どうかあなたが

五十嵐

文字の大きさ
21 / 90

21 恭祐のいない若林家

選択は正しかった。

若林家に戻ると、優しそうな喜久子がかおるを台所に迎えてくれた。この家に入ったときと同様の温かい出迎え。かおるは、誰かに好意的に受け入れられるのがこんなに心地よいことをずっと忘れていたことに気付いた。

「どうかしましたか?かおるさん。」
「あ、いえ、素敵なお台所なので、ちょっと見入ってしまいました。」
「そうでしょ、広くてとっても機能的なんですよ。」

喜久子は夕飯のメニューと手順をざっと説明すると、支度にとりかかった。奏絵が教えてくれたように、喜久子の手際はとても良い。更には料理の教え方もうまかった。丁寧かつ楽しく色々なことを教えてもらったお陰で、まるで料理教室に参加しているようだった。

「いかがでした?」
「はい、とても楽しかったです。久しぶりにお料理を楽しめました。」
「それは良かったわ、ね、喜久子さん。」
「はい。作る人が楽しくないと、お料理はおいしくなりませんからね。」
「そうらしいのよ、これは是非覚えておくといいわ、かおるさん。」
「はい。」


7時を過ぎた頃、若林家の次男である大地だいちが帰宅し、台所に立ち寄った。

「こんばんは、はじめましてかおるさん。母に引っ張りまわされて疲れていないですか?」
「引っ張りまわすだなんて、あ、かおるさん、この子は次男の大地。設計の仕事をしているの、だから、ほら、変な筒を肩から掛けているのよ。」
「変な筒はないでしょ。大切な図面を入れるケースのことを。あ、今日はゆっくりしていって下さいね。ってもうこんな時間だけど。」

短い挨拶だったが、恭祐と大地では明らかにかおるに対する態度が違う。態度だけではない、表情、言葉づかい、雰囲気。かおるは漠然とそう感じた。

食事の支度が終わると、奏絵が大地を呼びに行った。なんでも二人の息子達は、家にいればお皿を運ぶくらいは手伝ってくれるらしい。
かおるはあの恭祐の弟である大地がお皿を並べる姿に少し戸惑ってしまった。
けれど戸惑う間もなく、そこへ秀一が現れた。かおるはお皿を持ったまま、姿勢を正すと軽く会釈をしたのだった。

「三上君、そんなに畏まらなくていいですよ。」
「そうよ、かおるさん。そんなじゃ食事が美味しくいただけないわ。」
「父さんも母さんも言う人は簡単だけど、当の本人にしたらそれは大変だって。ね、かおるさん。」
「そうねえ、でも、かおるさん、これからは毎週だから早く慣れてね。」

戸惑っているかおるから、大地はお皿を取り上げて言った。
「じゃあ、席順を考えよう。父さんの隣と正面は避けたほうがいいな。」
「そうね、いきなりお父さんの前や隣じゃ、かおるさんが可愛そうね。」

そんな話をしていると、ちょうどもう一人の息子が登場した。
「ただいま、良かった、間に合った。」
「あ、かおるさん、これが末っ子の大河たいがよ。大河、早く着替えてらっしゃい。待ってるから。」
「かおるさん、後でゆっくり。でも、ホント父さんが言ってたようにきれいでいて可愛らしい人ですね。」
それだけ言うと大河は勢いよくダイニングルームを出ていった。

「あいつ、オレが言う前に。あ、僕も思ってましたよ、可愛らしい方だと。」
「はい、はい。口より足と手を動かしてちょうだい。」

秀一も会社で見る姿とは違い、家族と一緒で寛いでいる様子だった。
何より、弟二人は全くと言っていいほど恭祐と雰囲気が違う。
それは若林家の長兄として背負っている責の違いからなのだろうか…
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

お前が愛おしい〜カリスマ美容師の純愛

ラヴ KAZU
恋愛
涼風 凛は過去の恋愛にトラウマがあり、一歩踏み出す勇気が無い。 社長や御曹司とは、二度と恋はしないと決めている。 玉森 廉は玉森コーポレーション御曹司で親の決めたフィアンセがいるが、自分の結婚相手は自分で決めると反抗している。 そんな二人が恋に落ちる。 廉は社長である事を凛に内緒でアタックを開始するが、その事がバレて、凛は距離を置こうとするが・・・ あれから十年、凛は最悪の過去をいまだに引き摺って恋愛に臆病になっている。 そんな凛の前に現れたのが、カリスマ美容師大和颯、凛はある日スマホを拾った、そのスマホの持ち主が颯だった。 二人は惹かれあい恋に落ちた。しかし凛は素直になれない、そんなある日颯からドライブに誘われる、「紹介したい人がいるんだ」そして車から降りてきたのは大和 祐、颯の息子だった。   祐は颯の本当の息子ではない、そして颯にも秘密があった。