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あなたが知らないあなたの母のこと Side story オスカー・イスカラング13
イザベラの拝謁から十日後、オスカーは全てを整えマロスレッド公爵邸に戻ってきた。
「思ったより時間が掛かったね。でも、良くやってくれた。今日は天気がいい、折角だから外で休憩がてらイザベラと茶をしよう。傍に控えるのではなく、オスカーも同席して」
シリルはオスカーをカリスター侯爵の元へ向かわせていた。表向きは結婚後のイザベラの生活を整える為。しかしその裏ではイザベラの夫となるカリスター侯爵子息に接触させていた。重要な取り決めをする為に。
オスカーにとって、カリスター侯爵との話し合いは簡単だった。シリルからの手紙を渡すだけのようなものだ。手紙の文字を追う侯爵の目の位置を確認しながら表情を読み、必要なシナリオを頭の中で考え伝えるだけ。元は騎士、動体視力には自信がある。それに、シリルに随分鍛えられた術を付け足せばいい。だからシリルの希望は時間が然程掛からず全て承諾された。
大変だったのはカリスター侯爵に知られることなく子息と密談の機会を持つこと。無駄に滞在することで疑われないよう、宝石店などを調べる振りをしながら漸くその時を得たのだった。全てはイザベラの心を守る為。それを信念にオスカーは失敗の許されないシリルの使いをこなしたのだった。
「イザベラ、結婚後のことは全てオスカーが整えてきてくれたよ」
シリルはイザベラにオスカーがまとめてきた内容を話した。侍女二人とその夫と子供が共にカリスター侯爵家へ向かうこと。外国人である彼らの身元保証は侯爵が行うので何の心配もないことを。しかも、彼らは時期が来たら侯爵家が所有する今は使われていない別荘へ引き上げることも決まっている。侍女の夫達はそこで男手が必要になることを見越して行くのだという。
「とても景色の良いところにある別荘らしい。イザベラが安らかに暮らすことが出来る環境だと思うよ。最初の内はたまにしか行けないだろうが、僕が当主になる頃にはずっと滞在しても問題ないようになっているからね」
「それはどういう意味でしょうか?」
「意味なんてない。そのままだよ。ああ、一番大切なことを伝えてなかったね。結婚してもイザベラの純潔は守られる。君の夫になる人物と既に秘密裡に約束をしてあるんだ。最初は侯爵の手前、夫婦であることを偽装しなくてはならないが。これが僕からの大切な妹への結婚祝いだ。そしてもう一つ、最高の贈り物も用意してある」
イザベラに喜んでもらえると思っていたシリルの申し出。しかし、イザベラは小さく首を左右に振ると『それは無理です』と答えた。
「何故?無理も何も、もう整えてあることだよ」
「出来ないのです、それは。わたくしは早々に子を儲けることを陛下と約束しました。妊娠が早くに分かれば分かる程、お父様は公爵位を退かなくてはならなくなります。即ちお兄様が当主として指名されるのです。領民のこと、今後のマロスレッド公爵家のことを考えれば、お兄様が当主になるべきです」
「そんなことをイザベラが考える必要はない」
「いいえ、わたくしはマロスレッド公爵家の娘。領民たちの税で最高の教育を受け、最高の生活をしてきました。この結婚は公爵家に生まれたわたくしの義務です」
「大丈夫、直ぐにとはいかないが、父上にはなるべく早く退いてもらうから」
「わたくしなら、早ければ数か月でお兄様を当主に出来るのです。子を儲けることで。陛下の言い付けを守ればマロスレッド公爵家の印象も良くなります」
「イザベラがこれ以上マロスレッド家の犠牲になることはない」
「お兄様、犠牲ではありません。義務であり、領民への、マロスレッド公爵領へのわたくしの献身です。どうかわたくしの矜持をお守り下さい」
シリルがいくら策を講じたとしても、イザベラが言うようにそれなりの時間が掛かるのは明らか。しかし、イザベラの決意はあまりにも悲し過ぎる。シリルが用意した最高の贈り物がオスカーなのだから。
「イザベラ、オスカーがカリスター侯爵邸でおまえを守ることになっているんだよ、それでも…」
「お兄様、オスカーは要りません。それだけはお許し下さい。陛下は早く子を儲けるようにいいました。ですが、人数は明言されませんでした。ですからわたくしはたった一人、産むつもりでした。でも、その一人を儲けるまでの期間でもオスカーには傍にいてもらいたくありません」
イザベラの強い拒絶。それが何を意味するかなどシリルにもオスカーにも痛い程分かった。だからこそ、オスカーは言わなければいけないと思った。主達の会話に割り込んででも。
「どんな時でもわたしはイザベラお嬢様をお守りすると決めています。あなたが辛い時に一人で泣かなくてもいいように」
イザベラの目尻から美しい涙が流れ落ちたのだった。
************
本編で先が分かっているので、話が繋がってくると残酷ですね…。ごめんなさい。
「思ったより時間が掛かったね。でも、良くやってくれた。今日は天気がいい、折角だから外で休憩がてらイザベラと茶をしよう。傍に控えるのではなく、オスカーも同席して」
シリルはオスカーをカリスター侯爵の元へ向かわせていた。表向きは結婚後のイザベラの生活を整える為。しかしその裏ではイザベラの夫となるカリスター侯爵子息に接触させていた。重要な取り決めをする為に。
オスカーにとって、カリスター侯爵との話し合いは簡単だった。シリルからの手紙を渡すだけのようなものだ。手紙の文字を追う侯爵の目の位置を確認しながら表情を読み、必要なシナリオを頭の中で考え伝えるだけ。元は騎士、動体視力には自信がある。それに、シリルに随分鍛えられた術を付け足せばいい。だからシリルの希望は時間が然程掛からず全て承諾された。
大変だったのはカリスター侯爵に知られることなく子息と密談の機会を持つこと。無駄に滞在することで疑われないよう、宝石店などを調べる振りをしながら漸くその時を得たのだった。全てはイザベラの心を守る為。それを信念にオスカーは失敗の許されないシリルの使いをこなしたのだった。
「イザベラ、結婚後のことは全てオスカーが整えてきてくれたよ」
シリルはイザベラにオスカーがまとめてきた内容を話した。侍女二人とその夫と子供が共にカリスター侯爵家へ向かうこと。外国人である彼らの身元保証は侯爵が行うので何の心配もないことを。しかも、彼らは時期が来たら侯爵家が所有する今は使われていない別荘へ引き上げることも決まっている。侍女の夫達はそこで男手が必要になることを見越して行くのだという。
「とても景色の良いところにある別荘らしい。イザベラが安らかに暮らすことが出来る環境だと思うよ。最初の内はたまにしか行けないだろうが、僕が当主になる頃にはずっと滞在しても問題ないようになっているからね」
「それはどういう意味でしょうか?」
「意味なんてない。そのままだよ。ああ、一番大切なことを伝えてなかったね。結婚してもイザベラの純潔は守られる。君の夫になる人物と既に秘密裡に約束をしてあるんだ。最初は侯爵の手前、夫婦であることを偽装しなくてはならないが。これが僕からの大切な妹への結婚祝いだ。そしてもう一つ、最高の贈り物も用意してある」
イザベラに喜んでもらえると思っていたシリルの申し出。しかし、イザベラは小さく首を左右に振ると『それは無理です』と答えた。
「何故?無理も何も、もう整えてあることだよ」
「出来ないのです、それは。わたくしは早々に子を儲けることを陛下と約束しました。妊娠が早くに分かれば分かる程、お父様は公爵位を退かなくてはならなくなります。即ちお兄様が当主として指名されるのです。領民のこと、今後のマロスレッド公爵家のことを考えれば、お兄様が当主になるべきです」
「そんなことをイザベラが考える必要はない」
「いいえ、わたくしはマロスレッド公爵家の娘。領民たちの税で最高の教育を受け、最高の生活をしてきました。この結婚は公爵家に生まれたわたくしの義務です」
「大丈夫、直ぐにとはいかないが、父上にはなるべく早く退いてもらうから」
「わたくしなら、早ければ数か月でお兄様を当主に出来るのです。子を儲けることで。陛下の言い付けを守ればマロスレッド公爵家の印象も良くなります」
「イザベラがこれ以上マロスレッド家の犠牲になることはない」
「お兄様、犠牲ではありません。義務であり、領民への、マロスレッド公爵領へのわたくしの献身です。どうかわたくしの矜持をお守り下さい」
シリルがいくら策を講じたとしても、イザベラが言うようにそれなりの時間が掛かるのは明らか。しかし、イザベラの決意はあまりにも悲し過ぎる。シリルが用意した最高の贈り物がオスカーなのだから。
「イザベラ、オスカーがカリスター侯爵邸でおまえを守ることになっているんだよ、それでも…」
「お兄様、オスカーは要りません。それだけはお許し下さい。陛下は早く子を儲けるようにいいました。ですが、人数は明言されませんでした。ですからわたくしはたった一人、産むつもりでした。でも、その一人を儲けるまでの期間でもオスカーには傍にいてもらいたくありません」
イザベラの強い拒絶。それが何を意味するかなどシリルにもオスカーにも痛い程分かった。だからこそ、オスカーは言わなければいけないと思った。主達の会話に割り込んででも。
「どんな時でもわたしはイザベラお嬢様をお守りすると決めています。あなたが辛い時に一人で泣かなくてもいいように」
イザベラの目尻から美しい涙が流れ落ちたのだった。
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本編で先が分かっているので、話が繋がってくると残酷ですね…。ごめんなさい。
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