108 / 123
107 祝い
しおりを挟む
数年前、ロイがアーミテージ子爵家から力の所有者である二人を逃がしてから、リンデルはレイチェルの下で暮らしている。本人は罪を償うには不十分だと感じながらも、少しでも役に立ちたいと願いながら。
もう一人の男は、ロイが引き続き支援し、匿い続けていた。しかし数か月前、その男は力が尽きたと感じ、旅立った。アーミテージ子爵家に縛られていた頃には無縁だった「自由」を旅することで感じたいと願って。ロイはその時、感じるだけでなく自由を楽しめるよう、多めの路銀を渡したそうだ。勿論、いつでも戻ってきて良いと伝えることも忘れずに。アーミテージ子爵家にいた時、力を失えばただのお払い箱になるだけだった男にとってロイの申し出は、力の有無ではなく人として扱ってもらえたと感じられたことだろう。
二人を失ってしまったアーミテージ子爵家は、その後新たな加法の力を持つ者を手に入れた。しかし、その力はあまり強くない。それは、アーミテージ子爵家の裏商売において薬草の品質が低いことを意味する。だからこそ、アーミテージ子爵は引き続き、より強い力の保有者を見つけようと躍起になっているのだろう。マクレナン侯爵家に嫁いだレイチェルにまで範囲を広げるほどに。
しかし、レイチェルを調べに来たのは、力の保有者を見つけるという単純な理由だけではない。子爵は、一度手にしてしまった減法という力が再び欲しいのだ。リンデルが持つ減法の力は、子爵にとって非常に良い商品だったのだから。
クレアは実家のために、力の強さまでは望めないにしても、コリンス伯爵の娘であるレイチェルに同じ力がないか確かめに来たのだろう。ノアの妻であるレイチェル。当然、子爵とクレアはレイチェルを「大人」だと思っている。
クレアはどうやって仕立て屋にレイチェルの首を触れさせるのか。どのような会話の流れに導いたとしても、クレアは仕掛けてくるはずだ。
クレア達を応接室に通し、一段落すると、レイチェルはフリカにお茶の用意をさせた。
「グルーバー子爵夫人のお口に合うといいのですが。このお茶は血流が良くなるそうですわ。シナモンとミルクを入れて飲むと、さらに風味が増しますわ」
レイチェルはあえて「良くなる」「増す」という言葉を使うことで、クレアと子爵が望んでいるであろう「減る」を意識させた。そして、コリンス伯爵家、いや、アリッサの名前を出すことで、自身の前に大きな見えない壁を作ることにした。
「ところで、以前わたくしがここにいる時に交流などなかった夫人から急に招待状が届いて驚きましたわ。夫人はコリンス伯爵夫人と仲の良い親戚ですもの、きっと伯爵邸での扱いと同じようになさっていたのですよね、当時は。それが、どうして急に?」
「それは…」
「まさかとは思いますが、わたくしの実家から伝言でも預かっていらっしゃるのですか。王都に戻ってから、コリンス伯爵家の状況があまり良くないと耳にしたもので、今更わたくしに」
「いいえ、それは違います。以前はアリッサの手前、あまり交流を持てませんでしたが、レイチェル様の方がわたくしにとって近い親戚となります。それで療養からお戻りになったと聞いたもので、お祝いをしたいと思いまして」
レイチェルはクレアの言葉に、いつかのリンデルの話を思い出した。養父から祝いにシャツを誂えると言われた時の話を。
もう一人の男は、ロイが引き続き支援し、匿い続けていた。しかし数か月前、その男は力が尽きたと感じ、旅立った。アーミテージ子爵家に縛られていた頃には無縁だった「自由」を旅することで感じたいと願って。ロイはその時、感じるだけでなく自由を楽しめるよう、多めの路銀を渡したそうだ。勿論、いつでも戻ってきて良いと伝えることも忘れずに。アーミテージ子爵家にいた時、力を失えばただのお払い箱になるだけだった男にとってロイの申し出は、力の有無ではなく人として扱ってもらえたと感じられたことだろう。
二人を失ってしまったアーミテージ子爵家は、その後新たな加法の力を持つ者を手に入れた。しかし、その力はあまり強くない。それは、アーミテージ子爵家の裏商売において薬草の品質が低いことを意味する。だからこそ、アーミテージ子爵は引き続き、より強い力の保有者を見つけようと躍起になっているのだろう。マクレナン侯爵家に嫁いだレイチェルにまで範囲を広げるほどに。
しかし、レイチェルを調べに来たのは、力の保有者を見つけるという単純な理由だけではない。子爵は、一度手にしてしまった減法という力が再び欲しいのだ。リンデルが持つ減法の力は、子爵にとって非常に良い商品だったのだから。
クレアは実家のために、力の強さまでは望めないにしても、コリンス伯爵の娘であるレイチェルに同じ力がないか確かめに来たのだろう。ノアの妻であるレイチェル。当然、子爵とクレアはレイチェルを「大人」だと思っている。
クレアはどうやって仕立て屋にレイチェルの首を触れさせるのか。どのような会話の流れに導いたとしても、クレアは仕掛けてくるはずだ。
クレア達を応接室に通し、一段落すると、レイチェルはフリカにお茶の用意をさせた。
「グルーバー子爵夫人のお口に合うといいのですが。このお茶は血流が良くなるそうですわ。シナモンとミルクを入れて飲むと、さらに風味が増しますわ」
レイチェルはあえて「良くなる」「増す」という言葉を使うことで、クレアと子爵が望んでいるであろう「減る」を意識させた。そして、コリンス伯爵家、いや、アリッサの名前を出すことで、自身の前に大きな見えない壁を作ることにした。
「ところで、以前わたくしがここにいる時に交流などなかった夫人から急に招待状が届いて驚きましたわ。夫人はコリンス伯爵夫人と仲の良い親戚ですもの、きっと伯爵邸での扱いと同じようになさっていたのですよね、当時は。それが、どうして急に?」
「それは…」
「まさかとは思いますが、わたくしの実家から伝言でも預かっていらっしゃるのですか。王都に戻ってから、コリンス伯爵家の状況があまり良くないと耳にしたもので、今更わたくしに」
「いいえ、それは違います。以前はアリッサの手前、あまり交流を持てませんでしたが、レイチェル様の方がわたくしにとって近い親戚となります。それで療養からお戻りになったと聞いたもので、お祝いをしたいと思いまして」
レイチェルはクレアの言葉に、いつかのリンデルの話を思い出した。養父から祝いにシャツを誂えると言われた時の話を。
57
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
旦那様、政略結婚ですので離婚しましょう
おてんば松尾
恋愛
王命により政略結婚したアイリス。
本来ならば皆に祝福され幸せの絶頂を味わっているはずなのにそうはならなかった。
初夜の場で夫の公爵であるスノウに「今日は疲れただろう。もう少し互いの事を知って、納得した上で夫婦として閨を共にするべきだ」と言われ寝室に一人残されてしまった。
翌日から夫は仕事で屋敷には帰ってこなくなり使用人たちには冷たく扱われてしまうアイリス……
(※この物語はフィクションです。実在の人物や事件とは関係ありません。)
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。
もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません~死に戻った嫌われ令嬢は幸せになりたい~
桜百合
恋愛
旧題:もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません〜死に戻りの人生は別の誰かと〜
★第18回恋愛小説大賞で大賞を受賞しました。応援・投票してくださり、本当にありがとうございました!
10/24にレジーナブックス様より書籍が発売されました。
現在コミカライズも進行中です。
「もしも人生をやり直せるのなら……もう二度と、あなたの妻にはなりたくありません」
コルドー公爵夫妻であるフローラとエドガーは、大恋愛の末に結ばれた相思相愛の二人であった。
しかしナターシャという子爵令嬢が現れた途端にエドガーは彼女を愛人として迎え、フローラの方には見向きもしなくなってしまう。
愛を失った人生を悲観したフローラは、ナターシャに毒を飲ませようとするが、逆に自分が毒を盛られて命を落とすことに。
だが死んだはずのフローラが目を覚ますとそこは実家の侯爵家。
どうやらエドガーと知り合う前に死に戻ったらしい。
もう二度とあのような辛い思いはしたくないフローラは、一度目の人生の失敗を生かしてエドガーとの結婚を避けようとする。
※完結したので感想欄を開けてます(お返事はゆっくりになるかもです…!)
独自の世界観ですので、設定など大目に見ていただけると助かります。
※誤字脱字報告もありがとうございます!
こちらでまとめてのお礼とさせていただきます。
邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです
ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる