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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング9
二月後、シリルが策を講ずるより先にイザベラの婚約が決まりそうになった。相手はイザベラより十五歳上で友好国の王弟。既に二人の妻がいる人物だった。
「良い人物ではない」
オスカーを呼び出し、イザベラの婚約が進められそうだと話したシリルが最後に付け足した言葉。
オスカーはシリルが全て言わなくとも、婚約を潰したいのだと理解した。
「お心を守る為にわたしが為すべきことは」
「噂を逆手にとってイザベラを貶めよう。オスカー、君にも一枚噛んでもらうよ」
「なんなりと」
我儘で傲慢な公爵令嬢、使用人を人とも思っていない。婚約者には愛想を尽かされ捨てられた令嬢。イザベラを貶めて楽しんでいた令嬢達にとって願ったり叶ったりの状況を作ればいいだけだ。
オスカーはその日から我儘で使用人に対して当たりの強い性悪令嬢から言い寄られる元騎士となった。シリルは遡って、オスカーが護衛騎士を辞めたのはイザベラがそう仕向けたからだという噂も流したのだ。
極め付きは、イザベラがオスカーに圧を掛けて褥を共にしているというもの。令嬢にあるまじき行為を諭した使用人は全て解雇。噂の種はそれで充分だった。
後は誰かがたっぷりと水を与え育ててくれる。しかも、面白可笑しく。
『諫めた使用人達は鞭でたっぷりと打たれてから解雇された』
『元騎士は今や愛玩動物として繋がれている』
『イザベラは一日中寝室から出てこない日がある』
公爵家の使用人達が外でペラペラと邸内のことを話すことはないというのに、どうしてそんな話が実しやかになされるのか。
数日のうちにイザベラの令嬢としての価値はそれまで以上に地に落ちた。どこぞの王家に嫁ぐことが出来ない程に。
「これで良かったのでしょうか、シリル様。イザベラお嬢様はこれでは本当に結婚が…」
「そうだね。両親もイザベラの結婚は難しいと悩んでいるだろう。でも、これでいいんだ。あの子は自由になるべきだ。十分資源の輸入に貢献したのだから、解放してあげないと。時期を見て、どこか他の国へ逃がしてあげようと思っている。オスカー、その時は頼めるね?」
「はい」
口調は穏やかだが、シリルが本気でイザベラを国外へ逃がそうとしていることがオスカーには分かった。公爵夫妻はイザベラに悪い噂が立てば立つほど、見るのも嫌だと遠ざかる。
兄として悪意ある噂に一番憤慨している筈のシリルがこうまでしたのは、公爵夫妻の目をイザベラから遠ざける為でもあったのだろう。
「そうだ、ついでにもう一つ、確認させて。オスカー、君はイザベラを守る為に命を懸けられる?」
「はい。命を捧げる所存であります」
「真面目だなぁ。でも、それじゃあダメだ。君がいなくなったら次に誰がイザベラを守るの?君はイザベラを守り抜き、イザベラよりも一秒以上長く生きなくては。ああ、決して、イザベラが死んだら後を追えって言っているわけじゃない。君はあの子が興味を持つ花を知っている貴重な人間なのだから、花を供えてもらわないと」
イザベラを悪い噂塗れにしてまで阻止しようとした婚約。他国の王家へ純潔が疑わしい令嬢は流石に嫁がせるわけにはいかないと、シリルが計画を実行してから二月後には話は立ち消えた。
けれど、運命はどこまでもイザベラに厳しかった。人形から人間になることを禁ずるように。
「良い人物ではない」
オスカーを呼び出し、イザベラの婚約が進められそうだと話したシリルが最後に付け足した言葉。
オスカーはシリルが全て言わなくとも、婚約を潰したいのだと理解した。
「お心を守る為にわたしが為すべきことは」
「噂を逆手にとってイザベラを貶めよう。オスカー、君にも一枚噛んでもらうよ」
「なんなりと」
我儘で傲慢な公爵令嬢、使用人を人とも思っていない。婚約者には愛想を尽かされ捨てられた令嬢。イザベラを貶めて楽しんでいた令嬢達にとって願ったり叶ったりの状況を作ればいいだけだ。
オスカーはその日から我儘で使用人に対して当たりの強い性悪令嬢から言い寄られる元騎士となった。シリルは遡って、オスカーが護衛騎士を辞めたのはイザベラがそう仕向けたからだという噂も流したのだ。
極め付きは、イザベラがオスカーに圧を掛けて褥を共にしているというもの。令嬢にあるまじき行為を諭した使用人は全て解雇。噂の種はそれで充分だった。
後は誰かがたっぷりと水を与え育ててくれる。しかも、面白可笑しく。
『諫めた使用人達は鞭でたっぷりと打たれてから解雇された』
『元騎士は今や愛玩動物として繋がれている』
『イザベラは一日中寝室から出てこない日がある』
公爵家の使用人達が外でペラペラと邸内のことを話すことはないというのに、どうしてそんな話が実しやかになされるのか。
数日のうちにイザベラの令嬢としての価値はそれまで以上に地に落ちた。どこぞの王家に嫁ぐことが出来ない程に。
「これで良かったのでしょうか、シリル様。イザベラお嬢様はこれでは本当に結婚が…」
「そうだね。両親もイザベラの結婚は難しいと悩んでいるだろう。でも、これでいいんだ。あの子は自由になるべきだ。十分資源の輸入に貢献したのだから、解放してあげないと。時期を見て、どこか他の国へ逃がしてあげようと思っている。オスカー、その時は頼めるね?」
「はい」
口調は穏やかだが、シリルが本気でイザベラを国外へ逃がそうとしていることがオスカーには分かった。公爵夫妻はイザベラに悪い噂が立てば立つほど、見るのも嫌だと遠ざかる。
兄として悪意ある噂に一番憤慨している筈のシリルがこうまでしたのは、公爵夫妻の目をイザベラから遠ざける為でもあったのだろう。
「そうだ、ついでにもう一つ、確認させて。オスカー、君はイザベラを守る為に命を懸けられる?」
「はい。命を捧げる所存であります」
「真面目だなぁ。でも、それじゃあダメだ。君がいなくなったら次に誰がイザベラを守るの?君はイザベラを守り抜き、イザベラよりも一秒以上長く生きなくては。ああ、決して、イザベラが死んだら後を追えって言っているわけじゃない。君はあの子が興味を持つ花を知っている貴重な人間なのだから、花を供えてもらわないと」
イザベラを悪い噂塗れにしてまで阻止しようとした婚約。他国の王家へ純潔が疑わしい令嬢は流石に嫁がせるわけにはいかないと、シリルが計画を実行してから二月後には話は立ち消えた。
けれど、運命はどこまでもイザベラに厳しかった。人形から人間になることを禁ずるように。
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