6 / 90
6 異例の人事
かおるは入社後現名誉会長であり、前社長であった若林秀一の秘書を一年間務めた。
その大役は、社内の思惑や色々な偶然が重なった結果かおるに降ってわいてきたものだった。
かおるの入社した年度は、若林秀一の現役最後の年だった。これは数年前から決まっていたこと。
秀一は会社の為に、今までの自分の秘書を次期社長の飯嶋付きにすることを早くから決めていた。社内外の人の目、飯嶋自身の立場の早期確立を考えて。第一、退く事が決まっている秀一の仕事量は今までよりは減っていく。だったらコストセービングの為、特定の秘書は不要であると人事へ伝え了承されていた。
ところが、役員達から出ていた『それでは体裁が悪い』という意見が次第に高まり、年度末ぎりぎりの3月終わりに秀一へ秘書を一人あてがうこととなったのだ。
困ったのは人事。翌年の社長交代を見据え、次期社長秘書、役員グループを担当するそれぞれの秘書、人事総務部体制は既に決まっていた。社内の勢力、個人のパワーバランスを考えての決定だった為、今更の変更はかなり厳しい。
人事では新卒採用時に、例年一人か二人余剰人員を確保している。入社後毎年それくらいは辞めることを見越してだ。既に固まった骨格を崩さない為にも、秀一には申し訳ないが人事は新入社員をその職にあてがうこととした。今までに比べ仕事は減るが、その増減を知る由もない新入社員。しかもいきなりの社長秘書。あてがうなら一番期待度が高い社員、もしくは使いきりとして捨てられる余剰人員…。
人事は最終的に余剰人員を選択した。
それがかおる。
かおるが選ばれた経緯は、秀一には伝えられなかった。ただ、挨拶状が増えるであろう一年間のために毛筆の才がある人物を選んだとだけは知らされていたが。
とは言え、秀一は退くことが決まっているとしても会社のトップだ。薄々事情は理解していた。すなわちかおるが、秀一、役員会、人事の作った窪みに落ちたということを。だからかおるに対して申し訳なさも感じていた。
人事ファイルにあった個人データを見ても、本人が秘書を希望していたとはとても思えない。
けれども会社という組織の中では、社員は好もうと好むまいと与えられた仕事を遂行していくものだ。それが当たり前。そしてそのパフォーマンスが評価に直結する。
本来では考えられない新入社員が社長秘書という人事。たとえ新入社員であろうとポジションがポジションなだけに、評価は当然のこととして厳しいものになる。申し訳なさも手伝い、秀一はかおるをしっかりと育てようと心に決めていた。もちろん、かおるが育てば育つほど会社にとっても有益だし、なにより本人の評価もあがるのだから。
そして、かおると顔を合わせた初日、秀一は人事ファイルから読み取れなかったとあることに驚いた。しかしそこは亀の甲より年の功。驚きなど全く見せずに、挨拶を交わす。
まさかこの時の驚きの理由が、かおるに後々やってくる苦しい時間を生むとは知る由もなく。
その大役は、社内の思惑や色々な偶然が重なった結果かおるに降ってわいてきたものだった。
かおるの入社した年度は、若林秀一の現役最後の年だった。これは数年前から決まっていたこと。
秀一は会社の為に、今までの自分の秘書を次期社長の飯嶋付きにすることを早くから決めていた。社内外の人の目、飯嶋自身の立場の早期確立を考えて。第一、退く事が決まっている秀一の仕事量は今までよりは減っていく。だったらコストセービングの為、特定の秘書は不要であると人事へ伝え了承されていた。
ところが、役員達から出ていた『それでは体裁が悪い』という意見が次第に高まり、年度末ぎりぎりの3月終わりに秀一へ秘書を一人あてがうこととなったのだ。
困ったのは人事。翌年の社長交代を見据え、次期社長秘書、役員グループを担当するそれぞれの秘書、人事総務部体制は既に決まっていた。社内の勢力、個人のパワーバランスを考えての決定だった為、今更の変更はかなり厳しい。
人事では新卒採用時に、例年一人か二人余剰人員を確保している。入社後毎年それくらいは辞めることを見越してだ。既に固まった骨格を崩さない為にも、秀一には申し訳ないが人事は新入社員をその職にあてがうこととした。今までに比べ仕事は減るが、その増減を知る由もない新入社員。しかもいきなりの社長秘書。あてがうなら一番期待度が高い社員、もしくは使いきりとして捨てられる余剰人員…。
人事は最終的に余剰人員を選択した。
それがかおる。
かおるが選ばれた経緯は、秀一には伝えられなかった。ただ、挨拶状が増えるであろう一年間のために毛筆の才がある人物を選んだとだけは知らされていたが。
とは言え、秀一は退くことが決まっているとしても会社のトップだ。薄々事情は理解していた。すなわちかおるが、秀一、役員会、人事の作った窪みに落ちたということを。だからかおるに対して申し訳なさも感じていた。
人事ファイルにあった個人データを見ても、本人が秘書を希望していたとはとても思えない。
けれども会社という組織の中では、社員は好もうと好むまいと与えられた仕事を遂行していくものだ。それが当たり前。そしてそのパフォーマンスが評価に直結する。
本来では考えられない新入社員が社長秘書という人事。たとえ新入社員であろうとポジションがポジションなだけに、評価は当然のこととして厳しいものになる。申し訳なさも手伝い、秀一はかおるをしっかりと育てようと心に決めていた。もちろん、かおるが育てば育つほど会社にとっても有益だし、なにより本人の評価もあがるのだから。
そして、かおると顔を合わせた初日、秀一は人事ファイルから読み取れなかったとあることに驚いた。しかしそこは亀の甲より年の功。驚きなど全く見せずに、挨拶を交わす。
まさかこの時の驚きの理由が、かおるに後々やってくる苦しい時間を生むとは知る由もなく。
あなたにおすすめの小説
【完結】泡になった約束
山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。
夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。
洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。
愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。
そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。
振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。
平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】
remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。
佐倉ここ。
玩具メーカーで働く24歳のOL。
鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。
完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。
【完結】ありがとうございました‼
甘い束縛
はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。
※小説家なろうサイト様にも載せています。
お前が愛おしい〜カリスマ美容師の純愛
ラヴ KAZU
恋愛
涼風 凛は過去の恋愛にトラウマがあり、一歩踏み出す勇気が無い。
社長や御曹司とは、二度と恋はしないと決めている。
玉森 廉は玉森コーポレーション御曹司で親の決めたフィアンセがいるが、自分の結婚相手は自分で決めると反抗している。
そんな二人が恋に落ちる。
廉は社長である事を凛に内緒でアタックを開始するが、その事がバレて、凛は距離を置こうとするが・・・
あれから十年、凛は最悪の過去をいまだに引き摺って恋愛に臆病になっている。
そんな凛の前に現れたのが、カリスマ美容師大和颯、凛はある日スマホを拾った、そのスマホの持ち主が颯だった。
二人は惹かれあい恋に落ちた。しかし凛は素直になれない、そんなある日颯からドライブに誘われる、「紹介したい人がいるんだ」そして車から降りてきたのは大和 祐、颯の息子だった。
祐は颯の本当の息子ではない、そして颯にも秘密があった。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。