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104 ベテルリナの言葉の先
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流行の最先端を行く人気デザイナーが手掛けるメゾン。麗しい笑みを浮かべた妻が豪華な馬車から降りるのを夫が手伝う。この光景がもし今ではなく、ノアと婚約した当時にあったなら、レイチェルはどう思っただろうか。彼女は自身に問いかけた。
貴族の娘として生まれた以上、その役目を果たすには贅沢すぎる状況だと感じただろうか。コリンス伯爵家ではまるでいない者のように扱われ、その存在を認められるのはただ貶められる時だけだったレイチェルにとって、それはなおさらだった。
『貴族には様々な責務があります。そこに生まれた娘は、家の利益になる婚姻をするというのが最も重要な務めです。そして嫁いだのならば、次は婚家の繁栄の為、子を儲けなくてはなりません』
『でもね、本当は違うの』
母、ベテルリナは自分の命の灯が消えようとしていると悟った頃から、それまでの建前ではなく本音をレイチェルに語るようになった。『本当は違う』と。その建前の中では、ベテルリナにレイチェルを産んだ以外の幸せは訪れなかったのだと。
裕福ではない伯爵家の、しかも前妻が残したぞんざいに扱われている娘が、侯爵家の中でも一、二を争う財力と権力を持つマクレナン侯爵家への嫁入りが決まったのだ。貴族の娘ならば喜ぶべきことだろう。その相手に愛人の一人や二人がいたとしても。そして、婚約当時あんな風に扱われることなど、侯爵夫人としての未来を考えればどうってことはないはずだった。
けれど…いつか伯爵家を抜け出して自由になりたいと思っていたレイチェルには、侯爵夫人という立場に魅力などなかった。あの図書館で、今となっては会うべくして出会ったと思える、どこまでも広がる青い空のように自由を彷彿とさせる瞳を持つロイを、婚約前に知ってしまっていたのだから。
マクレナン侯爵家の使用人としてロイがいてくれたからこそ、レイチェルは諦めなかった。ベテルリナが言った「本当は違う」の先を知るために。レイチェルはきっとその先を知ることができるだろう。そのためにも、今はノアに笑みを返し、その手を取らなくては。
次期侯爵として完璧な振る舞いをするノアと、美しく輝くようなレイチェル。メゾンの入口で出迎えた店主を始め、デザイナーやお針子たちは皆、二人が結婚後数年離れて暮らしていたなどと信じられないと思ったのだった。
貴族の娘として生まれた以上、その役目を果たすには贅沢すぎる状況だと感じただろうか。コリンス伯爵家ではまるでいない者のように扱われ、その存在を認められるのはただ貶められる時だけだったレイチェルにとって、それはなおさらだった。
『貴族には様々な責務があります。そこに生まれた娘は、家の利益になる婚姻をするというのが最も重要な務めです。そして嫁いだのならば、次は婚家の繁栄の為、子を儲けなくてはなりません』
『でもね、本当は違うの』
母、ベテルリナは自分の命の灯が消えようとしていると悟った頃から、それまでの建前ではなく本音をレイチェルに語るようになった。『本当は違う』と。その建前の中では、ベテルリナにレイチェルを産んだ以外の幸せは訪れなかったのだと。
裕福ではない伯爵家の、しかも前妻が残したぞんざいに扱われている娘が、侯爵家の中でも一、二を争う財力と権力を持つマクレナン侯爵家への嫁入りが決まったのだ。貴族の娘ならば喜ぶべきことだろう。その相手に愛人の一人や二人がいたとしても。そして、婚約当時あんな風に扱われることなど、侯爵夫人としての未来を考えればどうってことはないはずだった。
けれど…いつか伯爵家を抜け出して自由になりたいと思っていたレイチェルには、侯爵夫人という立場に魅力などなかった。あの図書館で、今となっては会うべくして出会ったと思える、どこまでも広がる青い空のように自由を彷彿とさせる瞳を持つロイを、婚約前に知ってしまっていたのだから。
マクレナン侯爵家の使用人としてロイがいてくれたからこそ、レイチェルは諦めなかった。ベテルリナが言った「本当は違う」の先を知るために。レイチェルはきっとその先を知ることができるだろう。そのためにも、今はノアに笑みを返し、その手を取らなくては。
次期侯爵として完璧な振る舞いをするノアと、美しく輝くようなレイチェル。メゾンの入口で出迎えた店主を始め、デザイナーやお針子たちは皆、二人が結婚後数年離れて暮らしていたなどと信じられないと思ったのだった。
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