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翌朝、目覚めると神々しいジュリアンの顔が夏菜子の視界に飛び込んできた。心臓が飛び出るなんてものではない。止まって、そのまま天へ昇り詰め、今度は天使のようなジュリアンに出会えるではないかと思える程だ。

「お目覚めかな、お姫様?」
やばいやばい、また王子様スマイルのジュリアンだ。ローザリアの方が本当のお姫様だというのに、なんだろうかこの敗北感。自信喪失なんてものではない。

「ごめんなさい、わたし、昨日、最後は寝てしまったのね、こんな姿のまま」
「安心して、体は清めたから」
清めるだけでなく、何か身に纏わせて欲しかったと思う夏菜子の臀部に固いものが当たる。目覚めを確認し後ろからバックハグのようなスタイルで朝からお元気なものを擦りつけるなんてことをするのはブラッドリーだろう。ルイスはそんな技を持ち合わせていそうにない。
そして素肌が当たることからブラッドリーも全裸だ。

「ローザ、おはよう。こっちを向いて。目覚めのキスをしよう」
もぞもぞと動き、向きを変えるや否や夏菜子はブラッドリーのバードキスを浴びた。すると、ジュリアンもまた臀部に固いものを擦り付ける。


二十代前半の健全な男子の二人だ、朝の生理現象は当然のこと。貴族のそこら辺の事情は知らないけれど、朝のフレッシュな精液を放出させる係が邸にいたのだろうかと夏菜子は考えた。

「ジュールの固いのに、触れてもいい?」
顔をブラッドリーからジュリアンへ向けながら、夏菜子は出来る限り可愛らしく尋ねた。結婚した以上、ジュリアンはお役御免になる以外、ローザリアとしか触れ合えないのだ。それも含めて王配になってくれたと思うと、夏菜子としても尽くしたい。

「いいの、ローザ?」
「だって、破裂したら大変だもの。中のモノを出さないと…」
破裂などしないとは知っているが、良く分からない風のローザリアを演じ『初心で可愛い』と思ってもらおうと夏菜子は目論んだ。既に夫婦であっても恋愛面はこれから。だったら少しでも可愛いと思ってもらい、これからに繋げたい。

するとブラッドリーが耳元で『俺もして欲しい』と呟いた。
色気のあるブラッドリーの重低音に腰が砕けそうになりながら、夏菜子は考えた。同時に二本となると、手ではダメだと。右と左で差が出てしまう。

ジュリアンに最初に声を掛けたのは、三人の中にある暗黙の順番のせい。しかし、この部屋の中では上下関係なしで公平でいたいと言ったのは夏菜子だ。だったらブラッドリーに待てをさせてはいけない気がする。

「ブラッドは擦ってもらうのと、擦るの、どっちがいい?」
「可愛い質問だね、ローザ。どう違うのか具体的に教えてくれる?」
「…片手で一本ずつは難しいもの。だから、一人は手、一人はわたしの大切なところを使ってもらおうと思って」
ここまで言えば理解してくれるだろうと、夏菜子はブラッドリーへ向きを直し上目使いで見つめてみた。

そんな夏菜子の耳元でジュリアンが囁いた『俺は口がいいな、そうすればブラッドリーはどちらでも選べる』と。
ジュリアンの意見はごもっとも、だけれど…。

複数プレイはなかなか難しいと夏菜子は思った。これが完全にそういう趣味の人達の集まりでルールが明確ならば問題ないだろう。順番を待てる。しかし、三人は夫で夏菜子の昨夜の個人的な制定により平等。だから、一方に偏らないよう交互に言葉を掛けたというのに。その度に『次』が発生してしまう。まるでローザリアの寵愛を得ようとするように。

そこで夏菜子ははたと気付いた。夏菜子だって好意を持ってもらおうと様々なアピールをしている。この二人もそうなのだろうかと。

ローザリアは生まれた時から王女。周囲が意を酌み、全てが恙無く進められていく立場だ。使用人達もそうであることを心掛け仕えている。

三人の王配達との交流が進まなかったのは、ローザリアが同じことを知らず知らずのうちに彼らへ望んでいたからだ。三人がローザリアの真意を汲み取ってくれれば、すすんで深い部分へ踏み込んでくれると。

しかしブラッドリーが言ったように、ローザリアの感情を三人共窺うことは出来なった。生まれながらの王女、しかもいずれは国のトップに立つローザリアが被る仮面は完璧なものなのだから。

三人が勝ち進んだ先に王女であるローザリアがいただけとローザリアは思っていたが、逆もまた然り。ローザリアが勝者を受け入れただけだと、三人が思っていたとしてもおかしくない。王族の婚姻は責務の一つなのだ。双方がこんなでは、交流など深まるはずがない。それでも、ローザリアは心の中で三人に早く交流を深めなさいと思っていた。

前世の夏菜子ならば、『わたしを理解して、あなたが先に好きになりなさい!』という女がいたら『あなた一体何様なの?』と言っていただろう。まあ、ローザリアは王女様なのだが。

昨夜ジュリアンからされた『肝心なあなたの心は?』という質問。恥ずかしくてごちゃごちゃ言いながら好きを何度も繰り返したが、思い返すと夫達からは言われていない。可愛いとか、素敵とか、淫らだとかは言われた気はするけれど。

昨日気持ちを伝えたばかりのローザリアへ対しては、それが精一杯の言葉だったのだろうか。それとも、夏菜子が混じったローザリアとは違い三人は純粋な貴族、それも高位貴族。本心を隠してしまうのならば、寵愛を得たい心理の奥にあるものを理解しなくてはいけない。やはり三人は『お貴族様』なのだから。けれど、それだと今こうしてじゃれ合っているジュリアンとブラッドリーには多少なりともローザリアに気があることになる。今までのあの交流でそんなことはあるのだろうか。

とその時、再びジュリアンが耳元で囁いた『ダメェ?』と。正統派美形ジュリアンから発せられた甘えモードのおねだり。声だけなのに、夏菜子の脳裏には勝手に表情が浮かぶ。

ジュリアンを項垂れさせることなどあってはならない。夏菜子はそれまで考えていたことなど全てを忘れ『お口をジュールで満たして』と自ら進んでお願いしていた。
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