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「そうかしら、溺愛を知らないあの子がいけないのよ、ねぇ陛下。だからかしら、アルフレドに対する愛情も感じられなかったわ」
言いたいことを言う王妃には目もくれず侯爵は言葉を続けた。

「他国の王家の血を受け継ぎ、我が家の長子。それが意味することを王族の皆様がお分かりにならないなどありますまい」
侯爵に凄まれ顔を曇らせた国王は『慰謝料は十分に配慮する』としか言えなかった。


「して、娘は今どうしているのでしょうか。」
「今日中に退去するよう命じた。今頃部屋の荷物でもまとめているだろう」
元婚約者からの言葉に、侯爵は堪忍袋の尾が切れそうになる。しかし、今はエミーリアをここから連れ出すのが先と、国王に王城内の特別区の立ち入り許可を依頼した。

直ぐに国王が一筆認めたものを受け取ると侯爵はこの場を辞する挨拶と共に重要なことを伝えたのだった。


「第二妃様、今後はわたしの妻へお茶会等の招待はお控え下さい。いえ、妻だけでなく一門の者も」
「そうしたら誰が珍しい布や置物を献上してくれるの?布はわたくしが仕立てて使わなければ、宣伝にならないでしょうが」
「いえ、もう第二妃様が娘の義母になることはありませんので目をかけていただくなど恐れ多いこと。アリスター侯爵家及び一門は今後王族の皆様との交流は控えさせていただきます」
「侯爵、それはどういう意味だ」
「いえ、意味などございません。その公文書にあるアナベラ嬢でしたかな、殿下との交流に我が一門は邪魔になります故。うっかり今後殿下がどのような戦略を立てるのか耳にでもしてしまったら拙いですから」



アルフレドと第二妃以外は侯爵の言葉を正しく理解しただろう。国王は辛うじてそのままの姿勢を保ったが、傍に控えていた家臣達の顔色は変わった。アナベラは子爵家の娘。王城へ上げる為の金にも苦労するだろうし、アリスター侯爵家のエミーリアを蹴落としたのだから養子縁組してくれそうな貴族を探すのは至難の業。

しかしそんなことは侯爵の知ったことではない。侯爵はエミーリアの部屋まで案内するという近衛兵と共に会談室を出たのだった。
ところが、向かった先には既にエミーリアの姿はなかった。それどころか、警備の近衛兵達はエミーリアが午前の散歩に出たと思っていた。小さなカバンしか携えていなかったと。

「侍女は…侍女を呼んでくれ」
「エミーリア様には専属侍女はおりませんでした。必要な時のみやってきます」
「王城内とはいえ、侍女も付けず出かけたのか。貴殿らはそれを見送ったと」

その後、侯爵は昨日の夜からエミーリアに食事も出されていないことまで知る羽目になった。
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