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願いと約束3ー5
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グンッ!!
急に胸元を強い力で引っ張られたレイヴァン。
ムンズと引っ張られた力に体が前のめりに傾きそうになる。
吃驚しながら力に抵抗しつつ、胸元を見れば、震えながらも騎士服を掴むアルメリアの手があった。
アルメリアの顔の方へ視線を向ければ、少し辛そうながらも何かに耐えるような表情だった。
「!?…え、ちょ…アルメリア!?!?」
その姿に凝視し、竜の上の為、アルメリアを落ち着かせようとする。
振らつく体をどうにか保ちながら、アルメリアはレイヴァンの腕の中でもがき始めた。
「何故っ……?」
「え…?」
「いや…嫌…っ……」
「落ち着けって!」
先程まで気絶していたとは思え無い腕力に、レイヴァンはバランスを保つ事に必死だった。
アルメリアは宥めようとするレイヴァンの声が届いていない。
暴れるアルメリアの片腕を掴もうとするレイヴァンの手を、アルメリアは撥ね退けるように手を動かした。
「嫌…っ!……嫌よ!降ろして!?」
「アルメリア!」
「今直ぐ降ろして!?…何で外なの!?!?」
気付けばアルメリアはレイヴァンの腕を避けながらも、片手はレイヴァンの胸ぐらを叩いていた。
この継暴れ続ければ、幾ら竜の操縦が上手いレイヴァンでも落ちかねない。
「―――チッ……」
レイヴァンは咄嗟に舌打ちをすると、苦戦していたアルメリアの両手を抑え込み、自分の額をアルメリアの額に寄せた。
抵抗を見せていたアルメリアは両手を抑え込まれてレイヴァンの手から逃れようとするが、男性の力には敵わない。
それよりも、迫り来るレイヴァンの顔に固まった。
ギュッと目を瞑った。
「アルメリア」
額に伝わる温かさ。
怖い顔のレイヴァンから呼ばれた声は、真逆の優しいものだった。
あまりの近さから硬直しながら目を瞑ったが、その声に恐る恐る目を開ける。
レイヴァンの瞳が想像以上の近さにあり、瞬きを繰り返した。
「アルメリア、落ち着けと言っている。」
「…ぅ………は…ぃ」
レイヴァンはまるで三歳児の子供にでも言い聞かせるように、ゆっくりと落ち着き払ってアルメリアに語りかけた。
「不安は分かる。だが、泉に向かっているだけだ。売り飛ばしたり殺すつもりも無い。」
「…………」
「必ず生きて返すと約束する。着いたら説明をするから、今は大人しく載っていてくれ。夜の中竜の上だ、此処で落ちたら命は無い。仮に助かったとしても、何かに襲われたら堪らないだろう。」
暗闇を進むのは、竜の翼に置かれたランプが頼り。
―――ゴクリ……
息を呑む。
レイヴァンの語りに、背筋がゾクッとした。
このまま上空から下に落ちれば確かにひとたまりも無い。レイヴァンの言う通りだ。
今、竜の上を安定して座れるのはレイヴァンとカイスの絆があるからだ。
合わせられた額に首が動かせ無い代わりとして、一旦目を閉じ、目を開いたと同時に込めてした手の力を抜いた。
アルメリアの手から力が抜けると、レイヴァンはアルメリアの額から額を放した。
「レイヴァン様」
後ろを走行していたジェラルドがレイヴァンに声を掛けた。
ジェラルドはレイヴァンの異変に気付き、自身の竜をカイスに近付けた。
竜の翼に置いたランプを掲げて、レイヴァンの様子を確認する。
ジェラルドが気付いた頃には、アルメリアとレイヴァンのやり取りはほぼ終わっていた。
「大丈夫ですか?――何か…!」
ランプに照らされ、ぼんやりとジェラルドの姿がレイヴァンの目に入る。
他にも竜に跨がる者が居る事に気付いたアルメリアも、ジェラルドの方を見る。
「あぁ、問題無い。」
レイヴァンが答える中、アルメリアは黙ってジッとしていた。
「…おや、人魚様はお目覚めですか?」
邸宅ではレイヴァンに抱えられていたアルメリアは、眠った状態だった事をジェラルドは勝手に覚えていた。
「まぁそうだな。」
「なるほど。てっきり泉に着くまで、起きないものかと…」
レイヴァンも泉に着いてから、アルメリアを起こすつもりだった。
気絶していたアルメリアはあの時は起きなかったし、一刻の猶予も無い気がした為、起こすより泉へ向かう事を優先していた。
まさか竜の上、上空を飛行中に起きるとはレイヴァンも予想外だった。
ジェラルドの言葉にレイヴァンは否定しなかった。
「それより、あと数分で泉だ。降りる場所を間違え無いように。」
ジェラルドと他の護衛騎士達は頷く。
「カイス」
レイヴァンの言葉に反応するように、カイスが速度を上げた。風を切る音が耳に響く。
カイスの翼に置かれたランプがカタカタと音を立てていた。
「アルメリア。しっかり捕まってろ。」
コクコクとアルメリアが頷く中、一行はスピードを上げて目的の泉へ真っ直ぐに向かって行った。
―――ザンッ……ザザー…………
程無くして、水の香りが鼻腔を擽るとカイスがこうを描くように降下した。
カイスの後を三頭の竜が追い、降り立ったのは乳白色の岩に囲まれ三メートル位の滝が真ん中に流れる泉の畔だった。
真っ暗で何も見え無い筈なのに、そこだけ淡い光に包まれているようにアルメリアには見えた。
アルメリアが滝に見惚れていると、レイヴァンが立ち上がった。
「…―ぁ…お、降ろして下さいっ…!」
レイヴァンが立ち上がったと同時、アルメリアはお姫様抱っこの形で持ち上げられた。
竜の上に居る時は、あまり意識して無かった。
「無理をするな。」
レイヴァンに真顔で制され、アルメリアは顔に熱が集中するのを感じた。
レイヴァンとアルメリアが地面に降りると、護衛騎士達も降り立った。
護衛騎士達は危険が無いか辺りを確認する。
「―――!」
レイヴァンに抱えられた継、今一度辺りを見る。
滝の音と微かに響く水の流れ。
パッと見た感覚では、普通の泉だと思った。
しかし、岩の周りに見える無数の光に目を凝らして、アルメリアはその光の粒を凝視した。
(……蛍か妖精だと思ったのに…違うわ。……あれは… 竜の瞳)
竜の瞳が此方を見ていた。
何頭居るかは分からない。数頭の竜達の姿があるのは明らか。
「此処は竜ノ泉だ。」
「竜の…泉…?」
「あぁ。簡単に言うなら、野生の竜達の休息の場所。此処は自然の癒やしと魔力が高い。泉の水は澄んでいるから入るのにも問題無いだろう。」
泉の上、ポツポツと滝のある方向に点在する石場へレイヴァンは歩き出そうとした。
「レイヴァン様、お待ち下さい。」
後ろからジェラルドに呼び止められる。
レイヴァンがアルメリアを抱えた継軽く振り向くと、ジェラルドのピアスが揺れた。
「―――光よ…」
ジェラルドが左手を胸元の高さまで宙に上げ、手の平を上向きに開いた。
ジェラルドの手の上に、手より少し大きな魔法陣が浮かぶと光の球が現れた。
光の球の下でジェラルドが指を鳴らす仕草をすると、球は五つに別れ、空に散らばり周りを照らし出した。
それは蝋燭のような穏やかな明るさだった。
「光魔法か。助かる。」
レイヴァン程魔力は強く無いが、ジェラルドは第二部隊以上の魔力を持っており、主に光魔法の使い手でもあった。
ジェラルドの光によって照らされた石を渡り、滝の前に浮ぶ他より大きな石の上でレイヴァンは脚を止めた。
抱えていたアルメリアの脚元をゆっくり下ろす。
直ぐに真っ直ぐには立てないと分かっているのか、背中へ回っていた腕をレイヴァンは外さなかった。
アルメリアの脚から離した腕でアルメリアの片方の手を掴んだ。自然と向かい合わせになる。
まるでダンスを始めるような立ち方だった。
急に胸元を強い力で引っ張られたレイヴァン。
ムンズと引っ張られた力に体が前のめりに傾きそうになる。
吃驚しながら力に抵抗しつつ、胸元を見れば、震えながらも騎士服を掴むアルメリアの手があった。
アルメリアの顔の方へ視線を向ければ、少し辛そうながらも何かに耐えるような表情だった。
「!?…え、ちょ…アルメリア!?!?」
その姿に凝視し、竜の上の為、アルメリアを落ち着かせようとする。
振らつく体をどうにか保ちながら、アルメリアはレイヴァンの腕の中でもがき始めた。
「何故っ……?」
「え…?」
「いや…嫌…っ……」
「落ち着けって!」
先程まで気絶していたとは思え無い腕力に、レイヴァンはバランスを保つ事に必死だった。
アルメリアは宥めようとするレイヴァンの声が届いていない。
暴れるアルメリアの片腕を掴もうとするレイヴァンの手を、アルメリアは撥ね退けるように手を動かした。
「嫌…っ!……嫌よ!降ろして!?」
「アルメリア!」
「今直ぐ降ろして!?…何で外なの!?!?」
気付けばアルメリアはレイヴァンの腕を避けながらも、片手はレイヴァンの胸ぐらを叩いていた。
この継暴れ続ければ、幾ら竜の操縦が上手いレイヴァンでも落ちかねない。
「―――チッ……」
レイヴァンは咄嗟に舌打ちをすると、苦戦していたアルメリアの両手を抑え込み、自分の額をアルメリアの額に寄せた。
抵抗を見せていたアルメリアは両手を抑え込まれてレイヴァンの手から逃れようとするが、男性の力には敵わない。
それよりも、迫り来るレイヴァンの顔に固まった。
ギュッと目を瞑った。
「アルメリア」
額に伝わる温かさ。
怖い顔のレイヴァンから呼ばれた声は、真逆の優しいものだった。
あまりの近さから硬直しながら目を瞑ったが、その声に恐る恐る目を開ける。
レイヴァンの瞳が想像以上の近さにあり、瞬きを繰り返した。
「アルメリア、落ち着けと言っている。」
「…ぅ………は…ぃ」
レイヴァンはまるで三歳児の子供にでも言い聞かせるように、ゆっくりと落ち着き払ってアルメリアに語りかけた。
「不安は分かる。だが、泉に向かっているだけだ。売り飛ばしたり殺すつもりも無い。」
「…………」
「必ず生きて返すと約束する。着いたら説明をするから、今は大人しく載っていてくれ。夜の中竜の上だ、此処で落ちたら命は無い。仮に助かったとしても、何かに襲われたら堪らないだろう。」
暗闇を進むのは、竜の翼に置かれたランプが頼り。
―――ゴクリ……
息を呑む。
レイヴァンの語りに、背筋がゾクッとした。
このまま上空から下に落ちれば確かにひとたまりも無い。レイヴァンの言う通りだ。
今、竜の上を安定して座れるのはレイヴァンとカイスの絆があるからだ。
合わせられた額に首が動かせ無い代わりとして、一旦目を閉じ、目を開いたと同時に込めてした手の力を抜いた。
アルメリアの手から力が抜けると、レイヴァンはアルメリアの額から額を放した。
「レイヴァン様」
後ろを走行していたジェラルドがレイヴァンに声を掛けた。
ジェラルドはレイヴァンの異変に気付き、自身の竜をカイスに近付けた。
竜の翼に置いたランプを掲げて、レイヴァンの様子を確認する。
ジェラルドが気付いた頃には、アルメリアとレイヴァンのやり取りはほぼ終わっていた。
「大丈夫ですか?――何か…!」
ランプに照らされ、ぼんやりとジェラルドの姿がレイヴァンの目に入る。
他にも竜に跨がる者が居る事に気付いたアルメリアも、ジェラルドの方を見る。
「あぁ、問題無い。」
レイヴァンが答える中、アルメリアは黙ってジッとしていた。
「…おや、人魚様はお目覚めですか?」
邸宅ではレイヴァンに抱えられていたアルメリアは、眠った状態だった事をジェラルドは勝手に覚えていた。
「まぁそうだな。」
「なるほど。てっきり泉に着くまで、起きないものかと…」
レイヴァンも泉に着いてから、アルメリアを起こすつもりだった。
気絶していたアルメリアはあの時は起きなかったし、一刻の猶予も無い気がした為、起こすより泉へ向かう事を優先していた。
まさか竜の上、上空を飛行中に起きるとはレイヴァンも予想外だった。
ジェラルドの言葉にレイヴァンは否定しなかった。
「それより、あと数分で泉だ。降りる場所を間違え無いように。」
ジェラルドと他の護衛騎士達は頷く。
「カイス」
レイヴァンの言葉に反応するように、カイスが速度を上げた。風を切る音が耳に響く。
カイスの翼に置かれたランプがカタカタと音を立てていた。
「アルメリア。しっかり捕まってろ。」
コクコクとアルメリアが頷く中、一行はスピードを上げて目的の泉へ真っ直ぐに向かって行った。
―――ザンッ……ザザー…………
程無くして、水の香りが鼻腔を擽るとカイスがこうを描くように降下した。
カイスの後を三頭の竜が追い、降り立ったのは乳白色の岩に囲まれ三メートル位の滝が真ん中に流れる泉の畔だった。
真っ暗で何も見え無い筈なのに、そこだけ淡い光に包まれているようにアルメリアには見えた。
アルメリアが滝に見惚れていると、レイヴァンが立ち上がった。
「…―ぁ…お、降ろして下さいっ…!」
レイヴァンが立ち上がったと同時、アルメリアはお姫様抱っこの形で持ち上げられた。
竜の上に居る時は、あまり意識して無かった。
「無理をするな。」
レイヴァンに真顔で制され、アルメリアは顔に熱が集中するのを感じた。
レイヴァンとアルメリアが地面に降りると、護衛騎士達も降り立った。
護衛騎士達は危険が無いか辺りを確認する。
「―――!」
レイヴァンに抱えられた継、今一度辺りを見る。
滝の音と微かに響く水の流れ。
パッと見た感覚では、普通の泉だと思った。
しかし、岩の周りに見える無数の光に目を凝らして、アルメリアはその光の粒を凝視した。
(……蛍か妖精だと思ったのに…違うわ。……あれは… 竜の瞳)
竜の瞳が此方を見ていた。
何頭居るかは分からない。数頭の竜達の姿があるのは明らか。
「此処は竜ノ泉だ。」
「竜の…泉…?」
「あぁ。簡単に言うなら、野生の竜達の休息の場所。此処は自然の癒やしと魔力が高い。泉の水は澄んでいるから入るのにも問題無いだろう。」
泉の上、ポツポツと滝のある方向に点在する石場へレイヴァンは歩き出そうとした。
「レイヴァン様、お待ち下さい。」
後ろからジェラルドに呼び止められる。
レイヴァンがアルメリアを抱えた継軽く振り向くと、ジェラルドのピアスが揺れた。
「―――光よ…」
ジェラルドが左手を胸元の高さまで宙に上げ、手の平を上向きに開いた。
ジェラルドの手の上に、手より少し大きな魔法陣が浮かぶと光の球が現れた。
光の球の下でジェラルドが指を鳴らす仕草をすると、球は五つに別れ、空に散らばり周りを照らし出した。
それは蝋燭のような穏やかな明るさだった。
「光魔法か。助かる。」
レイヴァン程魔力は強く無いが、ジェラルドは第二部隊以上の魔力を持っており、主に光魔法の使い手でもあった。
ジェラルドの光によって照らされた石を渡り、滝の前に浮ぶ他より大きな石の上でレイヴァンは脚を止めた。
抱えていたアルメリアの脚元をゆっくり下ろす。
直ぐに真っ直ぐには立てないと分かっているのか、背中へ回っていた腕をレイヴァンは外さなかった。
アルメリアの脚から離した腕でアルメリアの片方の手を掴んだ。自然と向かい合わせになる。
まるでダンスを始めるような立ち方だった。
応援ありがとうございます!
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