どうかあなたが

五十嵐

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78 事実

*二月中に書き上げる予定が長引いてしまって…お読みいただいている皆様、今しばらくお付き合いくださいませ。*




あのままベッドの住人にならずに外へ出て正解だとかおるは思った。
体と気持ちを重くしたのも恭祐。けれど、全てを軽くしてくれた上この景色を見せてくれたのも恭祐。不思議な事実だが。

セントラルパークを勧められた気がしてやって来たのはいいが、あまりにも広大な公園でかおるは目的を絞ることにした。広いとは聞いていたが、実際にやって来てみると百聞は一見にしかずを実感せざるを得ない。七時に恭祐の元へ向かうのは絶対だ。あまりのんびりしていてはいけないと、かおるはこの中で特に行ってみたいと思っていたストロベリーフィールズからの流れでシープメドウ、動物園あたりをゆっくり回ろうと考えた。そうすればちょうどホテルへも帰り易い。

ストロベリーフィールズでは、すぐに目的のIMAGINEと書かれた記念碑が視界に入った。特にかの人の命日でなくても飾られた花。捧げる人の好みだからそこに統一性はない。しかし、かえってそれが記念碑のモザイクと相待ってかおるには美しく見えた。

IMAGINEー想像。不意にかおるにあの日、想像ではなく事実を話してくれた大地の言葉が蘇る。

大地はあの日淡々と若林家の事実を教えてくれた。多少は大地の想像を付け加えて。
一方的に聞かされた事実。質問することも、詳しいことを聞くこともできない話をかおるは本当に聞いただけだった。

恭祐の産みの母は既に亡くなっていること。名前は咲良。亡くなったのは春、その時の恭祐はまだ三歳だったという事実だけを。

気になったのはその後の話。けれど質問は出来ない。大地が断りを入れて話し出したのはこの為だったのかと、その時かおるは思ったのだった。
大地は確かに言った、咲良が亡くなった数ヶ月後秀一が奏絵と再婚し、その年の秋に大地が生まれたと。

女性と違い男性はすぐに再婚が出来る。それは妊娠の可能性などないからだ。だから秀一の奏絵との再婚には何の不思議もない。でも、結婚したからと言ってすぐに女性が子供を産むことは出来ない。胎内に必要な月数胎児はいなくては。目の前にいる若林大地という人物は自分の出生に関する重要なことを何でもないことのように話すだけだった。

更に驚いたことに、咲良と奏絵は知り合いだったと大地は言う。月数が合わない出産に、前妻と後妻が知り合いとは穏やかではないとかおるは思った。ところが、大地が奏絵から聞いた話によると二人は仲が良かったそうだ。しかも咲良が息を引き取るまでずっと良い関係だったと。

『当事者にしか分からない話だから何とも言えませんが、少なくても母さんはそう思っているんでしょうね。でも、もう一人の関係者である父さんを見ていると母さんの言う通りなんだろうなと不思議と思えてくるんですよ。事実は小説よりも奇なりでしょ。』

大地の話は、その後恭祐の思春期頃のものとなった。ちょうどその頃、恭祐が両親と話をしなくなったらしい。それまでは、恭祐と奏絵は大地と大河が羨ましく思う程仲が良かったというのに。

『兄さんは待ち構えていたように、大学進学時に家を出て行ていきました。勿論、たまには帰って来ていましたけれど。まあそれも、会社に入って三年目からは全く戻って来なくなりました。でも母さんは、兄さんの部屋をいつ帰ってきてもいいようにずっとそのままにしているんです。これがかおるさんに知って欲しかった事実です。』

かおるはその時、大地へ頷くことしか出来なかった。『分かりました』と返事をするのも変な気がしたからだ。実際、見えない部分のせいで話してもらった内容すら霞んでしまっていたのだから。

『両親と兄さんとの関係はそんな感じですが、兄さんはオレと大河に対しては過保護というか、優しいというか。一緒に住んでた頃なんて、オレ達兄さんから小遣いを貰っていたくらいで。兄さん、成人してからは資産運用とかしてたから。』
過去の恭祐との思い出を話す大地の表情はとても楽しそうだった。その表情から三人の仲が良いことはかおるも理解出来た。

『それと、兄さん、女性関係は派手だと思うんですけど、それだけなんです。僕の大学の時の彼女なんか、兄さんがたまたま帰ってきていたときにちょっかいを出したりして、まあ、色々ありました。恐らく、あの容姿で、金も立場もある人なんで女性絡みでは色々あったんだと思います。だからあんな風になったのかと。これはさっきと違って想像ですけどね。不思議なのは、かおるさんなんですよ。女性とはどこか一線を引いている兄さんが、もう何年も一緒に働いているなんて。』

かおるは想像してみた。あの日聞いた大地の話から導き出されるものを。
けれど想像する必要がないことがある。大地は不思議と言ったが、何年も恭祐と共に働けたのはかおるが『好き』だからだ。退社を決めたのも『好き』だから。けれど、もう、『好き』でいるのが辛くなったから辞めるだけ。
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