はそれに気付いて、口元を少し歪めた。

「…まあいいけどさ。ありがとな、柚希。」
「ふふ、素直に感謝するなんて珍しいじゃない。どうしたの、熱でもある?」

 颯太は無言でリュックを肩に掛けると、玄関へ向かった。柚希も後に続く。

 ***

 二人が並んで歩く道は、いつも通りの静かな朝だった。近所の公園では、鳩が飛び交い、犬の散歩をする老人たちが軽い挨拶を交わしている。住宅街の角を曲がれば、学校の門が見えてくるはずだった。しかし、その瞬間だった。

 突然、周囲の空気が震えた。耳鳴りのような音が二人の耳をつんざく。

「何だ…?」
 颯太が立ち止まり、辺りを見回す。柚希も不安そうに彼の袖を掴む。

「颯太…これ、何かおかしいよ…」

 その言葉の直後、地面が眩い光で包まれた。二人の足元に現れたのは、複雑な模様が描かれた魔法陣。光の輪が徐々に大きくなり、二人を飲み込んでいく。

「ちょ、ちょっと待て! これ何だよ!」
「分かるわけないでしょ! 颯太、手を離さないで!」

 柚希は強く颯太の腕を掴むが、二人の体は引き寄せられるように宙に浮かび上がった。頭上に広がる眩しい光の中に、どこか別の世界が見える気がした。

「颯太…!」
 柚希の声がだんだん遠ざかる。そして次の瞬間、二人の視界は完全に光に包まれた。

***

 気が付いた時、颯太は冷たい石の床に倒れていた。頭を軽く振って周囲を見回す。そこは巨大な城の広間だった。高い天井には壮麗なシャンデリアが輝き、壁には絢爛な装飾が施されている。

「ここ…どこだ…?」

 呆然とする颯太の隣で、柚希も目を覚ました。彼女も同じく驚いた様子で辺りを見回している。

「颯太、これ…夢?」
「分からない。でも…本物みたいだな。」

 すると、重厚な扉が開き、何人かの人影が現れた。金色の鎧をまとった衛兵たちが整然と並び、その後ろには紫色のローブを着た魔法使いらしき人物が立っていた。そしてその中央には、一人の少女がいた。

「ようこそ、召喚世界メルセシアへ。」

 純白のドレスに身を包み、薄紫髪の長い髪を揺らすその少女は、まるで絵画の中から抜け出してきたかのような美しさだった。頭には小さな王冠が輝き、その表情には気品が漂っている。

「私の名はアルゼリーテ・ヴェルランディア。ここヴェルランディア城の王女であり、王国を治める者です。突然ではありますが、あなた方にお願いがあります。」

 颯太と柚希は言葉を失った。見知らぬ世界、見知らぬ人々。しかし、アルゼリーテの真剣な眼差しは二人に何か特別な運命が待ち受けていることを予感させた。

「お願いって…どういうことだ?」
 颯太が口を開いた瞬間、背後から鎧を着た一人の男が近づいてきた。

「アルゼリーテ姫。彼らをナイツに迎え入れるための儀式を始めるべきです。」

 それは逞しい体躯と鋭い眼光を持つ男だった。彼の名はリューガ・デイン。後に颯太の最大の指導者となる人物だ。

「ナイツ…?」
 颯太が聞き返すと、リューガは静かに頷いた。

「君たちには、この世界を救うための戦士『ドラゴンナイツ』になってもらう。」

「ドラゴンナイツ…?」
 颯太は眉をひそめながらその言葉を繰り返した。目の前のリューガという男はまるで見透かすような鋭い眼差しで颯太を見つめている。一方、柚希は目の前の状況に困惑しつつも、真剣な表情でアルゼリーテ姫の言葉に耳を傾けていた。

「あなたたちには、この世界を脅かす脅威と戦う力があります。ですが、その力を完全に解放するには、私たちの力が必要なのです。」

 アルゼリーテは静かに手を伸ばし、広間の中央に浮かぶ青白い光の玉を指差した。

「これは『魂の解放ソウルリベレーション』の儀式と呼ばれるものです。この儀式を通じて、あなた方はナイツとしての力を得ることができるでしょう。」

「ちょ、ちょっと待て!」
 颯太は思わず声を荒げた。

「俺たちはただの高校生なんだぞ! そんな…いきなり戦士になれだなんて、無茶苦茶だろ!」

「確かに無茶だな。」
 リューガが肩をすくめながら答えた。その顔には微かに皮肉の色が浮かんでいる。

「だが、異世界に召喚された時点でお前たちは普通の高校生じゃない。戦うか逃げるか――選ぶのはお前たちだ。」

 颯太は言葉を失った。自分が立っているのは確かに見慣れた教室でもなければ、平和な日本の街でもない。この場所では、自分たちの常識は通用しないのだ。

「でも…」
 言葉に詰まる颯太の隣で、柚希が一歩前に出た。その表情には迷いがあったが、それ以上に何か強い決意が垣間見えた。

「姫様。」
 彼女の声は少し震えていたが、それでもはっきりとした響きを持っていた。

「私たちがその…ナイツになることで、この世界の人たちを守れるのなら…その力を貸してください。」

「柚希…!」
 颯太は驚いた顔で彼女を見つめた。しかし柚希は彼に視線を向けず、ただアルゼリーテを真っ直ぐに見据えている。

「柚希がやるなら、俺もやる。」
 颯太は拳を握りしめ、柚希の隣に立った。

「こんな状況、納得いかないけど…俺たちがここに呼ばれた理由がそれなら、やってやるさ!」

 アルゼリーテは二人の決意を見て微笑み、手を掲げた。

「ありがとう。あなたたちの勇気に感謝します。それでは、儀式を始めましょう。」

***

 広間の中央に浮かぶ青白い光の玉が急激に輝きを増した。それは二人を包み込むように広がり、彼らの身体をじわりと温めていく。不思議な感覚が全身を駆け巡り、二人の心臓が力強く脈打つのを感じた。

「これは…」
 颯太の身体から、赤黒い光の粒が溢れ出した。それは彼の周囲で渦を巻きながら形を変え、漆黒の鎧へと姿を変えていく。その鎧は鋭い爪のような形状をしたガントレットを持ち、肩には竜の翼を模した装飾が施されていた。

「天城颯太、君の力は『ドラゴン・クロー』。その爪で敵を切り裂き、空を駆け抜けろ。」

 リューガの言葉に、颯太は驚きながらも新しい力を実感していた。一方、柚希もまた淡いピンク色の光に包まれていた。

「これが…私の力…?」

 彼女の鎧は軽やかで柔らかい曲線を持ち、胸元にはハートを象った紋章が輝いていた。

「結城柚希、君の力は『ドラゴン・ハート』。その心で仲間を守り、希望を灯せ。」

「ドラゴン・ハート…」
 柚希は自分の胸元に触れながら呟いた。颯太がその様子を見て声を掛ける。

「似合ってるじゃないか、柚希。」
「颯太だって…まあ、悪くないよ。」

 二人が微笑み合った瞬間、リューガが鋭い声で言った。

「話は後だ。すぐに訓練を始めるぞ。お前たちには覚えることが山ほどある。」

「えっ、もう?」
 颯太が困惑する間もなく、リューガは剣を抜き、軽く振った。その動きだけで、空気が切り裂かれるような感覚が二人を襲った。

「これからお前たちは、ドラゴンナイツとしての技術と覚悟を叩き込まれる。時間はない。敵は既に動き出している。」

「敵…?」
 颯太の問いに、リューガは重々しく頷いた。

「そうだ。この世界を滅ぼそうとする存在――天空城ガーデに潜む悪魔たちだ。」

 その言葉を聞いた瞬間、颯太と柚希の背筋に冷たいものが走った。戦う力を得たばかりの二人にとって、これが新たな運命の始まりであることを、まだ完全には理解していなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

高身長お姉さん達に囲まれてると思ったらここは貞操逆転世界でした。〜どうやら元の世界には帰れないので、今を謳歌しようと思います〜

水国 水
恋愛
ある日、阿宮 海(あみや かい)はバイト先から自転車で家へ帰っていた。 その時、快晴で雲一つ無い空が急変し、突如、周囲に濃い霧に包まれる。 危険を感じた阿宮は自転車を押して帰ることにした。そして徒歩で歩き、喉も乾いてきた時、運良く喫茶店の看板を発見する。 彼は霧が晴れるまでそこで休憩しようと思い、扉を開く。そこには女性の店員が一人居るだけだった。 初めは男装だと考えていた女性の店員、阿宮と会話していくうちに彼が男性だということに気がついた。そして同時に阿宮も世界の常識がおかしいことに気がつく。 そして話していくうちに貞操逆転世界へ転移してしまったことを知る。 警察へ連れて行かれ、戸籍がないことも発覚し、家もない状況。先が不安ではあるが、戻れないだろうと考え新たな世界で生きていくことを決意した。 これはひょんなことから貞操逆転世界に転移してしまった阿宮が高身長女子と関わり、関係を深めながら貞操逆転世界を謳歌する話。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

男:女=1:10000の世界に来た記憶が無いけど生きる俺

マオセン
ファンタジー
突然公園で目覚めた青年「優心」は身辺状況の記憶をすべて忘れていた。分かるのは自分の名前と剣道の経験、常識くらいだった。 その公園を通りすがった「七瀬 椿」に話しかけてからこの物語は幕を開ける。 彼は何も記憶が無い状態で男女比が圧倒的な世界を生き抜けることができるのか。 そして....彼の身体は大丈夫なのか!?

処理中です...