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第2話 妖怪と遭遇の巻(2)
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「あんたもさぁ、人に頼ってないで、自分でどうにかしたらどうなのよ?」
「それはないだろ。雪那は一般人なんだぞ」
隆が珍しく僕を庇ってくれる。
でも、戸部さんの言う通りだ。僕はただ見ていただけだ。隆は苦戦しながらも時間稼ぎをしてくれた。
そして戸部さんはいとも簡単に妖怪を倒してくれた。
だけど、 僕は何をしてるんだろうか。武器が無いとはいえ、他に何か出来ることは無かったのだろうか。
「……それはそうかもしれないわ、悪かったわね」
戸部さんも隆の言葉に納得し、謝ってきた。
「あの……」
先ほどの女の子が伺うように、僕らに声をかけてきた。
そして、僕達が女の子の方を向くと、勢いよくお辞儀をした。
「ありがとうございますぅ!」
深々と僕達三人にお礼をすると発言を続けた。
「さっきの生き物は何だったんですかぁ? それにあなた達は何者何ですかぁ!?」
「いや……、俺らはさぁ……」
隆は急に歯切れが悪くなる。
「説明してあげればいいじゃない」
戸部さんが提案する。
「するのはいいけど、説明しても意味無いんじゃねぇのか?」
どういうことだろうか?
「意味はあるわよ。協団に連れていこうと思うの」
「どうしてだよ? 連れて行く意味がわからん」
「『神器持ち』の可能性があるからよ」
「はぁ? 何言ってんだよ、そんなわけないだろ」
隆が否定するけど、まず『神器持ち』って何だろう?
「《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者だと思うのよ」
「何を根拠に言ってんだ?」
「鬼の顔をした男の夢を、恐らく酒呑童子の夢を見たって言ったのよ」
「はぁ? それだけで?」
「それだけじゃないわ。酒呑童子の武器である、あの赤い刀や、霧の濃い場所で見たって言ってたわ。霧の濃い場所って言うのはたぶん異界のことよ」
「たまたまだろ? 漫画かゲームで見たのを夢でも見て、たまたま酒呑童子の特徴と重なっただけだろ」
それでも隆は否定した。二人が何の話しをしているのか全然わからない。
「連れていけば分かることよ」
「雪那まで巻き込むなよ」
「その藤原が、神器持ちの可能性があるって言ってんのよ!」
はい? 僕に何の可能性があるって?
「ははっ、冗談キツイわ。中学から雪那と一緒にいるけど、《八尺瓊勾玉》どころか『神器持ち』でも無いっつうの」
「あなたが気付いてないだけよ」
……二人の会話についていけません。
隣の女の子の顔を見ると、その子も僕の顔を見て首を傾げた。なんだ、ついていけないのは僕だけじゃないんだ。
よかった、僕だけじゃなくて。
「あ!? そうでしたぁ!」
女の子は思い出したように急に声を上げた。
「自己紹介がまだでしたぁ。唯って言います。渡辺 唯(わたなべ ゆい)です。唯って呼んで下さいぃ」
渡辺 唯ちゃんって言うのかぁ。可愛い名前だなぁ。
突然自己紹介を始めて、中々マイペースな子だけど、逆にそこがいい!
「僕は藤原 雪那。セッちゃんって、呼んでね」
「セッちゃ~ん」
隆が気持ち悪い声を出す。吐きそうだ。
「お前じゃない」
「セッちゃんって、ウケるわ。お前がそんな名前で呼ばれてるの聞いたことねぇぞ」
「いいじゃないか!」
隆め、余計なことを言うなよ。渡辺さんからそう呼ばれたいのがバレるじゃないか。
そうなったら、キモがられてしまう。それはなんとしても阻止しなければ。
恐る恐る渡辺さんの顔を見ると、渡辺さんは口を大きく開けて、とんでもない事でも起きたような驚いた顔をしていた。
「あれ!? ごめんなさい!! 今、名前何て言いました?」
「セッちゃ~ん」
隆に呼ばれると寒気がする。六月にして、もう冬が近づいているのかもしれない。
「そっちじゃなくて! 本名ですぅ!」
渡辺さんが急かしてくる。
「藤原 雪那だけど。それがどうかしたの?」
もう一度僕の名前を口に出して、渡辺さんの顔を見る。
「雪那……。 雪那様ですかぁぁ!?」
「ごめん、もう一回言ってくれるかな」
幻聴だろうか? 様付けで呼ばれた気がする。それも下の名前を初対面でいきなり呼んでくれた。どうやら僕の恋が急速に加速したようだ。名字で呼ばれるのをいかにして、下の名前で呼んでもらうかが一つ目の課題なんだけど、どうやらその課題は既にクリアしたようだ。
「雪那様ですよねぇ?」
ボイスレコーダーは持ってなかっただろうか。学生服のポケットを漁る。
「ごめんなさい! 雪那様だったなんて、全然気付きませんでした!」
どうやら、ボイスレコーダーは持ち歩いていないようだ。そもそも買ったことさえない。って、ちょっと待って。
「僕のことを知っているの?」
「バカで有名だからな、そら誰でも知っているよな」
隆のバカは置いといて、渡辺さんに答えを促した。
「小さい頃、一緒に遊んでましたよね? 雪那様は唯のこと、覚えて無いですかぁ? 雪那様があまりにも変わってたから唯もさっきまで分からなかったですぅ。でも、何でこんな大事なこと、こんな大事な人のことを唯は忘れてたのでしょう……。」
ばつが悪そうに渡辺さんは下を向き、暫くして再び顔を上げ、僕を見つめる。そんな顔で見つめられるなんて。マズイ、どうにかして思い出さなきゃ!
渡辺さん……、唯さん……、渡辺 唯さん…… 。……、……、駄目だ。
「思い出せない。ごめんね。どう頑張っても、渡辺さんのこと思い出せないや」
渡辺さんは残念そうな顔をすると、慌てて、バレバレなぐらいに無理に明るい表情を作ってくれた。
「でも、大丈夫ですぅ。唯は悲しみません! いつか思い出してくれるかもしれませんし、それにさっきは、誰かも知らない唯を、身を挺して庇ってくれましたし! 根本的なところは変わってなくて安心しました」
下心で庇っただけなんだけどな。それに結局、隆と戸部さんに助けられたし。
「ごめんよ」
渡辺さんに謝ってばかりだ。
「大丈夫ですぅ! 謝らないで下さいぃ。そのうち思い出しますよ」
そう言って笑顔を僕に向ける。こんな記憶力の悪い僕に優しい言葉を掛けてくれ る。
(いい子だなぁ、渡辺さんは)
「別に思い出さなくてもいいんじゃないの」
戸部さんが口を挟む。
それに比べて戸部さんは……。
「何よ?」
目が合ってしまい、睨まれてしまった。何て怖い人だ。
僕を睨んだ後、ケータイを取り出して時間を確認している。
「そういえば、もうそろそろかな?」
「戸部、もう呼んだのか?」
隆が尋ねる。何を呼んだんだろうか?
「ええ、坂田から電話があった後直ぐに呼んだから、もうそろそろ来てもいい頃だけど」
「ってことは、雪那が妖怪に追われている頃か」
妖怪?
「隆? 何の話?」
「ああ、悪りぃ。戸部? 喋っていいんだよな?」
隆が戸部さんに尋ねる。
「ええ、いいわよ」
了承を得ると、隆は僕に向き直る。
「これから協団の人間が来るんだ。って、協団の説明からいるのか?」
「協団て? ちょっと待って。妖怪ってところから既についていけてないから」
まさか、この年になって妖怪って言葉が隆から出るなんて……。
「ここっすか!? あ、いたいた」
声のする方に振り向くと、青いコートを羽織った男性が屋上とスロープ間のドアを開けて走って来た。ズボンも青色で全身真っ青だ。コートには銀色の装飾が施されてて、高級感がある。
「お、噂をすれば」
「隆、あれが妖怪か?」
あんな青々した派手な格好、恥ずかしくて街を歩くことは出来ない筈だ。あれこそ妖怪のなせる業に違いない。顔がイケメンだけに残念だ。
「違う。バカか」
隆が突っ込みを入れる。いや、分かってましたよ。あちらが協団とやらの方ですね。わかってましたとも。それにしても突っ込みにバカは一言余計だ。
実際に見てしまったからわかる。さっきの首の長い怪物が妖怪と思って間違いないかな。
「どうも~。オレっちです。重之(しげゆき)っす。戸部さんと坂田さん。それに一般人が二名っすね」
重之と名乗るイケメンは僕達に近づいてくる。
「いえ、全員関係者よ、一般人はいないわ」
「「えー!?」」
僕と隆の声が合わさる。
渡辺さんはキョトンとしてる。
何を言ってるんだ、ここに一般人が二人もいるじゃないか。僕と、渡辺さんは一般人だって。
「ちょっと待て、本当に雪那を巻き込む気か? それにその子は関係無いだろ?」
「いいえ、関係あるわ。藤原は《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者かもしれないし、その子も一般人じゃないわ」
「その子もだって? どういうことだ?」
隆が質問する。そうだ、どっからどう見ても一般人じゃないか。いや、こんな健気で可愛い子 、もしかしたら一般人じゃないかもしれない。こんな子が一般的にいたら世の中大変なことになる。取り合いだ。世は乱世だ。
「初めて妖怪を見たにしては落ち着き過ぎよ」
「そうか? 反応なんてこんなもんじゃないか?」
「坂田、あんた、初めて妖怪を見た時は震えていたでしょ?」
「はぁ? 俺が震えるわけねぇだろ!」
隆が強く否定する。
僕も、今まで震えていた足を必死に止める。バレてないよね? ビビって、なんか、ないからね。別に、ビビってたなんてこと、ないからね。ほんの、少しだけだからね。
「はいはい、いいわよ、じゃあ震えてないってことで。で、渡辺だっけ、あんたは妖怪を見るの初めて?」
隆の発言をあしらって、渡辺さんに尋ねる。
「唯は……、妖怪を見たことがありますぅ」
「え?」
そうなんだ。て、ずっと気になってたんだけど、聞いてみよう。
「さっきの首が長い化け物はやっぱり妖怪なんだ?」
「ええ、そうよ。ろくろ首って妖怪よ。見たら妖怪って分かるでしょ」
いやいや、いきなり妖怪よと言われても、見て分かるわけないって。さっき確かに見たとはいえ、そもそも存在するものなの? 妖怪って?
「妖怪って存在するものなの?」
「存在するわ。それと、渡辺のことで気になることがあるわ。妖怪を目撃しているのに、そのことを覚えてる。それはどういう状況か分かる?」
戸部さんは隆に尋ねた。
「ああ。記憶の消し忘れか、どこかの協団の関係者ってことだろ?」
「そうよ。私は後者だと思うわ。消し忘れなんて、今までそんなこと無かったしね」
「ちょっと、待って! 何二人とも物騒なこと言ってるの? 記憶の消し忘れって!? 記憶を消すことが出来るってこと?」
そんなことが本当に出来るんだろうか? まるで漫画の世界じゃないか。
「ええ、出来るわ。協団に属してない人、つまり一般人は妖怪を見たら、そのときの記憶を消されるのよ」
「恐っ! 何でそんなことをするんだい?」
「それは、っすね……」
青いコートの重之さんが説明を始める。まだいたんだこの人。忘れてた。
「妖怪を見たら、ふつー誰かに話すっすよね。友達にせよ、もしくはメディアに、そしてそれを見聞きした人達はまた誰かに。どんどんその情報が広まるっすよね。そしたら世の中パニックっすよ。妖怪の存在を世間に知られると、教団からすれば面倒になるだけで、メリットが何も無いっす。ざっくり言うとそういうことっす。無駄に不安を煽らせない為にっす」
おかしな喋り方をするイケメン、重之さんは流れるように説明をしてくれた。
僕の頭からも流れていきそうだ。復唱しよう。
「えっと、妖怪のことを知ったままにしておくと、何もいいことない。パニック。オッケー?」
「大雑把に言えばそれで合ってるが、雪那がオッケーかよ? お前が既にパニックじゃねぇか?」
酷いなぁ、ちゃんと理解したさ。
「で、和泉(いずみ)の『神器』持ってきてるっすけど、使わないっすか?」
「ええ、この二人には要らないわ。他の人達は済ませたの?」
「今やってるとこっすけど、もうすぐ済むっすよ」
「そう。じゃあ行くわよ」
戸部さんが僕の方に向く。
「ちょっと待って! 行くってどこに?」
「協団によ」
「そっか、行ってらっしゃい」
「あんた達も来るのよ」
やっぱりですか? 協団って何なんだ? それに僕は関係無いと思うんだけど。
そんな僕の気持ちとは裏腹に、半ば強制的に戸部さん達に付いて行くことになった。
屋上から屋内に戻り、入り口まで歩く途中、青いコートの人が四人、二階で待っていた。
みんな右手に青白く光る鏡を持っている。手鏡ほどの大きさで、柄は付いておらず、丸い鏡そのものを手に持っている。何の装飾も無くシンプル過ぎる鏡だ。
青いコートの一人が、ショッピングセンター内の店員らしい人に鏡を見せる。
鏡を見た人はぱたりとその場に崩れ落ちた。
「何あれ!? 大丈夫なの!?」
慌てて戸部さんに詰め寄る。
「大丈夫よ。少し眠ってるだけ。起きたら妖怪に関する記憶は消えているわ」
なるほど。ああやって記憶を消しているのか。全くもって原理が理解が出来ない。
どうやってあれで記憶が消えるの? 不思議過ぎる。
「おつかれっす! 先に帰ってるっす!」
重之さんはコートの四人にそう言って。そのまま通り過ぎる。
青いコートの四人も重之さんに挨拶を返す。
『お疲れ様です』
『つかれ~』
『おっつー』
『優子たんと帰宅だと!? いいなー、おいらも優子たんと一緒に帰宅したいだ』
ん? 一人変なのが……、気のせいか。
マンナカモールから出ると、目の前には白いセダンが二台駐まっている。
「みんな乗って下さいっす」
その内の一台に、重之さんが僕らに促す。
「え、この車君の? 君が運転するの?」
僕は思ったことを口にした。
「そうっすよ。車は協団のヤツっすけど、運転はオレっちがするっすよ」
「免許持ってるの? 僕らと同い年かと思ったけど」
「酷いっすね、免許ぐらい持ってるっすよ。歳も君達より上で今年十九になったばかりっす」
そうなんだ、それは失礼なこと言ってしまったなぁ。年上だったなんて、それに免許も持ってるって。
僕達は一台の車に乗り込む。僕は後部座席の右側に、左側に隆、二人の間には渡辺さんがちょこんと座る。小動物みたいで、なんか可愛い。そして助手席に戸部さん、運転席は勿論重之さんだ。
「雪那……、覚悟しとけよ……」
隆が隣から小声で話しかけてきた。声のトーンを落としてまでどうしたんだろう。覚悟しろと言われても、何を覚悟するんだろうか?
隆は青ざめた顔をしながらシートベルトを強く握っている。
隆って車酔いする方だっけ? 発進する前からそんな顔色をするなんて、隆のそんな顔を見るのは始めてだ。
おっと、僕もシートベルトをしておこうかな。
『ブゥゥーーーン!』
シートベルトを閉めると車は勢いよく発進した。
マンナカモールから道路に出ると、そのまま加速し、一定の速度を維持してるみたいだ。
赤信号ではちゃんと止まる。あまりにもちゃんと止まる。まるでブレーキを全力で踏んでるみたいだ。
信号が青に変わる。ちゃんと発進する。あまりにもちゃんと発進する。まるでアクセルを全力で踏んでいるみたいだ。
どうしよう。三半規管がおかしいのかな。二つ目の信号を前にして、吐き気がしてきたよ。
「て、おかしいよね!! 絶対運転おかしいよね!!」
「おかしいっすか? 安全運転なんっすけどね。信号ではちゃんと止まっているし、速度制限もちゃんと守ってるのに、何がおかしいっすかね?」
「メリハリあり過ぎだから!! いくら制限速度を守っても絶対おかしいから!!」
法定速度を守り安全かつ、乗り心地は一切考え無い、そんな異常な運転だけど、車は街の方に向かっているようだ。街だよね、地獄じゃないよね。
ジェットコースターも真っ青な恐怖のドライブを満喫していると、駅近くに並ぶビル群の中に入っていき、その内の大きなビル近くの駐車場で車が止まる。
僕と隆はシートベルトを外し、慌てて車から出た。
うずくまる僕の肩に隆が手を置いた。振り向くと、にこやかな笑顔で紙袋を渡してくる。さすが隆、僕の気持ちを悟ってくれたみたいだ。
ちょっと小ぶりな、その紙袋にはこう書かれていた。
『使用料 一万円也』
「って、金取るのかよ! 鬼か!? 隆! あんたは鬼か!?」
「一万円で体裁を保てれるんだ、安いもんだろ」
そう言う隆の顔は既に体裁を保っていない。半分白目を剥いて、口からは泡を吹いている。
僕にわざわざ売るより先に自分のことを考えなよ。どこまで嫌がらせが好きなんだ!
「こんなに運転下手だったの? 知らなかったわ。……藤原、早く行くわよ」
戸部さんが急かしてくる。少し顔が青白い気がするけど、それでもなぜ平気なんだ。
あれ? 渡辺さんがいない。
車の中を覗くと、まだ、真ん中に座っていた。どうやら寝ているみたいだ。
よく寝れるなぁ、あんな酷い運転だったのに。
「!?」
違う! 完全に白目を剥いて気絶をしてる!
「渡辺さーーー ん!!」
そんなこんなで、フラフラになりながらも、僕達は駐車場からビルの前まで来た。
改めてみると、けっこうボロい、年期の入ったビルだ。
五階建てで、コンクリートがところどころ欠けている。ヒビもいたるところにある。
「へぇ、なかなか年期の入ったビルだね」
手動のドアを開けて、ビルの中に入ると、中もやっぱりボロボロだ。
不思議なことに埃や蜘蛛の巣はどこにも見当たらないけど、廃屋といってもよさそうな程、古びた見た目をしている。
「そんことないわよ、築五年だったと思うわ」
はい? どう見ても築四十年以上は経っていそうだけど。
エレベータの中に五人全員入ると、重之さんがエレベーターのボタンを押す。
かち、かちと十回程、違う階のボタンを押していく。
「どう見ても五年じゃないよ。それにエレベーター壊れてるし」
「壊れてないっすよ、今パスコードを押しているところっす」
そんな言い訳しなくてもいいのに。どう考えても壊れているとしか思えない。
そう思っていると、エレベーターが動き始めた。
ふと、ドアの上の方にある階層表示のランプを見上げる。
「!?」
階層表示がおかしな事になっている。
一階から五階までの表示の他に、「協団」の表示がある。
「え、何この表示」
「ユニークよね」
ユニークっていうか、何だろ、協団の位置をアピールし過ぎてない? 見てくれはボロい雑居ビル、で、それはカモフラージュで中には立派な事務所があるってオチですか?
まさかね…… 。
五秒ほど揺れるとエレベーターが止まり、扉が開く。
そこには大きな廊下が前に伸びている。真っ白な壁に、天井には白い照明があり、青色のカーペットが真っ直ぐ敷かれている。その廊下があまりにも大きすぎる。幅は四人がすれ違える程広く、廊下の長さは、カーペットの先が見えない程先まで伸びている。
「おぉー! すっごいなー!」
本当に立派な廊下だ。照明とカーペットの色彩の綺麗さ、そして清潔感、完璧です。ビルの見た目には全く似つかわしくない廊下だ。
「綺麗ですぅー!!」
僕に続いて、渡辺さんも感嘆の声を上げる。
「これで驚いていたら持たないぞ」
隆がさらに期待させてくる。十分驚いているのに、まだ何かあるのかい。
廊下を進むと、立派な装飾のされた扉が見える。
「さぁ 、いくっすよ」
重之さんが扉を両手で勢いよく開けた。
「まじで?」
「すっごいですぅぅぅ!」
扉の先は、そこで貴族のパーティーが出来そうな洋館のエントランスっていったところだろうか。凝った造りかつ、かなり大きな広間になっていた。
「え? ここどこ? ビルの中だよね? 明らかにサイズオーバーだよね!?」
「地下っすよ、ここ! 期待通りの反応をしてくれて嬉しいっすね」
期待通り? 僕は想像以上です。何この異空間? サイズも豪華さもそうだけど、それ以前にここはヨーロッパですか? 中世時代ですか?
「凄いですぅ、お姫様になった気分ですぅ」
中世ファンタジーのゲームで出てきそうな内装に、渡辺さんも嬉しそうにはしゃいでる。
「私も最初来たときはビ ックリしたわ。こっちよ」
僕達が浮かれていると、戸部さんが先頭を歩く。
広間を真っ直ぐ進むと扉があり、その先をまた真っ直ぐ進み、そのまま僕達五人は進んでいく。
また扉がある。その扉に重之さんが手を掛ける。
「この協団のトップ、教団長、和泉(いずみ)様がこの部屋でお待ちっす。準備はいいっすね」
そう言って開けると、またしても大きな広間がある。学校の教室の六つ分程の大きさだ。天井も高く、広さをより際立たせている。
広間の奥には小学生ぐらいの女の子が椅子に座り、こちらを見ている。その女の子の髪は全部白髪に染まっていて、神秘的な印象を受ける。
「待っておりましたよ」
「和泉(いずみ)様、ただいま戻りましたっす」
重之さんが少女 にお辞儀をする。この方が協団のトップ、教団長様かぁ。って、小学生じゃないか!? 髪は雪のように真っ白だけど、相当苦労したのかな。それともオシャレで髪を染めているとか。
「既に他の補助者達から報告を受けております。二名は記憶を消さずに連れてきたのでしょう」
(補助者っていうのが、マンナカモールで記憶を消してまわってたヤツらだ)
隆が耳元で囁く。男じゃなくて女の子に囁かれたいけど、今回は良しとしよう。説明をありがとう。それよりも、十九歳の重之さんが、フランクな話し方とはいえ、小学生くらいの少女に畏まって報告していることにどうしても違和感を感じてしまう。
「はい! この人達っす」
そう言うと、僕は前に押し出された。続いて渡辺さんも前に出る。
和泉ちゃんは重之さんとは違った服装だ。同じ様に青いけど、コートじゃなくて法衣を着ている。法衣はふちや裾が金色で、胸には百合の紋章のブローチが付いていて、重之さん以上に豪華な装飾を施されている。
「私は、和泉 式部(いずみ しきぶ)と申します。あなた達は?」
「ぼ、僕は、藤原 雪那です」
丁寧な言葉使いの少女に気圧されながら答える。少女とは思えない不思議な重圧を感じ、さすがにセッちゃんと呼んでねとは言えなかった。
「渡辺 唯ですぅ」
渡辺さんはそう言って軽く会釈をする。
「そうですか。 戸部さん、この方達を連れてきた理由はなぜですか?」
「はい。『神器持ち』だと思ったからです。それも、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者だと思います。もう一人はたまたまか、妖怪と遭遇するのが初めてじゃないかなと。恐らく、他の協団の人間かなと思いました」
あの戸部さんがなんと、敬語で報告しているではないか。
「あの……、僕は『神器持ち』じゃないと思いますけど。それにそもそも『神器』って何ですか?」
疑問に思ったことを口にしてみた。
「そうですか。そこから説明しなくてはいけませんね」
そう言って僕と渡辺さんの目を見て言葉を続ける。
「ここに来たということは、妖怪は知ってますね?」
「うん、今日初めて、実在するんだと知ったけど」
「はい! 知ってますぅ」
僕と渡辺さんは頷いた。
「『神器』とは、妖怪を倒す為の武器のことです」
「戸部さんや隆が持ってた、あの青白く光るヤツですか?
出したり、消したり出来る不思議な剣と弓の?」
二人がろくろ首と戦うときに使ってた武器のことかな?
一体どんな原理で出し入れしているんだろうか。まるで手品みたいな武器だった。
「お二人が持っているのは、『神器』を模して作成した武器です。名前は『贋神器(がんじんぎ)』と呼びます」
「『贋神器』? 『神器』っていうのとは違うんだ?」
「『神器』とは、その名の通り、神の武器。『贋神器』よりも遙かに強力な武器です」
「えぇっと、『神器』の方が、『贋神器』の強力なヤツってこと?」
「ええそうです。ただし、『神器』が元々存在していて、その『神器』を真似して作成したのですが、『神器』のようには上手く出来ませんでした」
「『神器』ってそんなに凄いの?」
『神器』を実際に見た事が無いから、何が違うのかいまいちよくわからない。
「妖怪を倒すのに、なぜ銃を使わないかわかりますか?」
「うーん、わからないなぁ」
銃を使った方が明らかに早いと思う、わざわざ弓や刀なんか使わなくてもいいと思ってました。刀とか使うのは、その方がかっこいいからかなって。
「近代兵器では妖怪を傷付けられないからです。妖怪を傷つけることが出来るのは『神器』だけです。それと、その『神器』を模した『贋神器』。現在ではそれが唯一の妖怪への攻撃手段です」
へぇ、何か原始的だな。漫画とかに出てきそうな話だ。
「『神器』は『贋神器』と違い、切れ味や打撃力であったりと、武器としての基本的な性能が違います。さらに、ここが大きな違いですが、神器は使用者の神通力(じんつうりき)を反映させ易いのです」
「神通力? 何か強くなるヤツですか?」
これまた何か漫画で出てきそうな言葉だなぁ。
「間違ってはないですね。大岩を持ち上げたり、自身の身長の倍以上の高さまで跳躍したりと、人間の力だけでは到達不可能な力です」
「凄いですぅ、映画見たいですぅ」
「何、その不思議な力。実際にそんなこと……、出来るのかな?」
普通じゃないけど、妖怪や『贋神器』を実際に見た以上、スーパーヒーロー化があっても信じてしまう。
「目に見えないけど、存在するものが確かにあるのを知っていますか?」
「オカルトチックな話ですね。 お化けとか魂とかのことですか?」
「人によってはそう呼ぶ人もいます。ただですね、オカルトとは違い粒子力学的に存在するものです」
「うん?」
全然ついていけない。どうやら天才である僕の頭を持ってしてもここまでか。
「携帯電話の電波であったり、電子レンジの電磁波であったり、見えないのにそれらは確かに存在していますよね。それと同じとまでは言いませんが、神通力や『神器』は確かに存在するのです」
「お、おぉ、なるほど! そ、存在するんだ!?」
よくわからないけど何それ? すっごい欲しい。目に見えないけど確かに存在する、未知の力ってことであってるよね?
「雪那って、詐欺とかにすぐ引っかかりそうね」
戸部さんが哀れんだ目で僕を見つめる。
「え!? 嘘なの?」
「嘘じゃないけど、あんたは何でも信じそうと思っただけよ」
何でも信じそうに見えるなんて、そんなこと言うと、僕が何か頭悪い人みたいに渡辺さんに見られるじゃないか。
「そうなんですかぁ~、あるんですか、魔法の武器。良かったですぅ~、宇宙の神秘みたいですぅ。見えないけどそこにある存在! 唯は惹かれます!」
渡辺さんが、目をキラキラさせて両手をグッとする。
「渡辺って電波な人なんだ」
戸部さんが失礼なことを言う。こんな可愛い子に電波なんて。僕もちょっと思ったけど黙ってたのに。
「失礼だよ。戸部さん。今日初めて会った人に電波なんて」
「あんたもたまに電波だけどね」
なんて失礼な。少し頭が良くないだけだよ。少しね……。
渡辺さんはキョトンとしている。どうやら電波の意味をわかっていないみたいだ。天然不思議ちゃんのことなんだけど。
「で、この二人は『神器持ち』なのか、他の協団の人なのかどうなんですか? 和泉様」
そうだった。話が逸れたけど、それを聞こうとしてたんだ。
「そうですねぇ」
和泉ちゃんは両手を前に出すと、青い光が両手の間に生まれる。隆の刀や、戸部さんの弓よりも濃い青色だ。
その光は直径三十センチ程の大きさの丸い鏡になった。
鏡を僕と渡辺さんに向けて、そしてしばらく沈黙する。
僕が『神器持ち』? スーパーヒーローになるの? 凄くない? ワクワクしてきたよ。
数秒経ってから和泉ちゃんが再び口を開いた。
「渡辺さん、あなたは『神器持ち』ですね。それも戸部さんの予想通り、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》です」
「「「え!?」」」
三人の声が合わさる。
そっちですか? 僕じゃなくてそっちですか?
「その子が《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》を? こっちじゃないの?」
戸部さんが僕を指指す。
「……藤原さんは只の一般人ですね」
「うそ!?」
戸部さんが驚く。そんなに驚かれても、だから『神器』とか知らないって言ってるじゃないか。僕もちょっと期待してしまったけどさ。ちょっ、ちょっとだけだからね。
「じゃあ何であんた、酒呑童子の特徴を、鬼の顔で刀持ってて、霧が掛かる場所で出現するって知っているのよ」
「だから夢で見ただけだって。酒呑童子っていうのが何なのかも、特徴も知らないって」
「夢で見るっていうのが、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の能力なのよ!」
「そうなんですか? 何かメルヘンな能力ですぅ」
面白そうに渡辺さんが微笑む。
「正確には予知夢な」
隆が補足する。
「何か地味な能力なんだね」
そんな能力よりも、火を出したり、空を飛べる方が格好いいな。
「地味じゃないっすよ。これから起こることを予知出来るなんて、めっちゃレアな能力っすよ」
そうなんだ? そんな能力があっても、テストの問題を予知することしか使い道が思い付かない。問題を予知したところで答えを用意出来る自信はないけど。
「唯にそんな能力があるんですかぁ?」
「らしいな。使わない方が良いと思うけどな」
「何でですか? そんな凄い力、使って見たいですけどぉ」
僕も見てみたい、予知夢なんて、そんなこと本当に出来るんだろうか。
「『神器』の使用者になると、何かを失うのですよ」
和泉さんが説明する。
「失うってどういうこと?」
「視力を失ったり、聴力や、味覚だったり、『 神器』によって失うものは違うのですが、力を手に入れるということは、何か代償を払わなければいけないようになっているのかもしれませんね」
さらりと恐ろしいことを言う。渡辺さんが『神器』の使用者になると、何かしらを失うのか。こ、怖い、怖すぎだって。
「そんなの使わない方がいいよ! 渡辺さん! 使う必要ないんだしさ」
「そ、そ、そうですよねぇ……」
渡辺さんのテンションが先ほどよりも遙かに大きく下がる。
「渡辺、あんた『神器』を使ったことないの? もしかしたら既に何か失ってるモノがあるんじゃないの?」
戸部さんが尋ねる。
「使ったこと無いですぅ。それどころか『神器持ち』ってことも、『神器』というものがあるってこともさっき知ったばかりですぅ」
「そっかー。そ れなら今後使わないに越したことはないよ」
「残念だけどそうはいかないのよ」
戸部さん、君は何を言うんだろうか。使わない方がいいに決まっているじゃないか。
隆を見ると、隆も僕を見て首を横に振る。
「《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》は他の『神器』とは勝手が違うんだ」
「その『神器』はね、妖怪から狙われやすいのよ」
「そうなんですかぁ?」
「ええ、妖怪からすれば、その『神器』はあまりにも強力過ぎるのよ。これから起こることが見えるっていうのは、妖怪達の出現場所を見て、その場所を避けて逃げることも、逆に大勢で待ち構えて退治しやすくも出来る可能性があるの」
なるほど、相手の出方を考えて、対策を打てるってことか。確かに妖怪にとっては脅威だね。 出てきたら待ち伏せなんかされてたら、何も出来ずに終わることもあるんだから。妖怪の立場なら一番に叩かなきゃいけない相手ってことだ。
「それなのに、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》自体は妖怪に攻撃する『神器』じゃないから、襲われたら為す術がないのよ」
狙われやすいのに自分で自分の身を守れないなんて、妖怪の格好の獲物じゃないか。
「何か、損した気分ですぅ」
「ですから、教団に入った方がいいかもしれません。私達、【青龍の教団】が貴方を守ります。勿論、『神器』を使う必要はありませんから」
「いいんですかぁ?」
「救える人に手を差し延べるのが教団の努めですから」
なんか、どっかの宗教みたいだなぁ。
「それなら唯、教団に入りますぅ。あんな怖いのに襲われるなんて、次もあるかもしれないなんて、そんなの嫌ですぅ」
渡辺さんは直ぐに決断したようだ。
「あなたはどうされますか? 藤原さん」
「何を? どうするって何をですか?」
「貴方は『神器持ち』では無いですし、守る必要はありません。それなら、一般人であるあなたの記憶を消さなくてはなりません」
「どうしてですか?」
僕は首を傾げた。
「妖怪や『神器』の非関係者は記憶を消さなくてはなりませんから。それが嫌なら、教団に入り、関係者になるしかありません」
「ちょっと待ってよ、そんな……、ここまで聞かせといて記憶を消すなんて」
「それが決まりですから」
決まりだからって、そんな簡単に言われても、選べる筈がない。教団て、何をするところかよく知らないけど、ろくろ首みたいな妖怪と戦うことになるってことぐらいはわかる。あんな恐ろしいこと、もう二度と味わいたくないし、かといって記憶を消されるのも嫌だ。こんな世界があったなんて知らなかったのに。
「どうするんだ、雪那。俺は強制しないぞ。お前が自分で選べ」
隆はきっぱりと僕に言った。
どうするって? 怖いし、やっぱり記憶消されても、非関係者でいることの方がいいかな。
「雪那様、協団には入らないで下さい。雪那様が妖怪や教団に巻き込まれる必要はありません」
渡辺さんが僕の心配をしてくれている。
そうだ。渡辺さんが、あんな怖い思いをしてまで妖怪と戦う決断をしたんだ。
僕がビビってどうするんだ!
「僕も入団します!」
そうだ! 僕は渡辺さんとお近づきになりたい!
「いいのか? 雪那」
「藤原。『神器持ち』じゃないあんたは無理しなくていいのよ。ここまで連れてきて申し訳ないけど、足手纏いになるだけだから」
二人も僕の心配をしてくれるけど……。でも、僕は決めたよ。
「うん、そう決めたんだ」
渡辺さんともっと親しくなりたいから、そのために僕は妖怪と戦うって。ちょっと邪な理由かもしれないけど。
「そうか、雪那がそう決めたんなら俺は何も言わないが」
「それでは改めまして、渡辺さん、藤原さん、【青龍の教団】にようこそ。貴方達の入団を認めます。今後は妖怪退治に励んで下さい」
和泉ちゃんが僕達にお辞儀をする。
「わかりました! 頑張ります!」
戦いたくないけど、渡辺さんの為なら何のその。
「はい、頑張りますぅ!」
心なしか、渡辺さんがさっきよりも明るい表情をしている。一人でも、味方が増えて嬉しいのかな。
「戸部さん、坂田さん、二人の案内はおまかせします」
「ああ」
「わかったわ」
隆と、戸部さんが返事をする。
誰も言わないから、ずっと思ってた事を口にしてみる。
「こんなに小さくて可愛いのに、和泉ちゃんも大変だね」
みんなが敬語で喋ってて僕もつられたけど、どうみても小学生にしか見えない。お母さんのお手伝いか何かなのだろうか?
「あんた、本当にバカね」
「雪那、それは庇いきれないぞ」
二人が僕に呆れた目を向ける。
「……可愛いなんて、久しぶりに言われました」
少女の顔が少し紅潮した。
「百年ぶりかしら?」
「はい?」
少女が不思議な言葉を発した気がす る。
「和泉様は千歳を超えてるのよ」
「はい!?」
その後説明を受けると、どうやら和泉ちゃんは、千年以上も前に生まれていて、年老いては『神器』を使い、自分の子孫に記憶を移すことを繰り返しているらしい。それって禁忌じゃないのかと思ったが、和泉ちゃんから滲み出るオーラに何も言えなかった。
五人で部屋から出ると、重之さんが僕らに向かって手を振る。
「それじゃあ、俺っちはこの辺で失礼するっす。入団、おめでとう。これからは宜しくっす」
重之さんと別れ、四人で廊下を歩く。
「登録は後で私の方でしておくわ。先ずは藤原、あんたの『贋神器』を受け取りに行くわよ」
「僕も『贋神器』貰えるの?」
「丸腰で戦うわけにはいかないでしょう」
それはそうだ。今日の二の舞はごめんだよ。
何回廊下を曲がっただろうか、5分以上は歩き、とある部屋に案内された。
その部屋には何か機械が沢山並んでいて、この中世ファンタジーなフロアに似つかわしくない雰囲気だ。
「あれ? 新人さん?」
メガネを掛けた、作業着姿の女性だ。髪は頭の上で団子にしていて、歳は二十代後半だろうか。
「ええそうよ。こいつに『贋神器』を渡して欲しいの」
「そう? いいけど、戦闘者志望? この子見るからに弱そうだけど」
作業着の女性がきっぱりと言う。僕ってやっぱり弱そうに見えるんだ。隆みたいに身長と筋肉があればいいのにな。でも、隆みたいに脳まで筋肉は要らないかな。
「雪那、何かバカにしてるだろ」
さすが隆、なかなか鋭い。
「藤原 、戦闘者志望でいいわよね? 妖怪と直接戦う方で」
「戦わずに済む方もあるの?」
「補助者ていうのがあるわ。非関係者の記憶を消したり、雑務的なことで、戦闘者の手助けをする役割よ」
妖怪と直接戦わなくていいなんて。そっちの方がいいじゃないか。
「ならそっちの方がいいな」
「妖怪に襲われても、自分の身さえ守れないけどそれでいいの?」
おっと、それは困る。ろくろ首に出くわしたとき、ちょっとでも力が欲しいと思ったし、雑務じゃ、渡辺さんを守ることなんて出来ないじゃないか。
「戦闘者でお願いします」
「ってことよ。いい?」
「わかった。それじゃあ『贋神器』を渡すわ。希望の武器はある? 刀、槍、弓とか」
「武器かぁ、僕は刀がいいな」
「そう 、じゃあ、これね」
作業着の女性は機械の中から試験管を一個取り出すと、僕に渡してきた。
試験管の中には青白い光が一個浮かんでいる。
「これは?」
「『贋神器の素』よ。これを体に取り込むとその『贋神器』を使用出来るようになるわ」
作業技の女性が説明してくれる。
「取り込むって? どうやって?」
どうやって取り込むんだろうか? まさか、これを飲み込むのかな?
口元に試験管を持っていくと、慌てて戸部さんが僕の腕を?む。
「何しようとしてんのよ!? 飲むんじゃなくて、手の平に乗せて、それを体にくっつけるのよ」
おっと、そうか!
言われた通り、試験管を逆さまにし、手の平に乗せると青白い光が浮かんだ。
「綺麗な光だなぁ」
戸部さんと隆が妖怪と戦うときに出した武器と同じ色の光だ。
その光を自分の胸にゆっくりと押しつけてみた。
僕の胸にすぅっと入っていき、光が消えた。
「これで、終わりなの?」
乗せていた右手を見ると、そこには僕の手があるだけで、光は完全に無くなっている。
「そう、それで終わり。試しに出してみる?」
作業着の女性が促す。
「うん、出してみたい!」
僕も二人みたいに武器が出せるなんて、魔法みたいだ。さっそく出してみたくてワクワクする。
「そう簡単に出せるわけないわよ。どうやって出すかもわからないのよね?」
そっかぁ、出すのに何かコツがいるのかな? 呪文を唱えたら出現したり、出ろと念じたら出るとか、そんな感じかと思ったけど、そんな 簡単にはいかないのかぁ。
「うん、わかんない。教えて欲しいんだけど、さっそく出してみたいんだ」
「全く、子供みたいね」
「こいつ基本ガキみたいなヤツだからな」
二人して勝手なことを言うなぁ。君達だって僕と同い年で、まだ子供じゃないか。
「いい? 手を出して、そこにさっきの光をイメージして、光が生まれたら、その光を武器の形状に変化する様なイメージを描くのよ、あんたのは刀だから、刀の形状をイメージするのよ。わかった?」
ごめん、全然わからない。って、やっぱり念じる感じでいいんだよね?
隆の方を見つめると、隆はやれやれと言いたそうに顔を振った。
「戸部、そんなんじゃあこいつにはわからんだろ。雪那、いいか? ぽわ~ん、ときたら、ヴィ~ンだ」
よし、わかった。ぽわ~んときて、ヴィ~ンだね。
右手を前に出し、さっきの光がぽわ~んと光るイメージをしてみる。
「いい加減な説明ね。そんなんで出来たら苦労しないわよ。私でも出現させるまで一週間は掛かったんだから」
僕の右手に青白い光が生まれた。
「綺麗ですぅ~」
渡辺さんが僕の右手に見とれている。
「そんな……」
「戸部、一週間はさすがに掛かり過ぎだぞ。俺でも一日で出来たぞ」
「そうなの?」
「ああ」
次はヴィ~ンだね。
刀の形をイメージする。光がゆっくりと伸び、刀の形になると、青白い光が消え、僕の右手には刀が握られていた。
刀身には仄かに青白い光が残っている。
「出来たーーー!」
嬉しさのあまり、声を張り上げてしまった。
「うそ……でしょ!?」
戸部さんが驚いた表情を僕に向ける。僕が一回で出来たことが戸部さんには一週間掛かったのかぁ。少しだけ哀れに思ってしまう。
「雪那、お前以外とセンスあるんだな」
「雪那様、さすがですぅ」
右手には重量感がほんの少しだけ感じられる。感じられはするけど、それでも刀にしては明らかに軽すぎる。ほぼ何も持っていないに等しいかも。
「これって、こんなに軽い物なの?」
作業着の女性に尋ねてみる。
「そうよ。実在する武器の重さに比べたら全然軽く感じるでしょ。その光には確かに存在していて質量があるの。かといって鉄や木で出来ているわけじゃないから軽いの」
「でも、体の中にしまえたりするんだよね? 一体何で出来てるんだい?」
こんなハイテクな物質はいったい何だろう?
「さっき電波や電磁波の例えで説明したわよね? 存在しているけれども、目に見えないモノ。簡単に言うとそんなモノに似ている物質よ」
作業着の女性が説明を続ける。
「魂もそういった目に見えないけど存在するモノの一つだと思うわ」
どうしよう、この人、危ない人かな。確かにそうかも知れないけど、何かオカルトっぽい。
「そ、そっか~、そうだ! この刀、隆みたいな大きな刀じゃないんだね」
思い出したように話を変えてみる。
「ああ、俺のは特注だ。普通の刀じゃつまらないからでっかくしてみた」
「え!? 大きさ、自由に変えること出来るの?」
「変えれるわ。大きければその分魂を削られる し、『贋神器』の濃度が濃ければそれでもまた、その分魂が削られるけど」
「だから、俺のは普通の刀よりも濃度を薄くしているんだ」
魂、濃度?
「はい?」
「藤原、あんたついてこれてないわね。いいわ。また今度説明してあげるわよ」
刀への意識を止めると、刀は青白い光を放ち、霧散するように消滅した。
「消えた!?」
「また、出そうと思えば出せるわよ。ひとまずこれで終わりにして、そろそろ帰らない?」
僕達四人はこの部屋から、そしてビル自体から外に出た。
外に出ると、不気味なくらい赤い夕暮れが水平線に差し掛かっているところだ。
「まさかお前も【青龍の協団】に入っちまうとは」
隆が僕に言葉を零す。
「うん、入ったけどマズかった?」
「 いや、お前にはこっちの世界には来て欲しくなかったな、と」
「何だよそれ? 心配してくれてるの?」
「違う違う、俺じゃない。お前が入ることで心配するヤツがいるんだよな」
「え、誰だよそれ? 教えてよ」
僕のことを心配してくれるなんて、もしかして僕に気がある女の子がいるのかな。いったい誰だろう。
「なぁ、戸部?」
「はぁ!? な、何言ってるのよ!?」
隆が戸部さんに話を振ると、戸部さんが明らかに動揺している。
もしかして、戸部さんはその子のことを知っているのかな?
「戸部さん、知っているの? 僕のことを心配してくれる子が誰か?」
「三組の中村だよな?」
三組の中村さん、いったいどんな子だろうか?
「中村 明雄(なかむら あきお)だよな?」
あきお? 明雄? どう考えても男の名前だ……。
「そ、そうそう中村 明雄(あきお)よ!」
戸部さんが慌てたように同意する。
「それと、もう一人、確か名前は、戸部がはっ!」
「戸部がはっ? 変わった名前の人だね?」
「そうそう、戸部がはっ、て名前の人よ! ねぇ、坂田?」
「そうだ、戸部がはっ、ていう変わった名前の人だ……」
隆は涙目になりながら脛をさすっている。脛をどこかにぶつけたのだろうか?
(そんな出任せ雪那に通じると思ってるのか?)
(うるさいわね、あんたが余計なこと言おうとするからでしょ)
「戸部さんと同じ名字なんだ。親戚か何かなの?」
(おい、信じてるぞ。雪那お前、何てピュアなんだ!?)
(藤原がバカで良かったわ)
「そうね、従兄弟みたいなものね」
「そうなんだ。可哀想な名前だね。苛めに遇わなきゃいいけど」
さっきから二人がヒソヒソ話しているみたいだけど、小さくて聞き取れない。
「おい、信じちまったぞ!? 本当のことを言ってやれよ! 雪那が可哀想だろ」
「本当のことって何よ! 元はと言えばあんたが適当なこと言おうとしたからでしょ」
今度は大きな声でいがみ合う二人を見てると、何だか似たもの同士って感じだな。
「お二人とも仲良いんですねぇ」
渡辺さんも僕と同じものを感じ取ったみたいだ。
「「これのどこが仲良い(んだよ!)(のよ!)」」
「息ぴったりじゃん!」
戸部さんが今度は僕の方を睨み、フンっとそっぽを向いた。隆はやれやれと言いたそ うに首を横に振っている。
三人とは途中で分かれ、それぞれの帰路につく。
この一日の間に起きた出来事についていけない。
あまりにも日常を大きく変えるようなことが起きた。
妖怪と遭遇し、襲われ、クラスメイト二人に助けられた。
『神器』や『贋神器』という不思議な武器の存在を知った。
青白く光りを放っていて、出現させたり、消滅させたり出来る武器。
『贋神器』でなければ妖怪を倒せない。『神器』はそんな『贋神器』よりもさらに優れた武器。
協会の存在を知った。
妖怪を倒す人達。関係無い人が妖怪に出くわせば、パニックを防ぐ為にも記憶を消す、何だか怖い集団。
そして、僕もその集団に入り、『贋神器』を手に入れた。
僕にも刀を出 現させたり、妖怪と戦うことも出来るようになった。
あまりにもあっという間に非日常が押し寄せて来る。
非日常を僕は望んだつもりは無かったのに。
「それはないだろ。雪那は一般人なんだぞ」
隆が珍しく僕を庇ってくれる。
でも、戸部さんの言う通りだ。僕はただ見ていただけだ。隆は苦戦しながらも時間稼ぎをしてくれた。
そして戸部さんはいとも簡単に妖怪を倒してくれた。
だけど、 僕は何をしてるんだろうか。武器が無いとはいえ、他に何か出来ることは無かったのだろうか。
「……それはそうかもしれないわ、悪かったわね」
戸部さんも隆の言葉に納得し、謝ってきた。
「あの……」
先ほどの女の子が伺うように、僕らに声をかけてきた。
そして、僕達が女の子の方を向くと、勢いよくお辞儀をした。
「ありがとうございますぅ!」
深々と僕達三人にお礼をすると発言を続けた。
「さっきの生き物は何だったんですかぁ? それにあなた達は何者何ですかぁ!?」
「いや……、俺らはさぁ……」
隆は急に歯切れが悪くなる。
「説明してあげればいいじゃない」
戸部さんが提案する。
「するのはいいけど、説明しても意味無いんじゃねぇのか?」
どういうことだろうか?
「意味はあるわよ。協団に連れていこうと思うの」
「どうしてだよ? 連れて行く意味がわからん」
「『神器持ち』の可能性があるからよ」
「はぁ? 何言ってんだよ、そんなわけないだろ」
隆が否定するけど、まず『神器持ち』って何だろう?
「《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者だと思うのよ」
「何を根拠に言ってんだ?」
「鬼の顔をした男の夢を、恐らく酒呑童子の夢を見たって言ったのよ」
「はぁ? それだけで?」
「それだけじゃないわ。酒呑童子の武器である、あの赤い刀や、霧の濃い場所で見たって言ってたわ。霧の濃い場所って言うのはたぶん異界のことよ」
「たまたまだろ? 漫画かゲームで見たのを夢でも見て、たまたま酒呑童子の特徴と重なっただけだろ」
それでも隆は否定した。二人が何の話しをしているのか全然わからない。
「連れていけば分かることよ」
「雪那まで巻き込むなよ」
「その藤原が、神器持ちの可能性があるって言ってんのよ!」
はい? 僕に何の可能性があるって?
「ははっ、冗談キツイわ。中学から雪那と一緒にいるけど、《八尺瓊勾玉》どころか『神器持ち』でも無いっつうの」
「あなたが気付いてないだけよ」
……二人の会話についていけません。
隣の女の子の顔を見ると、その子も僕の顔を見て首を傾げた。なんだ、ついていけないのは僕だけじゃないんだ。
よかった、僕だけじゃなくて。
「あ!? そうでしたぁ!」
女の子は思い出したように急に声を上げた。
「自己紹介がまだでしたぁ。唯って言います。渡辺 唯(わたなべ ゆい)です。唯って呼んで下さいぃ」
渡辺 唯ちゃんって言うのかぁ。可愛い名前だなぁ。
突然自己紹介を始めて、中々マイペースな子だけど、逆にそこがいい!
「僕は藤原 雪那。セッちゃんって、呼んでね」
「セッちゃ~ん」
隆が気持ち悪い声を出す。吐きそうだ。
「お前じゃない」
「セッちゃんって、ウケるわ。お前がそんな名前で呼ばれてるの聞いたことねぇぞ」
「いいじゃないか!」
隆め、余計なことを言うなよ。渡辺さんからそう呼ばれたいのがバレるじゃないか。
そうなったら、キモがられてしまう。それはなんとしても阻止しなければ。
恐る恐る渡辺さんの顔を見ると、渡辺さんは口を大きく開けて、とんでもない事でも起きたような驚いた顔をしていた。
「あれ!? ごめんなさい!! 今、名前何て言いました?」
「セッちゃ~ん」
隆に呼ばれると寒気がする。六月にして、もう冬が近づいているのかもしれない。
「そっちじゃなくて! 本名ですぅ!」
渡辺さんが急かしてくる。
「藤原 雪那だけど。それがどうかしたの?」
もう一度僕の名前を口に出して、渡辺さんの顔を見る。
「雪那……。 雪那様ですかぁぁ!?」
「ごめん、もう一回言ってくれるかな」
幻聴だろうか? 様付けで呼ばれた気がする。それも下の名前を初対面でいきなり呼んでくれた。どうやら僕の恋が急速に加速したようだ。名字で呼ばれるのをいかにして、下の名前で呼んでもらうかが一つ目の課題なんだけど、どうやらその課題は既にクリアしたようだ。
「雪那様ですよねぇ?」
ボイスレコーダーは持ってなかっただろうか。学生服のポケットを漁る。
「ごめんなさい! 雪那様だったなんて、全然気付きませんでした!」
どうやら、ボイスレコーダーは持ち歩いていないようだ。そもそも買ったことさえない。って、ちょっと待って。
「僕のことを知っているの?」
「バカで有名だからな、そら誰でも知っているよな」
隆のバカは置いといて、渡辺さんに答えを促した。
「小さい頃、一緒に遊んでましたよね? 雪那様は唯のこと、覚えて無いですかぁ? 雪那様があまりにも変わってたから唯もさっきまで分からなかったですぅ。でも、何でこんな大事なこと、こんな大事な人のことを唯は忘れてたのでしょう……。」
ばつが悪そうに渡辺さんは下を向き、暫くして再び顔を上げ、僕を見つめる。そんな顔で見つめられるなんて。マズイ、どうにかして思い出さなきゃ!
渡辺さん……、唯さん……、渡辺 唯さん…… 。……、……、駄目だ。
「思い出せない。ごめんね。どう頑張っても、渡辺さんのこと思い出せないや」
渡辺さんは残念そうな顔をすると、慌てて、バレバレなぐらいに無理に明るい表情を作ってくれた。
「でも、大丈夫ですぅ。唯は悲しみません! いつか思い出してくれるかもしれませんし、それにさっきは、誰かも知らない唯を、身を挺して庇ってくれましたし! 根本的なところは変わってなくて安心しました」
下心で庇っただけなんだけどな。それに結局、隆と戸部さんに助けられたし。
「ごめんよ」
渡辺さんに謝ってばかりだ。
「大丈夫ですぅ! 謝らないで下さいぃ。そのうち思い出しますよ」
そう言って笑顔を僕に向ける。こんな記憶力の悪い僕に優しい言葉を掛けてくれ る。
(いい子だなぁ、渡辺さんは)
「別に思い出さなくてもいいんじゃないの」
戸部さんが口を挟む。
それに比べて戸部さんは……。
「何よ?」
目が合ってしまい、睨まれてしまった。何て怖い人だ。
僕を睨んだ後、ケータイを取り出して時間を確認している。
「そういえば、もうそろそろかな?」
「戸部、もう呼んだのか?」
隆が尋ねる。何を呼んだんだろうか?
「ええ、坂田から電話があった後直ぐに呼んだから、もうそろそろ来てもいい頃だけど」
「ってことは、雪那が妖怪に追われている頃か」
妖怪?
「隆? 何の話?」
「ああ、悪りぃ。戸部? 喋っていいんだよな?」
隆が戸部さんに尋ねる。
「ええ、いいわよ」
了承を得ると、隆は僕に向き直る。
「これから協団の人間が来るんだ。って、協団の説明からいるのか?」
「協団て? ちょっと待って。妖怪ってところから既についていけてないから」
まさか、この年になって妖怪って言葉が隆から出るなんて……。
「ここっすか!? あ、いたいた」
声のする方に振り向くと、青いコートを羽織った男性が屋上とスロープ間のドアを開けて走って来た。ズボンも青色で全身真っ青だ。コートには銀色の装飾が施されてて、高級感がある。
「お、噂をすれば」
「隆、あれが妖怪か?」
あんな青々した派手な格好、恥ずかしくて街を歩くことは出来ない筈だ。あれこそ妖怪のなせる業に違いない。顔がイケメンだけに残念だ。
「違う。バカか」
隆が突っ込みを入れる。いや、分かってましたよ。あちらが協団とやらの方ですね。わかってましたとも。それにしても突っ込みにバカは一言余計だ。
実際に見てしまったからわかる。さっきの首の長い怪物が妖怪と思って間違いないかな。
「どうも~。オレっちです。重之(しげゆき)っす。戸部さんと坂田さん。それに一般人が二名っすね」
重之と名乗るイケメンは僕達に近づいてくる。
「いえ、全員関係者よ、一般人はいないわ」
「「えー!?」」
僕と隆の声が合わさる。
渡辺さんはキョトンとしてる。
何を言ってるんだ、ここに一般人が二人もいるじゃないか。僕と、渡辺さんは一般人だって。
「ちょっと待て、本当に雪那を巻き込む気か? それにその子は関係無いだろ?」
「いいえ、関係あるわ。藤原は《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者かもしれないし、その子も一般人じゃないわ」
「その子もだって? どういうことだ?」
隆が質問する。そうだ、どっからどう見ても一般人じゃないか。いや、こんな健気で可愛い子 、もしかしたら一般人じゃないかもしれない。こんな子が一般的にいたら世の中大変なことになる。取り合いだ。世は乱世だ。
「初めて妖怪を見たにしては落ち着き過ぎよ」
「そうか? 反応なんてこんなもんじゃないか?」
「坂田、あんた、初めて妖怪を見た時は震えていたでしょ?」
「はぁ? 俺が震えるわけねぇだろ!」
隆が強く否定する。
僕も、今まで震えていた足を必死に止める。バレてないよね? ビビって、なんか、ないからね。別に、ビビってたなんてこと、ないからね。ほんの、少しだけだからね。
「はいはい、いいわよ、じゃあ震えてないってことで。で、渡辺だっけ、あんたは妖怪を見るの初めて?」
隆の発言をあしらって、渡辺さんに尋ねる。
「唯は……、妖怪を見たことがありますぅ」
「え?」
そうなんだ。て、ずっと気になってたんだけど、聞いてみよう。
「さっきの首が長い化け物はやっぱり妖怪なんだ?」
「ええ、そうよ。ろくろ首って妖怪よ。見たら妖怪って分かるでしょ」
いやいや、いきなり妖怪よと言われても、見て分かるわけないって。さっき確かに見たとはいえ、そもそも存在するものなの? 妖怪って?
「妖怪って存在するものなの?」
「存在するわ。それと、渡辺のことで気になることがあるわ。妖怪を目撃しているのに、そのことを覚えてる。それはどういう状況か分かる?」
戸部さんは隆に尋ねた。
「ああ。記憶の消し忘れか、どこかの協団の関係者ってことだろ?」
「そうよ。私は後者だと思うわ。消し忘れなんて、今までそんなこと無かったしね」
「ちょっと、待って! 何二人とも物騒なこと言ってるの? 記憶の消し忘れって!? 記憶を消すことが出来るってこと?」
そんなことが本当に出来るんだろうか? まるで漫画の世界じゃないか。
「ええ、出来るわ。協団に属してない人、つまり一般人は妖怪を見たら、そのときの記憶を消されるのよ」
「恐っ! 何でそんなことをするんだい?」
「それは、っすね……」
青いコートの重之さんが説明を始める。まだいたんだこの人。忘れてた。
「妖怪を見たら、ふつー誰かに話すっすよね。友達にせよ、もしくはメディアに、そしてそれを見聞きした人達はまた誰かに。どんどんその情報が広まるっすよね。そしたら世の中パニックっすよ。妖怪の存在を世間に知られると、教団からすれば面倒になるだけで、メリットが何も無いっす。ざっくり言うとそういうことっす。無駄に不安を煽らせない為にっす」
おかしな喋り方をするイケメン、重之さんは流れるように説明をしてくれた。
僕の頭からも流れていきそうだ。復唱しよう。
「えっと、妖怪のことを知ったままにしておくと、何もいいことない。パニック。オッケー?」
「大雑把に言えばそれで合ってるが、雪那がオッケーかよ? お前が既にパニックじゃねぇか?」
酷いなぁ、ちゃんと理解したさ。
「で、和泉(いずみ)の『神器』持ってきてるっすけど、使わないっすか?」
「ええ、この二人には要らないわ。他の人達は済ませたの?」
「今やってるとこっすけど、もうすぐ済むっすよ」
「そう。じゃあ行くわよ」
戸部さんが僕の方に向く。
「ちょっと待って! 行くってどこに?」
「協団によ」
「そっか、行ってらっしゃい」
「あんた達も来るのよ」
やっぱりですか? 協団って何なんだ? それに僕は関係無いと思うんだけど。
そんな僕の気持ちとは裏腹に、半ば強制的に戸部さん達に付いて行くことになった。
屋上から屋内に戻り、入り口まで歩く途中、青いコートの人が四人、二階で待っていた。
みんな右手に青白く光る鏡を持っている。手鏡ほどの大きさで、柄は付いておらず、丸い鏡そのものを手に持っている。何の装飾も無くシンプル過ぎる鏡だ。
青いコートの一人が、ショッピングセンター内の店員らしい人に鏡を見せる。
鏡を見た人はぱたりとその場に崩れ落ちた。
「何あれ!? 大丈夫なの!?」
慌てて戸部さんに詰め寄る。
「大丈夫よ。少し眠ってるだけ。起きたら妖怪に関する記憶は消えているわ」
なるほど。ああやって記憶を消しているのか。全くもって原理が理解が出来ない。
どうやってあれで記憶が消えるの? 不思議過ぎる。
「おつかれっす! 先に帰ってるっす!」
重之さんはコートの四人にそう言って。そのまま通り過ぎる。
青いコートの四人も重之さんに挨拶を返す。
『お疲れ様です』
『つかれ~』
『おっつー』
『優子たんと帰宅だと!? いいなー、おいらも優子たんと一緒に帰宅したいだ』
ん? 一人変なのが……、気のせいか。
マンナカモールから出ると、目の前には白いセダンが二台駐まっている。
「みんな乗って下さいっす」
その内の一台に、重之さんが僕らに促す。
「え、この車君の? 君が運転するの?」
僕は思ったことを口にした。
「そうっすよ。車は協団のヤツっすけど、運転はオレっちがするっすよ」
「免許持ってるの? 僕らと同い年かと思ったけど」
「酷いっすね、免許ぐらい持ってるっすよ。歳も君達より上で今年十九になったばかりっす」
そうなんだ、それは失礼なこと言ってしまったなぁ。年上だったなんて、それに免許も持ってるって。
僕達は一台の車に乗り込む。僕は後部座席の右側に、左側に隆、二人の間には渡辺さんがちょこんと座る。小動物みたいで、なんか可愛い。そして助手席に戸部さん、運転席は勿論重之さんだ。
「雪那……、覚悟しとけよ……」
隆が隣から小声で話しかけてきた。声のトーンを落としてまでどうしたんだろう。覚悟しろと言われても、何を覚悟するんだろうか?
隆は青ざめた顔をしながらシートベルトを強く握っている。
隆って車酔いする方だっけ? 発進する前からそんな顔色をするなんて、隆のそんな顔を見るのは始めてだ。
おっと、僕もシートベルトをしておこうかな。
『ブゥゥーーーン!』
シートベルトを閉めると車は勢いよく発進した。
マンナカモールから道路に出ると、そのまま加速し、一定の速度を維持してるみたいだ。
赤信号ではちゃんと止まる。あまりにもちゃんと止まる。まるでブレーキを全力で踏んでるみたいだ。
信号が青に変わる。ちゃんと発進する。あまりにもちゃんと発進する。まるでアクセルを全力で踏んでいるみたいだ。
どうしよう。三半規管がおかしいのかな。二つ目の信号を前にして、吐き気がしてきたよ。
「て、おかしいよね!! 絶対運転おかしいよね!!」
「おかしいっすか? 安全運転なんっすけどね。信号ではちゃんと止まっているし、速度制限もちゃんと守ってるのに、何がおかしいっすかね?」
「メリハリあり過ぎだから!! いくら制限速度を守っても絶対おかしいから!!」
法定速度を守り安全かつ、乗り心地は一切考え無い、そんな異常な運転だけど、車は街の方に向かっているようだ。街だよね、地獄じゃないよね。
ジェットコースターも真っ青な恐怖のドライブを満喫していると、駅近くに並ぶビル群の中に入っていき、その内の大きなビル近くの駐車場で車が止まる。
僕と隆はシートベルトを外し、慌てて車から出た。
うずくまる僕の肩に隆が手を置いた。振り向くと、にこやかな笑顔で紙袋を渡してくる。さすが隆、僕の気持ちを悟ってくれたみたいだ。
ちょっと小ぶりな、その紙袋にはこう書かれていた。
『使用料 一万円也』
「って、金取るのかよ! 鬼か!? 隆! あんたは鬼か!?」
「一万円で体裁を保てれるんだ、安いもんだろ」
そう言う隆の顔は既に体裁を保っていない。半分白目を剥いて、口からは泡を吹いている。
僕にわざわざ売るより先に自分のことを考えなよ。どこまで嫌がらせが好きなんだ!
「こんなに運転下手だったの? 知らなかったわ。……藤原、早く行くわよ」
戸部さんが急かしてくる。少し顔が青白い気がするけど、それでもなぜ平気なんだ。
あれ? 渡辺さんがいない。
車の中を覗くと、まだ、真ん中に座っていた。どうやら寝ているみたいだ。
よく寝れるなぁ、あんな酷い運転だったのに。
「!?」
違う! 完全に白目を剥いて気絶をしてる!
「渡辺さーーー ん!!」
そんなこんなで、フラフラになりながらも、僕達は駐車場からビルの前まで来た。
改めてみると、けっこうボロい、年期の入ったビルだ。
五階建てで、コンクリートがところどころ欠けている。ヒビもいたるところにある。
「へぇ、なかなか年期の入ったビルだね」
手動のドアを開けて、ビルの中に入ると、中もやっぱりボロボロだ。
不思議なことに埃や蜘蛛の巣はどこにも見当たらないけど、廃屋といってもよさそうな程、古びた見た目をしている。
「そんことないわよ、築五年だったと思うわ」
はい? どう見ても築四十年以上は経っていそうだけど。
エレベータの中に五人全員入ると、重之さんがエレベーターのボタンを押す。
かち、かちと十回程、違う階のボタンを押していく。
「どう見ても五年じゃないよ。それにエレベーター壊れてるし」
「壊れてないっすよ、今パスコードを押しているところっす」
そんな言い訳しなくてもいいのに。どう考えても壊れているとしか思えない。
そう思っていると、エレベーターが動き始めた。
ふと、ドアの上の方にある階層表示のランプを見上げる。
「!?」
階層表示がおかしな事になっている。
一階から五階までの表示の他に、「協団」の表示がある。
「え、何この表示」
「ユニークよね」
ユニークっていうか、何だろ、協団の位置をアピールし過ぎてない? 見てくれはボロい雑居ビル、で、それはカモフラージュで中には立派な事務所があるってオチですか?
まさかね…… 。
五秒ほど揺れるとエレベーターが止まり、扉が開く。
そこには大きな廊下が前に伸びている。真っ白な壁に、天井には白い照明があり、青色のカーペットが真っ直ぐ敷かれている。その廊下があまりにも大きすぎる。幅は四人がすれ違える程広く、廊下の長さは、カーペットの先が見えない程先まで伸びている。
「おぉー! すっごいなー!」
本当に立派な廊下だ。照明とカーペットの色彩の綺麗さ、そして清潔感、完璧です。ビルの見た目には全く似つかわしくない廊下だ。
「綺麗ですぅー!!」
僕に続いて、渡辺さんも感嘆の声を上げる。
「これで驚いていたら持たないぞ」
隆がさらに期待させてくる。十分驚いているのに、まだ何かあるのかい。
廊下を進むと、立派な装飾のされた扉が見える。
「さぁ 、いくっすよ」
重之さんが扉を両手で勢いよく開けた。
「まじで?」
「すっごいですぅぅぅ!」
扉の先は、そこで貴族のパーティーが出来そうな洋館のエントランスっていったところだろうか。凝った造りかつ、かなり大きな広間になっていた。
「え? ここどこ? ビルの中だよね? 明らかにサイズオーバーだよね!?」
「地下っすよ、ここ! 期待通りの反応をしてくれて嬉しいっすね」
期待通り? 僕は想像以上です。何この異空間? サイズも豪華さもそうだけど、それ以前にここはヨーロッパですか? 中世時代ですか?
「凄いですぅ、お姫様になった気分ですぅ」
中世ファンタジーのゲームで出てきそうな内装に、渡辺さんも嬉しそうにはしゃいでる。
「私も最初来たときはビ ックリしたわ。こっちよ」
僕達が浮かれていると、戸部さんが先頭を歩く。
広間を真っ直ぐ進むと扉があり、その先をまた真っ直ぐ進み、そのまま僕達五人は進んでいく。
また扉がある。その扉に重之さんが手を掛ける。
「この協団のトップ、教団長、和泉(いずみ)様がこの部屋でお待ちっす。準備はいいっすね」
そう言って開けると、またしても大きな広間がある。学校の教室の六つ分程の大きさだ。天井も高く、広さをより際立たせている。
広間の奥には小学生ぐらいの女の子が椅子に座り、こちらを見ている。その女の子の髪は全部白髪に染まっていて、神秘的な印象を受ける。
「待っておりましたよ」
「和泉(いずみ)様、ただいま戻りましたっす」
重之さんが少女 にお辞儀をする。この方が協団のトップ、教団長様かぁ。って、小学生じゃないか!? 髪は雪のように真っ白だけど、相当苦労したのかな。それともオシャレで髪を染めているとか。
「既に他の補助者達から報告を受けております。二名は記憶を消さずに連れてきたのでしょう」
(補助者っていうのが、マンナカモールで記憶を消してまわってたヤツらだ)
隆が耳元で囁く。男じゃなくて女の子に囁かれたいけど、今回は良しとしよう。説明をありがとう。それよりも、十九歳の重之さんが、フランクな話し方とはいえ、小学生くらいの少女に畏まって報告していることにどうしても違和感を感じてしまう。
「はい! この人達っす」
そう言うと、僕は前に押し出された。続いて渡辺さんも前に出る。
和泉ちゃんは重之さんとは違った服装だ。同じ様に青いけど、コートじゃなくて法衣を着ている。法衣はふちや裾が金色で、胸には百合の紋章のブローチが付いていて、重之さん以上に豪華な装飾を施されている。
「私は、和泉 式部(いずみ しきぶ)と申します。あなた達は?」
「ぼ、僕は、藤原 雪那です」
丁寧な言葉使いの少女に気圧されながら答える。少女とは思えない不思議な重圧を感じ、さすがにセッちゃんと呼んでねとは言えなかった。
「渡辺 唯ですぅ」
渡辺さんはそう言って軽く会釈をする。
「そうですか。 戸部さん、この方達を連れてきた理由はなぜですか?」
「はい。『神器持ち』だと思ったからです。それも、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の使用者だと思います。もう一人はたまたまか、妖怪と遭遇するのが初めてじゃないかなと。恐らく、他の協団の人間かなと思いました」
あの戸部さんがなんと、敬語で報告しているではないか。
「あの……、僕は『神器持ち』じゃないと思いますけど。それにそもそも『神器』って何ですか?」
疑問に思ったことを口にしてみた。
「そうですか。そこから説明しなくてはいけませんね」
そう言って僕と渡辺さんの目を見て言葉を続ける。
「ここに来たということは、妖怪は知ってますね?」
「うん、今日初めて、実在するんだと知ったけど」
「はい! 知ってますぅ」
僕と渡辺さんは頷いた。
「『神器』とは、妖怪を倒す為の武器のことです」
「戸部さんや隆が持ってた、あの青白く光るヤツですか?
出したり、消したり出来る不思議な剣と弓の?」
二人がろくろ首と戦うときに使ってた武器のことかな?
一体どんな原理で出し入れしているんだろうか。まるで手品みたいな武器だった。
「お二人が持っているのは、『神器』を模して作成した武器です。名前は『贋神器(がんじんぎ)』と呼びます」
「『贋神器』? 『神器』っていうのとは違うんだ?」
「『神器』とは、その名の通り、神の武器。『贋神器』よりも遙かに強力な武器です」
「えぇっと、『神器』の方が、『贋神器』の強力なヤツってこと?」
「ええそうです。ただし、『神器』が元々存在していて、その『神器』を真似して作成したのですが、『神器』のようには上手く出来ませんでした」
「『神器』ってそんなに凄いの?」
『神器』を実際に見た事が無いから、何が違うのかいまいちよくわからない。
「妖怪を倒すのに、なぜ銃を使わないかわかりますか?」
「うーん、わからないなぁ」
銃を使った方が明らかに早いと思う、わざわざ弓や刀なんか使わなくてもいいと思ってました。刀とか使うのは、その方がかっこいいからかなって。
「近代兵器では妖怪を傷付けられないからです。妖怪を傷つけることが出来るのは『神器』だけです。それと、その『神器』を模した『贋神器』。現在ではそれが唯一の妖怪への攻撃手段です」
へぇ、何か原始的だな。漫画とかに出てきそうな話だ。
「『神器』は『贋神器』と違い、切れ味や打撃力であったりと、武器としての基本的な性能が違います。さらに、ここが大きな違いですが、神器は使用者の神通力(じんつうりき)を反映させ易いのです」
「神通力? 何か強くなるヤツですか?」
これまた何か漫画で出てきそうな言葉だなぁ。
「間違ってはないですね。大岩を持ち上げたり、自身の身長の倍以上の高さまで跳躍したりと、人間の力だけでは到達不可能な力です」
「凄いですぅ、映画見たいですぅ」
「何、その不思議な力。実際にそんなこと……、出来るのかな?」
普通じゃないけど、妖怪や『贋神器』を実際に見た以上、スーパーヒーロー化があっても信じてしまう。
「目に見えないけど、存在するものが確かにあるのを知っていますか?」
「オカルトチックな話ですね。 お化けとか魂とかのことですか?」
「人によってはそう呼ぶ人もいます。ただですね、オカルトとは違い粒子力学的に存在するものです」
「うん?」
全然ついていけない。どうやら天才である僕の頭を持ってしてもここまでか。
「携帯電話の電波であったり、電子レンジの電磁波であったり、見えないのにそれらは確かに存在していますよね。それと同じとまでは言いませんが、神通力や『神器』は確かに存在するのです」
「お、おぉ、なるほど! そ、存在するんだ!?」
よくわからないけど何それ? すっごい欲しい。目に見えないけど確かに存在する、未知の力ってことであってるよね?
「雪那って、詐欺とかにすぐ引っかかりそうね」
戸部さんが哀れんだ目で僕を見つめる。
「え!? 嘘なの?」
「嘘じゃないけど、あんたは何でも信じそうと思っただけよ」
何でも信じそうに見えるなんて、そんなこと言うと、僕が何か頭悪い人みたいに渡辺さんに見られるじゃないか。
「そうなんですかぁ~、あるんですか、魔法の武器。良かったですぅ~、宇宙の神秘みたいですぅ。見えないけどそこにある存在! 唯は惹かれます!」
渡辺さんが、目をキラキラさせて両手をグッとする。
「渡辺って電波な人なんだ」
戸部さんが失礼なことを言う。こんな可愛い子に電波なんて。僕もちょっと思ったけど黙ってたのに。
「失礼だよ。戸部さん。今日初めて会った人に電波なんて」
「あんたもたまに電波だけどね」
なんて失礼な。少し頭が良くないだけだよ。少しね……。
渡辺さんはキョトンとしている。どうやら電波の意味をわかっていないみたいだ。天然不思議ちゃんのことなんだけど。
「で、この二人は『神器持ち』なのか、他の協団の人なのかどうなんですか? 和泉様」
そうだった。話が逸れたけど、それを聞こうとしてたんだ。
「そうですねぇ」
和泉ちゃんは両手を前に出すと、青い光が両手の間に生まれる。隆の刀や、戸部さんの弓よりも濃い青色だ。
その光は直径三十センチ程の大きさの丸い鏡になった。
鏡を僕と渡辺さんに向けて、そしてしばらく沈黙する。
僕が『神器持ち』? スーパーヒーローになるの? 凄くない? ワクワクしてきたよ。
数秒経ってから和泉ちゃんが再び口を開いた。
「渡辺さん、あなたは『神器持ち』ですね。それも戸部さんの予想通り、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》です」
「「「え!?」」」
三人の声が合わさる。
そっちですか? 僕じゃなくてそっちですか?
「その子が《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》を? こっちじゃないの?」
戸部さんが僕を指指す。
「……藤原さんは只の一般人ですね」
「うそ!?」
戸部さんが驚く。そんなに驚かれても、だから『神器』とか知らないって言ってるじゃないか。僕もちょっと期待してしまったけどさ。ちょっ、ちょっとだけだからね。
「じゃあ何であんた、酒呑童子の特徴を、鬼の顔で刀持ってて、霧が掛かる場所で出現するって知っているのよ」
「だから夢で見ただけだって。酒呑童子っていうのが何なのかも、特徴も知らないって」
「夢で見るっていうのが、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》の能力なのよ!」
「そうなんですか? 何かメルヘンな能力ですぅ」
面白そうに渡辺さんが微笑む。
「正確には予知夢な」
隆が補足する。
「何か地味な能力なんだね」
そんな能力よりも、火を出したり、空を飛べる方が格好いいな。
「地味じゃないっすよ。これから起こることを予知出来るなんて、めっちゃレアな能力っすよ」
そうなんだ? そんな能力があっても、テストの問題を予知することしか使い道が思い付かない。問題を予知したところで答えを用意出来る自信はないけど。
「唯にそんな能力があるんですかぁ?」
「らしいな。使わない方が良いと思うけどな」
「何でですか? そんな凄い力、使って見たいですけどぉ」
僕も見てみたい、予知夢なんて、そんなこと本当に出来るんだろうか。
「『神器』の使用者になると、何かを失うのですよ」
和泉さんが説明する。
「失うってどういうこと?」
「視力を失ったり、聴力や、味覚だったり、『 神器』によって失うものは違うのですが、力を手に入れるということは、何か代償を払わなければいけないようになっているのかもしれませんね」
さらりと恐ろしいことを言う。渡辺さんが『神器』の使用者になると、何かしらを失うのか。こ、怖い、怖すぎだって。
「そんなの使わない方がいいよ! 渡辺さん! 使う必要ないんだしさ」
「そ、そ、そうですよねぇ……」
渡辺さんのテンションが先ほどよりも遙かに大きく下がる。
「渡辺、あんた『神器』を使ったことないの? もしかしたら既に何か失ってるモノがあるんじゃないの?」
戸部さんが尋ねる。
「使ったこと無いですぅ。それどころか『神器持ち』ってことも、『神器』というものがあるってこともさっき知ったばかりですぅ」
「そっかー。そ れなら今後使わないに越したことはないよ」
「残念だけどそうはいかないのよ」
戸部さん、君は何を言うんだろうか。使わない方がいいに決まっているじゃないか。
隆を見ると、隆も僕を見て首を横に振る。
「《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》は他の『神器』とは勝手が違うんだ」
「その『神器』はね、妖怪から狙われやすいのよ」
「そうなんですかぁ?」
「ええ、妖怪からすれば、その『神器』はあまりにも強力過ぎるのよ。これから起こることが見えるっていうのは、妖怪達の出現場所を見て、その場所を避けて逃げることも、逆に大勢で待ち構えて退治しやすくも出来る可能性があるの」
なるほど、相手の出方を考えて、対策を打てるってことか。確かに妖怪にとっては脅威だね。 出てきたら待ち伏せなんかされてたら、何も出来ずに終わることもあるんだから。妖怪の立場なら一番に叩かなきゃいけない相手ってことだ。
「それなのに、《八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)》自体は妖怪に攻撃する『神器』じゃないから、襲われたら為す術がないのよ」
狙われやすいのに自分で自分の身を守れないなんて、妖怪の格好の獲物じゃないか。
「何か、損した気分ですぅ」
「ですから、教団に入った方がいいかもしれません。私達、【青龍の教団】が貴方を守ります。勿論、『神器』を使う必要はありませんから」
「いいんですかぁ?」
「救える人に手を差し延べるのが教団の努めですから」
なんか、どっかの宗教みたいだなぁ。
「それなら唯、教団に入りますぅ。あんな怖いのに襲われるなんて、次もあるかもしれないなんて、そんなの嫌ですぅ」
渡辺さんは直ぐに決断したようだ。
「あなたはどうされますか? 藤原さん」
「何を? どうするって何をですか?」
「貴方は『神器持ち』では無いですし、守る必要はありません。それなら、一般人であるあなたの記憶を消さなくてはなりません」
「どうしてですか?」
僕は首を傾げた。
「妖怪や『神器』の非関係者は記憶を消さなくてはなりませんから。それが嫌なら、教団に入り、関係者になるしかありません」
「ちょっと待ってよ、そんな……、ここまで聞かせといて記憶を消すなんて」
「それが決まりですから」
決まりだからって、そんな簡単に言われても、選べる筈がない。教団て、何をするところかよく知らないけど、ろくろ首みたいな妖怪と戦うことになるってことぐらいはわかる。あんな恐ろしいこと、もう二度と味わいたくないし、かといって記憶を消されるのも嫌だ。こんな世界があったなんて知らなかったのに。
「どうするんだ、雪那。俺は強制しないぞ。お前が自分で選べ」
隆はきっぱりと僕に言った。
どうするって? 怖いし、やっぱり記憶消されても、非関係者でいることの方がいいかな。
「雪那様、協団には入らないで下さい。雪那様が妖怪や教団に巻き込まれる必要はありません」
渡辺さんが僕の心配をしてくれている。
そうだ。渡辺さんが、あんな怖い思いをしてまで妖怪と戦う決断をしたんだ。
僕がビビってどうするんだ!
「僕も入団します!」
そうだ! 僕は渡辺さんとお近づきになりたい!
「いいのか? 雪那」
「藤原。『神器持ち』じゃないあんたは無理しなくていいのよ。ここまで連れてきて申し訳ないけど、足手纏いになるだけだから」
二人も僕の心配をしてくれるけど……。でも、僕は決めたよ。
「うん、そう決めたんだ」
渡辺さんともっと親しくなりたいから、そのために僕は妖怪と戦うって。ちょっと邪な理由かもしれないけど。
「そうか、雪那がそう決めたんなら俺は何も言わないが」
「それでは改めまして、渡辺さん、藤原さん、【青龍の教団】にようこそ。貴方達の入団を認めます。今後は妖怪退治に励んで下さい」
和泉ちゃんが僕達にお辞儀をする。
「わかりました! 頑張ります!」
戦いたくないけど、渡辺さんの為なら何のその。
「はい、頑張りますぅ!」
心なしか、渡辺さんがさっきよりも明るい表情をしている。一人でも、味方が増えて嬉しいのかな。
「戸部さん、坂田さん、二人の案内はおまかせします」
「ああ」
「わかったわ」
隆と、戸部さんが返事をする。
誰も言わないから、ずっと思ってた事を口にしてみる。
「こんなに小さくて可愛いのに、和泉ちゃんも大変だね」
みんなが敬語で喋ってて僕もつられたけど、どうみても小学生にしか見えない。お母さんのお手伝いか何かなのだろうか?
「あんた、本当にバカね」
「雪那、それは庇いきれないぞ」
二人が僕に呆れた目を向ける。
「……可愛いなんて、久しぶりに言われました」
少女の顔が少し紅潮した。
「百年ぶりかしら?」
「はい?」
少女が不思議な言葉を発した気がす る。
「和泉様は千歳を超えてるのよ」
「はい!?」
その後説明を受けると、どうやら和泉ちゃんは、千年以上も前に生まれていて、年老いては『神器』を使い、自分の子孫に記憶を移すことを繰り返しているらしい。それって禁忌じゃないのかと思ったが、和泉ちゃんから滲み出るオーラに何も言えなかった。
五人で部屋から出ると、重之さんが僕らに向かって手を振る。
「それじゃあ、俺っちはこの辺で失礼するっす。入団、おめでとう。これからは宜しくっす」
重之さんと別れ、四人で廊下を歩く。
「登録は後で私の方でしておくわ。先ずは藤原、あんたの『贋神器』を受け取りに行くわよ」
「僕も『贋神器』貰えるの?」
「丸腰で戦うわけにはいかないでしょう」
それはそうだ。今日の二の舞はごめんだよ。
何回廊下を曲がっただろうか、5分以上は歩き、とある部屋に案内された。
その部屋には何か機械が沢山並んでいて、この中世ファンタジーなフロアに似つかわしくない雰囲気だ。
「あれ? 新人さん?」
メガネを掛けた、作業着姿の女性だ。髪は頭の上で団子にしていて、歳は二十代後半だろうか。
「ええそうよ。こいつに『贋神器』を渡して欲しいの」
「そう? いいけど、戦闘者志望? この子見るからに弱そうだけど」
作業着の女性がきっぱりと言う。僕ってやっぱり弱そうに見えるんだ。隆みたいに身長と筋肉があればいいのにな。でも、隆みたいに脳まで筋肉は要らないかな。
「雪那、何かバカにしてるだろ」
さすが隆、なかなか鋭い。
「藤原 、戦闘者志望でいいわよね? 妖怪と直接戦う方で」
「戦わずに済む方もあるの?」
「補助者ていうのがあるわ。非関係者の記憶を消したり、雑務的なことで、戦闘者の手助けをする役割よ」
妖怪と直接戦わなくていいなんて。そっちの方がいいじゃないか。
「ならそっちの方がいいな」
「妖怪に襲われても、自分の身さえ守れないけどそれでいいの?」
おっと、それは困る。ろくろ首に出くわしたとき、ちょっとでも力が欲しいと思ったし、雑務じゃ、渡辺さんを守ることなんて出来ないじゃないか。
「戦闘者でお願いします」
「ってことよ。いい?」
「わかった。それじゃあ『贋神器』を渡すわ。希望の武器はある? 刀、槍、弓とか」
「武器かぁ、僕は刀がいいな」
「そう 、じゃあ、これね」
作業着の女性は機械の中から試験管を一個取り出すと、僕に渡してきた。
試験管の中には青白い光が一個浮かんでいる。
「これは?」
「『贋神器の素』よ。これを体に取り込むとその『贋神器』を使用出来るようになるわ」
作業技の女性が説明してくれる。
「取り込むって? どうやって?」
どうやって取り込むんだろうか? まさか、これを飲み込むのかな?
口元に試験管を持っていくと、慌てて戸部さんが僕の腕を?む。
「何しようとしてんのよ!? 飲むんじゃなくて、手の平に乗せて、それを体にくっつけるのよ」
おっと、そうか!
言われた通り、試験管を逆さまにし、手の平に乗せると青白い光が浮かんだ。
「綺麗な光だなぁ」
戸部さんと隆が妖怪と戦うときに出した武器と同じ色の光だ。
その光を自分の胸にゆっくりと押しつけてみた。
僕の胸にすぅっと入っていき、光が消えた。
「これで、終わりなの?」
乗せていた右手を見ると、そこには僕の手があるだけで、光は完全に無くなっている。
「そう、それで終わり。試しに出してみる?」
作業着の女性が促す。
「うん、出してみたい!」
僕も二人みたいに武器が出せるなんて、魔法みたいだ。さっそく出してみたくてワクワクする。
「そう簡単に出せるわけないわよ。どうやって出すかもわからないのよね?」
そっかぁ、出すのに何かコツがいるのかな? 呪文を唱えたら出現したり、出ろと念じたら出るとか、そんな感じかと思ったけど、そんな 簡単にはいかないのかぁ。
「うん、わかんない。教えて欲しいんだけど、さっそく出してみたいんだ」
「全く、子供みたいね」
「こいつ基本ガキみたいなヤツだからな」
二人して勝手なことを言うなぁ。君達だって僕と同い年で、まだ子供じゃないか。
「いい? 手を出して、そこにさっきの光をイメージして、光が生まれたら、その光を武器の形状に変化する様なイメージを描くのよ、あんたのは刀だから、刀の形状をイメージするのよ。わかった?」
ごめん、全然わからない。って、やっぱり念じる感じでいいんだよね?
隆の方を見つめると、隆はやれやれと言いたそうに顔を振った。
「戸部、そんなんじゃあこいつにはわからんだろ。雪那、いいか? ぽわ~ん、ときたら、ヴィ~ンだ」
よし、わかった。ぽわ~んときて、ヴィ~ンだね。
右手を前に出し、さっきの光がぽわ~んと光るイメージをしてみる。
「いい加減な説明ね。そんなんで出来たら苦労しないわよ。私でも出現させるまで一週間は掛かったんだから」
僕の右手に青白い光が生まれた。
「綺麗ですぅ~」
渡辺さんが僕の右手に見とれている。
「そんな……」
「戸部、一週間はさすがに掛かり過ぎだぞ。俺でも一日で出来たぞ」
「そうなの?」
「ああ」
次はヴィ~ンだね。
刀の形をイメージする。光がゆっくりと伸び、刀の形になると、青白い光が消え、僕の右手には刀が握られていた。
刀身には仄かに青白い光が残っている。
「出来たーーー!」
嬉しさのあまり、声を張り上げてしまった。
「うそ……でしょ!?」
戸部さんが驚いた表情を僕に向ける。僕が一回で出来たことが戸部さんには一週間掛かったのかぁ。少しだけ哀れに思ってしまう。
「雪那、お前以外とセンスあるんだな」
「雪那様、さすがですぅ」
右手には重量感がほんの少しだけ感じられる。感じられはするけど、それでも刀にしては明らかに軽すぎる。ほぼ何も持っていないに等しいかも。
「これって、こんなに軽い物なの?」
作業着の女性に尋ねてみる。
「そうよ。実在する武器の重さに比べたら全然軽く感じるでしょ。その光には確かに存在していて質量があるの。かといって鉄や木で出来ているわけじゃないから軽いの」
「でも、体の中にしまえたりするんだよね? 一体何で出来てるんだい?」
こんなハイテクな物質はいったい何だろう?
「さっき電波や電磁波の例えで説明したわよね? 存在しているけれども、目に見えないモノ。簡単に言うとそんなモノに似ている物質よ」
作業着の女性が説明を続ける。
「魂もそういった目に見えないけど存在するモノの一つだと思うわ」
どうしよう、この人、危ない人かな。確かにそうかも知れないけど、何かオカルトっぽい。
「そ、そっか~、そうだ! この刀、隆みたいな大きな刀じゃないんだね」
思い出したように話を変えてみる。
「ああ、俺のは特注だ。普通の刀じゃつまらないからでっかくしてみた」
「え!? 大きさ、自由に変えること出来るの?」
「変えれるわ。大きければその分魂を削られる し、『贋神器』の濃度が濃ければそれでもまた、その分魂が削られるけど」
「だから、俺のは普通の刀よりも濃度を薄くしているんだ」
魂、濃度?
「はい?」
「藤原、あんたついてこれてないわね。いいわ。また今度説明してあげるわよ」
刀への意識を止めると、刀は青白い光を放ち、霧散するように消滅した。
「消えた!?」
「また、出そうと思えば出せるわよ。ひとまずこれで終わりにして、そろそろ帰らない?」
僕達四人はこの部屋から、そしてビル自体から外に出た。
外に出ると、不気味なくらい赤い夕暮れが水平線に差し掛かっているところだ。
「まさかお前も【青龍の協団】に入っちまうとは」
隆が僕に言葉を零す。
「うん、入ったけどマズかった?」
「 いや、お前にはこっちの世界には来て欲しくなかったな、と」
「何だよそれ? 心配してくれてるの?」
「違う違う、俺じゃない。お前が入ることで心配するヤツがいるんだよな」
「え、誰だよそれ? 教えてよ」
僕のことを心配してくれるなんて、もしかして僕に気がある女の子がいるのかな。いったい誰だろう。
「なぁ、戸部?」
「はぁ!? な、何言ってるのよ!?」
隆が戸部さんに話を振ると、戸部さんが明らかに動揺している。
もしかして、戸部さんはその子のことを知っているのかな?
「戸部さん、知っているの? 僕のことを心配してくれる子が誰か?」
「三組の中村だよな?」
三組の中村さん、いったいどんな子だろうか?
「中村 明雄(なかむら あきお)だよな?」
あきお? 明雄? どう考えても男の名前だ……。
「そ、そうそう中村 明雄(あきお)よ!」
戸部さんが慌てたように同意する。
「それと、もう一人、確か名前は、戸部がはっ!」
「戸部がはっ? 変わった名前の人だね?」
「そうそう、戸部がはっ、て名前の人よ! ねぇ、坂田?」
「そうだ、戸部がはっ、ていう変わった名前の人だ……」
隆は涙目になりながら脛をさすっている。脛をどこかにぶつけたのだろうか?
(そんな出任せ雪那に通じると思ってるのか?)
(うるさいわね、あんたが余計なこと言おうとするからでしょ)
「戸部さんと同じ名字なんだ。親戚か何かなの?」
(おい、信じてるぞ。雪那お前、何てピュアなんだ!?)
(藤原がバカで良かったわ)
「そうね、従兄弟みたいなものね」
「そうなんだ。可哀想な名前だね。苛めに遇わなきゃいいけど」
さっきから二人がヒソヒソ話しているみたいだけど、小さくて聞き取れない。
「おい、信じちまったぞ!? 本当のことを言ってやれよ! 雪那が可哀想だろ」
「本当のことって何よ! 元はと言えばあんたが適当なこと言おうとしたからでしょ」
今度は大きな声でいがみ合う二人を見てると、何だか似たもの同士って感じだな。
「お二人とも仲良いんですねぇ」
渡辺さんも僕と同じものを感じ取ったみたいだ。
「「これのどこが仲良い(んだよ!)(のよ!)」」
「息ぴったりじゃん!」
戸部さんが今度は僕の方を睨み、フンっとそっぽを向いた。隆はやれやれと言いたそ うに首を横に振っている。
三人とは途中で分かれ、それぞれの帰路につく。
この一日の間に起きた出来事についていけない。
あまりにも日常を大きく変えるようなことが起きた。
妖怪と遭遇し、襲われ、クラスメイト二人に助けられた。
『神器』や『贋神器』という不思議な武器の存在を知った。
青白く光りを放っていて、出現させたり、消滅させたり出来る武器。
『贋神器』でなければ妖怪を倒せない。『神器』はそんな『贋神器』よりもさらに優れた武器。
協会の存在を知った。
妖怪を倒す人達。関係無い人が妖怪に出くわせば、パニックを防ぐ為にも記憶を消す、何だか怖い集団。
そして、僕もその集団に入り、『贋神器』を手に入れた。
僕にも刀を出 現させたり、妖怪と戦うことも出来るようになった。
あまりにもあっという間に非日常が押し寄せて来る。
非日常を僕は望んだつもりは無かったのに。
0
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相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
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そのほかに外伝も綴りました。
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