どうかあなたが

五十嵐

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86 手酷い

恭祐は浴槽に落ちていく少し熱めの湯を眺めていた。そしてこれからのことを考える。どういう方法でかおるを閉じ込めるのかを。

恭祐が言った『ここにいればいい』をかおるはどういう意味で捉えただろう。聞くまでもなく字面通りに理解したに違いない。いくら五年以上共に働いたアシスタントとはいえ、恭祐の深い闇のような心は理解出来ないはずだ。

『ここ』はベッドの上ではない。恭祐の望む場所ということだ。他の誰かが触れることが出来ない籠の中という。
そして、その籠の中は喜びで溢れていなければならない。喜びに満たされていれば、他に気を取られることはなくかおるという鳥は飛び立つことすら忘れるだろう。


しかし『喜び』を知るには、その対となることを経験させる必要がある。90点を取っている人間が100点を取るのと、10点を取っているいる人間が100点を取るのとでは喜びが違うように。

飴と鞭とはよく言ったものだ。かおるが気付かないように恭祐は風切羽を切らなくてはいけない。甘さに浸かっているうちに、失っているように。

図らずしも今までの関係性から、少しの甘さを見せればそれはかおるにとって麻酔薬のように全てを麻痺させるだろう。痛みすら感じられなくなるような。

現にかおるは先ほども恭祐の言葉に緊張しつつも差し出された手を取った。『おいで』という言葉に甘さを感じ、震えながらも自ら手を乗せたのだ。恭祐は待っていただけ。そして捉えた。本当ならば警戒が必要で、罠かもしれないと思うべき恭祐の手を。

酷い男に絡め取られようとしているのに気付いていない。これからどんなことが待ち受けているのか、今までの全てから想像がつくはずなのに。

恭祐はどこまで手酷く出来るのか、どこまで手酷くすべきか考えた。かおるはきっと恭祐の気に入っているあの表情を何度も浮かべるはず。でも、それは恐怖からではなく守られる為の通過儀礼だと考えを置き換えさせなくてはいけない。

これからのことを思うと自然に笑いが込み上げそうになるのを堪え、恭祐はそろそろここへかおるを連れて来なければと思った。
今夜からは新たな関係に向け、今までとは違う躾を施さなくてはならないのだから。
一方的ではなく、かおるからも求めるようにする為に。求める為には、自ら籠に入り足を開き誘わなくてはいけないことも教えなくては。

浴室から戻ると、程よくアルコールが回ったかおるが微睡んでいた。まるで時間など掛けずにここで襲って欲しいと言っているかのよう。勿体無い気はするが、躾は重要。

恭祐は再び力の抜けたかおるを抱き上げたのだった。
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