年に一度の旦那様

五十嵐

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103 フリカの策略

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「奥様、大変お美しゅうございます。旦那様から贈られたドレスが奥様の美しさを引き立ててくれています」
フリカの大きな声は、広い邸内の午前中の掃除に追われる使用人たちの耳にも届いたことだろう。いくら掃除に集中しているといっても、大きな声は聞こえてしまうものだ。ただ、聞くことに集中していたわけではないので、全てを正確に聞き取れてはいない。それでも、近くにいたであろう数人の使用人は休憩室でフリカの言葉の『答え合わせ』をするはずだった。なぜなら、その答えはマクレナン侯爵邸にいるノアに関わる三人の女性の序列を意味するものだからだ。

数年前、追いやられるように北の邸へ向かったレイチェル。
ノアが頻繁にそれぞれの部屋を訪ねていた愛人二人。だが、それはノアが北の邸から戻るとぱたりと止まってしまった。
そして、数日前に戻ってきたレイチェルへのノアの対応。

使用人たちが知る事実に、フリカがわざと大きな声で加えたエッセンス。ありがたいことに、休憩室での『答え合わせ』にはさらなる情報が加わっていった。なぜなら、そこは使用人休憩室。邸内で働く様々な使用人が利用するからだ。
『美しいドレスを既に何枚も贈った』『朝食の後に、ノア様が本日のレイチェル様のドレスを選んだ』『ノア様が馬車に多めのクッションを指示した』などなど。けれど、それを最初から最後まで管理する使用人はいない。あくまでもそこは休憩室。誰かが誰かの発言を記録するわけでもなく、最初から最後までを聞いて正しい結論を出す者もいない。ただ、口伝で事実らしきことが広がっていくだけだ。もちろんその中にはアナベルとナタリア付きの侍女もいる。愛人二人の侍女こそ邸内の流れを読まなければならないだけに、それらの情報への感度は高い。

レイチェルがノアと共に街のメゾンに到着する頃には、邸内の使用人の半数以上がこれらの情報を事実として知ることとなった。次期侯爵のノアとその夫人のレイチェルの様子を好意的に話す分にはお咎めがないことも手伝って。

『耳の聞こえが悪く』 『声が大きい』フリカは、使用人たちの囁きを拾うと同時に、アナベルとナタリアへこれらの情報が届くまでにさほど時間を必要としないと確信した。重要なのは二人が知ることではない、どういう行動を取るかだ。

レイチェルがタウンハウスに呼び戻された時点で、マクレナン侯爵がそろそろ二人をどうにかしようと考えていたのは明らかだった。しかし、ノアの寵愛を信じていた二人は、最終的にどうにかなると楽観視する部分があったはずだ。加えて、あの使えないアレクが二人に馬鹿な話を持ち掛けたとロイが掴んだ。では、一人分の席も用意されないと知った時、二人はどのような行動に出るのだろうか…。
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