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【二】雲影
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家に戻った香代は、夕餉の後でまた吉夜の書斎を訪れた。
「旦那さま。お茶をお持ちしました」
「ああ。ありがたい」
文机に向かっていた吉夜は、香代に気づいて書状から手を離す。
夫に微笑まれるだけで高鳴る胸をなだめつつ、香代は部屋に入った。
「今日は二つ持ってきたんだな」
湯飲みを目で数えた吉夜に、香代はうつむくようにうなずいた。
(もしかして……二つ持って来いとおっしゃったのは戯れ言だった……?)
不安が胸をよぎったが、吉夜は機嫌良く「上出来だ」と手を差し伸べた。
香代はほっとして、湯飲みの一つを夫に渡し、自分も一つを手にする。
「吉夜さま。……今日は、ありがとうございました」
「おお。そうだったな。和尚には会えたか」
「はい。少しお忙しそうではありましたが」
何やら準備していた和尚を思い出し、ふと夫の顔を見やる。
重臣の家の誰かが不調だと言っていたが、吉夜は知っているのだろうか。
湯飲みに息を吹きかける吉夜の頬に、黒々としたまつげの陰が落ちていた。
吉夜の整った顔に目が引き寄せられる。
直線的な顎の形、女にはない太い首。茶を飲み上下する喉仏――
無心になって一つ一つを眺めていたら、不意に、吉夜と目が合った。
「なんだ? そんなに見られていると穴が開きそうだ」
「も、申し訳ございません……」
慌てて目を伏せるが、吉夜はくつくつ喉を鳴らして笑っている。
大きな猫が喉を鳴らすようなその笑い声は、最近、香代の下腹に響いて、身体をむずがゆくした。
「俺の男ぶりに見惚れていたか?」
冗談めいた吉夜の言葉を否定できない。
香代はますます小さくなったが、吉夜は笑っただけで話題を変えた。
「他に、誰かに会いはしなかったか」
あっ、と香代は顔を上げた。大切なことを言い忘れていた。
「あの、義姉に……」
言いかけて湯飲みを横に置き、頭を下げる。
「吉夜さまが、文を出してくださったと聞きました。ありがとうございます。義姉も元気そうで……甥も、あの、今日はちょうど昼寝してしまったから連れて来なかったようですが、元気に育っているそうで、安心しました」
「それは重畳」
目を輝かせて話す香代に、吉夜はゆったりとうなずき返した。
香代は饒舌になった自分を恥じながら、はいとうつむく。
黙った香代の代わりに、吉夜が口を開いた。
「甥御はまだ小さいのだったな。名は何と言う」
「はい。正之助と言うのでまぁ坊と呼んでいます。……手も足もふくふくとして、笑うところころと喉を鳴らして……」
甥をまぶたの裏に思い出すと、つい頬が緩んだ。
そんな香代の顔を、吉夜が優しい目で見つめている。
「甥御も、お前さんを恋しがっているだろう」
言葉が途切れた香代に、吉夜がうながすように言った。
香代はこくりとうなずき、
「はい……義姉からも、ときどきは甥に会いに来てほしいと」
「だろうな。……そうするといい」
当然のようにうなずく吉夜を前に、胸にぬくもりが広がる。
ここまで見越して、吉夜は香代を寺に行かせ、義姉に会わせたに違いない。
夫の優しさがありがたくて、目に涙が滲んだ。
泣くわけにはいかないと、慌ててうつむく。
「――馳走になった」
茶を飲み終えた吉夜が、盆に湯飲みを戻した。
香代も自分の湯飲みをそこに乗せ、「お粗末さまでした」と応える。
そこでふと、義姉のもう一つの話を思い出した。
「このお部屋にも……香を焚いておられるのですね」
柔らかさのない、酸味の強い香りだ。
香代が問うと、吉夜はうなずいた。
「ああ。嫌いか?」
「嫌いではありません」
香代は答えて、でも、とうつむく。
「……寝所に焚かれていたものとは、違うような」
寝所を共にしたときには、もっと甘い、柔らかな香りがした――
それを思い出すだけで、抱き寄せられた温もりを思い出す。
(あれが……閨に焚く香、なのだとしたら……)
昼に耳にした義姉の言葉が、香代を落ちつかなくさせている。
そんな香代の様子に気づいた風もなく、吉夜はああ、とあっさりうなずいた。
「今は頭が動くように、酸苦の強い香木を焚いている。確かにあのときは違う香を焚いたな」
やはり、香りにもそれぞれ、効能があるのか。
――となれば……
吉夜は何気なく香代に目を向けた。
「あちらの方が好きか?」
突然訊ねられて、香代はうろたえた。
「え、ええと……。寝所に炊いていたのはやはり……ね、閨のための……?」
「閨のため……?」
香代の言葉を、吉夜は考えるように繰り返した。
顔を赤くしてうつむく香代に、「ああ」と低くあいづちを打つ。
「――誰かに聞いたのか?」
「いえ、あの……その」
まさか義姉にとは言えずごまかすと、吉夜はふっと吐息で笑った。
「そうだな……おなごが辛くないように……それでもお前さんを蕩かすまではいかなかったが」
囁くような低い声が、ひと拳分、香代に近づいた。
吉夜の手が、するりと香代の頬を撫でる。
ぞくりと、甘い痺れが腰へ走った。
「……今夜、もう一度試してみるか?」
色めいた囁きに、香代は「えっ」と息を飲む。
目の前に、吉夜の顔がある。妖艶とも言える微笑みを間近にして、身体が一気に熱を持った。
「で、でも……吉夜さまには、お役目が……」
わたわたと落ち着きを失った香代に、吉夜はくつくつと喉を鳴らした。
「冗談だ。……愛いやつめ」
そう言いながら、本心、愛おしそうな目で香代を見つめる。
その視線だけで蕩けてしまいそうな気がして、香代は慌ててうつむいた。
吉夜の手が、また香代の頬をひと撫でする。
「……いや、この際冗談にせずとも……」
吉夜の吐息を額に感じた、そのとき――
「吉夜」
そう大きくもない静かな声音に、ふたりはびくり、と身を震わせた。
香代から手を離した吉夜が、素早く廊下へ向いて座り直す。
部屋の外には、この家の主、主膳が立っていた。
「――養父上。何のご用でしょう」
咳払いして養父を見上げる吉夜の横で、香代は燃えそうに熱い顔を隠して頭を下げた。
「少し、いいか」
「もちろんです」
主膳の言葉に、吉夜はうなずきかけて、ふと表情を引き締めた。
「……昼の件ですか」
「そうだ」
主膳はうなずく。淡々とした義父の口調からは、感情がうかがえない。
(もしかしたら、部屋の様子は見えていなかったのかも……)
内心、ほっとしていた香代は、義父が香代を見たのに気づいて背を伸ばした。
「ちょうどいい。お香代にも来てもらおう」
「……わたくしも?」
香代がまばたきをして吉夜を見ると、吉夜は思わしげに眉を寄せたが、うなずいた。
きびすを返した主膳は一歩を踏み出し、突然、「そうだ」と振り向いた。
「仲睦まじいのはいいが、次から戸は閉めておきなさい」
その口元はかすかに引き上がっている。
香代は羞恥のあまり、このままどこかへ隠れたくなった。
「旦那さま。お茶をお持ちしました」
「ああ。ありがたい」
文机に向かっていた吉夜は、香代に気づいて書状から手を離す。
夫に微笑まれるだけで高鳴る胸をなだめつつ、香代は部屋に入った。
「今日は二つ持ってきたんだな」
湯飲みを目で数えた吉夜に、香代はうつむくようにうなずいた。
(もしかして……二つ持って来いとおっしゃったのは戯れ言だった……?)
不安が胸をよぎったが、吉夜は機嫌良く「上出来だ」と手を差し伸べた。
香代はほっとして、湯飲みの一つを夫に渡し、自分も一つを手にする。
「吉夜さま。……今日は、ありがとうございました」
「おお。そうだったな。和尚には会えたか」
「はい。少しお忙しそうではありましたが」
何やら準備していた和尚を思い出し、ふと夫の顔を見やる。
重臣の家の誰かが不調だと言っていたが、吉夜は知っているのだろうか。
湯飲みに息を吹きかける吉夜の頬に、黒々としたまつげの陰が落ちていた。
吉夜の整った顔に目が引き寄せられる。
直線的な顎の形、女にはない太い首。茶を飲み上下する喉仏――
無心になって一つ一つを眺めていたら、不意に、吉夜と目が合った。
「なんだ? そんなに見られていると穴が開きそうだ」
「も、申し訳ございません……」
慌てて目を伏せるが、吉夜はくつくつ喉を鳴らして笑っている。
大きな猫が喉を鳴らすようなその笑い声は、最近、香代の下腹に響いて、身体をむずがゆくした。
「俺の男ぶりに見惚れていたか?」
冗談めいた吉夜の言葉を否定できない。
香代はますます小さくなったが、吉夜は笑っただけで話題を変えた。
「他に、誰かに会いはしなかったか」
あっ、と香代は顔を上げた。大切なことを言い忘れていた。
「あの、義姉に……」
言いかけて湯飲みを横に置き、頭を下げる。
「吉夜さまが、文を出してくださったと聞きました。ありがとうございます。義姉も元気そうで……甥も、あの、今日はちょうど昼寝してしまったから連れて来なかったようですが、元気に育っているそうで、安心しました」
「それは重畳」
目を輝かせて話す香代に、吉夜はゆったりとうなずき返した。
香代は饒舌になった自分を恥じながら、はいとうつむく。
黙った香代の代わりに、吉夜が口を開いた。
「甥御はまだ小さいのだったな。名は何と言う」
「はい。正之助と言うのでまぁ坊と呼んでいます。……手も足もふくふくとして、笑うところころと喉を鳴らして……」
甥をまぶたの裏に思い出すと、つい頬が緩んだ。
そんな香代の顔を、吉夜が優しい目で見つめている。
「甥御も、お前さんを恋しがっているだろう」
言葉が途切れた香代に、吉夜がうながすように言った。
香代はこくりとうなずき、
「はい……義姉からも、ときどきは甥に会いに来てほしいと」
「だろうな。……そうするといい」
当然のようにうなずく吉夜を前に、胸にぬくもりが広がる。
ここまで見越して、吉夜は香代を寺に行かせ、義姉に会わせたに違いない。
夫の優しさがありがたくて、目に涙が滲んだ。
泣くわけにはいかないと、慌ててうつむく。
「――馳走になった」
茶を飲み終えた吉夜が、盆に湯飲みを戻した。
香代も自分の湯飲みをそこに乗せ、「お粗末さまでした」と応える。
そこでふと、義姉のもう一つの話を思い出した。
「このお部屋にも……香を焚いておられるのですね」
柔らかさのない、酸味の強い香りだ。
香代が問うと、吉夜はうなずいた。
「ああ。嫌いか?」
「嫌いではありません」
香代は答えて、でも、とうつむく。
「……寝所に焚かれていたものとは、違うような」
寝所を共にしたときには、もっと甘い、柔らかな香りがした――
それを思い出すだけで、抱き寄せられた温もりを思い出す。
(あれが……閨に焚く香、なのだとしたら……)
昼に耳にした義姉の言葉が、香代を落ちつかなくさせている。
そんな香代の様子に気づいた風もなく、吉夜はああ、とあっさりうなずいた。
「今は頭が動くように、酸苦の強い香木を焚いている。確かにあのときは違う香を焚いたな」
やはり、香りにもそれぞれ、効能があるのか。
――となれば……
吉夜は何気なく香代に目を向けた。
「あちらの方が好きか?」
突然訊ねられて、香代はうろたえた。
「え、ええと……。寝所に炊いていたのはやはり……ね、閨のための……?」
「閨のため……?」
香代の言葉を、吉夜は考えるように繰り返した。
顔を赤くしてうつむく香代に、「ああ」と低くあいづちを打つ。
「――誰かに聞いたのか?」
「いえ、あの……その」
まさか義姉にとは言えずごまかすと、吉夜はふっと吐息で笑った。
「そうだな……おなごが辛くないように……それでもお前さんを蕩かすまではいかなかったが」
囁くような低い声が、ひと拳分、香代に近づいた。
吉夜の手が、するりと香代の頬を撫でる。
ぞくりと、甘い痺れが腰へ走った。
「……今夜、もう一度試してみるか?」
色めいた囁きに、香代は「えっ」と息を飲む。
目の前に、吉夜の顔がある。妖艶とも言える微笑みを間近にして、身体が一気に熱を持った。
「で、でも……吉夜さまには、お役目が……」
わたわたと落ち着きを失った香代に、吉夜はくつくつと喉を鳴らした。
「冗談だ。……愛いやつめ」
そう言いながら、本心、愛おしそうな目で香代を見つめる。
その視線だけで蕩けてしまいそうな気がして、香代は慌ててうつむいた。
吉夜の手が、また香代の頬をひと撫でする。
「……いや、この際冗談にせずとも……」
吉夜の吐息を額に感じた、そのとき――
「吉夜」
そう大きくもない静かな声音に、ふたりはびくり、と身を震わせた。
香代から手を離した吉夜が、素早く廊下へ向いて座り直す。
部屋の外には、この家の主、主膳が立っていた。
「――養父上。何のご用でしょう」
咳払いして養父を見上げる吉夜の横で、香代は燃えそうに熱い顔を隠して頭を下げた。
「少し、いいか」
「もちろんです」
主膳の言葉に、吉夜はうなずきかけて、ふと表情を引き締めた。
「……昼の件ですか」
「そうだ」
主膳はうなずく。淡々とした義父の口調からは、感情がうかがえない。
(もしかしたら、部屋の様子は見えていなかったのかも……)
内心、ほっとしていた香代は、義父が香代を見たのに気づいて背を伸ばした。
「ちょうどいい。お香代にも来てもらおう」
「……わたくしも?」
香代がまばたきをして吉夜を見ると、吉夜は思わしげに眉を寄せたが、うなずいた。
きびすを返した主膳は一歩を踏み出し、突然、「そうだ」と振り向いた。
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