妖怪退治活劇絵巻 ~ようかい退治始めました~

ニジハイ

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第1話 妖怪と遭遇の巻(1)

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 薄暗い空間が広がっている。周りには藁葺(わらぶ)きの民家が点在していた。映画で見るような、古めかしい、今では見ることがない民家だ。
 目の前には一人の男性が立っていた。その男性の手には不気味に赤く光る刀が握れていた。辺りがうす暗い為か、色までは判断出来ないが、男は着物を着ている。
 もやが掛かったようにぼやけており、はっきりと見ることが出来ないが、その頭には人とは違う何かが付いていた。額から二本の角が生えている。やがてもやがうっすらと消えていき、顔が僅かに確認出来る。
 鬼の顔だ。
 その鬼は手に持った刀を振り上げ、こちらに向けて勢いよく振り下ろした。
 
「うわああああ!」

「授業中です! 静かにしなさい藤原君!」

 教師に叱られ慌てて周りを見ると、クラスの人達の視線が僕に集中している。

「怖い夢でも見てたのかよ雪那(せつな)!」

 今度は同じ教室内の男子生徒が僕の下の名前を呼んだ。長身に短髪の男子生徒、友達の坂田 隆(さかた たかし)だ。
 隆がそう言うと、つられるかのようにクスクスと笑い声が起きる。
 机に付いた涎を見る限り、どうやら僕は授業中に居眠りをしていたようだ。

「あれ? 夢だったんだ?」

 思わず口に出してしまった。

「へぇ、どんな夢だったんだよ? 聞かせろよ」

 隆にそう聞かれて、どんな夢だったか思い出してみる。さっきまで本当に目の前にいたんじゃいかと思えるくらいに鮮明な夢だった。

「鬼男に襲われる夢だよ」

「鬼男?」

 隆が首を傾げる。

「鬼の顔をした男がさ、赤く光る刀を持って、僕を襲ってくる夢だったんだよ」

 さっき夢で見たことをそのまま口にした。

「まじかよ!? 鬼の顔をした男で、しかも赤く光る刀って。雪那、お前ゲームのし過ぎじゃねぇのか? というかバカだな」

 からかうように隆に言われて、少しイラッとする。はっきりと言ってやらなければいけないようだ。

「最近ゲームしてないからね!」

「怒るところそこかよ!?」

「藤原君! 静かにしなさい!!」

 教師の怒号が飛ぶ。隆の所為なのに、何故か僕だけが怒られてしまったじゃないか。
 教師は僕に注意し終えると授業に戻り、教室内の視線も黒板に向けられた。
 それでもまだ何か視線を感じる。
 何だろう?
 視線を感じる方向に顔を向けてみる。
 長髪を金色に染めている女子生徒が僕をじっと見つめていた。
 戸部 優子(とべ ゆうこ)である。
 整った顔立ちに長髪が良く似合っており、スラッとした体に申し訳程度の胸がちょこんと膨らんでいる。それに一部ではあるが、戸部さんのファンがいるとの情報を僕は聞いたことがある。
 かなりモテそうな人だけど、僕にとっては苦手な部類の人間だ。
 授業をたまに早退してる噂も聞くし、素行が悪そうなイメージがある。
 早退をするときに、体調が悪いのかとクラスの女子が聞いたことがあるみたいだけど、どうやらそういうわけではなかったようだ。結局理由はわからず終いだったけど。

 さっき僕が突然あげてしまった悲鳴のせいで、変なヤツと思われてしまったのだろうか?
 そんな風に思われるのは何か嫌だな。別に好感を持たれたいワケじゃないけど、居眠りしていたとはいえ、授業中に突然奇声を発する変な人というレッテルを貼られるのは避けたいところだ。
 
 考えごとをしているうちに授業が終わってしまった。さっきの授業が六時限目だったから、今から掃除の時間だ。
 掃除用具を取りにいかなきゃ。

「藤原!」

 と思った矢先、戸部さんが声を掛けてきた。そうだ、さっきのことを弁明しておこう。

「戸部さん、丁度良かった。さっきの奇声なんだけど――」

「奇声はいいから、ちょっと来てくれない?」

 奇声はいいから って!? 僕にとっては凄く重要なことなんだけど!
 戸部さんはそう言うと、僕の腕を引っ張って、廊下を小走りで駆け出した。
 強引だなぁ。そこまでしなくても、別に逃げたりしないのに。

 そのまま引っ張られるようにして付いていき、廊下の端まで来ると、今度は階段を一階まで降りて、自転車置き場の方まで走る。

 今は掃除時間だから、さすがに周りには人がいない。こんなところまで連れてきて一体何の話しがあるのだろうか?

「ここまで来れば誰にも聞かれないわね」

 人に聞かれたくないこと? 一体何なんだろう?

「もしかして……」

「何よ?」

 一番可能性が高いであろうことを口にした。

「かつあげですか!?」

「しないわよ!!」

 間髪入れずに戸部 さんは否定した。

「そっかぁ、てっきり、かつあげされるかと思って、ちょっとビビったよ」

「あんたねぇ、私をどんな風に見てるのよ?」

 どんな風に? 不良みたいな感じで怖い人だな。でも、綺麗な顔だし、体型はモデルみたいに細くて、見てくれはいいよね。
 おっと、ここは思ったままには言わない方がいいかもしれない。
 あまり絡まれたくないし、一番辺り触りない回答をしよう。

「怖いくらい綺麗な顔で、モデルみたいだね!」

 少し怖いけど、普通な人だね!

「え、え? 嘘? あんた……、予想外なこと言うんだね……、この流れでベタ褒めって……」

 うぉぉぉぉぉ! 間違えたーーー!!
 口にしようと思ったことと、口に出したことが全然違う! しかも何か ごっちゃになってる!
 って、何で戸部さんが顔を赤くしているの? 恥ずかしいのはこっちだよ! 逃げ出したいよーー!

「ま、間違えたんだよ。言葉のチョイスというかさ」

「――だ、だと思ったわよ。ま、まぁ、あんたに言われたところで、どうとも思わないけどね」

「そうなんだよ、ちょっと言い間違いというか、何というか」

 どうとも思わないと言われるのは少しショックだけど、戸部さんとは普段、話もしたことないから、そう言われても仕方無いかな。それにしても、戸部さんの方が動揺している様に見えるのは気のせいだろうか?

「っんん……で、ここにあんたを呼んだのはね」

 咳払いを一つし、本題に戻ったようだ。戸部さんはまだ若干顔が赤みがかっている。余程、褒められるのが嫌いらしい。

「あんたに聞きたいことがあるのよ」

「ぼ、僕に聞きたいことって、な、何かな?」

 僕の傷付いた心を悟られないように、平常心で聞き返す。

「あんたの夢のことを聞きたいのよ?」

「僕の夢について聞きたい? 変わってるね?」

「あんたには言われたくないわよ!」

 そんな、僕は変わってなんかないけどなぁ。それに僕の夢なんか聞いてどうするんだろうか?
 僕の夢は至ってシンプルかつ、堅実だ。

「僕の夢はね、普通な会社に入って、素敵な奥さんを貰うことかな」

「違うわよ! 私が聞きたいのは、あなたがさっき見てた夢の話しよ」

 今度こそ、本当に怒ったみたいだ。綺麗な顔している人が怒るとこんなにも怖いなんて初めて知った。

「 さっきの夢? 鬼男が赤い刀を振り回して僕を襲うって夢のこと?」

「そう、それよ!」

「その夢がどうかしたの?」

 他人の見た夢に興味を持つなんて、やっぱり戸部さんの方が変わっているけどなぁ。

「赤い刀を持った鬼の顔の男に当てはまる妖怪がいるのよ」

「はい?」

 赤い刀? 鬼の顔の男、妖怪? どこから突っ込めばいいのか、今の僕にはわからない。後一年ぐらい戸部さんと話をして、親密になれば突っ込みどころもわかるのかもしれない。只、今の僕にはわからない。

「あぁ、悪いわね。あんたに妖怪の話をしても意味がわからないよね」

 戸部さんは妖怪の話、いわゆる怪談が好き、それだけわかった。オカルトとか、そっち方面に興味があるのかな?

「戸部さんって 、結構オカルト好きなのかな?」

「違う、違う。オカルトとかそういうのは信じてないわよ」

「そ、そっか……」

 じゃあ、何で妖怪の話とかしてるんだろうか?

「で、その妖怪にどんな場所で襲われていたの?」

 どんな場所って、そんなこと聞いてどうするんだろうか?

「霧が濃くてよくわからなかったけど、映画とかに出てきそうな古い民家が並んでたかな。藁葺(わらぶ)きっていうのかな? 時代劇で出てきそうなヤツ」

「霧ねぇ……うん、間違いなさそうね。藁葺きは……、そんな場所は見たことないわ。探すのに時間がかかりそうね」

 戸部さんは考えるように、顎に手をあてた。一人納得したり、思案顔になったり、けっこう表情豊か何だな。シャツの第一ボタンを開けてたり、 崩した感じの見た目だし、チャラいって噂も聞いたことあるから、てっきり只のヤンキーかと思ってた。こうして見ると……。いや、考えるのはよそう。妖怪がどうとかいう危ない人だったし。

「で、戸部さん、全然話が見えないだけど?」

「ああ、いいわよ、知らなくても。もしかしたら、あんたも関係者かもしれないから、そのときが来たら教えるわ」

 そう言うと、戸部さんは南校舎の方に去っていった。
 結局、何だったんだろう?
 聞きたい事だけ聞いて、何の説明も無く、僕だけ置いてけぼりを食らった気がする。
 まぁ、時が来たら教えてくれるみたいだし、今はいっか。
 
 掃除の時間が終わり、続いて帰りのショートホームルームも終わって、やっと放課後だ。 今日は何しようかな? 特に予定が無いんだよな。

「雪那、今日暇か?」

 そう思っていたところ、隆に声を掛けられた。

「うん、今日は特に予定無いよ」

「だろうな。いつものことだからな」

 心外な! 僕がいつも暇みたいじゃないか。

「そういう、隆だって、いつも暇じゃないか!」

 高校に入学して二ヶ月経ち、今はもう六月になるけど、僕も隆も部活に入っていない。僕だけじゃなくて、隆も暇な筈だ。

「俺はお前と違って、充実してるけどな」

「そうなんだ!? いつも何してるのさ?」

 何故か上から目線な隆だが、いったい放課後に何をしているんだろうか?

「あんなことや、こんなことさ」

 そう言ってニヤついた顔を見せてくる。ワックスで髪を立たせ、流行 の髪型にセットされていて、その顔が髪型と妙に似合っている。
 隆の言う、どんなことが何なのかは知らないけど、隆に限って、女性関係ではないことは確かだ。
 中学生の頃から隆とよくツルんでいたけど、隆が誰かと付き合っているとか、女性関係の話を聞いたことが無いし、女の子と仲良くいる姿を見たこともない。

「久しぶりにゲーセンにでも行くか?」

「うん、行こうよ」

 僕は隆からの提案に乗ることにした。高校生になってからは初めてだけど、中学生のの頃は授業が終わるとゲーセンに寄って帰ることが多かった。
 鞄を持って隆と廊下に出ると、男子生徒が僕らの方に向かって歩いてくる。
 髪を茶髪に染めて、耳にはピアスを付けている。
 この学校の校風は自由とはいえ、自由過ぎる生徒を良く見かける気がする。戸部さんといい、目の前の生徒といい。入学試験の倍率が低いとはいえ、一応は進学校ではある。
 そう思いながら歩いていると、その生徒は隆の肩にぶつかった。というより、隆の肩に自分からぶつかりにいったように見える。

「ってぇなぁ、後輩!」

 ピアス男が隆を睨みつける。

「先にぶつかって来たのはそっちだろ?」

 隆がそのピアス男を睨み返した。

「何か文句あんのかよ? 四級のくせによ」

 ピアス男も隆を睨み返す。

「……くそっ、さーせんね、先輩」

「ったく、最初から謝れよな。あと、俺の前を歩くときは気を付けろ」

 珍しく隆が謝ると、その男子生徒は 言うだけ言って、満足げな顔をして去って行く。

「何? あの意味不明な行動は?」

 その男子生徒との距離が広がり、見えなくなるのを確認してから、隆に聞いてみた。

「自分の方が先輩だと自己誇示したいんだろうな」

「でも、同じ学年だよね?」

 通り過ぎるとき、襟に付いている校章の色を見たけど、僕らと同じ一年生の色、青色だったけど。

「塾が一緒なんだ。先にあいつの方が塾に入ってるから、一応先輩ってわけだ」

 塾に入るのが早いだけで先輩ヅラされるなんて、最近の塾は変わってるなぁ。芸人とかと同じ様な扱いなのかな。年齢に関係無く、先に入った方が先輩になるっていうシステムみたいだ。

「てか、隆って塾行ってたんだ?」

「……、ああ、お前には言ってな かったな」

 少し間があったけど、塾に行ってるなら、教えてくれてもいいのに。高校に入ってから、隆は放課後いつも、さっさと早く帰るから、遊ぶ機会が殆ど無かったけど、そういことだったんだ。
 

 学校を出て二十分程歩き、ゲームセンターの近くまでやってきた。
 そのまま入らずに、その隣にあるショッピングセンターに入る。
 僕らの通う高校からは一番近いショッピングセンターで、名前はマンナカモール。
 以前はよく、このショッピングセンターでジュースを買ってからゲームセンターに行ったものだ。
 普通に自動販売機で買うよりも、食料品売り場で買った方が安いからね。

「ねぇ、二階のゲームショップを覗いていかない?」

「いいぜ」

 隆はすんなりと肯定してくれた。
 最近発売された格闘ゲームで、見たいヤツがあるんだよな。
 ショッピングセンターの二階に店を構える目的の場所に着くと、隆は店の前で足を止めた。

「俺はここで待ってるから、見てこいよ」

「あれ? 隆は入らないの?」

「欲しいゲームが無いからな」

「そっかー」

 あんなにゲームが好きだった隆が、ゲームを止めたのかな? それとも、今は欲しいゲームが発売されてないだけなのかな? まぁ、後で聞いてみよう。
 隆を待たせるのも悪いし、さっさと目的のゲームを探そう。そう思って店の中に入った。

『ジリリリリリリリリリリリ!!』

 突然、耳障りな大きな音が鳴り響いた。

「何!? 何!?」

 隆の方を振り向くと、 隆は特に慌てる様子も無く首を傾げた。

「さぁ? 誤報か、それか火事じゃねぇの?」

「いや、いや、いや! 火事だとヤバイよね! 早く逃げないと!」

「世の中、もっとヤバイことがあるからな。大丈夫だろ」

 そう言う隆は慌てた素振りを一切見せず、本当に落ち着いている。

「何を根拠に大丈夫って!? それに、もっとヤバイことって何!?」

「雪那、いいから落ち着けって。俺を信じて落ち着け」

 この状況で落ち着けるわけないって。隆を信じるのも無理! 信じて良かった試しが無い。

「無理! 無理! 無理だって」

「ほら、慌ててる客なんて、お前ぐらいしかいないだろ?」

 そう言われて、周りを見ると、確かに他の客は警報を気にも止めた様子が無い。
 何 だ、誤報かな? 偶には隆を信じてみるもんだ。何だかんだで友達の言うことはちゃんと聞いた方がいいかもしれない。

『きゃああああああああああ!!』

 二十代の女性だろうか? 僕の目線の先にいる、その女性が、ふと何かに気がついたかのように急に悲鳴をあげた。そして僕らのいる方向に向かって慌てて走り出した。まるで何かに追われるように。
 女性がこっちに走って来た。その先に目を向けると……、ナニかが……、いた!!
 首が長いナニかが動いている。二十代の女性の方を向いて、その長い首をユラユラ動かしている。
 ユラユラと……。
 六メートル程の長さの首をユラユラと……。

「すまん、もっとヤバイことが起きた」

 隆が冷静に僕に謝る。
 一 体、何を謝るんだろうか?
 もっとヤバイことって、一体何を言っているんだろうか?
 僕らの目線の先には、追いかけられている女性と、それを追う、ちょっと首の長いナニかが見えるだけだよ。
 ちょっと首の長いナニか?
 うん、人では――、ないかな?
 あれは、そうだ……、うん、ナニかだ。
 首は身長の三倍以上だし、顔は真っ白だし、口は……耳の側まで裂けていて、とても大きく開きそうだ。
 口の中には鋭い犬歯が一、二、三、四、五、六……、うん、全て犬歯だ。噛まれたら痛そうだな……。

「って、何じゃありゃああああああああああああ!!!」

 何だよ!? あれ!? 絶対人じゃないよね!! ホラー映画とかに出てきそうなヤツだよ!!

「落ち着け、雪那 」

「これが落ち着いていられるかい!!」

 何で隆は落ち着いていられるんだよ!?

「アレは、俺らに危害を加えない」

「え? そうなの?」

 見るからに危害の塊にしか見えないけど。

「俺はそう思うことにした」

「って、何それ!? 何の保証も無いよね!? 隆の願望だよね!?」

 隆を信じた僕がバカだった! 今まで隆の言うことを信じて良かった試しがない! 今回もきっとそうだろう。

「まぁ、良く見てみろ。良く出来た特殊メイクじゃないか」

 本当に? 造り物? 何だ。僕はちょっと気が動転してたみたいだ。一人騒いでいたのが恥ずかしいな。良く見てみると特殊メイクに見えなくも……。

『ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!!』

 先ほどの女性の 肩に、ナニかが噛み付いた! 首をぐんっ! と伸ばし、ナニかの顔と女性との距離を一瞬で詰め、女性の肌に犬歯が刺さる。刺さった場所からは赤い血が滲み出る。

「見えるかーーーー!!」

 特殊メイクかもしれないと疑った僕がバカだった。隆の方に振り向くと……、あれ、――いない。

「雪那! 早く逃げろ!」

 そう叫ぶ隆は、既に逃げ出していた。僕から数メートル離れたところを、既に走っている。

「待ってよ、隆!!」

 僕も急いで走り出した。ナニかのいる方向とは反対側に向かって逃げる。
 なんなんだよ、あの化け物は! 首があり得ないくらい長いから、アレみたいだ。ろくろ首。首が長い化け物というか、妖怪を漫画で見たことがある。その妖怪に似ている。
 ろ くろ首の一連の流れを見ていた他の客や、店員も慌てて逃げ出した。
 催し物かと思っていたのだろうか、携帯電話を構えて撮影していた男性も、さすがに非常事態だと悟り、僕達の方に向かって走り出した。
 ろくろ首は、女性を離し、その逃げる集団の方を向く。女性は、ろくろ首から解放されると、慌てて立ち上がり、噛み付かれた肩を反対側の手で覆うようにして急いで走り出した。肩から流れ出る血を気にしている場合じゃないのか、その場に留まらずに集団とは反対方向に逃げていった。
 怪我は負っているけど、どうやら命に別状は無さそうだ。よかった。
 ろくろ首はその女性とは反対方向、逃げ惑う集団に向かって走り出した。
 つまり、僕達のいる方にだ。
 て、全然よくない !!
 僕達を含めた、二十人程の集団と、ろくろ首の追いかけっこが始まった。

「雪那! 聞いてくれ!」

 走りながら、僕に声を掛けてくる。

「何!? あいつを撒くのに、良い方法が見つかったの!?」

 認めたく無いけど、隆は僕より頭が良いのは間違い無い。この状況で逃げる為の良い方法が見つかったのかもしれない。

「ああ、囮になってくれ!」

 前言撤回。

 隆はこういうヤツだった!

「隆が囮になってよ!」

「待て、考えがあるんだ!」

「そうなの? 聞こうじゃないか」

 足を緩めることなく、隆の考えとやらに耳を傾ける。

「雪那が囮になるだろ」

「うん、それで?」

「俺がその間に助けを呼ぶ」

「却下」

 耳を傾けるだけ無駄だった。

「待て待て、続きがあるんだ!」

「続きとやらを聞いてあげるから、隆が囮の方向で!」

「だから、続きを聞けって!」

 隆と言い争うだけスタミナの無駄使いだ、全く。
 そんなこと言ってる間に、東口のスロープまで来た。買い物用のカートを押して、上り下り出来るように作られた、緩やかで長いスロープだ。
 もう少し東に進むと階段があって、スロープからでも一階に下りれるし、三階に上ることも出来る。このまま平坦な道を走って階段まで行くよりも、スロープで上か下に行った方が撒きやすいかもしれない。階段だと、速度が落ちて追いつかれる可能性が高い。それならこのまま勢いに乗って上か下に行った方が賢明だ。

「雪那!」

「隆!」

 これ以上言わなくても分かっている 。中学生からの付き合いだ。どっちに行くかって? もちろんこっちだ!

「…………。」

 見事に、隆は僕から離れていく。
 僕はスロープを駆け上がりながら、隆に声を掛けた。

「何でそっちなんだい!?」

「バカ雪那! 一階に下りなきゃ外に逃げれないだろ!? 上に行っても追い詰められるだけだぞ!」

 そうか! その考えは無かった。上に逃げれば、ろくろ首の走る速度が少しは落ちると思ったんだけど。いや、それは僕も同じか。
 ……、ミスった!
 他の人達もみんな、下に向かうスロープを駆けていく。
 え、僕だけですか?
 僕だけ、一人で心細いんですけど。
 そう思った矢先、僕と同じ道を選び、スロープを駆け上がってくる人が見えた。
 女の子だ!
 僕と同い年ぐらいの女の子が、息を切らしながら必死に駆け上がってくる。
 良かった、他にもいて。
 囮にするとかそんな隆みたいな考えは無いけど、一人でも仲間がいると心強い。

「ねぇ、君、大丈夫?」

 仲間が増えたことで少し落ち着きを取り戻した僕は、走る速度を少し下げて、その子に声を掛けてみる。

「逃げて……、はぁはぁ、下さいぃ」

「ほえ?」

 息を切らせながら走るその子の後ろには、ろくろ首が追いかけてきている。
 ちょっと待って! ろくろ首はお呼びでない! 何で人数の少ない僕らの方を狙うかなぁ!?
 咄嗟に女の子の手を握り、僕は必死で走った。
 何この状況!? 思わず女の子の手を握っちゃったよ!
 走りながら、女の子の後ろに目を やると、十メートル程後ろにはろくろ首がいる。
 全然距離を離せない。いや、少しづつだけど離れていっているみたいだけど。
 女の子と一緒に走っているから、これ以上はスピードが上げれない。

「私は……、置いて、逃げて……、はぁはぁ、下さいぃ」

 息も絶え絶えに、そんなことを言う。

「無理」

 無理です。女の子を置いくなんてそんなこと出来ないぜ!
 なんて、格好いい理由ではありません。

「そんな……、でも、……はぁ、……はぁ、このままじゃ、あなたも」

 スロープが終わった。
 目の前には平坦な道があり、その先にドアがある。ドアはその一つしかない。そのドアに向かって必死に走る。ただ、ただ走る。

「無理」

 そんな格好いい理由はありません が、一つだけ気付いたことがあります。

「そんな……、はぁ、はぁ」

 ドアを勢いよく開けると、そこは屋上だった。
 離れた所には遊具が並んでいる。小さなボールを敷き詰めたボールプールのテントや、木製のジャングルジム、コインを入れて動くパンダのカートもある。
 そのままドアから離れて、立ち止まり、振り返るとそこには……。
 両膝に手を着いて、呼吸を整えながら顔を上げて僕の方を見つめる女の子がいた。
 少し切れ長だけど、大きなクリッとした目。黒髪はシュシュで結わえてポニーテールにしてある。肌は雪のように白く、息が上がっている為か、顔は火照っている。
 気付いたこと、それは……。

(ちょーー、可愛いんですけどーー!!)

「あなただけでも… …、逃げて下さい!」

 (そして健気だーーーー!!)

 僕らが屋上に出てきたドアを、今度はろくろ首が出てきた。
 そいつは僕らを見つけると、こちらに走ってくる。

「君は、離れててね」

 女の子にそう言うと、僕は、ろくろ首と女の子の間に立ちはだかる様に、歩を進める。

「そんな、でも……」

(僕に任せておきな。ここで食い止めるぐらい、今の僕にはワケないさ)

 ろくろ首が僕に迫る。ざっと三十メートルだろうか。
 改めて見ると、やっぱり人じゃないなと思い知らされる。
 酷く汚れた着物を着て(所々真新しい血が付いているし……)、大きく裂けた口に、湿った長い髪に、瞳はこれでもかと開いている。
 長い首をうにょうにょと動かせながら走る姿はまるで… …。

「化け物じゃないかぁぁ!?」

「今更ですかぁ!?」

 残り二十メートルだろうか?

「大丈夫、ちょっとビックリしただけだよ」

「足、震えてますよ!?」

 残り十五メートル!

「武者震いだよ!」

 残り十メートル!

「あ!?」

 僕はあることに気付いた!

「何ですか!?」

「丸腰でどうやって戦うんだい!?」

「今更ですぅーー!!」

 化け物が首を伸ばし、僕の顔目掛けて迫る!

(って、早っ!)

 上体を反らして躱す、そしてそのまま思わず尻餅を付いてしまった。
 化け物は僕の目の前で止まると、首を戻し、顔が僕の方を見下ろす。
 マズい! マズい! 超マズイ!

「雪那!」

 声のする方に化け物は振り返った。
 僕も尻餅を着いた 状態で、後ろに這いながら、声のする方を見た。
 長身に、短髪を立たせたヘアスタイル、細身ながらも締まった体格、隆だ!

「おいおい、かなり、ヤバイ状況じゃねぇか」

 そう言いながら隆は、言葉では焦っているものの、普段の調子で堂々と歩いてくる。

「隆! 来てくれたんだ!」

 僕は、ある程度化け物から離れて立ち上がった。

「おうよ、俺が来たからには安心だ」

 隆はそのまま化け物の方に歩きながら右手を前に突き出す。
 その手の平から青い光が溢れ出す。
 光は刀の形になると、発光が弱くなっていく。そして光が無くなると、長さ一・五メートル程の大きめの刀が姿を現した。
 隆がその刀を握ると、刀身が淡く光りを発する。

「軽く捻ってやるよ」

 刀 を両手で持ち、剣道の構えで化け物と対峙する。

(おぉ! かっちょいいー! でも、何? その非現実的な感じで出現した刀は?)

 化け物は口を開き、隆に向かって首を勢いよく伸ばした。
 隆は刀を使って、化け物の攻撃を防ぐ。
 化け物はまた首を縮めて、再度ぐいーんと伸ばした。
 隆は化け物の攻撃をもう一度防ぐ。
 化け物は隆との距離を詰めながら、再度伸ばし、隆もまた防ぐ。
 化け物と隆の距離はどんどん縮まっていき、その分、化け物の攻撃速度が増していく。

「って、防戦一方だよ! 隆!」

 さっきの格好をつけた発言は何だよ! 押されているじゃないか! このままだとマズいよ!

「わーってるって」

 隆はそう言うと、化け物の首が縮まるタイミン グを見計らって、攻撃に転じる。
 化け物に近寄り、両手に持った刀を斜め上段から振り下ろす!
 右肩に迫るその斬撃を、化け物は屈んで、あっさりと躱してしまった。
 再び、化け物の首が隆に迫った!

「おおっと!」

 隆は上体を横に倒して躱す!
 そしてその体勢から、切り上げる!
 無理な体勢からのその斬撃は、妖怪にまてしてもあっさりと躱された。

「隆! 当たってないよ!」

「仕方ないだろ! 実践は初めてなんだよ!」

 隆はまた武器を構え直した。
 化け物は隆に向かって、首を勢いよく伸ばした!
 トスッ!
 軽快な音と共に、化け物の首に一本の矢が刺さった。
 青白く光るその矢は直ぐに霧散した。

『グギャアアァ』

 化け物は苦しそうに 悲鳴を上げる。

「だから、助けを呼んでから来た」

 矢の飛んで来た方を見ると、小さな弓を構えた女の子が立っていた。
 僕らと同じ高校の制服に、金髪に、綺麗な顔。
 戸部 優子がいた。
 いつもは見ないような真剣な表情で、妖怪から視線を外さない。
 弓道で使う弓の半分くらいの大きさの水色の弓を左手で構え、右手からは青白い光と共に矢が出現した。

「坂田、何やってんのよ。こんな雑魚相手に」

 戸部さんはその構えのまま言葉を発した。

「意外と強ぇんだよ」

「相手はレベルDよ。四級のあんたならどうにかなるでしょ」

「お強いあんたにはわかんねぇよ」

 レベル? 級? 一体何の話しだろうか?
 そんなこと言ってる間に早く何かしないとマズいって !

「戸部さん! 早く倒して!」

 案の定、化け物は体勢を整えると、今度は戸部さんに向かって襲いかかる。

『グギャアァァァァ』

 弓から勢いよく解き放たれた矢は、化け物の頭に突き刺さった。
 青白い矢が霧散すると、化け物も続いて、体も顔も全て霧散した。
 続いて、戸部さんの手に持った弓も青白い光と共に消滅し、隆の刀も消滅した。
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つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

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ハーフのクロエ
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 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

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39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

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