どうかあなたが

五十嵐

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87 幕開け

浴室にかおるを運ぶと、恭祐は洗面台の空いている広いスペースにかおるを座らせた。
大きな鏡につけられたミラーライトがかおるを横から照らす。

かおるはただ人口の光に照らされているだけ。それなのに、不思議な錯覚を恭祐に与えた。まるで春光の中、二人で、花の香りが届くのを待つような。
実際に香を放っているのは、洗面台の反対側のスペースに置かれているリードディフューザー。浴室内の室温が上がったせいか、香はやや強くなっているようだ。

どうしてこんな錯覚を覚えるのか。こんな光景は恭祐の思い出の中にはないというのに。
それとも覚えていないだけなのか。
でも、これから恭祐が行おうとしていることは春の日差しのように優しくはない。

「脱いで」
「脱ぐ?」
「服を全て」
「ここで、ですか?」
「勿論、ジーンズを脱がす時は立ち上がらせてあげよう」

かおるに拒否するという選択肢を与えないように話し、恭祐は視線で行為を促した。煌々と照らされる中、ストリップを恭祐の前でやれと。

命令には背かないよう躾けた。会社という組織の中では従うようにと。勿論、仕事を上手く進められるように躾けただけだ。方法は些か褒められたものではなかったが。
しかし、今は組織の中ではなく、かおるにも選択する自由がある状況。

けれど恭祐は知っている。かおるが自由を選ばない、否、端からそんなものは存在していないと思わせる方法を。もう何年一緒にいたかを考える必要がないほど、恭祐はを知っているのだから。
知らないのはそれ以外のかおるだけ。こんなに長い時間を過ごしていたのに、恭祐の下で何を思い何を考えて働いていたのかが分からない。
どうして仕事を辞めるのかも。辞めるよう仕向けていた時ではなくなぜこのタイミングなのかも。

でも、閉じ込めてしまうのならこれからいくらでも知っていける。その為にも言わなくてはならない。

「手伝って欲しいなら、そう言えばいい。かおるはオレのものなのだから。でも、かおるはオレの手を煩わせたいか?」

最後の問いかけ部分に、かおるは首を左右に振った。恭祐を煩わすことがないように常に仕事を回していたかおるだからこその仕草に恭祐は言う。

「じゃあ、今すぐ脱ぐんだ。ここで見てるから。どうせなら楽しませてくれるといい。出来るだろ、オレのものになったかおるなら」

かおるは恭祐の目を見ながらゆっくり頷いた。
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