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27 空回り
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アルコールが入ったからと言って、すぐに話したい内容に触れる訳にもいかず樹は会話を進めていた。勿論話の流れを本題に近づくよう手繰り寄せながら。
何故かおるをああまで従順に躾けたのか、それが一番聞きたいこと。しかし、一朝一夕にあんなにも恭祐好みに仕立て上げることは出来ない。長い時間を掛け、緻密に落としていったことが窺える。変わらずに躾け続けたその根本にあるのは何だったのだろうか。
核心までは無理だとしても、冷遇する理由には何とか辿り着きたいと樹は考えていた。深夜とはいえ、その為ならば時間など惜しくない。ところが樹の事前の下準備を無視して、恭祐がいきなり質問をぶつけてきた、それもぶっきらぼうな口調で。
「三上とはどういう関係だ?」
「は?」
脈略もなければ、予期すらしていなかった質問内容に樹は答えに詰まった。
けれどつまったのは一瞬。思いがけない好機到来に樹は内心ほくそ笑んだ。
「今はまだ、たまにメシを食いに行く仲だろうな。勿論、ゆくゆくはその先を見据えていきたいけどな」
「へえ、樹はああいうのがタイプだったこと、無かったのに」
話し方や使う言葉から、恭祐のかおるに対する姿勢が容易に窺える。
「でも、三上じゃ落とす価値も何もないんじゃないか」
落とす価値、その言葉に樹は怒りを覚えながらも、いつもと何一つ変わらないように言葉を発した。
「落とすこと自体には確かに何の価値もないな。ただオレは純粋にかおるに惹かれて、手に入れたいって思った」
「惹かれるって、三上はおまえが今まで楽しんできた女とは明らかにタイプが違うだろ」
「遊ぶ女と本気で傍にいて欲しい女は別だってことだ。おまえだって、どこかでかおるの能力だったり性格を認めているからずっと一緒に働いているんだろ」
「能力や性格を認める?何故そんなことをオレがしなければいけないんだ。仕事だって出来るわけじゃない。まあ、一通り間違えずなんとかやっている程度だ。第一オレが選考して選んだわけではない、あの女を。ただ用意されていただけだ。だから、使っている。身分や立場からしても、仕えるのは当たり前だろ」
恭祐の発言はまるでかおるは会社からあてがわれた奴隷だと言っているようだった。だからどんな使い方をしてもいいとでも言っているかのような。
「自分で選んだわけではないのに、出張にはわざわざ同行させるのか?」
「出張に同行というよりは、小間使いとして仕える、その程度だ」
恭祐の回答ははぐらかしにすぎなかった。『仕えるのが当たり前』という表現を用い、深層にある樹が本当に知りたい本質には触れることなど出来ないようシャッターを下ろした。
それならば、話のポイントを変えてみるしかない。かおるの退職が決まり、樹が動いたように恭祐も動いたとするならば…。
「ところで上司であるおまえならかおるの退職理由は知っているのか?」
「いや、何も。オレは人事から月曜に聞いただけだ。辞めることは決まっているんだ。今更理由を聞いても、ただの時間の無駄だろう」
恭祐は本当にかおるという人間に関心も何もないのだろうか。何年も一緒に働いているというのに。
樹はなんてかおるは報われないのだろうと思った。
「まあ、次の組織編成後自分の無能さがばれるのに怖気づいたのかもな。ばれるもなにも、無能なことは既に明らかだというのに」
無関心どころではない。むしろ蔑んでいる。
「それは違う。組織編成とは別に、もっと前から考えていたようだ。たまたまタイミングをそこに合わせただけで。今までの仕事に対する評価から、人事もオレもひきとめたんだが、無理だった。かおるの評価は高い、決して無能などではない。何か決めていることがあるから辞めるんだろう」
「もっと前から辞めるつもりだったのか。それに…確かに無能ではないようだな。引き留めさせるとは」
恭祐は樹の言った、もっと前からかおるが辞めようとしていたということに反応しているようだった。
「ところで、オレはこんなことを言う立場にないが、三上はオレ達一族にとって何の利益ももたらさない女だ。惹かれているとかそんなことに時間を費やしていないで、とっととやって終わりにしたらいい。どうせ気まぐれだろ?」
「おまえ、それ、本気で言っているのか?」
「ああ、勿論本気だ。適切なアドバイスだと思っている。今は嫌な役を買うことになるが、長い目で見ればいつかオレの親切に気付いてもらえるだろう」
恭祐は敢えてそこまでで言葉を区切った。本当はもっと伝えたい事があるが、言ったところで聞き入れられないのは樹の表情を見れば分かる。
「なあ、オレもこんなことを言う立場にないけれど、おまえ本気で好きになった女っているのか?」
「ああ、勿論。随分昔だけどな」
「最近は?」
「いるわけないだろう。そんな感情は何の役にも立たない。不要だ。女なんて利用価値があるか、もしくはそれなりに楽しめればいいだけだ」
結局3時過ぎまで飲んだが、樹が目論んでいた欲しい情報は得られなかった。
何故かおるをああまで従順に躾けたのか、それが一番聞きたいこと。しかし、一朝一夕にあんなにも恭祐好みに仕立て上げることは出来ない。長い時間を掛け、緻密に落としていったことが窺える。変わらずに躾け続けたその根本にあるのは何だったのだろうか。
核心までは無理だとしても、冷遇する理由には何とか辿り着きたいと樹は考えていた。深夜とはいえ、その為ならば時間など惜しくない。ところが樹の事前の下準備を無視して、恭祐がいきなり質問をぶつけてきた、それもぶっきらぼうな口調で。
「三上とはどういう関係だ?」
「は?」
脈略もなければ、予期すらしていなかった質問内容に樹は答えに詰まった。
けれどつまったのは一瞬。思いがけない好機到来に樹は内心ほくそ笑んだ。
「今はまだ、たまにメシを食いに行く仲だろうな。勿論、ゆくゆくはその先を見据えていきたいけどな」
「へえ、樹はああいうのがタイプだったこと、無かったのに」
話し方や使う言葉から、恭祐のかおるに対する姿勢が容易に窺える。
「でも、三上じゃ落とす価値も何もないんじゃないか」
落とす価値、その言葉に樹は怒りを覚えながらも、いつもと何一つ変わらないように言葉を発した。
「落とすこと自体には確かに何の価値もないな。ただオレは純粋にかおるに惹かれて、手に入れたいって思った」
「惹かれるって、三上はおまえが今まで楽しんできた女とは明らかにタイプが違うだろ」
「遊ぶ女と本気で傍にいて欲しい女は別だってことだ。おまえだって、どこかでかおるの能力だったり性格を認めているからずっと一緒に働いているんだろ」
「能力や性格を認める?何故そんなことをオレがしなければいけないんだ。仕事だって出来るわけじゃない。まあ、一通り間違えずなんとかやっている程度だ。第一オレが選考して選んだわけではない、あの女を。ただ用意されていただけだ。だから、使っている。身分や立場からしても、仕えるのは当たり前だろ」
恭祐の発言はまるでかおるは会社からあてがわれた奴隷だと言っているようだった。だからどんな使い方をしてもいいとでも言っているかのような。
「自分で選んだわけではないのに、出張にはわざわざ同行させるのか?」
「出張に同行というよりは、小間使いとして仕える、その程度だ」
恭祐の回答ははぐらかしにすぎなかった。『仕えるのが当たり前』という表現を用い、深層にある樹が本当に知りたい本質には触れることなど出来ないようシャッターを下ろした。
それならば、話のポイントを変えてみるしかない。かおるの退職が決まり、樹が動いたように恭祐も動いたとするならば…。
「ところで上司であるおまえならかおるの退職理由は知っているのか?」
「いや、何も。オレは人事から月曜に聞いただけだ。辞めることは決まっているんだ。今更理由を聞いても、ただの時間の無駄だろう」
恭祐は本当にかおるという人間に関心も何もないのだろうか。何年も一緒に働いているというのに。
樹はなんてかおるは報われないのだろうと思った。
「まあ、次の組織編成後自分の無能さがばれるのに怖気づいたのかもな。ばれるもなにも、無能なことは既に明らかだというのに」
無関心どころではない。むしろ蔑んでいる。
「それは違う。組織編成とは別に、もっと前から考えていたようだ。たまたまタイミングをそこに合わせただけで。今までの仕事に対する評価から、人事もオレもひきとめたんだが、無理だった。かおるの評価は高い、決して無能などではない。何か決めていることがあるから辞めるんだろう」
「もっと前から辞めるつもりだったのか。それに…確かに無能ではないようだな。引き留めさせるとは」
恭祐は樹の言った、もっと前からかおるが辞めようとしていたということに反応しているようだった。
「ところで、オレはこんなことを言う立場にないが、三上はオレ達一族にとって何の利益ももたらさない女だ。惹かれているとかそんなことに時間を費やしていないで、とっととやって終わりにしたらいい。どうせ気まぐれだろ?」
「おまえ、それ、本気で言っているのか?」
「ああ、勿論本気だ。適切なアドバイスだと思っている。今は嫌な役を買うことになるが、長い目で見ればいつかオレの親切に気付いてもらえるだろう」
恭祐は敢えてそこまでで言葉を区切った。本当はもっと伝えたい事があるが、言ったところで聞き入れられないのは樹の表情を見れば分かる。
「なあ、オレもこんなことを言う立場にないけれど、おまえ本気で好きになった女っているのか?」
「ああ、勿論。随分昔だけどな」
「最近は?」
「いるわけないだろう。そんな感情は何の役にも立たない。不要だ。女なんて利用価値があるか、もしくはそれなりに楽しめればいいだけだ」
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