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「お姉様、ご結婚おめでとうございます。父上よりこちらを預かって参りました」

エミーリアは弟であるマイルズの顔をまじまじと見つめながら、挨拶を交わした。記憶の中のマイルズは『赤ちゃん』。顔も声も何も覚えていない存在なのだ。声を覚えていたところで、既に声変わりをしたのだろうから無意味だったが。

「遠いところ、わざわざありがとう。何日かこちらに滞在してから戻るのかしら?」
「いえ、スプラルタ王国に留学するので当分おります」
「まあ、そうなのね」

家族として過ごした過去があれば、ここでエミーリアはたまに遊びに来るよう言えるのだが如何せん初対面に等しい弟。言われた事実を肯定するくらいの返事しか出来ない。

「国にいる姉上と兄上には羨ましがられました。お姉様にお会い出来ることを。僕たちは今までお姉様が公務でお出掛けになる時に父上や母上に連れられて遠くから眺めるだけでしたから」
「眺めていたの?」
「はい。家族でも王族に嫁ぐお姉様には気軽に声は掛けられないと教えられていました」
「そう。では、わたくしが婚約破棄されたことは良かったのかしら?愛する夫を得た上に、弟にも会うことが出来て」
「お姉様、実は姉上も兄上もお姉様にお会いしたいと申しておりました。スプラルタ王国に遊びに来た折には、お目に掛かることを許していただけないでしょうか」
「許すもなにも、家族ですもの問題ないわ。ただ、こちらはランスタル伯爵家。わたくしは嫁いだ身ですから、そうね、街中で会う方がいいかしら」
「遠慮はいらないよ、エミー。君の家族ならばいつでも歓迎するよ。出産を控えているのだから、ここに来てもらう方がいいしね」
「お姉様、ご懐妊されたのですか?」

マイルスがエミーリアに届けたのは慰謝料の小切手を始め宝飾品など様々なものと手紙が二通。一通は父であるカリスター侯爵。もう一通は母、イザベラからだった。

カリスター侯爵の手紙には、困ったことがあれば直ぐに知らせるようにと書いてあった。早くに手放してしまった娘に出来る限りのことをしたいと。そして、イザベルの手紙には指輪が同封されていた。手紙は短く『娘へ。スプラルタ王国にいるならばこの指輪が役に立つでしょう。』とだけ書かれていた。

指輪には二つの家紋を上手くまとめたデザインがなされていた。一つはこの国の筆頭公爵家の家紋。もう一つは王家。驚くことに、指輪の家紋を見せれば王城へ入ることが出来るものだった。


「困ってはいないのだけれど」
「エミーの家族達の気持ちだよ。親愛という」
妊娠を知ったマイルズが侯爵家へ知らせたのだろう。数日後にはランスタル伯爵家に様々な贈り物が侯爵家のそれぞれの名前で送られてきた。侯爵に至っては『何故、知らせなかった。』という手紙まで。だから、エミーリアは困っていないのに、とぼやいた訳だが。

「親愛…。アル、わたくしもこの子に愛を注げるかしら?」
「大丈夫、エミーはもう沢山の愛とその形を知っただろ。でも、子供は無闇矢鱈と溺愛しない方がいいかもしれない。君の元婚約者のようになったら困るからね。適切な溺愛ならいいけど。僕が君を愛するようにね」
「そうね、困る子になってしまったらお父様に知らせなくてはいけないもの、節度を持って愛するわ」


<おわり>
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