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12 本当の理由
かおるは仕事を辞める本当の理由を誰にも言っていない。言っていないというより、言えるような理由ではないが正しい。
恭祐が仕事に厳しいことは、一週間も一緒に働けば誰でも分かる。そして、仕事が出来ることも。データを読み解く力、判断力、決断力、どれを取っても素晴らしいものだ。更に小さなことから大きなことまで、何かあっても責任転嫁などすることなく対処する姿は上司として理想かもしれない。
言ってしまえば、何事にも厳しい分恭祐が起因の問題などない。それでも最終的に恭祐がハンドルしたものは全て責任を負っているのだ。周りもそんな恭祐だからこそ、どんなに仕事に厳しくてもついてきているのかもしれない。
そして…一週間も必要としないことがある。
それは恭祐が持つ男性としての魅力。仕草や顔立ちから発せられる色気は恭祐の派手な女性関係を裏付けている。立場上、どこかの令嬢と今夜のディナー同様食事を取るのはしばしば。更には食事だけでなくその先を楽しむことがあるのをかおるは知っている。
恭祐のもとで働いてすぐに今日のように夕食のあと帰る時間が惜しいのでホテルを予約するように言われた。言葉通り予約したのだったが、翌日恭祐にあからさまに嫌そうな顔つきでぶつけられた言葉は今も忘れられない。
『ダブルっていう単語を知らないなんてことはないだろう?それに、食事の後に男女が何をするのかも』
加えてその声は今まで聞いた中で最も冷たい響きだった。恐怖を感じる程の。
そのせいで、かおるは恭祐の言った意味が理解でないままただ謝ったのだった。
同じ恐怖や怒りを買いたくない。二度目から、かおるはたとえ食事を一緒に取る相手が男性であっても、一人での食事でも部屋はダブルを取るようになった。
食事の後に誰かに会うかもしれないし、仮に一人で使ったとしてもシングルよりゆったり使える。何よりダブルで予約しておけば『食事の後のご予定は?』などという余計な質問をする必要もない。…違う、そんな質問なんてしたくないのだから、ダブルでおさえておくのがかおるにとっても一番都合が良かった。そう、わざわざ恭祐のベッドの相手が誰かなんて知りたくなかった。
かおるとて一週間もかからず恭祐の魅力に飲み込まれた一人にすぎないのだから。
好かれていないと分かっていてもどうしようもなかった。誰かと話しているときに笑い声が聞こえると、その横顔を盗み見ずにはいられなかった。かおるに向けられたものでないにしろ。
見れるだけで嬉しかったのだ。自分には絶対に向けられないと知っているだけに。
そしてもう一つ、その顔が特定の女性にのみ向けられていないこともかおるは知っている。
派手な女性関係が影響しているのかは分からないが、恭祐に特定の女性がいたことはない。どんな女性に対しても熱くなることはないと同時に、相手にも熱くなられないようにしているようだ。時には、その手の雑誌に熱愛発覚と別の男性の存在を報じられた女性とインモラルな関係を周りの目をかわしながら楽しむことすらある。
恭祐と働き始め半年もしないうちに、かおるは彼にとって女性は性欲と快楽の対象でしかないことを思い知らされたのだった。
思い知らされているのに、好きにならずにはいられないなんてどれだけ浅はかなのか。振り向いてもらえることなどないのに、仕事上常に傍にいなくてはいけない。
4年連続で出した移動願は叶うことがなかった。違う見方をすれば、今年の秋には新しい部署へ行くのだから受理されたことになるのかもしれないが。けれど、移ったとしても恭祐との関わりは変わらないまま。
もう限界だった、恭祐のもとで働くのは。恭祐と様々な女性達とのセッティングをするのは。
かおるはこのままでは自分の心が壊れてしまうのではないかと思いながら、ずっと働いていたのだった。いつからか。
もちろん他へ目を向けようと、飲み会やら合コンに顔を出したこともあった。けれど、結局他へ目を向けるどころか常に恭祐と誰かを比べることで、かおるの心の中の恭祐の存在がどんどん大きくなっていることに気付くだけ。
無理に時間を作ってそんなことに参加するよりも、少しでも恭祐の役に立つ為に仕事を取る方が有意義に思えるだけだった。
恭祐が仕事に厳しいことは、一週間も一緒に働けば誰でも分かる。そして、仕事が出来ることも。データを読み解く力、判断力、決断力、どれを取っても素晴らしいものだ。更に小さなことから大きなことまで、何かあっても責任転嫁などすることなく対処する姿は上司として理想かもしれない。
言ってしまえば、何事にも厳しい分恭祐が起因の問題などない。それでも最終的に恭祐がハンドルしたものは全て責任を負っているのだ。周りもそんな恭祐だからこそ、どんなに仕事に厳しくてもついてきているのかもしれない。
そして…一週間も必要としないことがある。
それは恭祐が持つ男性としての魅力。仕草や顔立ちから発せられる色気は恭祐の派手な女性関係を裏付けている。立場上、どこかの令嬢と今夜のディナー同様食事を取るのはしばしば。更には食事だけでなくその先を楽しむことがあるのをかおるは知っている。
恭祐のもとで働いてすぐに今日のように夕食のあと帰る時間が惜しいのでホテルを予約するように言われた。言葉通り予約したのだったが、翌日恭祐にあからさまに嫌そうな顔つきでぶつけられた言葉は今も忘れられない。
『ダブルっていう単語を知らないなんてことはないだろう?それに、食事の後に男女が何をするのかも』
加えてその声は今まで聞いた中で最も冷たい響きだった。恐怖を感じる程の。
そのせいで、かおるは恭祐の言った意味が理解でないままただ謝ったのだった。
同じ恐怖や怒りを買いたくない。二度目から、かおるはたとえ食事を一緒に取る相手が男性であっても、一人での食事でも部屋はダブルを取るようになった。
食事の後に誰かに会うかもしれないし、仮に一人で使ったとしてもシングルよりゆったり使える。何よりダブルで予約しておけば『食事の後のご予定は?』などという余計な質問をする必要もない。…違う、そんな質問なんてしたくないのだから、ダブルでおさえておくのがかおるにとっても一番都合が良かった。そう、わざわざ恭祐のベッドの相手が誰かなんて知りたくなかった。
かおるとて一週間もかからず恭祐の魅力に飲み込まれた一人にすぎないのだから。
好かれていないと分かっていてもどうしようもなかった。誰かと話しているときに笑い声が聞こえると、その横顔を盗み見ずにはいられなかった。かおるに向けられたものでないにしろ。
見れるだけで嬉しかったのだ。自分には絶対に向けられないと知っているだけに。
そしてもう一つ、その顔が特定の女性にのみ向けられていないこともかおるは知っている。
派手な女性関係が影響しているのかは分からないが、恭祐に特定の女性がいたことはない。どんな女性に対しても熱くなることはないと同時に、相手にも熱くなられないようにしているようだ。時には、その手の雑誌に熱愛発覚と別の男性の存在を報じられた女性とインモラルな関係を周りの目をかわしながら楽しむことすらある。
恭祐と働き始め半年もしないうちに、かおるは彼にとって女性は性欲と快楽の対象でしかないことを思い知らされたのだった。
思い知らされているのに、好きにならずにはいられないなんてどれだけ浅はかなのか。振り向いてもらえることなどないのに、仕事上常に傍にいなくてはいけない。
4年連続で出した移動願は叶うことがなかった。違う見方をすれば、今年の秋には新しい部署へ行くのだから受理されたことになるのかもしれないが。けれど、移ったとしても恭祐との関わりは変わらないまま。
もう限界だった、恭祐のもとで働くのは。恭祐と様々な女性達とのセッティングをするのは。
かおるはこのままでは自分の心が壊れてしまうのではないかと思いながら、ずっと働いていたのだった。いつからか。
もちろん他へ目を向けようと、飲み会やら合コンに顔を出したこともあった。けれど、結局他へ目を向けるどころか常に恭祐と誰かを比べることで、かおるの心の中の恭祐の存在がどんどん大きくなっていることに気付くだけ。
無理に時間を作ってそんなことに参加するよりも、少しでも恭祐の役に立つ為に仕事を取る方が有意義に思えるだけだった。
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