どうかあなたが

五十嵐

文字の大きさ
69 / 90

67 とりとめもない思考

頭の中も、心の中もドロドロとしている。

このままここに居ても、今の恭祐には最適解を導き出すことは不可能だ。
全てを洗い流し、すっきりする為にシャワーを浴びようと肩にかけただけのローブ姿で恭祐はバスルームへ向かった。冷水だろうと熱湯だろうと頭がスッキリすることも、心に溜まった澱も流せないと分かっていながら。

これは程の良い言い訳に過ぎない。
目の前の現実から目を背ける為の。

現に、恭祐はカーテンを開けていない。室内は柔らかい間接照明が優しい光を放っているだけで、太陽光は遮られている。だからかおるはあのまま目を覚さないだろう。

気をやったかおるはまるで時が止まったかのように眠っていた。初めてであれだけ体を揺さぶられれば、疲れて当然。
しかも相手は上司である恭祐な上に、避妊はしないと宣言されての行為。肉体だけでなく、精神的にも疲れたことだろう。かおるにとって最悪などという言葉では片付けられない時間だったに違いない。

けれど、優しさが不要だと言ったのはかおる。恭祐はその通りにしただけだ。
しかし、それは詭弁。そんなことは恭祐だって分かりきっている。
正しくは、かおるが言ったのではなく、恭祐に言わされたのだ。

何も今朝のことだけではない。今までだってずっとそうだった。
恭祐は立場を利用し、早い段階でかおるを自分に都合良く躾けあげた。言葉や態度で追い込んで。辞めてもいい存在だと思うと、どうとでも扱えた。ところが、かおるは不思議と仕事をしっかりと身につけ恭祐に貢献するようになった。酷い扱いなのに既に五年以上一緒に働いている。

五年以上一緒に働いているのは、おかしなことにかおるがいつ辞めてもいいと思っている恭祐が原因だとは誰も思わないだろう。何年もかおるが転属願いを出していたのは知っていた。恭祐とて曲がりなりにも上司である以上、その情報はもたらされる。

大した評価もしないくせに、その転属願いを潰していたのも恭祐。冷遇しているというのに、気付けば手放せなくなっていた。

仕事がし易いというのもあるが、何よりかおるの怯えたり不安げな表情が恭祐の毎日に欠かせないものになっていたのだ。体の関係がある女よりも、不思議と性的興奮をかおるは与えてくれる存在だった。傍にいるだけで、恭祐にえも言われぬ喜びを与えてくれる。

だから、今朝も体の熱が下がったばかりだというのに、本能という熱が何度も暴れた。
体調不良から回復したばかりの勃ち方ではない程。何度も中に出し切った。出来てもおかしくないことは確かだ。意図的に最奥目掛けて放ったのだから。

意図的に…
やはり思考回路が乱れている。かおるのことを先ずは考えるべきなのに、恭祐は家族の中で一番交流のある大地のことを思い出した。

大地の生まれた日は不自然過ぎる。仮に咲良の目を盗んで秀一と奏絵が通じていたとしても、子供までは作らないだろう。立場的にも時期的にも。避妊の失敗も考えにくい。そういう相手だからこそ、注意をするはずだ。
だとしたら大地は、意図的に作られたのだろうか。
咲良が亡くなる前に奏絵に何かをお願いをしたと言っていたが、まさか恭祐の兄弟までなんてことは…

そこまで考えて、恭祐は自分が冷静になりきれないと感じた。いくら熱めのシャワーを浴びてもどうにもならない。かおると向き合わないことには一歩も前へ進めないだろう。

取り留めのないことを考えながらシャワーをだらだらと浴び続けていたのにも女々しい理由がある。その音でかおるが起きて隣の部屋に戻ってくれることを期待していたのだ。
短絡的過ぎる考えに恭祐は自分自身に嘲笑した。先送りするだけに過ぎない。それでは問題の解決にはならないと良く知っているというのに。

先ずはかおるに伝えなくてはいけないだろう、何もいけないことなどなかったと。いつ失っても良かったはずのかおるは、恭祐の言葉に何を思い、何を言うのだろう。
けれど、言葉にしたとしてその後、恭祐はどこへ向かって一歩を踏み出せばいいのだろうか。
感想 3

あなたにおすすめの小説

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

【完結】泡になった約束

山田森湖
恋愛
三十九歳、専業主婦。 夫と娘を送り出し、静まり返ったキッチンで食器を洗う朝。 洗剤の泡が立っては消えるその繰り返しに、自分の人生を重ねながら、彼女は「ごく普通」の日常を受け入れている。 愛がないわけではない。けれど、満たされているとも言い切れない。 そんな午前中、何気なく出かけたスーパーで、背後から名前を呼ばれる。 振り返った先にいたのは、かつて確かに愛した男――元恋人・佐々木拓也。 平穏だったはずの毎日に、静かな波紋が広がり始める。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです