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60 熱い体
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「申し訳ございませんでした、お待たせしてしまって。」
「まだ時間前だ。この場合、女性を待たせる方が失礼だろう。だから時間前に来たまでだ。行くぞ。」
昨夜同様腕を差し出され、かおるは躊躇しながらも軽く手を掛けた。
タクシーに乗るときも、恭祐は非の打ちどころがない完璧な身のこなしでかおるに対応した。まるでかおるを本当に大切にしてくれているのではないかと、錯覚を起こさせる程。
そして、到着した場所はまるで特別な晩餐会をしているのではないかと思うくらい華やかだった。ここにかおるの持参したワンピースでは、確かに不釣り合いだっただろう。いや、着ている自分が惨めで仕方なかったはずだ。
とは言え、この豪華なドレスを着ていても、慣れない場所への足取りは重い。
案内係と話し終わった恭祐が振り返った時には、かおるは逃げ出したくなっていた。まるで王子様のような恭祐が振り返って手を差し出した先にいる自分に耐えられず。それでもかおるも手を差し出さなくてはいけない。たとえ手が震えていようと。
恭祐は震える手を掴むと、かおるを自分へと歩み寄らせ、腰に手をあて引き寄せた。
「笑え。」
本当は笑っていない作り物の笑顔を向け、恭祐はかおるに笑顔を強要した。
分かり切っていることだ、作りものの笑顔であることは。それでも、かおるはときめいてしまった、恭祐の笑顔に。きっと周りには仲睦まじい二人が、特別のディナーの為に席を案内されているように見えていることだろう。
でも、どうしてその必要があるのであろうか。ふとそんなことをかおるは思った。
服は確かにこの雰囲気に見合うものが必要なのは、今、この場にいれば嫌でも分かる。では、恭祐とのこの距離感は?
金曜の夜にこのレストランでたかがアシスタントと席を共にするということは、恭祐のプライド的に許せないのだろうか。だから間に合わせとは言え、かおるにここまでしてくれているのかもしれない。いずれにせよ、かおるにとっては夢のような時間であることは事実。緊張しているとはいえ、楽しまなくてはいけないと思った。
昨日に引き続き、食事のオーダーは恭祐が全てを行ってくれた。飲み物も。
ホストテイスティングが終わって注がれたワインは、昨日よりも色の濃い赤だった。
デザートの盛り合わせの中のサバランを食べ終わる頃には、アルコールのせいか体がふわふわする感覚をかおるは覚えた。
「一杯、つきあえ。」
ホテルに戻った恭祐はタクシーを降りるなり、かおるにそう言った。かおるに拒否権はないのだから、これは事実上命令だ。
どうせ明日は土曜。時間的に付き合うのは簡単なことだ。けれど、もうお酒は飲めない。今夜は飲めないなりに、ワイングラス2杯分くらいは飲んでいる。
たとえ飲めなくても、命令は命令。かおるはいつものように『はい』とだけ答え、恭祐の腕に手を添えた。
ホテルのバーラウンジからはニューヨークの美しい夜景が見渡せた。
かおるはこの景色を恭祐の隣で見ていることが信じられないでいた。長い夢を見ているのではないかと。
「あの、わ、恭祐さん、どうかしましたか?」
「このまま、しばらく、このままで、」
不意に恭祐がかおるの肩先に唇をそわせた。そして腰を引き寄せ、左手は何の躊躇もなく胸の下のラインに添えられた。
薄暗いバーだから、これくらいのことをしていても目立つことはないかもしれない。でもかおるには、人目がどうのではなく、今、自分がどうすればいいのか、どうすべきなのか考えることが出来ないほど一杯一杯になっていることが問題だった。
体が氷のように硬くなっている。溶かすことが出来るのは恭祐の熱だけ。
「あっ、」
それがいとも容易く砕けた。溶けたのではなく、砕けたのだ。恭祐の手がするっと滑り込み、胸の頂に触れた。
「あの、恭祐さん、その、」
「普段の野暮ったい格好は随分と隠しているんだな。いいラインだし、なかなかいいものを持っている。」
「あん、止めてください、お願いします。」
「止めろだと、おまえはオレにあてがわれたアシスタントだろ。第一、こんないい反応をしておきながら。」
「お願いです、こんなところで、止めて下さい。」
「おまえが耐えればいい。気づかれて恥ずかしい思いをするのは、かおる、おまえだ。それに、こんなところでなければいいのか。オレを誘っているのか。」
「違います、うっ、あ、」
かおるは火照る体でとにかく耐えた。処女とは言え、気持ちいいものは気持ちいい。そして、体の疼きは止めようがない。体がおかしくなるを通り越して、頭がおかしくなってしまうと思ったときだった、恭祐の手の力が抜けた。代わりに、右側に恭祐の体の重みをかおるは感じた。
「恭祐さ、ん?」
重みと同時にかおるは熱も感じた。
ここ最近の無理な働き方、気候の変化、加えて長時間のフライト。恭祐が体調を崩したとしても何の不思議もない。
こんなことをしたのだって、熱が原因だったのだろう。そうとしか考えられない。
「恭祐さん、休んだほうがいいです。」
かおるもまたアルコールと恭祐からの刺激で体が変に火照っていた。けれど、体に力を入れ熱い恭祐を支えたのだった。
「まだ時間前だ。この場合、女性を待たせる方が失礼だろう。だから時間前に来たまでだ。行くぞ。」
昨夜同様腕を差し出され、かおるは躊躇しながらも軽く手を掛けた。
タクシーに乗るときも、恭祐は非の打ちどころがない完璧な身のこなしでかおるに対応した。まるでかおるを本当に大切にしてくれているのではないかと、錯覚を起こさせる程。
そして、到着した場所はまるで特別な晩餐会をしているのではないかと思うくらい華やかだった。ここにかおるの持参したワンピースでは、確かに不釣り合いだっただろう。いや、着ている自分が惨めで仕方なかったはずだ。
とは言え、この豪華なドレスを着ていても、慣れない場所への足取りは重い。
案内係と話し終わった恭祐が振り返った時には、かおるは逃げ出したくなっていた。まるで王子様のような恭祐が振り返って手を差し出した先にいる自分に耐えられず。それでもかおるも手を差し出さなくてはいけない。たとえ手が震えていようと。
恭祐は震える手を掴むと、かおるを自分へと歩み寄らせ、腰に手をあて引き寄せた。
「笑え。」
本当は笑っていない作り物の笑顔を向け、恭祐はかおるに笑顔を強要した。
分かり切っていることだ、作りものの笑顔であることは。それでも、かおるはときめいてしまった、恭祐の笑顔に。きっと周りには仲睦まじい二人が、特別のディナーの為に席を案内されているように見えていることだろう。
でも、どうしてその必要があるのであろうか。ふとそんなことをかおるは思った。
服は確かにこの雰囲気に見合うものが必要なのは、今、この場にいれば嫌でも分かる。では、恭祐とのこの距離感は?
金曜の夜にこのレストランでたかがアシスタントと席を共にするということは、恭祐のプライド的に許せないのだろうか。だから間に合わせとは言え、かおるにここまでしてくれているのかもしれない。いずれにせよ、かおるにとっては夢のような時間であることは事実。緊張しているとはいえ、楽しまなくてはいけないと思った。
昨日に引き続き、食事のオーダーは恭祐が全てを行ってくれた。飲み物も。
ホストテイスティングが終わって注がれたワインは、昨日よりも色の濃い赤だった。
デザートの盛り合わせの中のサバランを食べ終わる頃には、アルコールのせいか体がふわふわする感覚をかおるは覚えた。
「一杯、つきあえ。」
ホテルに戻った恭祐はタクシーを降りるなり、かおるにそう言った。かおるに拒否権はないのだから、これは事実上命令だ。
どうせ明日は土曜。時間的に付き合うのは簡単なことだ。けれど、もうお酒は飲めない。今夜は飲めないなりに、ワイングラス2杯分くらいは飲んでいる。
たとえ飲めなくても、命令は命令。かおるはいつものように『はい』とだけ答え、恭祐の腕に手を添えた。
ホテルのバーラウンジからはニューヨークの美しい夜景が見渡せた。
かおるはこの景色を恭祐の隣で見ていることが信じられないでいた。長い夢を見ているのではないかと。
「あの、わ、恭祐さん、どうかしましたか?」
「このまま、しばらく、このままで、」
不意に恭祐がかおるの肩先に唇をそわせた。そして腰を引き寄せ、左手は何の躊躇もなく胸の下のラインに添えられた。
薄暗いバーだから、これくらいのことをしていても目立つことはないかもしれない。でもかおるには、人目がどうのではなく、今、自分がどうすればいいのか、どうすべきなのか考えることが出来ないほど一杯一杯になっていることが問題だった。
体が氷のように硬くなっている。溶かすことが出来るのは恭祐の熱だけ。
「あっ、」
それがいとも容易く砕けた。溶けたのではなく、砕けたのだ。恭祐の手がするっと滑り込み、胸の頂に触れた。
「あの、恭祐さん、その、」
「普段の野暮ったい格好は随分と隠しているんだな。いいラインだし、なかなかいいものを持っている。」
「あん、止めてください、お願いします。」
「止めろだと、おまえはオレにあてがわれたアシスタントだろ。第一、こんないい反応をしておきながら。」
「お願いです、こんなところで、止めて下さい。」
「おまえが耐えればいい。気づかれて恥ずかしい思いをするのは、かおる、おまえだ。それに、こんなところでなければいいのか。オレを誘っているのか。」
「違います、うっ、あ、」
かおるは火照る体でとにかく耐えた。処女とは言え、気持ちいいものは気持ちいい。そして、体の疼きは止めようがない。体がおかしくなるを通り越して、頭がおかしくなってしまうと思ったときだった、恭祐の手の力が抜けた。代わりに、右側に恭祐の体の重みをかおるは感じた。
「恭祐さ、ん?」
重みと同時にかおるは熱も感じた。
ここ最近の無理な働き方、気候の変化、加えて長時間のフライト。恭祐が体調を崩したとしても何の不思議もない。
こんなことをしたのだって、熱が原因だったのだろう。そうとしか考えられない。
「恭祐さん、休んだほうがいいです。」
かおるもまたアルコールと恭祐からの刺激で体が変に火照っていた。けれど、体に力を入れ熱い恭祐を支えたのだった。
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