年に一度の旦那様

五十嵐

文字の大きさ
109 / 123

108 笑顔の下にある感情

しおりを挟む
クレアは親切そうな笑みを浮かべながら、レイチェルの療養が終わったことを共に喜びたいと伝えた。これからは親戚として、良い関係を築いていきたいとも。

「ですが、やはりわたくしは懸念を覚えます。夫人とコリンス伯爵夫人は親戚というだけでなく、とても仲が良いと記憶しておりますから。夫人とコリンス伯爵夫人の関係のためにも、わたくし達は今までと同じ距離感を保つ方が良いのでは?それこそがわたくし達にとっての良い関係ではないでしょうか」

クレアはレイチェルをコリンス伯爵家の長女として、いや、そこにいる者として扱ったことがなかった。レイチェルの記憶にあるのは、自分がそこにいることを許されなかった家族の食事風景。アリッサの友人が来た時も、伯爵家の客が来た時も、レイチェルは伯爵家の人間としてそこにいてはならなかった。だから言ってみたのだ、これまでと同じでいようと。今さら関係を変えるよりも、ずっと同じ方が良いのではないかと。

レイチェルの言葉から、クレアはレイチェルの気持ちに気づくだろう。けれど、茶会の席でそうまで言う本当の理由にはたどり着けないはず。レイチェルがクレアを焦らせようとしているとは思いもよらないだろう。
焦れば焦るほど、クレアは早々に仕立て屋をレイチェルの首筋に触れさせたくなるはずだ。今までと同じ関係を望まれてしまえば、「お祝い」から遠ざかってしまうのだから。

「レイチェル様、仰る通り過去のわたくしはコリンス伯爵家の長女であるあなた様を蔑ろにしてしまいました。その事実、過去は変えられません。ですが、どうか未来は変えさせてください」

心からそう願うという表情を浮かべたクレア。しかしレイチェルは見逃さなかった。クレアの表情が一瞬、真顔になったのを。レイチェルは昔読んだ本の内容を改めて思い出した。笑顔の後の真顔は、それまでの笑顔が作り笑いであることを表すと。だとすれば、クレアはそんなことを思ってはいないということだ。

「実は、この者は実家のアーミテージ子爵家から連れてまいりました。非常に腕の立つ仕立て職人なのです。今までのお詫び、そしてこれからの関係のために素晴らしいドレスシャツを誂えさせてはいただけませんか。最高級の生地に美しいレースを施し、身につける全てのスカートを引き立てることができる逸品を作るとお約束します」

レイチェル、そしてその場に控えていたロイもフリカもクレアの発言に驚いた。まさか従者として連れてきた男がアーミテージ子爵家からの者で、しかも仕立て屋であることまでクレアが明かすとは。

確かに焦らせたいとは思っていたが、クレアの今までを考えると何かがおかしいとレイチェルたちは思った。焦りとは違う、そう切実さというべきか、クレアには何かがある。だから、今までの距離感とは違う招待状を差し出すなどというそもそもおかしな行動を取ったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】 エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)

夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。 どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。 (よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!) そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。 (冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?) 記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。 だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──? 「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」 「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」 徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。 これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。

旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう

おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。 本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。 初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。 翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス…… (※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)

もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~

桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜 ★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました! 10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。 現在コミカライズも進行中です。 「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」 コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。 しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。 愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。 だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。 どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。 もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。 ※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!) 独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。 ※誤字脱字報告もありがとうございます! こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

処理中です...