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あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター5

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父からエミーリアの所在を聞く少し前、マイルズは邸にとある人物が来ていたことが気になった。長身に引き締まった体躯を持ち、動作に無駄のないその人物をマイルズが見た回数は片手で足りる。たったそれだけなのに、何故かその人物はマイルズの記憶にしっかり残っているのだった。

情報屋ならば印象に残らない格好をしそうなものだが、その人物の堂々とした立ち居振る舞いはまるで騎士のよう。確信は持てない。しかし、情報屋に見えないその人物がエミーリアの行方を探し当ててくれたようにマイルズには思えたのだった。

一体全体何者なのか。父親と、そしてカリスター侯爵家とはどういう繋がりなのか。
気になるものの、父から紹介されない以上、今後関わり合いを持つことはないのだろうとマイルズは思っていた。


「まあ、お姫様と騎士の逃避行劇みたい」
「そうですね。姉上と違って、エミーリアお姉様は本物のお姫様でしたから。ですが、アルバート殿は騎士ではありません。元王子の側近だった方です」
「わたしが言いたいのは、そういうことじゃなくて」
「姉上が考えるような夢物語ではありません。現実に起こったことです。だから、物語には書かれないような大変なことが色々とあったことでしょう」

マイルズはアルバート・ザナストルという侯爵家の次男があまりにも見事にエミーリアを他国へ連れ去ったやり口に驚いた。
エミーリアの出国記録を残さないよう、結婚までして連れ出した手口に。そして、聞けば聞くほどアルバートやサフィールの手腕に驚き、王家のエミーリアへの態度に怒ったのだった。

その怒りは王家へだけではない。エミーリアを王宮へあげ、内部のことを全てではないにしろ知っていた父や母へも向かった。

「父上、僕は次男です。兄上が次の王の側近になるのですから、カリスター侯爵家は安泰でしょう。だから、留学をさせてもらえませんか。スプラルタ王国へ。あちらでの人脈を広げ、僕はカリスター侯爵家の事業を盤石なものにしたい」
理由は後付け。マイルズの本音はエミーリアを王家へ捧げたカリスター侯爵家から離れ、エミーリアに酷い扱いをした王家が治めていたこの国を出たいだけだった。

「貴族学院を飛び級で卒業してまで入学した近衛騎士訓練所はどうするのだ」
「辞めます」
エミーリアが王妃として導く国の為になりたいとマイルズが入った近衛騎士訓練所。目的がいなくなった今、マイルズに未練はない。

「もう心は決めたということだな」
「はい。出来るだけ直ぐに留学手続きを行なわせて下さい」

マイルズの決心が揺らがないと察した父は、あっさりと留学の許可をしてくれた。これから王国内は過渡期を迎えるということも追い風だったのかもしれない。森の中にいては全容を見通せない。見るならば少し小高い丘の上からとでも思ったのだろう。

そして関わりを持つことはないだろうと思っていたあの人物が出発の一週間前に紹介された。
「スプラルタ王国までの護衛を引き受けたオスカー・イスカラングと申します。二泊三日の短い行程ですが、しっかりと務める所存でございます」
「こちらこそ、宜しくお願いします」

父からの説明によると、オスカーは元々騎士でスプラルタ王国を良く知る人物ということ。
二泊三日の行程に加え、マイルズが学生寮に入るまで滞在するホテル周辺の案内等もしてくれることとなったのだった。
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