クリスの物語

daichoro

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第一章 過去世の記憶

第37話 映像の不一致

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『何これ?全然違うじゃん』

 眉根を寄せて、クレアがファロスの方を見た。


『どこがどのように違っていますか?』

 クルスターを脇へどけて、ソレーテが聞いた。


『まず、さっき言ったように、わたしたちが1648階に行ったとき、25号室は使用中の表示になっていたし、それでたしか・・・そうだ。エランドラが、ラムザおじいさんが使っているんじゃない?って話をしたんだよね?』

 エランドラはうなずいた。


『それで、だったら行ってみようっていって、わたしたちが25号室のある列を曲がったところでいきなり25号室の扉が開いて、中から例の黒い服の男の人が出てきたんだよ。それで、その男の人はわたしたちの脇を通り過ぎてどこかへ行っちゃって・・・。

 それからわたしたちはその場に少し立ち止まって、その人が誰だったのかっていうことについて話し合ったんだよ。ね?』


 クレアの話に同意するように、三人はうなずいた。


『とにかく、全然違ってるよ』


 クレアが大げさに頭を振ると、『別の角度から先ほどの映像を映し出すことは可能かしら?』と横からエランドラが確認した。

 エランドラの要望にソレーテはうなずいた。


『私どももあらゆる角度から確認してみましたが、あなた方がおっしゃるような男性の姿などどこにも見受けることができませんでした』


 そう言いながら、ソレーテはクルスターを操作した。


『こちらは、クレアさんの視点から見た映像です』


 ソレーテはまた皆に見えるように、クルスターを立てた。

 クルスターには先ほどと同じ場面が、クレア視点のもので映し出された。

 それは単にクレア視点に切り替わったというだけで、内容は先ほど見たものと変わらなかった。


 同様にファロス、エランドラ、ラマルとそれぞれの視点から見たものをソレーテは映して見せたが、どれも内容は同じだった。


『ごめんなさい。今の映像をもう一度見せていただけないかしら?』


 ラマル視点の映像を見た後にエランドラが言った。

 ソレーテはエランドラを見つめると、少しの間をおいてからうなずいた。

 クルスターには、再びラマルの視点から見た映像が映し出された。


『25号室は・・・あった。ここだ』

 ファロスとエランドラの間から部屋の配置図を示すクレアの姿が、映像に捉えられていた。


『こっちだね』


 通路を進むクレアの後に従って、ファロスとエランドラがついていくのを画面が追いかけた。

 クレアが左に曲がり、その後に続いてファロスとエランドラも左に曲がった。


『ちょっと止めて』

 四人が25号室に到着する手前でエランドラが言った。


 一度エランドラを振り返ってから、ソレーテは慌てて映像を止めた。

 クレアが25号室の扉に向かってテステクを振っている状態で画面は静止していた。


『ごめんなさい。少し前のところまで映像を戻していただけますか?』

『ええ』とうなずいて、ソレーテは映像を巻き戻した。四人が後ろ向きで戻っていく様子が画面には映し出されていた。


『止めて』

 その列に入って数歩進んだあたりのところまで戻ったところで、再びエランドラが言った。


『今のところをもう一度、今度はゆっくりと映じていただけますか?』


 ソレーテは黙ってうなずいた。

 画面には、25号室へと向かう3人の後ろ姿がゆっくりと映し出された。


『あ、今ファロスが変な動きした』

 クレアがそう言って振り向くと、エランドラはうなずいた。


『たしかに、今ファロスさんが少し不自然な動き方をしましたね』

 ソレーテもそう言ってファロスの方を振り返った。


 確認できなかったファロスは首を傾げた。それでソレーテは、同じ場面を今度はさらにゆっくりと映じてみせた。

 ファロスは画面の映し出された自分の姿を注意深く見つめた。

 すると、移動している途中に右斜め上をかすかに二度見するような場面があった。


 ソレーテは再び映像を戻して、同じ場面を再度流した。それからファロスが斜め上を見上げているところで、映像を止めた。


『ほら、あの黒い服の人が通り過ぎたのって、この辺りじゃない?』

 ファロスの肩に手を置いて、クレアが言った。


 たしかに、そうだったかもしれない。この辺りで立ち止まって、男が通り過ぎるのを見ていたのではないだろうか。

 その後ソレーテは、ファロス視点の映像を再度映し出した。

 しかし、いくらゆっくりと再生しても、ファロスの視点から見た映像では斜め上を見上げるような場面はなかった。


『こんなの、どう考えてもおかしいでしょう?』

 得意気に腕を組んでクレアが言うと、ソレーテは視線を落とした。


『どちらかの映像に手が加えられているようですね』

『どちらかじゃないよ。わたしのもエランドラのも、全部書き換えられているんだってば!全部の内容が、事実と全然違うもの』



 ソレーテはうなずくと、テイゲンにクルスターを手渡した。


『これをもう一度局へ持っていって、どこでどのようにして手が加えられたのか解析し直してもらってくれ』

『承知いたしました』

 クルスターを受け取ると、テイゲンはファロスたちに一礼してその場から退いた。




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