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近衛騎士の悩み 2
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騎士一家に生まれた弟、ルイス。兄弟の中で一番線が細く、優しい顔立ち。剣の技術にも優れ、将来は継ぐ爵位がなくともその腕で生きていくことに何の不自由もないはずだった。
あるとすれば、親に半ば無理やり参加させられた王配レースで受ける重圧。
ルウェリン家は伯爵家だが、代々全ての騎士を束ねる騎士団長職を継いでいる家門だ。しかも、実力で。
参加するにあたり、ルイスは父上から何も言われなかった。しかしルウェリン家の者である以上、正々堂々と戦い、その上で勝者とならなければいけないと理解していただろう。敗北は許されない、勝利が当たり前だと。何より王配になることは、ルウェリン家が忠誠を誓う王家の大切な王女殿下を身近に守ることに繋がるのだ。
しかし分が悪い。ルイスを含め王配候補者は皆、ジュリアン・グラッドストンとブラッドリー・フルクロードに三枠ある内の二枠は押さえられていると考えていたはずだ。事実上、王配レースは残された一枠をその他大勢が争うと皆理解していた。
だからルイスが並々ならぬ努力をしていたのを、俺も兄上も知っている。王女殿下の為に無垢であろうと、どんなに誘われようと女遊びにも出かけなかったことも。
弟ながら、実に良い男だと思っていたのに…、これはどういうことだろうか。
人はこれを『反動』、もしくは『開花』と呼ぶのかも知れない。重圧への反動、抑えていたものの開花。
そう考えれば王女殿下にも納得出来る。たった一人のスクデリーク王国後継者として、様々な教育を受け守られてきた王女殿下。だから、反動と開花のふり幅が大きいのは当然なのだろう。
夫婦の寝室から湯殿までの護衛。
腕の立つルイスがいたとしても、立場上護衛はしなくてはいけない。しかし目のやり場に困る行為は控えて欲しいものだ。
高位貴族家出身のジュリアン殿下とブラッドリー殿下は世話をされることに慣れているからか、素肌にローブを羽織っただけ。誰かに肌を見られることに抵抗はないのだ。この集団の前から向かってくる人物はいないが、オープン過ぎる。緩く腰にまかれた腰紐は何の役割なのか聞きたいくらいだ。それに倣ってか、ルイスも生意気にローブを羽織っただけ。しかも王女殿下を横抱きにしている。
どうやら王配殿下達の間では、ルイスが王女殿下を抱き上げ運ぶことが決まっているようだ。
濃度が高い色気を四人が垂れ流している後を付いて行くのもなかなか辛い。しかも俺にとってはその中の一人は実の弟。
こんな短い移動で、何度王女殿下と口付けを交わすのだろう。そして聞こえてきた会話。護衛としては、聞こえない体でいるべきだが…。兄としては、ローザ様の体を縛ったことを注意すべきだ。
でも、どうやって?弟が王配でなくとも、兄弟間で『王女殿下を縛ってはいけません』なんて会話は普通しない。それにローザ様も全幅の信頼を寄せているからルイスに抱きかかえられ体をあんなに密着させているということ。縛る行為もその信頼の先にあるのなら…。
特殊な性癖がある者が縛ることは聞いたことがある。もしかすると、夫婦間でも信頼という結束を本当に縛ることで表すのだろうか。
未婚のパーシバルには夫婦という関係性が分からない。そしてローザリアというこの国の最高峰にいる女性が恐らく『反動』や『開花』で縛られるのであれば、厳しく躾けられている令嬢も何かしらの『反動』と『開花』があるのではないかと悩んだ。妻を愛するということはそれら全てを受け入れ、包み込むこと。しかし、妻になった女性が加虐心の持ち主だったら末恐ろしい。結婚には慎重にならなくてはいけないのだ。
そんなことを悩むパーシバルにもしも優しい『声』が聞こえたのなら。きっと『声』はこう言っただろう。
パーシー、パーシー、違うのよ。ルイスがローザリアを縛るのは、そうしたいから。己に正直なだけ。あなたが考えるような理由はそこには全くない。ローザリアが受け入れているのは、ルイスの本質を知ってしまったから。パーシー達は知らない言葉のヤンデレっていう本質をね。酷くならないよう、毒抜きをさせているの。それにね、人の心の闇や本能を鋭く見抜くことが出来るブラッドリーにルイスは唆されちゃったの。だから、パーシー、出会う度に女性に変なことを聞いてはいけないわ、直ぐに逃げられちゃうでしょ。
しかし、そんな『声』がパーシバルに届くことなどなく。今日も湯殿への護衛は特別手当が欲しいと心の中でぼやくのだった。
あるとすれば、親に半ば無理やり参加させられた王配レースで受ける重圧。
ルウェリン家は伯爵家だが、代々全ての騎士を束ねる騎士団長職を継いでいる家門だ。しかも、実力で。
参加するにあたり、ルイスは父上から何も言われなかった。しかしルウェリン家の者である以上、正々堂々と戦い、その上で勝者とならなければいけないと理解していただろう。敗北は許されない、勝利が当たり前だと。何より王配になることは、ルウェリン家が忠誠を誓う王家の大切な王女殿下を身近に守ることに繋がるのだ。
しかし分が悪い。ルイスを含め王配候補者は皆、ジュリアン・グラッドストンとブラッドリー・フルクロードに三枠ある内の二枠は押さえられていると考えていたはずだ。事実上、王配レースは残された一枠をその他大勢が争うと皆理解していた。
だからルイスが並々ならぬ努力をしていたのを、俺も兄上も知っている。王女殿下の為に無垢であろうと、どんなに誘われようと女遊びにも出かけなかったことも。
弟ながら、実に良い男だと思っていたのに…、これはどういうことだろうか。
人はこれを『反動』、もしくは『開花』と呼ぶのかも知れない。重圧への反動、抑えていたものの開花。
そう考えれば王女殿下にも納得出来る。たった一人のスクデリーク王国後継者として、様々な教育を受け守られてきた王女殿下。だから、反動と開花のふり幅が大きいのは当然なのだろう。
夫婦の寝室から湯殿までの護衛。
腕の立つルイスがいたとしても、立場上護衛はしなくてはいけない。しかし目のやり場に困る行為は控えて欲しいものだ。
高位貴族家出身のジュリアン殿下とブラッドリー殿下は世話をされることに慣れているからか、素肌にローブを羽織っただけ。誰かに肌を見られることに抵抗はないのだ。この集団の前から向かってくる人物はいないが、オープン過ぎる。緩く腰にまかれた腰紐は何の役割なのか聞きたいくらいだ。それに倣ってか、ルイスも生意気にローブを羽織っただけ。しかも王女殿下を横抱きにしている。
どうやら王配殿下達の間では、ルイスが王女殿下を抱き上げ運ぶことが決まっているようだ。
濃度が高い色気を四人が垂れ流している後を付いて行くのもなかなか辛い。しかも俺にとってはその中の一人は実の弟。
こんな短い移動で、何度王女殿下と口付けを交わすのだろう。そして聞こえてきた会話。護衛としては、聞こえない体でいるべきだが…。兄としては、ローザ様の体を縛ったことを注意すべきだ。
でも、どうやって?弟が王配でなくとも、兄弟間で『王女殿下を縛ってはいけません』なんて会話は普通しない。それにローザ様も全幅の信頼を寄せているからルイスに抱きかかえられ体をあんなに密着させているということ。縛る行為もその信頼の先にあるのなら…。
特殊な性癖がある者が縛ることは聞いたことがある。もしかすると、夫婦間でも信頼という結束を本当に縛ることで表すのだろうか。
未婚のパーシバルには夫婦という関係性が分からない。そしてローザリアというこの国の最高峰にいる女性が恐らく『反動』や『開花』で縛られるのであれば、厳しく躾けられている令嬢も何かしらの『反動』と『開花』があるのではないかと悩んだ。妻を愛するということはそれら全てを受け入れ、包み込むこと。しかし、妻になった女性が加虐心の持ち主だったら末恐ろしい。結婚には慎重にならなくてはいけないのだ。
そんなことを悩むパーシバルにもしも優しい『声』が聞こえたのなら。きっと『声』はこう言っただろう。
パーシー、パーシー、違うのよ。ルイスがローザリアを縛るのは、そうしたいから。己に正直なだけ。あなたが考えるような理由はそこには全くない。ローザリアが受け入れているのは、ルイスの本質を知ってしまったから。パーシー達は知らない言葉のヤンデレっていう本質をね。酷くならないよう、毒抜きをさせているの。それにね、人の心の闇や本能を鋭く見抜くことが出来るブラッドリーにルイスは唆されちゃったの。だから、パーシー、出会う度に女性に変なことを聞いてはいけないわ、直ぐに逃げられちゃうでしょ。
しかし、そんな『声』がパーシバルに届くことなどなく。今日も湯殿への護衛は特別手当が欲しいと心の中でぼやくのだった。
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