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あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター6
オスカーと名乗ったその人物は、いつかマイルズが思った通りの人物だった。否、それ以上。
動きに無駄がないだけでなく、洞察力もある。初日の午前中だけでマイルズが言いたいことを察し、先を読むようになっていた。
以前騎士をしていたというならば、かなりいいところまで行っていた騎士だ。若しくは、高い身分の人の警護をしていたことだろう。
近衛騎士、とりわけ上級騎士職に就くために入った訓練所で習ったことを当てはめるとそんな答えがマイルズには見えてきた。
「この時間にこの町まで来ましたので、一つ先の町までは日が暮れる前に到着出来るでしょう」
オスカーは父が言っていたようにスプラルタ王国周辺のことを熟知しているようで、気が急いているマイルズを慮ってその日の行き先を決めてくれるのだった。
それも、オスカーの意見を採用するもしないもマイルズ次第というスタンスを取りながら。
オスカーはあくまでもマイルズに仕えているという姿勢を崩すことがなかった。年齢や経験値を理由に何かを行うことのない人物だった。
父と繋がりを持ち、スプラルタ王国を知る人物。しかも、かなり腕の立ちそうな騎士だったオスカーとは、一体どういう人物なのかとマイルズは時間が経過するに連れ疑問を抱かずにはいられなかった。
三日目の夜に到着予定だったスプラルタ王国の王都スプシールアルバには、三日目の朝に到着した。マイルズはホテルに到着するや否や、アルバートが養子入りしたランスタル伯爵家へ訪問許可の手紙を書いたのだった。マイルズの訪問許可自体は既に父が取っている。しかし他国からの訪問の為、具体的な訪問日は到着の後決めることとなっていた。だから、マイルズは少しでも早く到着したかったのだ。
「マイルズ様、わたしを信用していただけるならば、その手紙を届けて参ります」
「勿論信用しているよ。あなたの仕事は素晴らしかったからね」
カリスター侯爵が営む商会へ手紙を持ち込み手配するよりも、オスカーに委ねる方が何倍も速くランスタル伯爵家へ手紙が届けられるのは自明。マイルズは手紙の返事をその場でもらうことも含めオスカーに依頼したのだった。
ホテルを出て、街へ消えていくオスカーの姿にマイルズは確信した。
オスカーはスプラルタ王国を知る人物ではないと。スプラルタ王国出身者なのだ。しかもこのスプシールアルバに住んでいたのだろう。中心地に近づいてからのオスカーはフードを目深に被り続けていた。それに、ランスタル伯爵家への道をホテルのフロントで聞くこともなかった。
オスカーには何か別の仕事もありそうだが、それはマイルズが首を突っ込んでいいものではない。今回のように縁があれば、また会うこともあるだろう。今は、ずっと会って言葉を交わしてみたいと思っていた人物に集中すべきだとマイルズは思うのだった。
到着日の午後にはマイルズのランスタル伯爵家訪問日が決まった。もっと待たされるかと思ったが、なんと三日後にはエミーリアに会えることとなった。
「手土産に美味しいお菓子を買いたいと思うのですが、どこか良い店をご存知ありませんか?」
「実は、わたしも家族に焼き菓子を買おうと思っていました。よろしければ、明後日ご一緒しませんか?」
「助かります」
三日後、訪れた伯爵家で挨拶がてら婦人に焼き菓子を差し出すと驚かれた。
「まあ、こちらの店をよくご存知でしたわね。昔からある人気店で、予約をしないと買えないのに」
「喜んでいただけて何よりです」
マイルズは余計なことは言わず、人当たりがいい笑みを浮かべながら答えた。勿論話が長くなればなる程、エミーリアが遠ざかるという打算があったのだが。
そしていよいよ通された応接室に目的の人物、エミーリアはいた。
マイルズはエミーリアを見た瞬間理解した。昔アリアネルが言った言葉は本当だったと。
カリスター侯爵邸にエミーリアがいた時、マイルズは赤ん坊だった。当然のことながら、その時のエミーリアの顔など覚えていない。というより、存在自体アリアネルの言葉を聞くまで知らなかった。けれど、マイルズは断言出来ると思った、アリアネルが言ったように公務で浮かべていた笑みよりもアリアネルに花を差し出した時の方が可愛かったと。
そして、その時よりも今の方が可愛いと。
本当は結婚なんてして欲しくなかったのに気付けば、『お姉様、ご結婚おめでとうございます』と声を掛けていた。
そして、エミーリアから返ってきた挨拶の言葉に驚く。今までは見るだけだったエミーリアから、声が出ているのだから。しかも、鈴を転がす声とはこのことではないだろうかと思える澄んだ声に、その鈴は最高級のクリスタルで出来ているのではないかと思った程だ。
更に数分後、マイルズはまた気付いてしまう。エミーリアがアルバートに向ける笑顔が一番可愛らしいのだと。
子供の頃からアルバートがエミーリアを陰で支えていたと聞く。悔しい話だが、二人の間には信頼があり、アルバートがエミーリアを一番美しく輝かせる存在なのだろう。
エミーリアの実家ということでマイルズとルーベンには婚約者がいなかった。貴族間の力のバランスを考え、もう少ししてから選定を始める予定だったのだ。
でも、それで良かったと今なら思える。マイルズは恋をしてみたくなったのだった。エミーリアがアルバートに向けるような笑顔をマイルズもいつか誰かから向けられたいと。そういう自分になりたいと。
その時、マイルズは思うのだろう。その人が自分に向けてくれる笑顔が一番可愛いと。
姉がいると認識してから初めてのエミーリアとの対面は無事に終わった。今後へも繋がった気がする。
だからマイルズはその日の夜に別れの挨拶にきたオスカーにも『今後』をお礼がてら渡すことにした。
「もう一つ頼まれて下さいませんか」
「なんなりと」
「僕の姉の立場が故に記録に残るものではなく、口頭で父に伝えていただきたいことがあります。姉が懐妊したと、こちらでとても幸せそうに暮らしているとお願いできますか」
マイルズの言葉を聞き終わるとオスカーは『承知いたしました』と深々頭を下げた。
一瞬見せた表情の変化は、オスカーに対するマイルズの読みが合っていたということだろう。
末っ子のマイルズは兄弟の中では誰よりも人の懐に入り込むのが得意だった。初めてランスタル伯爵家を訪れてから三月、エミーリアのお腹が少し膨らみ始めた頃には兄弟用のエミーリアの笑みを独占することに成功した。
アリアネルもルーベンも知らない笑みの独占に。
あなたが知らない、あなたが居なくなったカリスター侯爵家 Side story マイルズ・カリスター おわり
動きに無駄がないだけでなく、洞察力もある。初日の午前中だけでマイルズが言いたいことを察し、先を読むようになっていた。
以前騎士をしていたというならば、かなりいいところまで行っていた騎士だ。若しくは、高い身分の人の警護をしていたことだろう。
近衛騎士、とりわけ上級騎士職に就くために入った訓練所で習ったことを当てはめるとそんな答えがマイルズには見えてきた。
「この時間にこの町まで来ましたので、一つ先の町までは日が暮れる前に到着出来るでしょう」
オスカーは父が言っていたようにスプラルタ王国周辺のことを熟知しているようで、気が急いているマイルズを慮ってその日の行き先を決めてくれるのだった。
それも、オスカーの意見を採用するもしないもマイルズ次第というスタンスを取りながら。
オスカーはあくまでもマイルズに仕えているという姿勢を崩すことがなかった。年齢や経験値を理由に何かを行うことのない人物だった。
父と繋がりを持ち、スプラルタ王国を知る人物。しかも、かなり腕の立ちそうな騎士だったオスカーとは、一体どういう人物なのかとマイルズは時間が経過するに連れ疑問を抱かずにはいられなかった。
三日目の夜に到着予定だったスプラルタ王国の王都スプシールアルバには、三日目の朝に到着した。マイルズはホテルに到着するや否や、アルバートが養子入りしたランスタル伯爵家へ訪問許可の手紙を書いたのだった。マイルズの訪問許可自体は既に父が取っている。しかし他国からの訪問の為、具体的な訪問日は到着の後決めることとなっていた。だから、マイルズは少しでも早く到着したかったのだ。
「マイルズ様、わたしを信用していただけるならば、その手紙を届けて参ります」
「勿論信用しているよ。あなたの仕事は素晴らしかったからね」
カリスター侯爵が営む商会へ手紙を持ち込み手配するよりも、オスカーに委ねる方が何倍も速くランスタル伯爵家へ手紙が届けられるのは自明。マイルズは手紙の返事をその場でもらうことも含めオスカーに依頼したのだった。
ホテルを出て、街へ消えていくオスカーの姿にマイルズは確信した。
オスカーはスプラルタ王国を知る人物ではないと。スプラルタ王国出身者なのだ。しかもこのスプシールアルバに住んでいたのだろう。中心地に近づいてからのオスカーはフードを目深に被り続けていた。それに、ランスタル伯爵家への道をホテルのフロントで聞くこともなかった。
オスカーには何か別の仕事もありそうだが、それはマイルズが首を突っ込んでいいものではない。今回のように縁があれば、また会うこともあるだろう。今は、ずっと会って言葉を交わしてみたいと思っていた人物に集中すべきだとマイルズは思うのだった。
到着日の午後にはマイルズのランスタル伯爵家訪問日が決まった。もっと待たされるかと思ったが、なんと三日後にはエミーリアに会えることとなった。
「手土産に美味しいお菓子を買いたいと思うのですが、どこか良い店をご存知ありませんか?」
「実は、わたしも家族に焼き菓子を買おうと思っていました。よろしければ、明後日ご一緒しませんか?」
「助かります」
三日後、訪れた伯爵家で挨拶がてら婦人に焼き菓子を差し出すと驚かれた。
「まあ、こちらの店をよくご存知でしたわね。昔からある人気店で、予約をしないと買えないのに」
「喜んでいただけて何よりです」
マイルズは余計なことは言わず、人当たりがいい笑みを浮かべながら答えた。勿論話が長くなればなる程、エミーリアが遠ざかるという打算があったのだが。
そしていよいよ通された応接室に目的の人物、エミーリアはいた。
マイルズはエミーリアを見た瞬間理解した。昔アリアネルが言った言葉は本当だったと。
カリスター侯爵邸にエミーリアがいた時、マイルズは赤ん坊だった。当然のことながら、その時のエミーリアの顔など覚えていない。というより、存在自体アリアネルの言葉を聞くまで知らなかった。けれど、マイルズは断言出来ると思った、アリアネルが言ったように公務で浮かべていた笑みよりもアリアネルに花を差し出した時の方が可愛かったと。
そして、その時よりも今の方が可愛いと。
本当は結婚なんてして欲しくなかったのに気付けば、『お姉様、ご結婚おめでとうございます』と声を掛けていた。
そして、エミーリアから返ってきた挨拶の言葉に驚く。今までは見るだけだったエミーリアから、声が出ているのだから。しかも、鈴を転がす声とはこのことではないだろうかと思える澄んだ声に、その鈴は最高級のクリスタルで出来ているのではないかと思った程だ。
更に数分後、マイルズはまた気付いてしまう。エミーリアがアルバートに向ける笑顔が一番可愛らしいのだと。
子供の頃からアルバートがエミーリアを陰で支えていたと聞く。悔しい話だが、二人の間には信頼があり、アルバートがエミーリアを一番美しく輝かせる存在なのだろう。
エミーリアの実家ということでマイルズとルーベンには婚約者がいなかった。貴族間の力のバランスを考え、もう少ししてから選定を始める予定だったのだ。
でも、それで良かったと今なら思える。マイルズは恋をしてみたくなったのだった。エミーリアがアルバートに向けるような笑顔をマイルズもいつか誰かから向けられたいと。そういう自分になりたいと。
その時、マイルズは思うのだろう。その人が自分に向けてくれる笑顔が一番可愛いと。
姉がいると認識してから初めてのエミーリアとの対面は無事に終わった。今後へも繋がった気がする。
だからマイルズはその日の夜に別れの挨拶にきたオスカーにも『今後』をお礼がてら渡すことにした。
「もう一つ頼まれて下さいませんか」
「なんなりと」
「僕の姉の立場が故に記録に残るものではなく、口頭で父に伝えていただきたいことがあります。姉が懐妊したと、こちらでとても幸せそうに暮らしているとお願いできますか」
マイルズの言葉を聞き終わるとオスカーは『承知いたしました』と深々頭を下げた。
一瞬見せた表情の変化は、オスカーに対するマイルズの読みが合っていたということだろう。
末っ子のマイルズは兄弟の中では誰よりも人の懐に入り込むのが得意だった。初めてランスタル伯爵家を訪れてから三月、エミーリアのお腹が少し膨らみ始めた頃には兄弟用のエミーリアの笑みを独占することに成功した。
アリアネルもルーベンも知らない笑みの独占に。
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