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85「ここにいればいい」
夜が深まるにつれ、街のネオンが一段と輝く。
では、かおるが恭祐という闇に深く沈めば沈む程、何が輝いて見えるのだろうか。
タクシーの中から見える街を眺めながら、かおるはそんなことを思った。
ホテルに到着し、先に降りた恭祐がかおるにすっと手を差し出す。そして、『おいで』と声を掛けてくれた。恭祐から初めて言われた言葉にかおるは思わず緊張してしまう。
目の前に差し出された手を直ぐに取らなくてはいけないと分かっているのに、緊張からかなかなか自分の手が出せない。しかもようやく出した手の指先は微かに震えてしまっている。
恭祐の目にもそれは映っているだろう。そして、緊張しながら伸ばしたかおるの手は恭祐の掌の上の感触を味わう間もなく指先を包み込まれた。掌にかおるの指が到着したのを確認すると、恭祐の手が人差し指と小指の両外側を滑り指先を軽く捕まえたのだ。
その動きは性的経験が少ないかおるにも十分官能的なもので、背中にえも言われぬ感覚が走った。包み込まれたのは手先だけだと言うのに。
恭祐はその一言以外は部屋に到着するまで何も言わなかった。
自然な流れで指先から離れた手は腰に回り、かおるの取るべき行動を誘ってくれているからだ。
かおるが溺れる為に向かう場所は恭祐の部屋だと教えてくれている。だから、どこへ行くのかなど聞く必要はなかった。
扉が開き恭祐がフロアライトを点けると、今までの廊下とはまた違う黄色味の強い光が空間を照らした。しかし、部屋全体へ光は行き届かない。ただ、ベッドの周辺を照らしているだけだった。まるでかおるにそこへ行けばいいと知らせるかのように。
「あの」
連れてこられたものの、これからどうすればいいのか分からずかおるは言葉を発しようとした。しかし、何をどう言ったら良いのか分からない。出た言葉は頼りない『あの』だけ。
恭祐の周りにいる女性達ならば口付けを交わしながらベッドに縺れ込むのか、はたまた自らベッドの上に横たわり両手を広げ恭祐を迎え入れるのか。かおるが思い描く熟れた女性像はそんな感じだが、どちらも自分からは程遠い姿だ。
「このまま、ここにいればいい。かおるは」
そしてここでも恭祐はかおるの子供のような言葉を大人の世界へ繋げてしまう、いとも容易く。
二、三歩で止まってしまったかおるを横抱きにしてベッドに横たえ口付けるとバスルームへ消えてしまったのだった。
程なくして聞こえてきたカランから出た湯が浴槽を打ち付ける音。恭祐はかおるが想像したような態度など微塵も思い描いていなかったということだろう。第一、恭祐が慌ただしく性を貪るはずがない、しかもかおる相手に。
だからかおるをベッドに下ろし、バスルームへ向かった。
今までは先を読みながら、これで正しいのかどうか戦々恐々と過ごしていたというのに。恭祐に所有してもらえたならば、何も考えなくて良くなってしまいそうだ。
それはそれでどうなのだろうか。
と、そこまで思ってかおるは重要なことに気付いた。いくらポーっとしていたからとはいえ、恭祐に風呂の支度をさせているという。
では、かおるが恭祐という闇に深く沈めば沈む程、何が輝いて見えるのだろうか。
タクシーの中から見える街を眺めながら、かおるはそんなことを思った。
ホテルに到着し、先に降りた恭祐がかおるにすっと手を差し出す。そして、『おいで』と声を掛けてくれた。恭祐から初めて言われた言葉にかおるは思わず緊張してしまう。
目の前に差し出された手を直ぐに取らなくてはいけないと分かっているのに、緊張からかなかなか自分の手が出せない。しかもようやく出した手の指先は微かに震えてしまっている。
恭祐の目にもそれは映っているだろう。そして、緊張しながら伸ばしたかおるの手は恭祐の掌の上の感触を味わう間もなく指先を包み込まれた。掌にかおるの指が到着したのを確認すると、恭祐の手が人差し指と小指の両外側を滑り指先を軽く捕まえたのだ。
その動きは性的経験が少ないかおるにも十分官能的なもので、背中にえも言われぬ感覚が走った。包み込まれたのは手先だけだと言うのに。
恭祐はその一言以外は部屋に到着するまで何も言わなかった。
自然な流れで指先から離れた手は腰に回り、かおるの取るべき行動を誘ってくれているからだ。
かおるが溺れる為に向かう場所は恭祐の部屋だと教えてくれている。だから、どこへ行くのかなど聞く必要はなかった。
扉が開き恭祐がフロアライトを点けると、今までの廊下とはまた違う黄色味の強い光が空間を照らした。しかし、部屋全体へ光は行き届かない。ただ、ベッドの周辺を照らしているだけだった。まるでかおるにそこへ行けばいいと知らせるかのように。
「あの」
連れてこられたものの、これからどうすればいいのか分からずかおるは言葉を発しようとした。しかし、何をどう言ったら良いのか分からない。出た言葉は頼りない『あの』だけ。
恭祐の周りにいる女性達ならば口付けを交わしながらベッドに縺れ込むのか、はたまた自らベッドの上に横たわり両手を広げ恭祐を迎え入れるのか。かおるが思い描く熟れた女性像はそんな感じだが、どちらも自分からは程遠い姿だ。
「このまま、ここにいればいい。かおるは」
そしてここでも恭祐はかおるの子供のような言葉を大人の世界へ繋げてしまう、いとも容易く。
二、三歩で止まってしまったかおるを横抱きにしてベッドに横たえ口付けるとバスルームへ消えてしまったのだった。
程なくして聞こえてきたカランから出た湯が浴槽を打ち付ける音。恭祐はかおるが想像したような態度など微塵も思い描いていなかったということだろう。第一、恭祐が慌ただしく性を貪るはずがない、しかもかおる相手に。
だからかおるをベッドに下ろし、バスルームへ向かった。
今までは先を読みながら、これで正しいのかどうか戦々恐々と過ごしていたというのに。恭祐に所有してもらえたならば、何も考えなくて良くなってしまいそうだ。
それはそれでどうなのだろうか。
と、そこまで思ってかおるは重要なことに気付いた。いくらポーっとしていたからとはいえ、恭祐に風呂の支度をさせているという。
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