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第二章 クリスタルエレメント
第7話 もう一頭のドラゴン
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その場にいた全員が一斉に後ろを振り返ると、ラマルの隣にもう一頭の巨大なドラゴンが降り立った。
全身を覆う白い鱗は、まるでシャボン玉のように七色に光を反射させ、頭部から首すじにかけて生える金のたてがみは、絹糸のように艶やかだった。
そのドラゴンは、ラマルよりもひと回り以上大きかった。
『エランドラ』
名前を呼んだクリスのことを、ドラゴンは大きな金色の瞳で見つめ返した。その瞳に見つめられてクリスは温かい気持ちになった。言葉を交わさなくとも、何もかもをエランドラは理解してくれているということが不思議とクリスには伝わってきた。
『もぉー。来なくていいって言ったでしょう?』
クリスとエランドラが見つめ合っていると、横からクレアが文句を言った。
『わたしが責任持ってクリスを連れて帰るっていう話をしたじゃない』
『そうね』
『だったらなんで来たの?わたしじゃクリスを説得できないとでも思ったの?』
『いいえ。そうじゃないわ』
エランドラは、大きな頭を小さく横に振った。
『ラマルひとりでは、三人も乗せて帰ることはできないでしょう?』
エランドラはそう言って、紗奈に視線を向けた。
大きな瞳で見つめられた紗奈は戸惑うように視線を外して、ためらいがちにクリスの方へ顔を向けた。
『もしかして、エメルアも地底世界に連れて行くっていうの?』
クレアは紗奈の顔を一瞥すると、責めるような口調で確認した。エランドラは黙ってうなずいた。
『それは中央部の決定なの?』
『いいえ、そうじゃないわ』
『だったらなんで?だって、エメルアは関係ないじゃない』
『そうかしら?こうして彼女が今この場にいるということは、もはや関係ないとはいえないわ。そうであれば、彼女も連れて行くべきだと思わない?』
クレアは意味が分からないという顔をして、エランドラを見上げた。
『どうして?確かに、エメルアが今この場にいるというのは偶然じゃないかもしれないけど、だからといってなんで連れていく必要があるわけ?』
『今あなたがいった言葉の中に、その答えはあるわよ』
禅問答のようなエランドラのその返答に、クレアはいら立つように眉根を寄せた。
『彼女がこの場にいるのは偶然ではない。つまり、それは運命づけられているということよ。ファロスと時を同じくして、この時代のこの場所にこうしてエメルアも転生している。一緒に来てもらうのに、これ以上の理由があるかしら?彼女がわたしたちのことを知覚できている。それも偶然ではないわ。それに何より、彼女だって地底世界に行きたがっているじゃない。それを拒む理由なんてないでしょう?』
『でも、エメルアを連れて行ったところで、立入許可が下りないかもしれないじゃない』
エランドラから視線を外すと、ふてくされるようにクレアが言った。
『それは、わたしたちが決めることではないでしょう?それに、こういう状況で彼女を連れて行って、彼女だけ追い返されるなんて少し考えにくいと思うけど。むしろ歓迎されるのではないかしら?』
エランドラに視線を向けて肩で大きくため息をつくと、クレアは観念したようにうなずいた。
『クリス。そういうことであなたもいいわね?』
吸い込まれるような瞳でエランドラに見つめられ、クリスは思わずうなずいた。
この状況で行かないとは言えない。詳しい話は言ってから聞かせてもらおう。それに、今と同じ時間に帰ってこられるのなら特に問題はないだろう。タケシとの約束を思い出しながらクリスがそんなことを考えていると、ベベが尻尾を振ってクリスを見上げていた。
さすがにベベを連れて行くわけにはいかない。向こうへ行く前にベベを置きに帰らなければ。
すると、クリスのそんな思いを読み取ったように、ベベがぴょんぴょんと飛び跳ねてクリスの足にすがった。
『ぼくも行く!』
ん?クリスは耳を疑った。
今の声はもしかして・・・?
『足手まといになんかならないから。だから、ぼくも連れて行って!』
ベベはその場でくるりと回ると、訴えかけるようにクリスを見た。
『やっぱり!ベベが喋ったんだね!』
かがんで、クリスはベベを両手で持ち上げた。
初代のベベとは、ベベが死んだ後に一度向こうの世界で話したことがあった。そのときに、ベベはまた生まれ変わって会いに来ると約束した。だから今こうして目の前にいる。
もしかしたら、今回クレアたちがやって来たことでベベともまた波長があったのかもしれない。そう思ったクリスが振り返ってクレアを見ると、クレアは両手を広げて肩をすくめた。
『ベベも連れて行っていいかな?』
そう言って、クリスはベベをエランドラの前に掲げた。
『問題ないでしょう』
大きく瞬きをしてから、エランドラはそっとうなずいた。
『さぁ、それでは行きましょうか』
エランドラが呼びかけると「ちょっと待って」と、紗奈が言った。
「このまま、行くの?やっぱり着替えとか持っていきたいから、一度家に寄りたいのだけど」
紗奈のその意見にはクリスも賛成だった。何があるかも分からない冒険に、手ぶらで行くわけにもいかないだろう。
着替えも何も必要ないとクレアは言ったが、やっぱり準備させてほしいと説得してクリスたちは一度家に帰ることにした。
全身を覆う白い鱗は、まるでシャボン玉のように七色に光を反射させ、頭部から首すじにかけて生える金のたてがみは、絹糸のように艶やかだった。
そのドラゴンは、ラマルよりもひと回り以上大きかった。
『エランドラ』
名前を呼んだクリスのことを、ドラゴンは大きな金色の瞳で見つめ返した。その瞳に見つめられてクリスは温かい気持ちになった。言葉を交わさなくとも、何もかもをエランドラは理解してくれているということが不思議とクリスには伝わってきた。
『もぉー。来なくていいって言ったでしょう?』
クリスとエランドラが見つめ合っていると、横からクレアが文句を言った。
『わたしが責任持ってクリスを連れて帰るっていう話をしたじゃない』
『そうね』
『だったらなんで来たの?わたしじゃクリスを説得できないとでも思ったの?』
『いいえ。そうじゃないわ』
エランドラは、大きな頭を小さく横に振った。
『ラマルひとりでは、三人も乗せて帰ることはできないでしょう?』
エランドラはそう言って、紗奈に視線を向けた。
大きな瞳で見つめられた紗奈は戸惑うように視線を外して、ためらいがちにクリスの方へ顔を向けた。
『もしかして、エメルアも地底世界に連れて行くっていうの?』
クレアは紗奈の顔を一瞥すると、責めるような口調で確認した。エランドラは黙ってうなずいた。
『それは中央部の決定なの?』
『いいえ、そうじゃないわ』
『だったらなんで?だって、エメルアは関係ないじゃない』
『そうかしら?こうして彼女が今この場にいるということは、もはや関係ないとはいえないわ。そうであれば、彼女も連れて行くべきだと思わない?』
クレアは意味が分からないという顔をして、エランドラを見上げた。
『どうして?確かに、エメルアが今この場にいるというのは偶然じゃないかもしれないけど、だからといってなんで連れていく必要があるわけ?』
『今あなたがいった言葉の中に、その答えはあるわよ』
禅問答のようなエランドラのその返答に、クレアはいら立つように眉根を寄せた。
『彼女がこの場にいるのは偶然ではない。つまり、それは運命づけられているということよ。ファロスと時を同じくして、この時代のこの場所にこうしてエメルアも転生している。一緒に来てもらうのに、これ以上の理由があるかしら?彼女がわたしたちのことを知覚できている。それも偶然ではないわ。それに何より、彼女だって地底世界に行きたがっているじゃない。それを拒む理由なんてないでしょう?』
『でも、エメルアを連れて行ったところで、立入許可が下りないかもしれないじゃない』
エランドラから視線を外すと、ふてくされるようにクレアが言った。
『それは、わたしたちが決めることではないでしょう?それに、こういう状況で彼女を連れて行って、彼女だけ追い返されるなんて少し考えにくいと思うけど。むしろ歓迎されるのではないかしら?』
エランドラに視線を向けて肩で大きくため息をつくと、クレアは観念したようにうなずいた。
『クリス。そういうことであなたもいいわね?』
吸い込まれるような瞳でエランドラに見つめられ、クリスは思わずうなずいた。
この状況で行かないとは言えない。詳しい話は言ってから聞かせてもらおう。それに、今と同じ時間に帰ってこられるのなら特に問題はないだろう。タケシとの約束を思い出しながらクリスがそんなことを考えていると、ベベが尻尾を振ってクリスを見上げていた。
さすがにベベを連れて行くわけにはいかない。向こうへ行く前にベベを置きに帰らなければ。
すると、クリスのそんな思いを読み取ったように、ベベがぴょんぴょんと飛び跳ねてクリスの足にすがった。
『ぼくも行く!』
ん?クリスは耳を疑った。
今の声はもしかして・・・?
『足手まといになんかならないから。だから、ぼくも連れて行って!』
ベベはその場でくるりと回ると、訴えかけるようにクリスを見た。
『やっぱり!ベベが喋ったんだね!』
かがんで、クリスはベベを両手で持ち上げた。
初代のベベとは、ベベが死んだ後に一度向こうの世界で話したことがあった。そのときに、ベベはまた生まれ変わって会いに来ると約束した。だから今こうして目の前にいる。
もしかしたら、今回クレアたちがやって来たことでベベともまた波長があったのかもしれない。そう思ったクリスが振り返ってクレアを見ると、クレアは両手を広げて肩をすくめた。
『ベベも連れて行っていいかな?』
そう言って、クリスはベベをエランドラの前に掲げた。
『問題ないでしょう』
大きく瞬きをしてから、エランドラはそっとうなずいた。
『さぁ、それでは行きましょうか』
エランドラが呼びかけると「ちょっと待って」と、紗奈が言った。
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紗奈のその意見にはクリスも賛成だった。何があるかも分からない冒険に、手ぶらで行くわけにもいかないだろう。
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