どうかあなたが

五十嵐

文字の大きさ
62 / 90

60 熱い体

しおりを挟む
「申し訳ございませんでした、お待たせしてしまって。」
「まだ時間前だ。この場合、女性を待たせる方が失礼だろう。だから時間前に来たまでだ。行くぞ。」

昨夜同様腕を差し出され、かおるは躊躇しながらも軽く手を掛けた。
タクシーに乗るときも、恭祐は非の打ちどころがない完璧な身のこなしでかおるに対応した。まるでかおるを本当に大切にしてくれているのではないかと、錯覚を起こさせる程。

そして、到着した場所はまるで特別な晩餐会をしているのではないかと思うくらい華やかだった。ここにかおるの持参したワンピースでは、確かに不釣り合いだっただろう。いや、着ている自分が惨めで仕方なかったはずだ。
とは言え、この豪華なドレスを着ていても、慣れない場所への足取りは重い。

案内係と話し終わった恭祐が振り返った時には、かおるは逃げ出したくなっていた。まるで王子様のような恭祐が振り返って手を差し出した先にいる自分に耐えられず。それでもかおるも手を差し出さなくてはいけない。たとえ手が震えていようと。

恭祐は震える手を掴むと、かおるを自分へと歩み寄らせ、腰に手をあて引き寄せた。
「笑え。」
本当は笑っていない作り物の笑顔を向け、恭祐はかおるに笑顔を強要した。
分かり切っていることだ、作りものの笑顔であることは。それでも、かおるはときめいてしまった、恭祐の笑顔に。きっと周りには仲睦まじい二人が、特別のディナーの為に席を案内されているように見えていることだろう。

でも、どうしてその必要があるのであろうか。ふとそんなことをかおるは思った。
服は確かにこの雰囲気に見合うものが必要なのは、今、この場にいれば嫌でも分かる。では、恭祐とのこの距離感は?

金曜の夜にこのレストランでたかがアシスタントと席を共にするということは、恭祐のプライド的に許せないのだろうか。だから間に合わせとは言え、かおるにここまでしてくれているのかもしれない。いずれにせよ、かおるにとっては夢のような時間であることは事実。緊張しているとはいえ、楽しまなくてはいけないと思った。

昨日に引き続き、食事のオーダーは恭祐が全てを行ってくれた。飲み物も。
ホストテイスティングが終わって注がれたワインは、昨日よりも色の濃い赤だった。
デザートの盛り合わせの中のサバランを食べ終わる頃には、アルコールのせいか体がふわふわする感覚をかおるは覚えた。

「一杯、つきあえ。」
ホテルに戻った恭祐はタクシーを降りるなり、かおるにそう言った。かおるに拒否権はないのだから、これは事実上命令だ。

どうせ明日は土曜。時間的に付き合うのは簡単なことだ。けれど、もうお酒は飲めない。今夜は飲めないなりに、ワイングラス2杯分くらいは飲んでいる。
たとえ飲めなくても、命令は命令。かおるはいつものように『はい』とだけ答え、恭祐の腕に手を添えた。

ホテルのバーラウンジからはニューヨークの美しい夜景が見渡せた。
かおるはこの景色を恭祐の隣で見ていることが信じられないでいた。長い夢を見ているのではないかと。
「あの、わ、恭祐さん、どうかしましたか?」
「このまま、しばらく、このままで、」
不意に恭祐がかおるの肩先に唇をそわせた。そして腰を引き寄せ、左手は何の躊躇もなく胸の下のラインに添えられた。

薄暗いバーだから、これくらいのことをしていても目立つことはないかもしれない。でもかおるには、人目がどうのではなく、今、自分がどうすればいいのか、どうすべきなのか考えることが出来ないほど一杯一杯になっていることが問題だった。
体が氷のように硬くなっている。溶かすことが出来るのは恭祐の熱だけ。
「あっ、」
それがいとも容易く砕けた。溶けたのではなく、砕けたのだ。恭祐の手がするっと滑り込み、胸の頂に触れた。

「あの、恭祐さん、その、」
「普段の野暮ったい格好は随分と隠しているんだな。いいラインだし、なかなかいいものを持っている。」
「あん、止めてください、お願いします。」
「止めろだと、おまえはオレにあてがわれたアシスタントだろ。第一、こんないい反応をしておきながら。」
「お願いです、こんなところで、止めて下さい。」
「おまえが耐えればいい。気づかれて恥ずかしい思いをするのは、かおる、おまえだ。それに、こんなところでなければいいのか。オレを誘っているのか。」
「違います、うっ、あ、」

かおるは火照る体でとにかく耐えた。処女とは言え、気持ちいいものは気持ちいい。そして、体の疼きは止めようがない。体がおかしくなるを通り越して、頭がおかしくなってしまうと思ったときだった、恭祐の手の力が抜けた。代わりに、右側に恭祐の体の重みをかおるは感じた。

「恭祐さ、ん?」
重みと同時にかおるは熱も感じた。
ここ最近の無理な働き方、気候の変化、加えて長時間のフライト。恭祐が体調を崩したとしても何の不思議もない。
こんなことをしたのだって、熱が原因だったのだろう。そうとしか考えられない。

「恭祐さん、休んだほうがいいです。」
かおるもまたアルコールと恭祐からの刺激で体が変に火照っていた。けれど、体に力を入れ熱い恭祐を支えたのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

惑う霧氷の彼方

雪原るい
ファンタジー
――その日、私は大切なものをふたつ失いました。 ある日、少女が目覚めると見知らぬ場所にいた。 山間の小さな集落… …だが、そこは生者と死者の住まう狭間の世界だった。 ――死者は霧と共に現れる… 小さな集落に伝わる伝承に隠された秘密とは? そして、少女が失った大切なものとは一体…? 小さな集落に死者たちの霧が包み込み… 今、悲しみの鎮魂歌が流れる… それは、悲しく淡い願いのこめられた…失われたものを知る物語―― *** 自サイトにも載せています。更新頻度は不定期、ゆっくりのんびりペースです。 ※R-15は一応…残酷な描写などがあるかもなので設定しています。 ⚠作者独自の設定などがある場合もありますので、予めご了承ください。 本作は『闇空の柩シリーズ』2作目となります。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...