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61 密室に二人
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大人の男性の体がこんなにも重いものだとかおるは初めて知った。バーラウンジから部屋までは大した距離ではない。けれど、エレベーターの中でも廊下でも恭祐の体は重みを徐々に増している。それは体調が悪い方へ向かっているということだ。第一、多少の体調不良ならば恭祐がかおるに体を預けるとは考えにくい。
聞いているのか聞いていないのか分からないような恭祐に念の為詫びてから、部屋に入り不慣れながらも服を脱がす。バーラウンジはあんなに空調が効いていたというのに、シャツは薄ら湿り気を含んでいた。
かおるは再び小さな声で『申し訳ございません。』と呟いた。ネクタイを外し、ワイシャツを脱がせるために。
さっさとやらなければいけないのに、緊張からか手はうまく動かない。こんな時にまで緊張してしまう自分に困りながらも、恭祐の体を少しでも楽にしなければとかおるは必死に手を動かした。シャツの下のアンダーシャツとスラックスへも。
初めて見る恭祐の体は、いつ鍛えているのか不思議に思うくらい程良く筋肉がついていた。そして黒い感情が頭を過る。
一体今まで何人の女性がこの胸板に抱き寄せられたのだろうかと。
何度もやってくる黒い感情を押し殺しながら恭祐の体を拭き終わると、かおるは一度部屋へ戻った。看病するには実用的ではないドレスは早々に脱ぐに限る。ついでにシャワーを浴び、体にこもり続けている熱と想いを洗い流すと、再びかおるは恭祐の部屋へ戻った。
結局かおるは明け方まで、恭祐の体の汗を拭いたり、水を飲ませたり、様子を見続けたのだった。
その甲斐あってか、朝6時過ぎには恭祐の寝息は随分穏やかなものに変わり始めた。
フルーツ、ヨーグルト、ペイストリー。かおるは恭祐がいつ目覚めてもいいように、好きなものばかりをルームサービスに頼み受け取ると、安心からか睡魔に襲われた。
「ん、あっ、ん、うっ、」
気付くとかおるはベッドの上で横たわっていた。それも下着だけで。いや、恭祐に組み敷かれているというのが正しいだろう。
「若林さん、一体、何を、」
「この状況でそんな馬鹿な質問をするほど、おまえは間抜けなのか。男と女がベッドの上でセックスをする以外に何をするんだか、むしろそれ以外があるなら教えてくれ。」
かおるの頭を樹が言った言葉がよぎった。どんな状況であれ、男女が限られたスペースで二人きりになるのは危険だという言葉が。
どんな状況であれ…
それを自ら犯してしまった以上、かおるにはもう恭祐が言ったこと以外の選択はないということなのだろうか。
いや、何か、あるのかもしれない。
「申し訳ございません。わたしはただ若林さんの看病をしようと思っただけなんです。それが、いつの間にか眠ってしまって。だから、その、そういうつもりではなくて、ごめんなさい、あの、」
「誰がいつ看病をしてくれと頼んだ?おまえが勝手にしたことだろ。オレにはそんなつもりはなかったが。そして、やってくれと言わんがばかりに横に寝ていたおまえにこうして何が悪い。たとえ、そんなつもりはなかろうが、勝手に看病されたオレと似たようなもんじゃないのか。」
そう言うと同時に恭祐はかおるのブラジャーを容赦なくまくし上げた。
「なかなかいい体だな。」
「お願いです。もう、許して下さい。お願い、これ以上は。」
「馬鹿か、楽しいのはここから先だろ。」
恭祐にずっと憧れていた。好きだからどんな態度であろうと、続けてこれた今のポジション。辞める理由だって、もうこれ以上恭祐と女性たちの関係を知りたくないからだった。
近くで見続けたい、少しでも仕事をサポートしたい、その気持ちは変わらないのに、余りにも派手な女性関係に心が折れた。
好きであればあるほど、耐えられないという気持ちが大きくなったのだ。
でも、そんなに好きな恭祐にかおるが望んだ『近く』はこの距離感ではない。ましてやこれ以上をこんな形で望んだことも、思い描いたこともなかった。
そもそも恭祐は本気なのだろうか。単に、かおるを貶めて楽しもうとしているだけなのかもしれない。
かおるはもう一度、声を振り絞った。
「お願い、もう、止めて。」
「誰に対してそんな口をきいているんだ。おまえは自分の立場を忘れたのか。」
「お願いです。止めて下さい。」
かおるの気持ちはぎりぎりのところまで来ていたのだろう、だから口のきき方を間違え、訂正したら許されると思ってしまった。
何より、言い直すと恭祐がふっと笑ってくれた。まるで口のきき方の間違えだけでなく、これ以上のことも許してくれるかのように。が、その笑みは許すことを意味したのではなく、これから始まることへ対するものだった。
「分かっていると思うが、ここは密室だ。そして、この中には明らかに主従関係であるオレとおまえしかいない。立場も、更には力の差も歴然としている人間が二人。泣こうと喚こうとおまえの自由だが、これから起こることには何の影響もない。それどころか、拒否を示したくせに、よがったり、イって、惨めになるのはおまえだと思うが。だったら、最初から深くはめて激しく腰をふって欲しいと懇願したらどうだ?」
恭祐の言葉はかおるを絶望へ突き落した。笑みを浮かべている恭祐の表情に恐怖を覚え、かおるは知らず知らずのうちに目から涙をこぼした。
それは恭祐が最も待ち続けた瞬間でもあった。
聞いているのか聞いていないのか分からないような恭祐に念の為詫びてから、部屋に入り不慣れながらも服を脱がす。バーラウンジはあんなに空調が効いていたというのに、シャツは薄ら湿り気を含んでいた。
かおるは再び小さな声で『申し訳ございません。』と呟いた。ネクタイを外し、ワイシャツを脱がせるために。
さっさとやらなければいけないのに、緊張からか手はうまく動かない。こんな時にまで緊張してしまう自分に困りながらも、恭祐の体を少しでも楽にしなければとかおるは必死に手を動かした。シャツの下のアンダーシャツとスラックスへも。
初めて見る恭祐の体は、いつ鍛えているのか不思議に思うくらい程良く筋肉がついていた。そして黒い感情が頭を過る。
一体今まで何人の女性がこの胸板に抱き寄せられたのだろうかと。
何度もやってくる黒い感情を押し殺しながら恭祐の体を拭き終わると、かおるは一度部屋へ戻った。看病するには実用的ではないドレスは早々に脱ぐに限る。ついでにシャワーを浴び、体にこもり続けている熱と想いを洗い流すと、再びかおるは恭祐の部屋へ戻った。
結局かおるは明け方まで、恭祐の体の汗を拭いたり、水を飲ませたり、様子を見続けたのだった。
その甲斐あってか、朝6時過ぎには恭祐の寝息は随分穏やかなものに変わり始めた。
フルーツ、ヨーグルト、ペイストリー。かおるは恭祐がいつ目覚めてもいいように、好きなものばかりをルームサービスに頼み受け取ると、安心からか睡魔に襲われた。
「ん、あっ、ん、うっ、」
気付くとかおるはベッドの上で横たわっていた。それも下着だけで。いや、恭祐に組み敷かれているというのが正しいだろう。
「若林さん、一体、何を、」
「この状況でそんな馬鹿な質問をするほど、おまえは間抜けなのか。男と女がベッドの上でセックスをする以外に何をするんだか、むしろそれ以外があるなら教えてくれ。」
かおるの頭を樹が言った言葉がよぎった。どんな状況であれ、男女が限られたスペースで二人きりになるのは危険だという言葉が。
どんな状況であれ…
それを自ら犯してしまった以上、かおるにはもう恭祐が言ったこと以外の選択はないということなのだろうか。
いや、何か、あるのかもしれない。
「申し訳ございません。わたしはただ若林さんの看病をしようと思っただけなんです。それが、いつの間にか眠ってしまって。だから、その、そういうつもりではなくて、ごめんなさい、あの、」
「誰がいつ看病をしてくれと頼んだ?おまえが勝手にしたことだろ。オレにはそんなつもりはなかったが。そして、やってくれと言わんがばかりに横に寝ていたおまえにこうして何が悪い。たとえ、そんなつもりはなかろうが、勝手に看病されたオレと似たようなもんじゃないのか。」
そう言うと同時に恭祐はかおるのブラジャーを容赦なくまくし上げた。
「なかなかいい体だな。」
「お願いです。もう、許して下さい。お願い、これ以上は。」
「馬鹿か、楽しいのはここから先だろ。」
恭祐にずっと憧れていた。好きだからどんな態度であろうと、続けてこれた今のポジション。辞める理由だって、もうこれ以上恭祐と女性たちの関係を知りたくないからだった。
近くで見続けたい、少しでも仕事をサポートしたい、その気持ちは変わらないのに、余りにも派手な女性関係に心が折れた。
好きであればあるほど、耐えられないという気持ちが大きくなったのだ。
でも、そんなに好きな恭祐にかおるが望んだ『近く』はこの距離感ではない。ましてやこれ以上をこんな形で望んだことも、思い描いたこともなかった。
そもそも恭祐は本気なのだろうか。単に、かおるを貶めて楽しもうとしているだけなのかもしれない。
かおるはもう一度、声を振り絞った。
「お願い、もう、止めて。」
「誰に対してそんな口をきいているんだ。おまえは自分の立場を忘れたのか。」
「お願いです。止めて下さい。」
かおるの気持ちはぎりぎりのところまで来ていたのだろう、だから口のきき方を間違え、訂正したら許されると思ってしまった。
何より、言い直すと恭祐がふっと笑ってくれた。まるで口のきき方の間違えだけでなく、これ以上のことも許してくれるかのように。が、その笑みは許すことを意味したのではなく、これから始まることへ対するものだった。
「分かっていると思うが、ここは密室だ。そして、この中には明らかに主従関係であるオレとおまえしかいない。立場も、更には力の差も歴然としている人間が二人。泣こうと喚こうとおまえの自由だが、これから起こることには何の影響もない。それどころか、拒否を示したくせに、よがったり、イって、惨めになるのはおまえだと思うが。だったら、最初から深くはめて激しく腰をふって欲しいと懇願したらどうだ?」
恭祐の言葉はかおるを絶望へ突き落した。笑みを浮かべている恭祐の表情に恐怖を覚え、かおるは知らず知らずのうちに目から涙をこぼした。
それは恭祐が最も待ち続けた瞬間でもあった。
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