81 / 90
79 選んだ道
しおりを挟む
如何にもという場所で昼食には遅いデリカテッセンで調達した軽食を取り、一息吐くとかおるは次の目的地へ向けまた歩きだした。
距離と時間が次第に恭祐へと近づいていく。
少し歩いたところで、かおるは将来ビッグネームになるやもしれない芸術家達が絵を売っている一角に目が留まった。絵画には全く造詣などないが、どれも青空の下とても美しく見える。すると、目が合った売主に手招きされてしまった。
首を軽く左右に振ってそのまま立ち去るなんて仕草はかおるには出来ないことを見透かされたのだろうか。売主は早口で何か言っているようだ。どうせ、逃げられないなら一層のこと絵をお土産にしたらいいのではないかとかおるは思った。見える金額は巨匠にはまだ遠そうなのも丁度いい。何十年かしたら化けましたになるかどうか、未来への話の提供にもなる。
未来。
恭祐は孕ませると言っていたが、その可能性は近い未来にすぐ分かる。かおるの生理周期はそんなに乱れない。出張の終わり前後には妊娠などしていないとすぐ判明するだろう。とは言え、世の中に絶対はない。妊娠する確率が高い時以外、全く妊娠しないかどうかなんて分からない。生理不順なんて言葉があるくらい女性の体はデリケートに出来ている。
自分の体を知っているが故に妊娠を否定しておきながら、何があるか分からないと考える自分にかおるはおかしくなってしまった。結局のところどちらを望んでいるのだろうか。
分かるのは恭祐が計画とは違う筋書きに入るのを嫌うこと。妊娠していないとなれば、計画通り事を進めないかおるを恭祐はあとどれくらい傍に置いてくれるのだろうか。
そもそも、この関係は恭祐の一時の気まぐれかもしれない。出張が終われば、元に戻るのだろうか。
けれど元に戻らないことがいくつかある。
恭祐を知ってしまったかおるの体はきっと、樹を受け入れられない。
意識して思い出さないようにしていたであろう樹の存在。
樹といる時には意識して思い出さないようにしていたのに思い出してしまう恭祐の存在。
なんて滑稽なんだろう。
樹といると恭祐との違いに、そこにいない恭祐の存在を強く感じずにはいられなかった。かおるはそれを自分に対する態度の違いから棒磁石のS極とN極だと思うようにしていた。樹といる時に対極にいる恭祐が何度も感じられたからだ。ところが、どうしてか恭祐といても対極にある筈の樹の存在が感じられなかった。助けてくれるであろう樹の存在が。かおるが思い込もうとしていた棒磁石の存在など端から無かったのだ。
樹は好意を示してくれた。対して、恭祐は所有を主張しただけ。
客観的に見るのなら、かおるは気持ちの軌道修正をしなくてはいけないだろう。でも、人の気持ちは理屈ではどうにも出来ない。
答えは分かっている。進みたいのも茨の道ならば、向かう為にも棘を抜け出さなくてはいけないことを。その棘も元はと言えば、かおるの逃げと甘えが作り上げたものだ。
絵は捨てない限り残る。誰かが気持ちを込めて描いた絵を簡単に捨てられる人はいないだろう。
だったら、これを樹に選ぶことは出来ない。
かおるは五枚の絵を違う画家達から購入した。四枚のA4サイズくらいの絵は、渡す人物のことを思いながら選んだ。残りの一枚はとても抽象的な作品でかおるの心の中を映すようだった。見る度に受ける印象が変わるような絵。かおるの気持ちが玉虫色だからそう見えるのだろうか。でも、それが固まった印象になるよう心を決めなくてはいけない。
幸か不幸か出張中は恭祐と向き合える。自分のものならば大切にすると言った恭祐と。
残念ながらかおるに恭祐の心の深層部を探ることは不可能だろう。でも、多少は知れるかもしれない。そしてかおるをただの部下ではなく、一人の女性として知ってもらうことも可能に思える。
今日は土曜、会社は休みだ。七時からの食事はプライベートな時間。それはかおるが部下ではない、恭祐にとって私的な時間を共有する立場であることを意味している。
先に待ち構えていることは重いが、再び歩き出したかおるの足取りは軽かった。
距離と時間が次第に恭祐へと近づいていく。
少し歩いたところで、かおるは将来ビッグネームになるやもしれない芸術家達が絵を売っている一角に目が留まった。絵画には全く造詣などないが、どれも青空の下とても美しく見える。すると、目が合った売主に手招きされてしまった。
首を軽く左右に振ってそのまま立ち去るなんて仕草はかおるには出来ないことを見透かされたのだろうか。売主は早口で何か言っているようだ。どうせ、逃げられないなら一層のこと絵をお土産にしたらいいのではないかとかおるは思った。見える金額は巨匠にはまだ遠そうなのも丁度いい。何十年かしたら化けましたになるかどうか、未来への話の提供にもなる。
未来。
恭祐は孕ませると言っていたが、その可能性は近い未来にすぐ分かる。かおるの生理周期はそんなに乱れない。出張の終わり前後には妊娠などしていないとすぐ判明するだろう。とは言え、世の中に絶対はない。妊娠する確率が高い時以外、全く妊娠しないかどうかなんて分からない。生理不順なんて言葉があるくらい女性の体はデリケートに出来ている。
自分の体を知っているが故に妊娠を否定しておきながら、何があるか分からないと考える自分にかおるはおかしくなってしまった。結局のところどちらを望んでいるのだろうか。
分かるのは恭祐が計画とは違う筋書きに入るのを嫌うこと。妊娠していないとなれば、計画通り事を進めないかおるを恭祐はあとどれくらい傍に置いてくれるのだろうか。
そもそも、この関係は恭祐の一時の気まぐれかもしれない。出張が終われば、元に戻るのだろうか。
けれど元に戻らないことがいくつかある。
恭祐を知ってしまったかおるの体はきっと、樹を受け入れられない。
意識して思い出さないようにしていたであろう樹の存在。
樹といる時には意識して思い出さないようにしていたのに思い出してしまう恭祐の存在。
なんて滑稽なんだろう。
樹といると恭祐との違いに、そこにいない恭祐の存在を強く感じずにはいられなかった。かおるはそれを自分に対する態度の違いから棒磁石のS極とN極だと思うようにしていた。樹といる時に対極にいる恭祐が何度も感じられたからだ。ところが、どうしてか恭祐といても対極にある筈の樹の存在が感じられなかった。助けてくれるであろう樹の存在が。かおるが思い込もうとしていた棒磁石の存在など端から無かったのだ。
樹は好意を示してくれた。対して、恭祐は所有を主張しただけ。
客観的に見るのなら、かおるは気持ちの軌道修正をしなくてはいけないだろう。でも、人の気持ちは理屈ではどうにも出来ない。
答えは分かっている。進みたいのも茨の道ならば、向かう為にも棘を抜け出さなくてはいけないことを。その棘も元はと言えば、かおるの逃げと甘えが作り上げたものだ。
絵は捨てない限り残る。誰かが気持ちを込めて描いた絵を簡単に捨てられる人はいないだろう。
だったら、これを樹に選ぶことは出来ない。
かおるは五枚の絵を違う画家達から購入した。四枚のA4サイズくらいの絵は、渡す人物のことを思いながら選んだ。残りの一枚はとても抽象的な作品でかおるの心の中を映すようだった。見る度に受ける印象が変わるような絵。かおるの気持ちが玉虫色だからそう見えるのだろうか。でも、それが固まった印象になるよう心を決めなくてはいけない。
幸か不幸か出張中は恭祐と向き合える。自分のものならば大切にすると言った恭祐と。
残念ながらかおるに恭祐の心の深層部を探ることは不可能だろう。でも、多少は知れるかもしれない。そしてかおるをただの部下ではなく、一人の女性として知ってもらうことも可能に思える。
今日は土曜、会社は休みだ。七時からの食事はプライベートな時間。それはかおるが部下ではない、恭祐にとって私的な時間を共有する立場であることを意味している。
先に待ち構えていることは重いが、再び歩き出したかおるの足取りは軽かった。
0
あなたにおすすめの小説
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
惑う霧氷の彼方
雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。
ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。
山間の小さな集落…
…だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。
――死者は霧と共に現れる…
小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは?
そして、少女が失った大切なものとは一体…?
小さな集落に死者たちの霧が包み込み…
今、悲しみの鎮魂歌が流れる…
それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語――
***
自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。
※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。
⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。
本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる