クリスの物語

daichoro

文字の大きさ
139 / 227
第三章 悪魔の儀式

第25話 いきさつ

しおりを挟む
「大丈夫?」

 部屋に入るなり、紗奈が声をかけた。優里はベッドの上でうなずきながらも、クリスのうしろでパタパタと飛ぶベベを見て驚いていた。



「えっと、ここはどこ?」

 一面ガラス張りの壁に視線を向けて、優里が尋ねた。窓の向こうには、透き通った湖の世界が広がっている。



「ここは、地底世界のセテオスっていう都市だよ」

 クリスが答えると、紗奈がその隣でうなずいた。



「地底世界?」

「うん。地球の内部は実は空洞になっていて、そこには100以上の都市が存在するんだ。だから、何万っていう人が地底世界に住んでるんだよ。さっきいたクレアたちも、この地底世界の住人なんだ」

「ふーん・・・」

 うなずきながらも、優里はポカンとしていた。状況がまだ飲み込めない、といった様子だ。



「勝手に連れてきてごめんね」

 ベッドの端に腰かけ、紗奈が謝った。



「どこまで覚えてるかな?クレアたちが来たことは覚えてる?」

「えっ?あ、うん・・・」

 優里は意識を失う前のことを思い出すように、視線を落とした。



「えっと・・・ドラゴンやクレアさんたちが来て、それでわたしには悪魔が憑いてるから追い払うっていうことになって・・・クレアさんが作った魔法陣に入った。そうしたら風が吹き始めて・・・それから体がふわっと軽くなって・・・その辺までは覚えてるけど、その先が全然思い出せない」

 優里の話を聞いて、紗奈はうなずいた。



「魔法陣の中でクレアが術をかけてから、優里に取り憑いていた悪魔が何体も抜け出ていったんだよ。それで悪魔が全部出ていったら、優里その場に倒れて意識を失っちゃったの」

 紗奈の説明に、クリスも同意するようにうなずいた。



「クレアたちが今回わたしたちのところへやってきた目的が、わたしたちを迎えに来たっていうことなんだけど・・・。正確には、クリスを迎えに来たわけなんだけどね」

 ちらっとクリスの方を振り返って、紗奈は言った。



「それで、なんでクリスを迎えに来たかっていうことなんだけど・・・」

 話せば長くなるけどと言って、紗奈はクレアたちが何のために迎えに来たのか、その目的を話し始めた。



 地球のアセンションのことや闇の勢力のこと。地底世界のこと。クリスタルエレメントのこと。クリスが選ばれし者のひとりであること。そして、前回の海底世界での出来事など。

 紗奈は、順を追って一つひとつ細かく説明した。紗奈はクリス以上に状況をしっかりと理解していて、その説明はとても分かりやすかった。



 海底世界での話はとても臨場感があり、聞いていた優里も驚いたり悲しんだり怒ったりと、表情をころころと変えながら目を輝かせた。



「それでね、今回は最後のクリスタルエレメント、“ウェントゥス”っていうのを探しに風光都市へ行くの。そこを任されている選ばれし者がいるんだけど、ちょっと手こずっているみたいでクリスも探すのを手伝ってほしいって呼ばれたの。それで、わたしもベベも一緒にまた付いてきたというわけ」

 紗奈が一気にそこまで話すと、優里は「へぇ~」と言って感心するように大きくうなずいた。



「それで意識を失ってる優里をどうしようかっていう話になったんだけど、クレアが連れていった方が本人も、あと優里の守護ドラゴンも喜ぶっていうから、勝手に連れてきちゃった。その・・・眠ってる優里をひとり校庭に残しておくわけにもいかなかったしね」



 申し訳なさそうに肩をすぼめる紗奈を、優里は驚くように見つめ返した。

 優里に見つめられて、紗奈は戸惑いながらもう一度謝った。



「あ、ごめん。やっぱり嫌だったよね?」

「ううん。そんなことない」

 優里は首を振って、紗奈の手を取った。



「それより、わたしの守護ドラゴンって何?わたしにも守護ドラゴンがいるの?」

 興奮が抑えきれない、という様子で嬉々とした表情で優里が聞いた。



「あ、うん。なんかね、そうみたい。その内、姿を現すだろうってクレアが言ってたよ」

「本当?」と言って、優里は両手で頬を挟んだ。

 守護ドラゴンがいるということがよほど嬉しいのか、優里は今にも泣き出しそうに目を潤ませていた。



「それで、エネルギー調整が済んだらわたしたちは風光都市へ行くのだけど、優里はどうする?さっき言ったように、海底都市みたいに危険なこともあるかもしれないけど」

「え?行くよ?」

 当たり前じゃない、というように間髪入れずに優里は返事をした。



「だって地上ではその間、時間の経過がないのでしょう?期末テストももう終わったし。こっちへ来たときと同じ時間に戻れるんだったら、何の問題もないよ」



 優里のその言葉を聞いて、クリスは一気に憂鬱になった。

 期末テストのことをすっかり忘れていたのだ。クリスと紗奈は、来週に期末テストを控えていた。

 そのことを思い出したクリスの脳裏に、もうずっと地底世界に留まっていようかなどという思いが一瞬よぎった。



「そっか。それならよかった」

 優里の返事に紗奈は微笑むと、立ち上がった。



「そうしたら、みんなのところへ行こっか。体調は大丈夫?」

 優里は笑顔でうなずいた。



「あ、でもその前にお風呂入ったりしたいでしょう?わたしもクリスももう入ったんだけどさ。あと、トイレの使い方も教えるね」

 そう言うと、紗奈はクリスの方を振り向いて「クリスとベベは先に上に戻ってて」と言った。

 クリスは言われた通り、ベベを連れてリビングに戻った。




しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

処理中です...