3 / 90
3 予約
「三上、これから忙しくなるから、打合せを兼ねてランチミーティングをしたいんだが」
「かしこまりました。本日ですね。どなたとでしょうか?お店を予約しますので、ご希望を」
聞きもらしてはいないはずと、かおるは恭祐にミーティング相手を尋ねた。
「君とだ。それに予約が必要なほど仰々しくはない。次のミーティングは内容と面子からして時間通り終わるだろう。だから、12時15分に一階正面玄関で」
「かしこまりました」
「店は好きなところを選べばいい」
「…はい」
12時15分とは微妙な時間だとかおるは思った。席を確保する為にも予約を入れておいたほうがいいし、ミーティングなのだから静かなほうが落ち着くだろう。
何より仕えて6年目にして、恭祐との初めての昼食。そして、恐らく最後になるであろう昼食。だったら、ミーティングとは言えそれなりの場所へ行きたいとかおるは思った。
かおるは少し考えてから一軒の店へ電話した。
そしてもう一軒。
『三上様、それではお席とお料理のリクエストを承ります』
「天気がもてばテラス傍の大きな窓のところで、雨が降りだしたら奥のちょっと離れた席でお願いできますか?お料理は…」
かおるは手元のノートを見ながら考える。先週水曜日の恭祐のディナーは同じくフランス料理でメインは仔牛。更に別のノートを取り出し、名前とデータを確認する。
そこには今までかおるが集めた恭祐に係わりのある特定の人物達のデータが並んでいる。決してデータとしてコンピューターのどこにも残せない、いざとなったら燃やせる形で。
「そうですね、若林には…本日は鶏肉でお願いします。女性は貝柱があればそれで。なければエビにして下さい。後はメインに合わせてお任せします」
『かしこまりました。では、若林様には本日はカモ、お連れ様には貝柱をご用意させていただきます』
かおるは電話をおくと透かさず先ほどのノートの今日、恭祐が会う女性のページに情報を書き足した。
電話は続く。
『・・・・・ホテルでございます』
「宿泊予約をお願いします」
『かしこまりました。宿泊予約課へおつなぎいたします。少々お待ち下さいませ』
ホテルの予約課の人物は誰であろうといつもと同じセリフを繰り返す。それに対し、かおるも決まりきったことを伝える。恭祐のアシスタントになり、初めて予約したとき以外はいつも同じリクエスト。
『それでは確認いたします。ご宿泊は本日から一泊、お部屋のタイプはダブルでお間違いありませんか?』
「はい、それでお願いいたします。支払はいつものように本人が行います」
ホテルの予約が終わると、かおるは小さなため息をついた。このため息は気持ちを切り替えて次の電話をする為にはどうしても必要なもの。でないと…感情を押し殺せなくなってしまう。
「ごめん、なっちゃん。今日のランチ、無理になっちゃった」
「またぁ?で、今日は仕事の鬼、何だって?」
「それが、若林さんとランチミーティング」
「え、会長、来るんだ」
「ううん。息子」
「えっ、そんなこともあるの?」
「たぶんこれが最初で最後じゃないかな。人事から昨日若林さんに辞めるって連絡があって、今後のことで打合せをしたいって」
「打合せもなにも、引き留めとかは?」
「あるわけないよ。これからのことを考えたのか、面倒くさそうな顔はしたけど」
「面倒くさそうかぁ、そんなもんじゃないでしょう。でも、あれじゃあしょうがないっか、またその内ね」
「うん。ほんとゴメンね」
同期入社の野原菜々への電話をおくと、かおるは今度は大きなため息をついた。
恭祐が近くにいないと、ため息ばかりついていることをかおるは随分前から自覚していた。
「かしこまりました。本日ですね。どなたとでしょうか?お店を予約しますので、ご希望を」
聞きもらしてはいないはずと、かおるは恭祐にミーティング相手を尋ねた。
「君とだ。それに予約が必要なほど仰々しくはない。次のミーティングは内容と面子からして時間通り終わるだろう。だから、12時15分に一階正面玄関で」
「かしこまりました」
「店は好きなところを選べばいい」
「…はい」
12時15分とは微妙な時間だとかおるは思った。席を確保する為にも予約を入れておいたほうがいいし、ミーティングなのだから静かなほうが落ち着くだろう。
何より仕えて6年目にして、恭祐との初めての昼食。そして、恐らく最後になるであろう昼食。だったら、ミーティングとは言えそれなりの場所へ行きたいとかおるは思った。
かおるは少し考えてから一軒の店へ電話した。
そしてもう一軒。
『三上様、それではお席とお料理のリクエストを承ります』
「天気がもてばテラス傍の大きな窓のところで、雨が降りだしたら奥のちょっと離れた席でお願いできますか?お料理は…」
かおるは手元のノートを見ながら考える。先週水曜日の恭祐のディナーは同じくフランス料理でメインは仔牛。更に別のノートを取り出し、名前とデータを確認する。
そこには今までかおるが集めた恭祐に係わりのある特定の人物達のデータが並んでいる。決してデータとしてコンピューターのどこにも残せない、いざとなったら燃やせる形で。
「そうですね、若林には…本日は鶏肉でお願いします。女性は貝柱があればそれで。なければエビにして下さい。後はメインに合わせてお任せします」
『かしこまりました。では、若林様には本日はカモ、お連れ様には貝柱をご用意させていただきます』
かおるは電話をおくと透かさず先ほどのノートの今日、恭祐が会う女性のページに情報を書き足した。
電話は続く。
『・・・・・ホテルでございます』
「宿泊予約をお願いします」
『かしこまりました。宿泊予約課へおつなぎいたします。少々お待ち下さいませ』
ホテルの予約課の人物は誰であろうといつもと同じセリフを繰り返す。それに対し、かおるも決まりきったことを伝える。恭祐のアシスタントになり、初めて予約したとき以外はいつも同じリクエスト。
『それでは確認いたします。ご宿泊は本日から一泊、お部屋のタイプはダブルでお間違いありませんか?』
「はい、それでお願いいたします。支払はいつものように本人が行います」
ホテルの予約が終わると、かおるは小さなため息をついた。このため息は気持ちを切り替えて次の電話をする為にはどうしても必要なもの。でないと…感情を押し殺せなくなってしまう。
「ごめん、なっちゃん。今日のランチ、無理になっちゃった」
「またぁ?で、今日は仕事の鬼、何だって?」
「それが、若林さんとランチミーティング」
「え、会長、来るんだ」
「ううん。息子」
「えっ、そんなこともあるの?」
「たぶんこれが最初で最後じゃないかな。人事から昨日若林さんに辞めるって連絡があって、今後のことで打合せをしたいって」
「打合せもなにも、引き留めとかは?」
「あるわけないよ。これからのことを考えたのか、面倒くさそうな顔はしたけど」
「面倒くさそうかぁ、そんなもんじゃないでしょう。でも、あれじゃあしょうがないっか、またその内ね」
「うん。ほんとゴメンね」
同期入社の野原菜々への電話をおくと、かおるは今度は大きなため息をついた。
恭祐が近くにいないと、ため息ばかりついていることをかおるは随分前から自覚していた。
あなたにおすすめの小説
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。