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アルバートが吹き出したのは、何も分かっていなエミーリアを可愛らしく思ったことに対して。そして、もう一つ。記録された公文書にもだった。

アルフレドはエミーリアとの交流を深めるお茶会の席で、公然の恋人であるアナベラ子爵令嬢の言葉に関して質問したのだ。

『アナベラはわたしから溺愛されたいそうだ。エミーリア、溺愛とは何をすればいいのか教えろ』
その言葉にエミーリアは直ぐに返事をすることが出来なかったそうだ。そして言った言葉が『そのことを存じ上げませんので、お伝えのしようがございません』だった。


「エミーリア様、ちなみに溺愛とは国王陛下の殿下や第二妃様への接し方ではないでしょうか」
「あら、奇遇ね。わたくしもそうではないかと思っていたのよ。でも、定かでないことを殿下には伝えられないもの」
「確かにそうですね」
「そうだ、アルバート様、家庭教師を探している知り合いはいないかしら?わたくしの出来ることはそれくらいなのよね。住み込みで雇ってもらえるところを探そうと思って」
「見つかるまでは、どうするのですか?」
「それまでは、手持ちのものを売って、街の宿屋かしら?」
「それは危険過ぎます。世間を知らないあなたでは、そのうち人攫いにあって売り飛ばされかねません」
「おっしゃる通りだわ。それだったら、最初から娼館へでも行こうかしら」
「えっ、言っている意味を分かっているんですか?」

驚くことにエミーリアは娼館がどういう場所でどうやって金を稼ぐかアルバートに正しく伝えた。

「どうしてあなたがそんなことを知っているのですか?」
「あら、閨教育の先生がおっしゃってたの。わたくしが高級娼館で働けば売れっ子になれるって。どうせ殿下に相手にされないのだから、それもいいかもしれないとアドバイスしてくださったわ。娼館落ちすれば、王子妃になれないから探されないだろうって」

アルバートは頭を抱えたくなったが、今はその『先生』が誰かを確認する方が先だと思った。エミーリアの教育係や周囲の人間にはあまり良い人物がいなかったが、そこまでだとは。

しかし、直ぐにその考えを捨て去った。もうどうでも良いことだ。

「住み込みと言えば、住み込みのような仕事があります。エミーリア様さえ宜しければ紹介いたしますが。ただし、条件があります。返事は今いただきたいのですが」
「あら、人気のお仕事なの?」
「それはどうでしょう」
「どのみち、ここを出たら行く場所がないもの。それにあなたの紹介ならば間違いはないわね。お願いしてもいいかしら?」
「分かりました。明日の朝、迎えにあがります。それまでに出発の準備は終わらせておいて下さい」

そう言うと、アルバートは扉の内側にいたエミーリアの額に口付けた。背を通った者は誰もいない。扉でエミーリアの姿は離れた場所にいる警備の近衛兵からも遮られていることを知っての所業だった。
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