<完結>してみたいとは願いましたが…

五十嵐

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王女という立場は国という機関に設けられた最高職の一つ。常に腹の内を探らせない笑みを浮かべ、どんな小さなことも見逃さないよう観察し続ける。それは王配達も同じ。

では、王である父はどうだろう。今は亡き母がいた頃、二人は娘のローザリアから見てもとても仲睦まじい夫婦だった。但し、家族三人の時だけだったが。

家族という単位を離れれば、二人共それぞれ王と王妃という仮面を付け続けていた。それは完璧に。そのことを思うと、二人はローザリアがいない夫婦という単位の時にはもっと違う雰囲気を纏っていたことだろう。父は母を愛し続けた結果、その後独り身を貫いている。お陰で、ローザリアがこの国でも滅多にお目にかかることがない『後継が王女一人の場合』で始まる法に従うことになってしまったのだが。

結婚前の三か月間で行われた四人での茶会。ローザリアは思ったのだ、このままでは閨でも王女とその王配という仮面を付け続け、心を通わせることなく体だけ重ねるのだと。互いの仮面の下の感情を盗み見しながら。
両親のように、仮面を外す時間を持つことは出来ないのだと。

だったら、何の反応も窺わせないよう心を閉ざせばいい。王女としての責務からは逃れられないのだから、向き合うしかない。でも、心が壊れないよう守る為に、心を閉ざす。これがローザリアの決めたことだった、結婚式の前日に。

しかし、今は男女のあれやこれをローザリアよりは、否この中では一番知っていると思われる夏菜子がここにいる。誇れるような恋愛経験がなかったとしても、たぶん一番な夏菜子が。
土壇場過ぎる状況理解だったけれど、何か違う手を打てるかもしれない。心を閉ざすなんて悪手過ぎる。

まあ、その前に時間稼ぎついでにルイスの教育について話してもらおう。ローザリアが立ち聞きしてしまったあの日の話の中で一番ムカつく内容を話したルイスに。たまたまとはいえ、最初のターゲットをルイスにして良かったと夏菜子は思った。ここはしっかり吊るし上げたい。

でも、王配に選ばれなかった他の候補者も同じような理由で参加していた可能性がある。貴族という身分社会の中で自由を勝ち取ろうと頑張っていたのかもしれない。貴族の視点に立ったのなら、ルイスの行いは止む無しなんだろうか。ムカつくけれど…。だって、他の女の為にローザリアの夫に成りたいだなんて。

ルイスの立場になれば、そこに理由はあった。けれど、多少はムカつきを解消させていただきたい。夏菜子は素敵な二者択一をルイスに用意し多少ムカつきを解消させていただくことにした。
「ルーの家での教育は机上だけ、それとも実技も?」
「…」

「どっちだったの、教えて。ジュールが言ったようにわたし達は夫婦で家族よ。だから、何でも率直に話しましょう。ルーもブラッドと一緒にジュールの言葉に同意したでしょ」
「我が家は机上がメインでした。ただ、少しだけ実技もまじえましたが」
「少しの実技とはどういうことかしら?」

夏菜子は不思議そうな顔をして人差し指を唇に当てながらコテンと首を傾げてみた。ジュリアンの時は自分がどのような顔をしているか分かっていなかったが、今は分かる。はっきり言って目の大きな美人顔だ。前世の夏菜子では出来なかったあざと可愛いでガンガン攻められる。

ルイスの言う少しの実技とは、手扱きかフェラを誰かにしてもらったとかではないかと想像はつくが、飽く迄も想像は想像に過ぎない。事実確認はしっかりしないと。

「ねえ、ルー。それでは聞き方を変えるわ。完全な実技って何?」
夏菜子は『さあ、来い!』と言わんがばかりに今度は微笑みを浮かべ、首を反対側に傾けた。当てていた人差し指はしまって、グーにしてから顎を乗せ。
知りうる限りのあざとさオンパレードを特別披露!トップバッターのルイスには大盤振る舞いをすることにしたのだ。

「それは…」
とうとうルイスは目の動き、仕草、ちょっとした言葉で他の二人との会話が出来なくなった。夏菜子は陥落かしらと心の中でほくそ笑んだのだった。
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