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29 好意
樹の目に飛び込んできたかおるは会社とは雰囲気がまるで違っていた。服装がいつもと違うからという理由で片づけられない程に。
「いつもよりきれいで、少しドキッとした。」
「いきなりそんなことを言われると、わたしもドキッとします。でも、ありがとうございます。」
そう言って、頬を赤く染めるかおるの横顔をずっと見ていたい気持ちを抑え、樹は前方に目をやる。駅のロータリーでは長くは停車出来ないのがもどかしい。
「アメリカ出張だから、違う大陸の料理ってことで、フランス料理を予約した。大丈夫だった?」
「はい。でも、この格好で大丈夫ですか?ジーンズはいてきてしまったんですが。」
「大丈夫。味は確かだけど、ドレスコードとか気取ったもののない店だから。」
「良かった。それなら楽しめそうです。」
「ちゃんとかおるの好みは覚えているから。そこを外すわけはないだろう。」
かおるは思った、これが好意を持たれているということだと。
振り返るまでもなく、ここ数年好意とは無縁だった。だから自分がそれを受けていると思うと、なんだか不思議な感覚に囚われそうだ。
ふわふわした、色を付けるならば優しい黄色やピンクの空気に包まれているような感覚。会社で感じる黒に近い、濃く深い青の中に時折閃光が走るような感覚とはまるで違う…。
そこまで思って、かおるは色の感覚で表現したとしても樹を通して恭祐を見ていた自分に気が付いたしまった。ここまで来ると、重症なのかもしれないと思えてしまう。
「何か言った?」
「いいえ、何も。ただ、食事が楽しみだなって思っていたことろです。」
「食事だけ?」
「え、あ、どんなところかなっていう楽しみもありますよ。」
「どんなところかぁ、誰とにも、もっと興味を持ってくれるといいんだけど。お互い休日に会うのは初めてだから、色々新鮮なことがあるんじゃないかな。まあ、その手始めが、かおるは会社にいるときより、断然きれいだってことだったけど。」
「そんなことはないです。あ、わたしは、い、いつ、き、さんは休日だと雰囲気が柔らかいって思ってました。」
「オレの名前ってそんなに言い辛い?まあ、こうして日常で会ってれば慣れるだろうけど。まあ、会社にいるときは、それなりに作ってるからな。経営者一族の者として要望や期待以上の仕事をしないと、それだけで周囲から切り捨てられる。使えないやつだと。」
「そういうものなんですか?。」
「出来て当たり前、出来なければ陰口をたたかれる。恵まれた環境で育てられたくせにと。そう言われない為にも仕事も言動も十分すぎる程しておかないと。だから、かおるが会社で目にするオレの雰囲気と今は全く違うんだろう。会社でも、かおると二人きりのときは結構ゆるくなり始めたけど。」
「…。」
「ごめん、会社の話なんかして。」
「あ、話題はなんでもいいですよ。」
「オレが気にする。今は好きな子を食事に誘って出かけようとしているだけの男だから。いきなり会社の話じゃ面白味がない男だって言ってるようなもんだろ。」
「そんなこと、ないです。樹さんは、その、とっても魅力的ですから。」
樹が会社における自分の立場の話をしたから、かおるの言葉が止まったわけではなかった。樹の言葉から恭祐を想い、言葉が止まってしまったのだ。
いつもあんな態度なのは、もしかすると自分にだけ取りつくろっていない姿を見せているからなのだろうかと。
でも、かおるはすぐに気付いた。なんて都合のいい解釈をしてしまったのだろうと。何故なら、樹と話す恭祐の表情がそれなのだから。あのかおるが盗み見る大好きな表情が。
「いつもよりきれいで、少しドキッとした。」
「いきなりそんなことを言われると、わたしもドキッとします。でも、ありがとうございます。」
そう言って、頬を赤く染めるかおるの横顔をずっと見ていたい気持ちを抑え、樹は前方に目をやる。駅のロータリーでは長くは停車出来ないのがもどかしい。
「アメリカ出張だから、違う大陸の料理ってことで、フランス料理を予約した。大丈夫だった?」
「はい。でも、この格好で大丈夫ですか?ジーンズはいてきてしまったんですが。」
「大丈夫。味は確かだけど、ドレスコードとか気取ったもののない店だから。」
「良かった。それなら楽しめそうです。」
「ちゃんとかおるの好みは覚えているから。そこを外すわけはないだろう。」
かおるは思った、これが好意を持たれているということだと。
振り返るまでもなく、ここ数年好意とは無縁だった。だから自分がそれを受けていると思うと、なんだか不思議な感覚に囚われそうだ。
ふわふわした、色を付けるならば優しい黄色やピンクの空気に包まれているような感覚。会社で感じる黒に近い、濃く深い青の中に時折閃光が走るような感覚とはまるで違う…。
そこまで思って、かおるは色の感覚で表現したとしても樹を通して恭祐を見ていた自分に気が付いたしまった。ここまで来ると、重症なのかもしれないと思えてしまう。
「何か言った?」
「いいえ、何も。ただ、食事が楽しみだなって思っていたことろです。」
「食事だけ?」
「え、あ、どんなところかなっていう楽しみもありますよ。」
「どんなところかぁ、誰とにも、もっと興味を持ってくれるといいんだけど。お互い休日に会うのは初めてだから、色々新鮮なことがあるんじゃないかな。まあ、その手始めが、かおるは会社にいるときより、断然きれいだってことだったけど。」
「そんなことはないです。あ、わたしは、い、いつ、き、さんは休日だと雰囲気が柔らかいって思ってました。」
「オレの名前ってそんなに言い辛い?まあ、こうして日常で会ってれば慣れるだろうけど。まあ、会社にいるときは、それなりに作ってるからな。経営者一族の者として要望や期待以上の仕事をしないと、それだけで周囲から切り捨てられる。使えないやつだと。」
「そういうものなんですか?。」
「出来て当たり前、出来なければ陰口をたたかれる。恵まれた環境で育てられたくせにと。そう言われない為にも仕事も言動も十分すぎる程しておかないと。だから、かおるが会社で目にするオレの雰囲気と今は全く違うんだろう。会社でも、かおると二人きりのときは結構ゆるくなり始めたけど。」
「…。」
「ごめん、会社の話なんかして。」
「あ、話題はなんでもいいですよ。」
「オレが気にする。今は好きな子を食事に誘って出かけようとしているだけの男だから。いきなり会社の話じゃ面白味がない男だって言ってるようなもんだろ。」
「そんなこと、ないです。樹さんは、その、とっても魅力的ですから。」
樹が会社における自分の立場の話をしたから、かおるの言葉が止まったわけではなかった。樹の言葉から恭祐を想い、言葉が止まってしまったのだ。
いつもあんな態度なのは、もしかすると自分にだけ取りつくろっていない姿を見せているからなのだろうかと。
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