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45 変わらない
「かおるさん、いらっしゃい。」
インターフォンからは前回同様、奏絵の明るい声が響いた。
そしてその声は、不思議とかおるに先週のことが奏絵の意思だと気付かせた。
今なら分かる、奏絵は先週意図的に大河ではなく大地を指名したのだ。
二人の性格、言動を知る奏絵なら理由は簡単に後付け出来る。話の流れを上手く誘導しつつも、自然な流れで奏絵の意思を通したということだ。
そして、大地はあの時それに気付いていた。奏絵が何を望み自分がどうすべきかも。
思い返してみると、自分の家のことを大地はとても冷静に客観的に話してくれた。恐らく、運転中に思いついたのではなく、奏絵の意思を汲み取った瞬間から話す内容をまとめていたのだろう。
では、大地に若林家のことを伝えさせ、次に奏絵は何を望んでいるのだろうか。
大地の話通りなら、一番大切な息子である恭祐に仕えるかおるに一体何を。
「中へどうぞ。今日は和菓子教室よ。」
玄関まで出迎えに来てくれた奏絵の笑顔は前回と同じものだった。
大地が言った、ただ知って欲しいというのはこういうことなのかも知れない。知ったからと言って何も変わらない、むしろそのままであり続けるという。
奏絵は大地がかおるに何かを話したことは分かっていても、内容の報告までは求めていないのが窺える。
それは大地の考えを尊重していると同時に信用していることの表れ。
かおると恭祐の間に生まれなかった信用があるということだ。どうしてまたどうにもならないことを考えてしまうのかと落ち込む心を奮い立たせる為に、かおるは奏絵に質問した。
「和菓子、ですか?」
「まずは、中に入ってちょうだい。」
聞いただけ、知っただけ。それだけのことなのだから、かおるも前回同様に振る舞えばいいのだろう。これが、正解なのかもしれない。
先週同様リビングに通されると、そこにはこれまた先週同様フィンガーフードと紅茶がテーブルの上に並んでいる。
これらはかおるが出した答えが正しかったと裏付けているようだった、何も変わる必要はないという。
「どうぞ、召し上がって。今日はこれから和菓子作りを頑張ってもらわないといけないから、たくさん食べてね。それと、先週は、大丈夫だったかしら、お洋服。どこか汚れなかった?」
「いえ、特に。」
「今日は粉をたくさん使うから、これに着替えてちょうだい。ついでにかおるさん用のエプロンも用意したから、付けてみて。」
「…あの、」
「着替える場所は後で案内するから、まずはお腹を満たしてね。」
「違うんです。こんなにまでしていただいたら、」
「楽しかったわ、女の子のお洋服選ぶの。やっぱり気に入ってもらえなかったかしら…」
「いえ、そんなことは、」
「じゃあ、この話はここまで。みんなが喜べばいいのだから。それより、何か良いことあった?肌の色も艶もとってもいいわ。」
「えっ、良いことですか?…特には。」
「そうなの?残念。肌は正直だから、良い事があったのかと思ったのに。」
寝不足なのに、肌艶がいいなんて…考えるまでもなく、昨日のことが影響しているのだろう。女として今までに経験したことのない刺激が。
もしかして、恭祐にも何か感じ取られたのだろうか。いや、恭祐がかおるの変化に気付くことなどあるはずがない。
かおるはすぐにそう結論付けた。どんな会話をしていても、恭祐のことを考えてしまう癖が捨てられない自分に呆れながら。
インターフォンからは前回同様、奏絵の明るい声が響いた。
そしてその声は、不思議とかおるに先週のことが奏絵の意思だと気付かせた。
今なら分かる、奏絵は先週意図的に大河ではなく大地を指名したのだ。
二人の性格、言動を知る奏絵なら理由は簡単に後付け出来る。話の流れを上手く誘導しつつも、自然な流れで奏絵の意思を通したということだ。
そして、大地はあの時それに気付いていた。奏絵が何を望み自分がどうすべきかも。
思い返してみると、自分の家のことを大地はとても冷静に客観的に話してくれた。恐らく、運転中に思いついたのではなく、奏絵の意思を汲み取った瞬間から話す内容をまとめていたのだろう。
では、大地に若林家のことを伝えさせ、次に奏絵は何を望んでいるのだろうか。
大地の話通りなら、一番大切な息子である恭祐に仕えるかおるに一体何を。
「中へどうぞ。今日は和菓子教室よ。」
玄関まで出迎えに来てくれた奏絵の笑顔は前回と同じものだった。
大地が言った、ただ知って欲しいというのはこういうことなのかも知れない。知ったからと言って何も変わらない、むしろそのままであり続けるという。
奏絵は大地がかおるに何かを話したことは分かっていても、内容の報告までは求めていないのが窺える。
それは大地の考えを尊重していると同時に信用していることの表れ。
かおると恭祐の間に生まれなかった信用があるということだ。どうしてまたどうにもならないことを考えてしまうのかと落ち込む心を奮い立たせる為に、かおるは奏絵に質問した。
「和菓子、ですか?」
「まずは、中に入ってちょうだい。」
聞いただけ、知っただけ。それだけのことなのだから、かおるも前回同様に振る舞えばいいのだろう。これが、正解なのかもしれない。
先週同様リビングに通されると、そこにはこれまた先週同様フィンガーフードと紅茶がテーブルの上に並んでいる。
これらはかおるが出した答えが正しかったと裏付けているようだった、何も変わる必要はないという。
「どうぞ、召し上がって。今日はこれから和菓子作りを頑張ってもらわないといけないから、たくさん食べてね。それと、先週は、大丈夫だったかしら、お洋服。どこか汚れなかった?」
「いえ、特に。」
「今日は粉をたくさん使うから、これに着替えてちょうだい。ついでにかおるさん用のエプロンも用意したから、付けてみて。」
「…あの、」
「着替える場所は後で案内するから、まずはお腹を満たしてね。」
「違うんです。こんなにまでしていただいたら、」
「楽しかったわ、女の子のお洋服選ぶの。やっぱり気に入ってもらえなかったかしら…」
「いえ、そんなことは、」
「じゃあ、この話はここまで。みんなが喜べばいいのだから。それより、何か良いことあった?肌の色も艶もとってもいいわ。」
「えっ、良いことですか?…特には。」
「そうなの?残念。肌は正直だから、良い事があったのかと思ったのに。」
寝不足なのに、肌艶がいいなんて…考えるまでもなく、昨日のことが影響しているのだろう。女として今までに経験したことのない刺激が。
もしかして、恭祐にも何か感じ取られたのだろうか。いや、恭祐がかおるの変化に気付くことなどあるはずがない。
かおるはすぐにそう結論付けた。どんな会話をしていても、恭祐のことを考えてしまう癖が捨てられない自分に呆れながら。
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