どうかあなたが

五十嵐

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72 心理

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一度欲望を発散することで、恭祐は幾分か冷静さを取り戻したように思った。
目の前ではかおるがぐったりしてベッドに沈んでいる。しどけないその姿は、再び恭祐を誘っているようだ。

清楚な雰囲気の女でありながら、まるで食虫植物だと恭祐は思った。男を咥え込む為にそのような姿を見せ、飲み込んだら性を絞り取り自らの養分にするような。気をつけないと、このまま何度でも抱いてしまうのではないかと思えてしまう。

しかし、それは恭祐を主軸にした時の一方的な見方。冷静さが足りていないと恭祐は思わざるをえなかった。今まで男を知らなかったかおるがそんな仕草を狙って出来るものではない。しかも背中だけで。
だとしたら、そう見えてしまうのは恭祐の深層心理がそうさせているということだ。

恭祐はどうしてそんなことを思うのか自分自身で心の深い部分を探った。
都合に合わせて見せ方を上手く作る女とばかり遊んできたから。そんな考えが直ぐに浮かんだ。どの女も仕草や表情を操り愚かな愛情ごっこを楽しむ。
ではかおるはどうだろうか。器用に表情を作れるならば、今まで恭祐が度々目にしてきたあの不安を隠しきれない顔などしないだろう。でも、それすら演技だったら…。かおるが恭祐の性癖を理解し、あの表情すら作っていたなら。

考えが全くまとまらない。結局のところ、目の前にかおるという存在がいる限り今の恭祐は理性的になれないということだ。
本来の自分を取り戻す為、恭祐はかおるをここから一度排除することにした。


「夕食はここを七時に出て向かう。今夜はカジュアルな店だから、気取った格好は必要ない。」
かおるの疲労感を隠しきれていない背中へ向け、恭祐は努めて職場での言い方と同じように言葉を発した。重要なのはあくまでも業務上と同じ体を保つこと。そうすればかおるにも、上司と部下という立場のスイッチが入るだろうから。

かおるには必要な情報を与えれば、後はそれに向けて行動するよう躾けてある。つまり恭祐の意図することを正確に理解するかおるは、今は立ち去り指定された時間には全ての身支度を済ませ戻ってくるということだ。

しかし、かおるが動く気配はない。恭祐の言葉は理解出来ているのだろうが、体を動かせないでいる。
「流石にこれ以上セックスに付き合う時間はない。仕事を少し片付けさせてくれ。」
「…申し訳、ございません、直ぐに、」

部屋に勝手に入りベッドの横にいたのもかおる。全裸のまま後ろから突いて欲しいかのような体勢でベッドにいたのもかおる。全てはかおるが望んだことだという意を込め恭祐は言葉を掛けた。いつものように、感情を込めず。冷淡にも取れるその物言いは、聞く人によっては立ち去れと言っているように聞こえるだろう。
当然かおるもその中の一人。どんなに体が悲鳴をあげていようと、恭祐の言葉には絶対に従わなくてはならない。仕事という言葉が出た以上は。何故なら、かおるは恭祐の仕事上の忠実なアシスタントなのだ。



最短でこの部屋から出る方法をかおるは考えた。仕事をするという恭祐の意志表示は邪魔をするなとも言っているのだから。
でも、どうしたらいいのか。服を回収するにも、纏うにも重い体では時間がかかる。残っている気力で出来ることと言ったら、ほんの少しの距離を歩くことだけ。

内扉というのは非常に便利だとかおるは思った。廊下に出ないのだから、誰かに姿を見られることはない。それならば、適当に服を体に被せ隣の部屋へ戻ればいいだろう。恭祐の目はそもそも最初から気にする必要はないように思える。かおるに興味などないのだから。
重要なのは恭祐の時間を奪わないこと。恭祐の希望通り早くここから出ることだ。

体が動かなくても、それこそ恭祐の為という意志に頑張ってもらえばいい。そう思えば、残り少ない力を最大限に使えそうだ。まずは、うつ伏せから起き上がろうと両腕に力を込めた時だった、急に体が軽くなったのは。

そうしたのは、かおるの意志ではない。腰に回された手が、体を持ち上げてくれたのだ。当然かおるのものではない違う体温を持つ手。恭祐のものだ。
でも、どうして。何故、かおるを労わるかのように手を貸してくれるのだろうか。

どんな結果にも原因や理由が必ずあるーーー恭祐から良く聞く言葉。
恭祐にはかおるへ向ける優しさなど存在しないのだから、これは手を貸してくれたのではない。自分の思い通りかおるを早く去らせるために手を出しただけだ。

ところが、その手はかおるの体勢を変え恭祐に向き合わせた。そして、唇が合わさったのだった。
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