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恭祐を待たせることなどかおるには有り得ないこと。だから、5分前を目安にかおるは正面玄関に向かったのだが、そこには既に恭祐の姿が。救いは、かおるの姿に気付かない程集中して何かをしていることだった。つい声を掛けるべきかかおるが躊躇していると、恭祐がその気配を感じ取ってくれた。
しかし、その視線はいつからそこにいて時間を無駄にしたのかと問い質しているようにも見える。気付けばかおるは時間前だというのに『すみませんでした』と恭祐に謝っていた。
「なぜ謝る必要がある」
「お待たせしたかと」
「まだ時間前だ」
と言って、恭祐は作業を終え、かおるに振り返った。
「で、店は?」
かおるは会社近くにあるホテル内のレストラン名を伝えた。
解放感のある大きな窓に落ち着いた雰囲気のそこは、恭祐とのミーティングに適しているように思えたのだ。
つい恭祐を前にすると萎縮してしまうかおるを大きな窓に助けてもらいたいと思ってしまった。
そしてもう一つ。絶対に必要な条件を満たしている。恭祐が必ず場所を知っていなくてはいけないという必要条件を。これさえ満たしていれば、店案内の為にかおるは恭祐の前を歩く必要はない。そう、後ろからついていけばいいのだ。が故に店名を聞き歩きだした恭祐の後を、かおるは当然のこととしてついて行ったのだった。
「三上、後ろを歩かれると話しづらいんだが」
ところが恭祐は暗にかおるが隣を歩くように仕向ける言葉を発した。
考えてもいなかった位置だ、隣は。困るを通り越し、かおるの足は今にも止まりそうだった。
どうして恭祐の言葉にそんなにまでも困り驚いたのか。理由は簡単。恭祐が取るかおるに対する態度がいつもとても冷たいからだ。仕事上接する機会が多い女性の部下だからあらぬ噂を立てられないようにしているという見方をすればまだ救われるが、そんなことはない。ただ、疎まれてるだけ。だから、だまって後ろからついていけばいいだけの店を選んだというのに。
振り返り、隣に来るようかおるを見つめる視線はあの日から変わることのない鋭いものだった。
かおるは未だに覚えている。初めて顔を合わせたときに向けられたあまりにも冷たく威圧的な鋭い視線を。
最初は社会での経験がまだ1年しかないかおるへの使い物になるのかどうかという感情からかと思ったが、その視線は数年たった今でも同じだ。
どんなに仕事を頑張ったとしても。
視線だけではない。
恭祐から発せられる言葉はどれも冷たく厳しいものだ。五年とちょっと、部下として働いてきたが、世間話、いや、天気の話すらしたことがない。
更には、仕事で休日出勤をしようと労いの言葉もないし、どんなに頑張ったところで感謝などあり得ない。
最初は心のどこかで期待していた恭祐からの言葉。けれど一年も過ぎた頃には、バカな夢を見続けることがいかに無駄かを思い知らされただけだった。
けれど…何がいけなかったのか。かおるが一方的に初対面だと思っているだけで、実はどこかで顔を合わせ失礼なことでもしたのだろうか…。それとも電話越しに。
一緒に働いて随分経つが、当時から変わらない態度。一体何をしてしまったのだろう。
でも、もう考えなくてもいい、数ヶ月後にはかおるはこの会社にいない。
「三上、何してるんだ。早くしてくれ」
いつもの答えが出ない考えに囚われそうになったかおるを呼び戻したのは、恭祐の苛立ちが含まれた声だった。
「申し訳ございません」
かおるは思うことにした、隣を歩かなくてはいけないのは仕事だからだと。仕事以外の何物でもない。恭祐だって仕事の為、隣を歩くように言っただけ。本当は嫌いなかおるに。
でも、仕事の話と言ってもホテルまでの距離は必要ないように思える。かおるが言うべき台詞は『ご希望通りに致しました』だけなのだから。それとも、その時間すら無駄に出来ないほどこれから仕事を言いつけられるのだろうか。が、かおるの緊張は肩透かしとなった。問われた事への報告内容に恭祐は『分かった』とだけ返事をし、後は何も言わなかった。
しかし、その視線はいつからそこにいて時間を無駄にしたのかと問い質しているようにも見える。気付けばかおるは時間前だというのに『すみませんでした』と恭祐に謝っていた。
「なぜ謝る必要がある」
「お待たせしたかと」
「まだ時間前だ」
と言って、恭祐は作業を終え、かおるに振り返った。
「で、店は?」
かおるは会社近くにあるホテル内のレストラン名を伝えた。
解放感のある大きな窓に落ち着いた雰囲気のそこは、恭祐とのミーティングに適しているように思えたのだ。
つい恭祐を前にすると萎縮してしまうかおるを大きな窓に助けてもらいたいと思ってしまった。
そしてもう一つ。絶対に必要な条件を満たしている。恭祐が必ず場所を知っていなくてはいけないという必要条件を。これさえ満たしていれば、店案内の為にかおるは恭祐の前を歩く必要はない。そう、後ろからついていけばいいのだ。が故に店名を聞き歩きだした恭祐の後を、かおるは当然のこととしてついて行ったのだった。
「三上、後ろを歩かれると話しづらいんだが」
ところが恭祐は暗にかおるが隣を歩くように仕向ける言葉を発した。
考えてもいなかった位置だ、隣は。困るを通り越し、かおるの足は今にも止まりそうだった。
どうして恭祐の言葉にそんなにまでも困り驚いたのか。理由は簡単。恭祐が取るかおるに対する態度がいつもとても冷たいからだ。仕事上接する機会が多い女性の部下だからあらぬ噂を立てられないようにしているという見方をすればまだ救われるが、そんなことはない。ただ、疎まれてるだけ。だから、だまって後ろからついていけばいいだけの店を選んだというのに。
振り返り、隣に来るようかおるを見つめる視線はあの日から変わることのない鋭いものだった。
かおるは未だに覚えている。初めて顔を合わせたときに向けられたあまりにも冷たく威圧的な鋭い視線を。
最初は社会での経験がまだ1年しかないかおるへの使い物になるのかどうかという感情からかと思ったが、その視線は数年たった今でも同じだ。
どんなに仕事を頑張ったとしても。
視線だけではない。
恭祐から発せられる言葉はどれも冷たく厳しいものだ。五年とちょっと、部下として働いてきたが、世間話、いや、天気の話すらしたことがない。
更には、仕事で休日出勤をしようと労いの言葉もないし、どんなに頑張ったところで感謝などあり得ない。
最初は心のどこかで期待していた恭祐からの言葉。けれど一年も過ぎた頃には、バカな夢を見続けることがいかに無駄かを思い知らされただけだった。
けれど…何がいけなかったのか。かおるが一方的に初対面だと思っているだけで、実はどこかで顔を合わせ失礼なことでもしたのだろうか…。それとも電話越しに。
一緒に働いて随分経つが、当時から変わらない態度。一体何をしてしまったのだろう。
でも、もう考えなくてもいい、数ヶ月後にはかおるはこの会社にいない。
「三上、何してるんだ。早くしてくれ」
いつもの答えが出ない考えに囚われそうになったかおるを呼び戻したのは、恭祐の苛立ちが含まれた声だった。
「申し訳ございません」
かおるは思うことにした、隣を歩かなくてはいけないのは仕事だからだと。仕事以外の何物でもない。恭祐だって仕事の為、隣を歩くように言っただけ。本当は嫌いなかおるに。
でも、仕事の話と言ってもホテルまでの距離は必要ないように思える。かおるが言うべき台詞は『ご希望通りに致しました』だけなのだから。それとも、その時間すら無駄に出来ないほどこれから仕事を言いつけられるのだろうか。が、かおるの緊張は肩透かしとなった。問われた事への報告内容に恭祐は『分かった』とだけ返事をし、後は何も言わなかった。
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